夢に迷う者
暑い日々にだらける夜光達を書いていると、同じく暑さでだらけている私自身も親近感が沸きます。
夜光達、マイコミは1ヶ月後に開催される【レッドフェスティバル】に向けて、出し物を決めることになる。
それと同時に、ライカはゲストとして有名舞台女優【マスクナ ビュール】が演劇プログラムを見学することになり、演技練習に一層熱を上げていた・・・
夏の日差しがますます強くなってきたある日の昼頃、レッドフェスティバルに向けて、夜光とマイコミメンバーは出し物について話し合っていた。
「・・・それじゃあ出し物だが、何にする?」
ダルそうに机に突っ伏しながら、メンバーに尋ねる夜光。
いつもならここでスノーラが、「真面目にやってください!」と説教するところだが、人魚である彼女はもともと熱に弱いため、人間の姿になっているとはいえ、尋常でない暑さにそんな説教などする気も起きない。
「はいはーい! 私、みんなで外に出て鬼ごっことしたい!」
元気よく挙手し、意見を述べるセリナに対し、夜光は冷たく言い放つ。
「寝言は寝て言え、アホの化身」
「むぅぅぅ! 私、アホじゃないもん!」
反論するセリナに、ライカは呆れた目つきでこう言う。
「今回は夜光に同感よ。なんで暑い中、わざわざ外に出て走りまわらなきゃいけないのよ。 熱中症や脱水症状になるオチが目に見えるわ」
「・・・熱中症と脱水症状って何?」
言っておくが、これは記憶障害ではなく、単なる知識不足である。
「・・・あとでスノーラにでも聞きなさい」
「わかった!スノーラちゃん、あとで教えてね!」
説明が面倒なライカはスノーラにセリナを押し付けられたスノーラは、視線で「私に押し付けるな」とライカに訴える。
話を戻し、今度はルドが挙手した。
「無難に喫茶店とかでいいんじゃねぇか? 予算もそんなにあるわけじゃないし」
出し物で使う予算は、スタッフやデイケアメンバーから集金して得たもの。
1つのプログラムで使える予算は、だいたい3000クールとなっている。
「セリア。とりあえず書いてくれ」
「はっはい」
セリアは、ホワイトボードに喫茶店と書き留めた。
本来、スタッフが意見を聞いて、ホワイトボードに書き留めるのだが、夜光は心界の文字を全く覚えていないため、セリアが代筆することになっている。
「ほかに何かあるか?」
夜光がほかの意見を求めるが、特に意見のあるものはいなかった・・・
「喫茶店でいいんじゃない? それならお菓子とか飲み物を用意していれば、なんとかなるし」
「・・・そうだな。 それなら今の予算でなんとかなる」
ライカとスノーラは喫茶店で良いようだ。
さらに、マイコミの予算を任されているスノーラは、どれほどの経費が掛かるか、本で調べながら、計算を行っていた。
その様子を見ていた夜光がこう呟く。
「ったく、親父の奴。 俺が信用できねぇからって、スノーラに予算を持たせやがって」
「あんたが持ってたら、酒代や女で消えるからでしょ?」
ゴウマもライカと同じことを考えていたため、一番しっかりしているスノーラに預けたのであった。
出し物が喫茶店となった後、お菓子や飲み物をどこで買うかなどを決め、この日のマイコミは終了することになった。
「・・・それで、こいつどうする?」
ルドの視線の先には、ソファーでぐっすり眠っているキルカの姿であった。
「マイコミに参加せずに、こんなところで熟睡なんて、何か考えてんのよ、この変態女」
ライカが毒を吐いていると、横から夜光が頭を掻きながらこう言う。
「親父が言うには、これがこいつの症状らしいぜ? え~と・・・なるこなんとかって言ったか?」
「・・・ナルコレプシーか?」
ルドがそう言うと、夜光は「あぁ、それだ」と思い出す。
聞き慣れない言葉に、セリアは「どっどのような障害なのですか?」とルドに尋ねる。
「ナルコレプシーって言うのは、睡眠障害の1つで、場所や時間に関係なく突然強い睡魔に襲われたり、意識があるのに動けないとかいろんな症状を引き起こす障害なんだ」
「よく勉強しているようだな」
「これでも精神科医師を目指しているからな」
ルドの成長にスノーラは少し誇らしくなった。
「それにしても、本当によく寝てるわね」
ライカがそう言って、キルカに近づいた時であった。
「・・・うううん」
キルカが突然ライカのスカートの中に手を入れ、そのままパンツを降ろした。
「・・・えっ?・・・いやぁぁぁ!!」
