悪質ないじめ
アネットとさよならをして、僕とタオはプラプラと勧誘ブースの間を巡った。
こう言ってはなんだけど、タオと二人になったことでかなりリラックスしている。
まだまだ女の子は苦手なようだ。
勧誘ブースはたくさんあった。
いったいいくつのクラブがあるのだろう?
長い廊下にはびっちりと上級生が並んでいて、クラブの説明を書いたビラを配っている。
各種の運動部に『クリーチャー・テイマー部』『コスチューム研究会』といった珍しい文科系のクラブもある。
他にも『異世界人召喚研究会』や『黒ミサ同好会』なんていうクラブも目を引いた。
「タオは入りたいクラブとかあるの?」
「俺か? 魔法薬学を学べるクラブがいいけど、学院のクラブ程度のレベルじゃなあ……」
タオは魔法薬学に関して、かなりの自信があるらしい。
「ロウリーはどうするんだ?」
「僕はなるべく活動がないのがいいな。生活費を稼ぐためにどこかでアルバイトをしなきゃならないだろうし……」
ローレライの森とやらが使えれば、住むところは何とかなりそうだ。
だけど食事や日用品は自分で買いそろえなければならない。
悠長にクラブ活動を楽しんでいる暇はないだろう。
「やあ君たち、釣り同好会に入らないか?」
上級生に声をかけられた。
釣りは悪くないよな。
釣った魚を食べられそうだもん。
だけど僕は渡されたビラを見て絶句する。
「活動費が月々6万クラウン!? どういうこと?」
「よく見ろよ、ロウリー。このサークルは大型のヨットを持っていて、海釣りとかを楽しむ金持ちの集まりだ。専属の船員や料理人まで雇っているんだよ」
なるほど、すっかり忘れていたけど、カンタベル中央学院は貴族の子弟や豪商の跡継ぎなんかが集まるところだったな。
「俺たちが入れるクラブなんてほとんどないぜ、きっと」
「それは困った。どこかに活動費がかからないクラブはないか?」
僕はきょろきょろと辺りを見回す。
そのとき、視界の端に妙な一団を捉えた。
気をつけてみると廊下の隅の人気のないところで、8人ほどの少年たちが2人の女の子を取り囲んでいる。
最初はクラブの勧誘でもしているのかと思ったけど、どうやら様子が違うようだ。
それに集まっているのはまだ制服を受け取っていない新入生ばかりでもある。
「なんかへんだな。何をしているんだろう?」
タオも僕の視線を追って同じところを見る。
「リア充どもがナンパじゃないか?」
学校でそんなことするの?
都会はすすんでいるんだなぁ……。
「でも、その割には女の子が怯えているようだよ。争っているようにも見える。ちょっと行ってくるよ」
「おう、邪魔してやれ! 俺が陰からバックアップしてやる」
タオは懐ふところに手を突っ込みながら嬉うれしそうに別方向へと向かっていった。
ヤバい薬でも使う気か?
とにかく急ごう。
気づかれないように気配を消して集団に近づいた。
ここは階段の隅にある用具室の真ん前だ。
少し奥まったところにあり、人が来ることはない。
近づくにつれ女の子と少年の声が聞こえてきた。
「いいかげんに弁えたらどうなんだ? お前らのような庶民が特待生なんて生意気なんだよ」
特待生?
そういえば女の子たちの顔に見覚えがある。
同じ1年A組の生徒のはずだ。
たしか双子の姉妹でパットンという名字だったように記憶している。
よく似た顔をしているけど、一方が気丈に少年たちを睨みつけているのに対して、もう片方は不安そうにうつむいている。
性格はずいぶんと違うようだ。
「私たちに構わないでよっ!」
元気のいい方の女の子がもう一人をかばうように抗議していた。
「ふん、口を開くな。下賤な臭いで鼻が曲がりそうだぞ」
こちらに背を向けた金髪の少年がそう言うと、周りの男の子たちも一斉に笑い出した。
どうやらこいつが意地悪集団のリーダーのようだ。
「こっちは本当に迷惑しているんだ。お前たちのせいで俺は特待生試験に落ちてしまったんだぞ」
「なに言ってるのよ! ガーベルスコーピオンを前にして、逃げ出したのは貴方でしょう? 私とルルベルは必死で闘ってあれを撃退したのよ。逃げ出した挙句あげく、罠にはまって失格になったのは貴方の責任じゃない!」
こいつ、自分が試験に失格になったから、この姉妹に八つ当たりしているのか?
「うるさいっ! まったく……正しい秩序が崩壊しているさまを見るのは嘆かわしいな。本来ここは国の要職に就くエリートを育成する機関だぞ。お前たちのような庶民がいていい場所じゃないんだ。これは少々躾が必要かもしれないな」
意地悪野郎がヤレヤレと言わんばかりに首を振ると、周りの取り巻きも「そうだ、そうだ」と追随ついずいする。
大人になり切れないガキとは言え、ここまで幼稚なのは見ていて実に不快だ。
噂には聞いていたけど、こういう横柄な奴って本当にいるのだな。
「な、何をする気なの?」
威勢いせいの良かった女の子の声に少しだけ怯えが混じった。
「別に……。そういえばお前たち、ずいぶん雑なヘアスタイルをしているな」
意地悪野郎はいきなり髪型の話をしてきた。
だけど女の子のヘアスタイルはどちらもちゃんとしている。
青い髪の子の方は可愛いショートカットだったし、ピンク色の髪の子はフワフワのセミロングだ。
どちらもよく似合っていて、とっても可愛らしい。
「なんなのよ? 私たちの髪型なんて関係ないでしょう?」
「いやいや、女の子はオシャレをしていなきゃぞ。俺がもっと可愛くしてやるよ!」
少年は隠していたハサミを取り出し、他の少年たちが一斉に用具室へ彼女たちを押し込めようとしている。
まったく、ご丁寧に風魔法で音響防壁まで作りやがったな。
これじゃあ犯罪じゃないか!
これ以上は傍観しているわけにもいかない。
「それくらいにしておくんだ!」
僕はいつでも魔法展開できる態勢を整えて彼らに声をかけた。
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