笑顔のあなた
最近、体調不良が続き、仕事や小説に集中しにくくなっています。
なんとか保っていますが、無理はしないようにします。
殺意によって暴走しかけたスノーラとルドであったが、ゴウマの説得と駆けつけてきたレオスのおかけで、冷静さを取り戻すことができた。
アスト達は、ケガをしたエルフ達を助けるため、ビスケット病院に運ぶことにした。
そして、ビスケット病院の屋上で、ミヤとレイラン、母と娘が冷たい風を浴びながら対立した。
「・・・満足した?」
レイランが重い口を開いた。
「満足?・・・」
「クキの森が焼かれたんだから、エルフ達だって無事じゃないはずでしょ?
あんたはそれで満足した?」
「・・・」
ミヤはレイランの顔を見もせず、ただただ燃え盛るクキの森を見ながらこう返す。
「わたくしは満足したい訳ではないわ・・・ただ、知ってほしかっただけ・・・自分の大切なものを失う悲しみやつらさを・・・」
ミヤはゆっくりと夜空に視線を移した。
星々が美しい光を放っているが、ミヤの瞳にはその光がどこか悲し気な光に写っていた。
その光の中で、彼女が見たのは、かつて愛していた男の優しい笑顔であった・・・
今から10年以上前のクキの森・・・
そこは緑にあふれており、森を流れる水はとても美しく、多くの動物が生きていた。
そんな森で暮らすエルフ達は、戦闘エルフと恐れられており、中でも最強のエルフ言われていたのが、【ミヤ スペルビア】であった。
人望の厚さ、身体能力、弓の腕、全てがそろっている、完璧なエルフでだった・・・
そんな彼女が最も心を許していたのは、実の弟である【チップ スペルビア】。
2人は幼い頃からずっと仲が良く、喧嘩すらしたことがない。
姉とは違い、特別優れた能力はないチップであったが、誰とでも仲良くできるその優しい性格で、友人も多かった。
チップのことを家族として愛していたミヤ。
しかし、その愛情が徐々により深い愛情へと変化していく・・・
晴天に恵まれたある日・・・
その日、ミヤはチップ弓の練習に付き合っていた。
「チップ! もっと腕を引き締めて! 余計なことを考えず、的に集中して!」
「わっわかった!」
チップは全神経を数十メートル離れた的に注ぐ。
「!!!」
チップの放った矢は、的を射てはいたが、中心からかなり離れていた。
「ダメか・・・」
「そう落ち込む必要はないわ。 以前より上達しているのは確かだから」
チップはミヤとは違い、弓の扱いが悪かった。
エルフ族が古来より最も親しみのある武器ある弓矢。
それを扱えないと言うのは、エルフにとっては恥とも言えることである。
「そろそろ休憩しない?」
「・・・いや、もう少し頑張ってみるよ」
チップは明るくそう返すと、
額から滝のように流れる汗を、そばで流れる小川で洗い流す。
「でもあなた、ここ最近ずっとトレーニングばかりしているのでしょう? 家の手伝いも毎日しているのに、お父さんもお母さんもあなたが無理をしていないか心配しているのよ?」
「大丈夫だよ。 手伝いは僕が好きでやっているだけだし・・・それに、早く姉さんのように強くなりたいんだ」
「気持ちは嬉しいけど、そう焦ることもないでしょう? この森には外敵はいないし、食料も綺麗な水も豊富にあるから、生活には困っていないでしょ?」
事実、この数百年の間、クキの森でなんらかの事件や騒動が起きたことはないと昔から言い伝えられている。
「そうだね・・・でも、僕は強くなりたいんだ」
真っすぐな目でそう断言するチップに、ミヤは少し困惑しつつ、「どうして?」と尋ねる。
「・・・姉さん、この前言ってたじゃないか。 『いつか、自分を守ってくれる男性と一生遂げたい』って」
「それは、友人に気になる男性についてしつこく質問をされたから適当に答えただけよ」
「でも、姉さんと釣り合うには、強くないといけないんだよね!?
