格差社会
時間に余裕を持って更新しようとしていますが、なかなかうまくできません。
ミュウスアイランドにやってきた夜光達の前に、スノーラの妹【ミーナ】が現れた。
彼女は、両親を殺した人間となって生きているスノーラを人魚族の裏切り者と罵り、嫌っていた。
しかし、子供の頃に異種族ハンターに襲われ、ひれを失ったスノーラには、人魚として海へ戻ることはできない。
ミーナとスノーラの溝は深まっていく・・・
日が傾き始めた頃、スタッフ達が拡声器でアナウンスを掛けた。
『みなさん!! そろそろ宿に戻りますので、海から上がってください!!』
それを聞いたイベント参加者たちは、次々と海から上がり、更衣室代わりの建物(というより倉庫)に入り、私服へと着替えていく。
宿に戻ると、施設長のサーマが出迎えた。
「皆様、お疲れ様でした。 お風呂の用意ができておりますので、お食事ができるまで、疲れを癒していてください」
「(何っ!! 風呂やと!!)」
風呂という単語に反応し、のぞきの罪(実際は冤罪)で女性陣から制裁を受けて瀕死の状態であった笑騎は完全復活を遂げた。
「(おっしゃ!! 海でのリベンジや!!」
もちろん笑騎が何をしようとしているかは、夜光を含めた全員が感づいていた。
サーマの案内で、大浴場へとやってきた夜光。
男女に別れて更衣室に入ると、中はかなり広く、室温は冷房機を使って若干低めだが、風呂上りにはちょうど良い。
おまけに乾燥機や冷蔵庫も完備されて、ほぼ銭湯のようであった。
衣服を入れる箱には、タオルと着替えがすでに用意されているので、夜光達はそのまま大浴場に入ることにした。
大浴場の中も広く、男性陣が全員入ってもスペースがかなり余るほどだ。
夜光と誠児が汗を流そうとお湯に浸かった時
「いてっ!」
誠児が背中や腕に痛みを感じた。
「どうした? 焼けたのか?」
誠児の体をよく見ると、肌があちこち赤い。
「たぶんな。 まあ、ずっと太陽の下にいたから仕方ない」
体をさすりながらもお湯に浸かる誠児。
「女達のお相手、ご苦労様でしたリア充様」
モテる誠児への嫉妬を込めた嫌味に、誠児は心の底から反論する。
「ハーレム野郎のおまえにだけは言われたくない!」
夜光と誠児が、互いの女難を言い合っていた時に、お湯に浸かっていた男性スタッフが声を上げた。
「おいっ、笑騎! やめとけよ!」
男性陣が視線を向けると、そこにいたのは男湯と女湯を遮る壁をじっと見ていた笑騎だった。
笑騎はタオル一枚にも関わらずに、仁王立ちしている。
「笑騎。 覗きを考えているならやめとけ! また殺されるぞ!」
男性スタッフがそう忠告すると、笑騎は険しい顔で声を上げる。
「お前らはそれでも男か!! 目の前に楽園があるのに、それを無視して風呂が楽しめるんか!?」
笑騎の言葉に、男性スタッフは冷静に返す。
「俺達にはスタッフっていう立場があるからな。 何より命が惜しい」
男性スタッフや訓練生達がこれほど冷静なのは、笑騎のような邪な心がないのも理由の1つだが、彼らを最も抑えているのは、ホームの女性達の性犯罪に対する強い憎しみによるものであった。
かなり昔は笑騎のように女性に対する興味が強い訓練生やスタッフはいた。
しかし、そういったセクハラを行った男達は女性陣の制裁を受け、全員無残な姿で発見され、それ以降、笑騎以外の男達は二度と同じ過ちを犯すことはなかった。
つい最近では、制裁を受けた笑騎がゴミ処理場から帰ってくるといった想像しにくいこともあったので、ホーム内で今なおセクハラをしているのは笑騎1人となっている。
「そうか。 ならお前らは風呂の中で見とけや! だいたい俺は覗きなんてみみっちいことなんかせん!! 正々堂々、男らしく女風呂へ突撃したるわ!!」
笑騎は男らしい宣言をしたかのように誇らしげな顔とをするが、男性陣にはこれから死にますとしか聞こえない。
「親父もよう言うてる。 俺らは壁を乗り越えて成長していくんやってな」
「・・・壁の意味が違うがな」
男性スタッフの冷静なツッコミに全員が頷く。
「ほな行くで!!」
笑騎が掛け声と共に、壁の向かって走り出す。
壁の高さは約10メートルあり、ジャンプして飛び越すことはまず不可能。
かといって表面がつるつるしているため、よじ登ることはできそうにない。
女湯につながる秘密の通路のような都合の良いものもない。
突撃どころか覗きすらできそうにないこの状況でも笑騎は諦めない
「俺はエデンに行くんじゃー!!」
雄たけびと共に笑騎は、壁に向かって飛び蹴りをした。
すると驚くことに、笑騎の蹴りが分厚い壁に穴を空けた。
『えぇぇぇー!!』
これには男性陣も驚いた。
笑騎はそのまま穴に入り、女湯に突撃していく。
その時、笑騎はそっと目を閉じ、心の中でこう呟く。
「(・・・わかっとる。 こんなことをしても、俺みたいな脇役には女の裸なんか見られへんことくらい。
見れたとしてもせいぜいバスタオル姿くらいやろうな。
でもそれでもかまわへん。 諦めずに壁を超えるっちゅうのが大切なんや
この後は、待ち構えている女達に俺がなすすべなく殺されるっちゅうお約束の展開やろうけど、かまわへん!
