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第64話 エピローグ

 △


「サラちゃん! よく帰って来たね! ホントに心配したんだよ。セレスティアから『公太子に捕らわれた』って手紙が来たときには」


「え、ええ。ご心配お掛けしましたセリアさん。でも、ルアン様が助けて下さって」


「ホントにぃ? リディルに読ませてもらった次の手紙には、ルアンまで当局に拘束されてるって書かれてたけど?」


「アハ、アハハハ……。でもルアン様もこうして一緒に帰ってこられましたし」


 セレスティアを出てから四日後、サラとルアンの二人はレブラルタのエルドリカ商店まで帰ってきたのである。


 ルアンたち二人を出迎えたのはもちろんスピルスとセリア、そしてセリアの夫であるリディルの三人。早馬の手紙から換算して、今日辺りに帰って来るだろうと待っていたのだった。


「ルアン、とにかく良かったな。何が良かったって、サラちゃんを連れて帰って来たのが良かった。お前のことだから、また何だかんだと気を利かせすぎて一人で帰って来るんじゃねえかと――」


「そうだよルアン! アンタ命拾いしたっていうの分かってんの!? もしサラちゃんを一人で残してノコノコとこの家に帰ってきたら、昔みたいにアンタの服を剥ぎ取って、アンタのその大事なところにレモンと唐辛子の混ざったヤツを塗り込んでやろうと思ってたんだから!!」


 両手をワナワナと震わせて恐ろしいことを言うセリアに、ルアンは股間を押さえながら、「えっと、セリア、大丈夫だったよ、そんな、まさか……」としか言い返せない。


「まあまあ皆さん、店先で大事なところにヘンなものを塗り込むとかそんな話をするのは置いておいて、店の中に入りませんか?」


「うっさいわねリディル! アンタの店じゃないでしょ!」


「いや、セリア。もうお前の店でもないからな」


「うっさいわね、兄貴も!」


「アハハ、えっと、セリアさんもルアン様も、中に入りましょうか? アハハ」


 △


 エルドリカ商店の奥の間で、祝いの宴の真似事のようなものが始まったのはそれから数刻のあと。前回サラが泊まった時にも歓待を受けたけれど、今回はそれに輪を掛けて宴が盛り上がる。


「ねえサラちゃん、なんで公爵様の孫っていう立場を放って、コイツについて行こうと思ったワケ? 今からでも考え直した方がいいんじゃない?」 


「セリア! お前帰って来たときと言ってることが違うじゃないか! 俺の大事なところにヘンなもの塗り込むとか言っておいて」


「だってさあルアン、よく考えたら働かずに生活できるって最高じゃない? ねえサラちゃんもちょっとは天秤に掛けたんでしょ?」


「アハハ……、えっと、宮廷の暮らしなんて、絶対に私には無理だなって思いましたし。贅沢な暮らしよりもルアン様と一緒にいた方が楽しいですし」


「ほら見ろセリア、お前みたいな考えの女とは違うんだよサラちゃんは」


「うっさいわね兄貴! 兄貴が女を語るんだったら、結婚相手を見つけてからにしてよね!」


「うっ……」


「まあまあお義兄さん、大丈夫です。お義兄さんにもいつかいい人が現れますから」


「そんなこと言ってるリディルも、何だったらいつだって独身に戻してあげてもいいんだからね」


「えっと……、それってどういう意味かなあ、セリアさん」


 そんな五人の話は深夜まで及び、サラは宮廷の舞踏会がどんなに窮屈で息が詰まりそうだったかを語り、ルアンは公太子の事件の裏にマリクという胡散臭い商人がいたことなどを語った。今となっては笑い話で話せるけれど、どれもこれも本当に人生で一度経験するほうが珍しいという体験だった。


 やがて日付が変わる頃には疲れ果てて全員が眠くなり、この前と同じように一部屋で雑魚寝となる。この時ばかりはさすがにサラとルアンが隣同士で寝ることもなく、サラはセリアの横で小さくなって眠った。