慌ててパンツを履きなおしたライカを見て、周りは急いでキルカから離れる。
キルカが目を覚ましたのではと思ったが、その後も彼女はすやすや眠っている。
キルカを起こそうにも、女が近づけば、またライカのような目に合うと思ったスノーラが、夜光に向けてこう言う。
「夜光さん。 キルカが起きているか確かめてください」
「はあ!? なんで俺が!?」
「あんたは男なんだからセクハラされずに済むでしょ!? 仮にもスタッフなんだから、たまには何かしなさいよ!!」
ライカの八つ当たりのような言葉に、一瞬イラつきを覚える夜光だが、メンバーの「行ってください」と言わんばかりの視線に耐えられず、嫌々起こすことにした。
「おいっ!キルカ。 お前、いい加減に起き・・・ぐほっ!」
夜光がキルカに顔を近づけた途端、キルカの右ストレートが夜光の頬にさく裂した。
「男はNGってことみたいだな」
半眼でそう呟くルドの言葉に、メンバーはため息をつくしかなかった。
「くくく・・・マジで殺す!!」
夜光は怒りのままマイコミルームのテーブルを持ち上げ、キルカに振り下ろそうとする。
『待て待て待てえぇぇぇ!!』
それはさすがにまずいと思い、夜光を慌てて止めるメンバー達。
「・・・ふぁぁぁ。 なんの騒ぎだ?」
ここでようやく目を覚ましたキルカであった・・・
今日のマイコミが終わり、アパートへ帰ろうとしていた夜光偶然ゴウマと出会った。
「おお、夜光。ちょうどよかった。お前に頼みがあるんだ」
「頼み?」
夜光は嫌そうに聞き返すが、そんなことは十分承知しているゴウマは構わず続ける。
「実は今日、図書室に新しい本をいくつか置くことになっていてな? もう玄関に運ばれているから、それを図書室まで運んでくれ」
「はあ!? なんで俺が!?」
「今はレッドフェスティバルの準備でスタッフはみんな忙しいんだ。時間も力も有り余っているスタッフはお前くらいだ」
「おいおい、これから帰ろうとしていたのに、こんな仕打ちはねぇだろ!?」
反抗する夜光の肩に手を置き、ゴウマは優しく言う。
「たまには酒と女以外のところで力を使え。 じゃあ、頼んだぞ?」
それだけ言い残すと、ゴウマはその場を後にした。
「・・・クソッ!!」
そう吐き捨てながら、やらなければまた減給されると理解していた夜光は、重い足を引き釣りながら玄関へと歩いた。
玄関に置いてあった本を図書室へ運ぶ夜光。
作業自体は簡単だが、置いてある本の多さと玄関から図書室まで地味に遠いため、気が付けば夕暮れになっていた・・・
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・これでラスト・・・」
夜光は50冊以上の本をようやく運び終え、図書室は床一面本だらけになっていた。
図書室を管理するスタッフに運び終えたことを伝え、その場を後にしようとした時、夜光の目にあるじんぶつが映った。
「・・・セリア?」
それはテーブルで1人、何かを書いているセリアの姿であった。
しかもなぜか眼鏡を掛けている。
「おい、セリア」
夜光が軽く声を掛けると、セリアははっと驚き、机の上にある紙の束をを手で覆い隠した。
「やっ夜光さん、どどどうしてこちらに?」
「親父に本を運ばされていたんだ。 お前こそこんなところで何やってんだ?」
「それはその・・・えっと・・・」
あたふたするセリアに、夜光は質問を変える。
「じゃあ今、何を書いていたんだ?」
「これはそのあの・・・」
セリアの動揺ぶりから、何か言いにくいことなのだと、夜光は察する。
「まあ、言いたくないなら無理に言わなくてもいいけど」
夜光の気遣いを感じたセリアは、申し訳なく思い、ゆっくりと口を動かした。
「しょ・・・小説をかか書いていま・・・した」
そう言いながら、セリアは紙の束を隠していた手をどける。
その紙をよく見ると、それは原稿用紙であった。
「小説? お前、小説を書く趣味があったのか?」
「いえ、あの・・・なんと申し上げたら良いか・・・」
セリアの言葉から、夜光の頭にある言葉が浮かぶ。
「お前もしかして、小説家になりたいのか?」
小説家という言葉にわかりやすく反応するセリアは、ゆっくりと頷く。
「へぇ、小説家ねぇ。 何かきっかけてもあったのか?」
「いっいえ、子供の頃から読書が好きで、次第に自分で書いてみたいと思ったんです」
「そうか。 親父はこのこと知ってんのか?
