凛音
凛音は幼馴染だ。だからこそ分かる何かがあるのだろう。兄弟や親子では分からない何かが。
「満、何かあったでしょ。すごい焦ってる。」
「え、いや、そんなはずないけど。」
さすがに距離があったので歩いていたし、思わず声を上げていた、みたいなこともないはずである。
「ううん、焦ってる。多分誰が見ても一目でわかるよ。顔に出すぎ。でも、多分、ううん、絶対に、満のそんな焦り方見たことないもん。何かの約束に寝坊したとかじゃないよね。」
それは、ある意味絶望であった。凛音に隠し事は出来ないよ?と脅されているよう。でも、そうじゃないのはわかってる。8割は心配してくれてるのだ。
「8割、か。」
「何が?」
自分で言っておいて、なんとも言えない気持ちになったので頭を振り、そのまま話を続ける。
「父さんの仕事について、初めて内容を聞かされた。でも、それのせいで今わけわからないことになってる。」
「あ、やっとウルトラマンだって言ってくれたの?」
「いや、あのなあ。さすがにそれはないって。父さんはー」
「それ、私が聞いてもいい内容?」
「え?」
「ううん、なんか私なんかが聞いてもいいのかなって。それに、ううん。何でもない。」
満はそこで我に帰った。
何を巻き込もうとしているのだ?さっき仕事の内容と言ったけど、母さんには仕事のこと何も聞かされていなかった。火事と、加菜穂の秘密だけ。そしてそれが公にされてない時点で、誰かに話す内容ではない。凛音がそこまで考えてたのかは分からない。というか、考えていないだろう。ただ、自分の調子がどこか良くないこと、もちろん体調的な意味ではなく精神的に、それが凛音には踏み込めない、踏み込んではいけない領域だと本能的に理解したのだろう。凛音は自分のことになるとやけに頭が回るのだから何もおかしなことはない。と満は判断した。
「ごめん、姉ちゃん探さなきゃ。その後、話せるかわかんないけど話して大丈夫なら話すよ。」
「加菜穂さん?さっき見かけたよ。」
思わぬ発言に一瞬動きが止まる。
「まじ?どこで見たの?」
「展望広場。なんか思い詰めてるようだったけど。」
「展望広場!?」
展望広場、町の憩いの場として多くの人が利用する広場。しかし、姉はそこには行きたくない、そこだけは行きたくないと、行くのを何があっても断固拒否し続ける場所でもある。
「なんで、展望広場なんかに。行きたくないんじゃなかったの?」
思わず声を上げて満は呟く。
全ての元凶であると思われる3年前から、何故だか展望広場だけは行きたくないと言い出した。それまではそこで行われる夏祭りなどのイベントに欠かさず参加していたから、家族で一悶着あったぐらいなのだ。
「分かった、ありがとう。」
それだけ告げて、展望広場へ走り出した。
一歩、二歩、そこで凛音に袖を掴まれてピタッと止まってしまう。
どうしたの。と満が声をかけるより先に凛音は、「私も行く!」そう高らかに宣言した。
ダメだ、ダメだと言い聞かせたのだが満が引っ張られる形で展望広場までやって来た。
「なんでこうなった。」
満は思わず呟く。
「え?だって話しても大丈夫なことなら聞いときたいじゃん。」
「いや、そうじゃなくて男1人を、しかも全力で抵抗したのに何故引っ張ってこれるか聞いてるのだけど?」
「?満が本気で抵抗したら引っ張ってこれないよ?」
「いや、結構本気で抵抗したぞ?」
凛音は何か言おうとしたが、それより先に満の後方から声がした。
「なんでここにいるの?」