僕は姉さんを守りたい! 姉さんにふさわしい男になりたいんだ!!」
「どっどういう意味?」
困惑するミヤをチップは意を決して、力強く抱き締めた。
「ちっチップ?」
「僕、姉さんのことが好きだ!!」
チップはこれまで出したことのない大きな声で、ミヤへの想いを告げた。
「どっどうしたの? わたくしだって、チップのことは好きよ?」
「そうじゃない!! 僕は1人の女性として、姉さんが好きなんだ!!」
「チップ、何を言っているの!? わたくし達は姉弟なのよ!?」
「わかってるよ! 僕だって、おかしいと思って何度もこの気持ちを抑えようとしたよ! でも出来ない! 姉さんと一緒にいればいるほど、姉さんを想う気持ちがどんどん強くなってくるんだ!」
「チップ・・・」
ミヤはチップのことを愛している。
もちろんそれは、家族としてだ。
だからこそ、チップが女性として自分を愛している気持ちを誰よりも理解できる。
だからこそ、その気持ちを到底受け入れることができなかった。
「!!!」
ミヤはまるで、チップの気持ちを拒否するかのように、抱き締めているチップの腕をゆっくりと引き剥がした。
「チップ。 あなた、少し疲れているのよ。 今日はもう帰りましょう」
それだけ言い残すと、足早にその場を後にするミヤ。
横目で見えたチップの顔には、一筋の光が流れていた。
その日を境に、ミヤはチップと少し距離を置いた。
会話や接し方は前と変わらないが、どこかせわしない。
周りのエルフも、「喧嘩でもしたのか」と気にかけているが、ミヤは「なんでもない」としか答えられなかった。
チップも、ミヤ避けられていることやその理由については、察しているので何も言わない。
チップの告白から数週間立ったある日のこと・・・
その日はひどい嵐で、吹雪のような大雨や空を切るよう強い風がエルフ達を苦しめていた。
エルフ達は万が一のための避難場所として作っていた地下空洞に避難していた。
ミヤやチップといった若いエルフは、年寄りや子供の避難誘導だけでなく、エルフ達の小屋の補強なども行っていた。
「チップ!! わたくし達も地下空洞に非難しましょう!」
「わっわかった」
小屋の補強や避難誘導を手伝っていたミヤとチップだったが、
どんどん激しさを増す雨や風により、辺りの木々が倒れ始めた。
ミヤはこれ以上は危険だと判断し、チップに地下空洞への避難を提案した。
・・・その時であった。
「!!!」
大きな木が風によって、バランスを崩し、ミヤがいる地点に向かって倒れてきた。
突然のことに、思わず固まってしまったミヤ。
「姉さぁぁぁん!!」
チップは無我夢中で、ミヤの元へと駆け寄ると、ミヤを力強く突き飛ばした。
「チップ!?」
チップが突き飛ばしたおかげで、ミヤはかすり傷程度で助かった。
だが、チップは木の下敷きとなってしまった。
その後、近くにいたエルフ達の手によって、木の下から救助されたチップ。
幸い、命に別状はなかったが、骨折やケガによる後遺症で、両腕に麻痺が残ってしまった。
「ごめんなさい・・・わたくしが、すぐに逃げていれば・・・」
医術の心得のあるエルフの治療を受け、自室で安静にしていたチップ。
その傍らには、涙を流して謝罪するミヤの姿があった。
「謝らないでよ。 僕が自分でやったことなんだから。 それに、姉さんが無事なら後悔はないよ」
笑顔でミヤを慰めるチップに、ミヤは泣きながらこう言う。
「優しい笑顔なんて見せないで。 あなたの両腕は、わたくしが奪ったも同然よ!」
「違う!! これは僕自身が決めたことだ! 姉さんが悪いなんてこと、絶対にないよ!!」