夜光がそう言うと、セリアは少し顔をうつむかせながらこう返す。
「はい。 お父様は喜んで応援してくださいました・・・でも、正直に言うと本当にこれで良いのかなと迷っています」
「どういう意味だ?」
「・・・私にはこの国の姫としての立場があります。いずれはこの国の未来を考えて生きていかなければなりません。その責任を放って、自分勝手に小説を書くということは、大勢の方々のご迷惑になるかもしれません。 それに、自分が小説家として本当に努力できるのか、自信がないんです」
いつもカミカミで話すセリアがスラスラと話す様子に、夜光はどれだけセリアは真剣に考えているかがよくわかった。
「でもよ、親父は納得してるんだろ?」
「はい。 お父様は、立場など考えずに自分のやりたいようにしなさいと言っていました」
「それに、セリナなんか立場なんて考えずに、ラジオパーソナリティーを目指しているだろ?」
セリアの姉であるセリナも姫という立場がありつつも、自分の夢であるラジオパーソナリティーを目指して日々頑張っている。
「お姉様はいつも明るい方なのであまり暗い言葉を口にしませんが、内心は姫としての立場を気にいるようです」
夜光はポケットからタバコとライターを取り出し、一服しながら小さく「意外だな」とだけ呟いた。
セリアは思い切って、夜光に尋ねてみた。、
「・・・夜光さんなら、姫としての立場と小説家としての夢、どちらが大切だと思いますか?」
夜光は興味がなさそうに、椅子にもたれ掛かりこう返す。
「さあな。 俺には立場なんて大層なものないし、夢なんか持ったこともないからな。 わからねぇよ」
「・・・そうですか」
夜光の言葉を参考にしようと思っていたセリアは再びうつ向いてしまう。
そのセリアに夜光がこんな言葉を掛ける。
「なあ、セリナ。 お前がそうやって悩んでしまうのはわからなくもねぇ・・・でもよ、一番悩まなきゃいけないのは、【自分にとって何が一番おもしろいか】じゃねぇか?」
「おもしろい・・・ですか?」
「そうだ。 世の中には、やりたくもねぇ仕事やつまらねぇ勉強しかやることがない奴が山のようにいる。
別に好きでそんな人生を送っている訳じゃないのに、自分にとって何が一番おもしろいのか、何を一番やりたいかがわからないから、そんなつまらねぇ人生を送るしかなくなるんだよ。
簡単に答えが出せそうに思えるけど、案外こういう悩みは多いぜ?」
「そっそうなんですか?」
「あぁ。 でもお前はまだ良い方だぜ? 夢って言う大きなものを持っているからな。大人になってしまえば、夢で悩んだり、夢に向かって努力することも、今より難しくなるからな」
それは、夢を持たずに生きている夜光自身のことでもあった。
そして、セリアはゆっくりと顔を上げて、夜光に一番聞きたいことを口にする。
「・・・私は、自分の好きなようにして良いのでしょうか?」
「良いんじゃねぇか? 後先ばかり考えるくらいなら、自分勝手に考える方がよっぽど気楽だ」
「・・・ふふ、そうですね。 ありがとうございます、参考になりました」
ぶっきらぼうでも、ちゃんと自分のことを考えて言葉を述べる夜光に、自然とセリアの表情が明るくなった。
綺麗に話が終わったと思ったその時、ホームの警備員であるおじいさんが夜光に向かってこう叫ぶ。
「コラッ!夜光! ここは禁煙だ!タバコなら喫煙室で吸えといつも言っているだろう!?」
「げっ!! 警備員のじじい!!」
基本的にホーム内では喫煙室以外は禁煙となっているが、夜光はところかまわず吸っているためよく注意を受ける。
「今日という今日はもう許さん!! そのタバコを没収してやる!!」
「冗談じゃねぇ!! タバコだってタダじゃねぇんだよ!!」
夜光は、そばにある窓から外へと飛び出した。
しかし、下に芝生があるとはいえ、図書室は3階!
窓から落ちたら普通の人間なら骨折するが、人間離れした耐久力と筋力を持つ夜光は無傷で済んでいる。
「おのれ!すばしっこい小僧め! 待てぇぇぇ!!」
夜光を追いかける警備員は、さすがにドアから出て行った。
「・・・」
そして、取り残されたセリアはただ茫然と原稿用紙を握りしめていた・・・
ゴウマ「夜光もなんだんだで、スタッフが板についてきたな」
セリナ「そうだね。 いっつもスノーラちゃんやライカちゃんに遅刻したりお酒飲んだりしているのを怒られているのに、へこたれずにいるもん!」
ゴウマ「そこはへこたれてもらいたいがな」
セリナ「あっ!そうだ! ねぇお父さん、プールでライカちゃんが、キルカちゃんに媚薬を盛られたtって言ってたんだけど、媚薬って何?」
ゴウマ「うっ・・・セリナ。 そういうことはもっと大人になってから知るべきだと思うぞ?」
セリナ「えー! 気になるよぉ!」
ゴウマ「・・・それなら、誠児に教えてもらいなさい。 彼は知識も豊富だから教えてもらえるだろう」
セリナ「わかった!今度聞いてみるね!」
ゴウマ「・・・(許せ、誠児)」