 △


 翌朝、出発するルアンとサラの荷馬車を、店先で三人が見送る。


「じゃあスピルスさん、セリア、リディルさん。お世話になりました。そうそうリディルさん、シモン・ガルボさんには迷惑をかけてしまって。リディルさんからもお礼を伝えておいてください」


「ええ、多分シモンさんも『面白い経験だった』って仰ってると思いますよ」


「そうだったらいいんですけどね、なにせ直接会ってお礼も言えませんから」


「そうそうルアン、どっちにしたってアンタ一年間はセレスティアに入れない罪人なんでしょ。ねえサラちゃん、ここからだったらまだ引き返せるよ。考え直すんだったら今だよ」


「あはは、いえ、ルアン様と船に乗るのも楽しみですし。またルアン様とここに来て、皆さんと一緒にお話したいですし……」


 そこまで言ったサラが頬を染めると、それを見たルアンの顔も赤くなる。


「まあまあいいじゃないか。ルアンとサラちゃんが幸せだっていうんだったら、若い二人の前途に幸多かれ、ってやつだな」


「兄貴の前途にはまだ幸は残ってるの?」


「う゛うっ……」


 苦いものを飲み込んだようなスピルスに同情の視線を送りながら、ルアンは気を取り直して御者台へと乗り込み、そこから手を伸ばしてグイッとサラを引き上げた。


「みなさん、本当にありがとうございました。セリアさんまた来ますね!」


 幌から顔を出したサラが何度も手を振る。


「サラちゃん! 幸せにね、またね! ルアンも、サラちゃんを泣かせたら承知しないから!」


「わかってるって。じゃあ、また手紙を書きます」


 ルアンも笑顔で手を振って、それから軽く鞭をいれて馬を動かし始めた。


 ゆっくりと車輪が回り出し、ガタゴトと荷馬車が去って行く。荷台の後ろに回ったサラがこちらを向いて、曲がり角を曲がるまでずっと手を振るのを三人は笑顔で見送った。


「行っちゃったね」


 セリアが寂しそうに呟く。


「ああ、しかしルアンのヤツ、いい大人になったな」


「あたりまえじゃん、私たちの弟だもん。今度来るときにはちっこいのを連れて三人になってたりして」


 いたずらっぽく笑うセリアに対し、スピルスは聞こえないようにブスッと呟いたのだった。


「ちっこいのって……。順番からいったらセリアが先だろうが……」


 △


 サラとルアンを乗せた荷馬車は南へと進む。大陸の南端まで行って船に乗るか、それとも陸路でシェルムに向かうか、二人は相談していた。


「ねえルアン様。船と陸沿い、ルアン様はどっちが好きなんです?」


 御者台の方へ顔を突き出すようにしてサラが聞く。それに対して振り返ったルアンはニヤッと笑って答える。


「う~ん、サラかな」


「え?」


「だからサラの方が好きだけど」


 ルアンの黒い瞳に映ったのは、首筋が隠れるほどの赤っぽい髪を風になびかせるサラ。


 そのサラはルアンにからかわれたことに気づいたのか、その可愛い顔をプクッと膨らませてジトッと見返す。


「じゃあルアン様、私のどこが好きなんですか? 私の目を見て言って下さい!」


「え? いま言うの? ここで?」


「はい、ここで言って下さい」


「えっと、こんな真っ昼間に?」


「だってルアン様、船よりも陸よりも私の方が好きなんですよね? 昼も夜も関係ないですよ、ふふふ」


 いたずら娘のような笑みをこぼすサラを見て、ルアンは「そうだなあ」と照れ隠しに手綱を持ち換える振りをするのだった。



<街外れの妓館で身請けをした赤毛の少女が、実は公太子の忘れ形見だったとしたら…… 終わり>





最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございましたm(_ _)m


去年の秋から半年ほど「つ、続きが書けない……」と詰まりに詰まりましたが、

なんとか立ち直って完結させることができました。

そして放置後にも係わらず、たくさんの皆様にお読み頂きましたこと、

重ねて感謝申し上げます。


最後ではございますが、面白かったと思って頂けましたら

ブクマ、ご評価等頂きますと、次回作へのモチベーションにもなりますので

よろしければお願い致します。


それでは失礼致します。

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