「・・・チップ。 どうしてそこまで・・・」
「・・・だって、僕は姉さんのこと、世界で一番好きだからさ。 好きな人が守れるのなら、僕の両腕くらい、安いものだよ」
チップのその深い優しさと愛情に、ミヤの心が少しずつ変化していく。
「チップ・・・でもわたくし達は・・・」
「わかってるよ。 僕達は姉弟だから、結ばれる訳にはいかない。でも、それでもいいんだ。この先、姉さんと結ばれることがなくても、僕はずっと、姉さんを愛し続けるし、姉さんの幸せを一番に願っているよ」
「チップ・・・」
チップは両腕を麻痺してしまったにも関わらず、まぶしいほどの笑顔で、ミヤを元気付けようとした。
この瞬間、ミヤのチップへの愛が変化した。
それは決して許される変化ではないことは、ミヤにはわかっている。
だが、誰かを愛することに、理屈など通用しない。
家族であろうと異性であろうと、愛することに罪はない。
そして、月の光に照らされた部屋の中で、ミヤは静かに、チップと唇を合わせた。
そしてこの瞬間、ミヤとチップは姉弟ではなく、恋人同士になったのであった・・・
それからミヤとチップは、今まで以上に仲の良い関係になった。
チップは両腕の麻痺から、弓矢を諦め、家の手伝いを中心的に行っていった。
周りのエルフ達も心配して、チップの様子を見に来たりと、気遣っていた。
特に変化があったのはミヤとの関係であった。
みんなに隠れて最初はキスをしたり、お互いに花をプレゼントしたりするだけであったが。次第に愛情が深まり、ついには肉体関係まで結んで、完全な恋人関係となっていた。
周りのエルフ達は「仲良し姉弟に戻ってよかった」と嬉しく思っていた。
まさか、2人がお互いを愛し合っているなんて、誰も思わないだろう。
2人が恋人同士にあってから、数年経ったある夜。
ミヤとチップは、お気に入りの木に登り、星空を眺めながら2人の時間を感じていた。
「・・・姉さん。 どうして姉弟は好きになっちゃいけないのかな?」
「えっ?」
「僕達は愛し合っているんだ。 何も恥ずかしいことはしていない。
それなのにどうして、姉弟って言う理由だけで、みんなに隠さないといけないのかな?」
姉弟同士が愛し合うことは、常識的に考えておかしなことだ。
だが本人たちからすれば、お互いを尊重し、惹かれ合っている、ありふれた感情だ。
「・・・みんな、姉と弟が愛し合うことに違和感があるのだからそれは仕方ないわ・・・でも、いつかみんなが、わたくし達の愛を認めてくれる時がくると信じているわ」
「・・・認めてくれるかな?」
「きっと認めてくれるわ。 だって、ここにいるみんなは、家族なんだから」
「・・・そうだね。 僕も信じるよ」
いつか自分達のことを、周りが認めてくれることを信じながら、2人星空の光を全身に浴びたのであった・・・
この時、2人はまだ知らなかった。
これから起こる人生を狂わせるような悲劇を・・・
店長「おいおい、いきなりこんな長い回想シーンに突入するなんて聞いてねぇぞ?」
マナ「本当は、サクっと話してから、すぐに話を進めようと思ったみたいなんですけど、予想以上に長くなってしまったみたいですね」
店長「全く。 こういうシーンを入れるから、俺やマナちゃんみたいに出番が少なくて忘れ去られる人間が後を絶たないんだ」
マナ「まあ一応、私達はサブキャラですし」
店長「マナちゃん。 男は簡単に諦めちゃいけねぇんだ。 最後まで踏ん張ってこそ、男だぜ?」
マナ「私、女なんですけど・・・っていうか、店長よりは出番ありますから」
店長「うぅぅぅ・・・それがちと痛いぜ・・・」




