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住むところがない

 69名いた特待生候補のうち、合格者は27名だった。

42名の脱落者は一般生徒として入学を果たしたようだ。

合格した僕らは教室の一つに集められて、ノエラ先生からオリエンテーションを受けている。


「ここがみなさんの教室になる1年A組です。教科書はそろっていますか? リストをチェックして足りない物があったら先生に言ってください」


 配られたのは教科書、実験用具、ロッカーの鍵、指定鞄、などなどだ。

受け取ったものをすべて自分のロッカーにしまうと、そのあとは男女に分かれて制服の採寸さいすんとなった。


僕はタオと二人で採寸の順番を待った。


「今頃、女子もサイズを測っているんだろうな……。俺、来世で生まれ変わるんなら巻き尺でもいいような気がするなあ。毎日バストの測定をするんだぁ♡」


 ツッコミどころ満載の発言だけど、本人は幸せそうにしているので黙っておく。

妄想の中で誰かの胸に巻きついているのだろう。

雄ッパイだったらどうするのかな?


 制服の採寸が終わると、今度は入寮手続きとなった。

地方から出てきている生徒は全員が寮に入ることになる。

アネットとタオは市内に家があるので必要ないけど、僕としては一刻も早く寮に入りたい。

ラッセルから路銀ろぎんはもらっていたけど、そろそろ宿代を払うのもきつくなり始めていたからだ。


 ところが、僕は入寮申込書を見てびっくりしてしまった。

なんと入寮費として月々5万クラウンも必要と書いてあるのだ。

僕もラッセルも勘違いしていた。

特待生になればすべての費用が免除されると考えていたのだけど、無料になるのは授業料と教科書代だけだったのだ。


「どうしよう。とりあえず住むところを見つけないと……」


 知り合いなんて一人もいない大都会だから僕は途方に暮れてしまう。

このままではホームレス学院生だ。


「なにかいい方法を考えましょう」


 アネットが親身になってくれる。

僕がラッセルの弟子だとわかって親近感が増しているからだろう。


「心配してくれてありがとう。僕なら大丈夫だよ、でも、どこかに空き地とかがないかな? 土地さえあれば住むところは魔法で何とかなるんだけど……」


 僕には塔がある。

しかもレベルアップしたおかげで塔の内部に部屋も作れるのだ。

妙案を出してくれたのはアネットだった。


「それだったらいい考えがあるわ。実は魔法学院の端にローレライの森というのがあるの。あまり知られてはいないんだけど、そこはパパの土地なのよ。ちょっとした物置もあるから、そこに住めるかもしれないわ」


 魔法学院の中にラッセルの土地が?


「ラッセルはどうして学院の中に土地を持っているんだい?」

「時空転移系の魔法研究で成果を上げて、そのご褒美に国から寄贈されたらしいわ。研究用の土地としてだったかしら?」

「だったらそこを使わせてもらおうかな……」

「でもローレライの森はパパによって封印されているの。パパに連絡が取れるようなら、封印解除の方法を教えてもらったらどう?」

「うん、そうしてみるよ」


 僕はさっそくラッセルにメッセージを送ることにした。

鞄から紙を取り出し、丁寧に切れ目を入れる。

そして、決められた作法にのっとり鳥の形に折った。


「それ、もしかして『呟つぶやき鳥』の魔法?」

「うん、とっても便利なんだ」

「ロウリーはそんな魔法まで使えるのね……」


 これは、鳥の形をした折り紙に140字までのメッセージを書き込んで、任意の対象に送り届けるための魔法だ。

対象との信頼関係が強ければ強いほど、呟き鳥は相手を見つけ出す確率が高くなると言われている。

ラッセルの好感度・親密度は10で他の誰よりも高い。

王都からロメア地方は何百キロも離れているけど、きっと届くと思う。



ラッセルへ


 特待生として入学できましたが、お金がなくて寮に入れません。塔を建てるのでローレライの森を使わせてください。封印解除の方法を教えてください。それから、アネット・ライアットさんに会いました。ラッセルに会いたそうでした。彼女にも連絡を。よろしくお願いします。


                                  ロウリー



 僕は窓を開け、祈るような気持ちで折り紙の鳥を空に放つ。

どうか無事にラッセルの元へ届きますように。

呟き鳥は雲に向かって舞い上がり、しばらく空を旋回したのちにロメア地方がある西の方角に向かって飛んでいった。


 この魔法は雨に弱いんだけど、今は夕焼けが赤々と輝いている。

明日の朝には僕のメッセージはラッセルに届くだろう。

財布の中身が尽きないうちに返事が返ってくることを祈るばかりだ。


「入学式は半月後です。当日はこの教室に集まってください。みなさんに会えるのを楽しみにしていますよ。それではごきげんよう」


 ノエラ先生は荷物を纏めて教室を出ていった。

どこのクラスもオリエンテーションが終わったようで、廊下が騒がしくなっている。

僕ら三人は連れ立って教室から出た。


 廊下に出ると、そこはお祭り騒ぎのような喧噪だった。

一体何事だ? 

見れば新入生だけじゃなく、上級生もたくさんいる。


「なにごと……?」

「クラブの勧誘だよ。カンタベルはクラブ活動も盛んな学校だからね」


タオが教えてくれた。

そういえばノエラ先生も最低一つのクラブに所属するようにと言っていたな。


「勧誘ブースを見ながら帰ろうぜ」

「うん、そうしよう」


 せっかくだから楽しそうなクラブを見つけたい。


「ごめんなさい、私はよるところがあるの」


 アネットは少しだけ憂鬱ゆううつそうな顔をしている。

あまり楽しくない用事のようだ。


「今度会えるのは入学式かな?」

「ええ。その前にローレライの森にも顔を出すかもしれないけど」

「え?」



 アネットが僕のところへ遊びに来る!?


「ダメかな? ロウリーがちゃんと暮らせているか気になるんだけど……」


 アネットはそう言って微笑む。

僕は脳みそがシェイクになるくらい頭を横に振った。


「ま、待っているよ。あ、遊びに来てくれたら、歓待するから……」


 女の子が遊びに来るなんて人生初体験だぞ。

ど、どうしたらいいんだ?

これは入念な準備をしなくては……。


「それじゃあまた」


 アネットは軽く手を振りながらステキな笑顔で去っていった。

そういえばアネットと話すのが少し楽になった。

彼女の好感度・親密度が2になったからか?

ラッセルの娘だということも大きな要因だと思う。

とにかくいい傾向だな。



保有ポイント:42

好感度・親密度

 ラッセル・バウマン★★★★★★★★★★

 アネット・ライアット★★☆☆☆☆☆☆☆☆

 タオ・リングイム★☆☆☆☆☆☆☆☆☆



ここまでお読みいただきありがとうございました。


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