プロローグ
畑の中を魔物に追われた人々が逃げ惑っていた。
きっと村の東の防衛線が破られたのだろう。
村人は泣き叫びながらこちらへ走ってくる。
それを追うのは50体あまりの魔物たちだ。
昆虫系の魔物がほとんどのところを見ると、近くの森から溢れてきたのにちがいない。
魔物の脚は早く、放っておけば遠からず人々は食われてしまいそうだった。
救援を求められたときには間に合うかと心配したのだが、どうやら村が全滅する前に到着できたようだ。
「塔の主人として命じる。塔よ、その姿を現し、あまねく敵から我らを守れ!」
手のひらから魔力がほとばしり、何もない村の広場に三階建ての塔が現れた。
これこそが僕の特殊技能『塔の主人』の力だ。
中は何もない空っぽの建物だけど、人々を魔物から守るには十分な厚みがある。
ただ今のところ『塔の主人』の本当の力というのはまだよくわかっていない。
この能力は最近になって覚醒したばかりなのだ。
「みなさん、塔の中に避難してください!」
僕は村人たちに呼びかける。
「おお、塔の魔術師様が来てくださったぞ! みんな、あそこへ逃げるんだぁ!」
人々は我先にと塔へ殺到してきた。
僕は門のわきに立ってみんなが避難するのを見守る。
「全員が中に入ったら門を閉めてくださいね」
「魔術師様はどうなさるので?」
「魔物を片付けます」
「お一人で大丈夫ですか? 辺境軍の到着を待った方がよろしいのでは?」
「到着を待っていたら明日になってしまいますよ」
あれくらいの敵なら僕だけで撃退できる。
得意のストーンバレットで一掃するとしよう。
というより、それ以外の攻撃魔法は苦手なのだ。
どういうわけか僕は火炎魔法などが不得意である。
努力でなんとかしようと思ったのだけど、師匠のラッセルには「才能がないんだからやめておけ。それよりは長所を伸ばせ」と言われた。
こうしたわけで僕はストーンバレットに特化した修行をしている。
そのおかげで、今では秒間123発の石弾を撃てるまでになっている。
大抵の敵なら数秒とかからずにボロボロだ。
一般的な魔術師が5秒に1発程度の石弾を撃ち出すことを考えれば、修行の成果は上々の上と言ってもいいだろう。
今は秒間125発の壁を越えられるように特訓中でもある。
僕は手を上げて前面に魔法陣を浮かび上がらせた。
そこに現れるのは光る五芒星だ。
「せん滅せよ、ストーンバレット!」
星の頂点五か所から高速で撃ち出される石弾は光の帯を曳きながら魔物を次々と撃破していく。
すべての敵を倒すのに5秒もかからなかった。
塔から出てきた村人たちは死屍累々(ししるいるい)の畑を見て安堵のため息をこぼしていた。
「もう大丈夫ですよ」
村人たちが頭を下げてお礼を述べてくる。
「ありがとうございました、塔の魔術師様! おかげさまで命を救われました」
「本当に。お師匠のラッセル様もすごい魔法使いだけど、お弟子のアスター様もたいしたものだ」
「まだお若いのにねえ。アスター様はおいくつでしたっけ?」
「来月で16歳です」
「まあ、うちの娘にピッタリじゃない!」
「お師匠はスケベでどうしようもないけど、ロウリー・アスター様ならお上品だしね」
「いえ、そんな……」
村の人たちに褒められて僕の緊張は高まっていく。
「どうですか、お礼にワインでも飲んでいかれませんか?」
「その、師匠が待っておりますので……」
村長さんのお誘いはありがたかったけど、僕はそういった付き合い事が苦手だ。
ややコミュ障気味といってもいい。
「そんなことおっしゃらずに来てください。私がご案内しますから!」
「で、でも……」
村長の娘さんが手を引いてくれて、僕の頭は真っ白になってしまう。
この人はけっこう可愛くて胸が大きい。
僕が村に来るたびに、いつもグイグイと迫ってくるのだ。
だけど、僕は女性の前に立つと緊張でうまく喋れなくなってしまう。
我ながら情けないと思うけど、これだけは昔からそうなので仕方がない。
「も、も、も、もう帰らなければならないので!」
僕は強引に手を引いて、一歩後ろに下がった。
女の子が嫌いなわけじゃない。
むしろ好きだ。
もう少しスマートに話せるようになりたいけど、いつもうまくいかない。
特にこの人はボディータッチが多いから……。
「それでは、これで失礼します」
僕はクールを装って、その場を立ち去った。
お読みいただきありがとうございました。
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