たとえ、湯気とかでバスタオルすら見えんでもええ。 ほんの一瞬でも裸に近い女の子たちに囲まれる幸せを心で感じれたら、死ぬんも本望や」
意味のわからない悟りを開いた笑騎はついに、女湯に足を付けた。
「よう見とけ!! 男湯のアホ共!! これがほんまの男じゃ!!」
笑騎はゆっくりと目を開けると、そこにいたのは・・・
「この覗きめ!」
「ワシらが成敗しちゃる!!」
6、70代の高齢女性達だった。
「なっなんやこれは!? なんで俺、オバハンに囲まれてんねん!!」
その疑問に、高齢女性達の後ろにいる女性スタッフがそれに答える。
「この方々は覗きから女湯を守るガードレディです。 あなたは間違いなく覗きをすると思ったので、特別に手配しました」
「いや、レディって歳ちゃうやろ!?」
笑騎の言葉にガードレディたちが怒った。
「覗きだけでなく、ワシらまで侮辱するとは!」
「もうおしおきなんて生ぬるいことはせん!! 地獄に落としちゃる!!」
ガードレディたちはそれぞれ武器を持ち、笑騎に詰め寄る。
「いっいやや!! オバハンに囲まれて死ぬなんていやや!!」
『天誅~!!」
「こんな最後はいややぁぁぁ!!」
笑騎はそのままガードレディたちによって制裁された。
『・・・』
男湯にいた男性陣は、まるで黙とうをささげるかのようにその場で無言の敬礼をしたのであった。
一方のセリア達は、大浴場から通じている露天風呂に移動していた。
「うわぁ!! みんな! 海が見えるよ!」
露天風呂から見える海に興奮するセリナ。
「お・・・お姉様! どうかこれを巻いてください!」
タオルを巻かずはしゃぐセリナに、必死にタオルを渡すセリア。
しかし、セリナは「この方が動きやすいもん!」と言って巻こうとしない。
「・・・? 2人共、そんな隅っこで何やってんだ?」
ルドが、露天風呂の隅でひっそりしているマナと、いつの間にか入っている女神様が目に入った。
女神も汗を流すために、旅館に頼んで、露天風呂に入れてもらっているとのこと。
「・・・いえ、みなさんと一緒に入るのが、なんだかつらくて」
珍しく暗い表情を見せるマナ。
「私もです・・・はぁぁぁ」
深いため息をつく女神。
「なんだかよくわかんねぇけど、なんか悩みがあるなら聞くぜ?」
ルドの優しい言葉に反応した女神が、じっとルドを睨みつける。
「な・・・なんだよ女神様。 オレなんかした?」
ルドを無視して、女神はライカ、セリア、セリナ、スノーラと順に睨んでいく。
「ちょっと女神様。 黙ってないで何か言ってよ」
ライカも女神のことが気になり始めたようだ。
ここでようやく、女神が口を開いた。
「・・・みなさんって、どうしてそんなに胸が大きいんですか?」
『・・・』
女神の質問に全員があっけにとられた。
女神の言う通り、マイコミメンバーは全員巨乳でスタイルも良い。
それに引き換え、女神は男性と変わらないほどの貧乳。
「もしかして、マナも同じ理由でそんなところにいるのか?」
ルドの質問に、マナは静かに頷く。
しかし周りが巨乳だからわからないかもしれないが、マナは平均的にある方だ。
少なくとも、女神よりはある。
「マナさんはまだある方じゃないですか!? 私なんてたまに男の人と間違えられることがあるんですよ!?」
女神の怒りはますますヒートアップする。
「女神様、落ち着いてください。”胸などただの脂肪ではないですか”」
スノーラのその言葉でついに女神の怒りが頂点に達した。
「きょ・・・巨乳になにがわかるかぁぁぁ!!」
女神は怒りのまま、どこから取り出したのかわからないバズーカをセリア達に向ける。
「あなた方に、胸のない者の悲しみがわかりますか!?」
「はわわ!! なになに!?」
のんびり海を眺めていたセリナもさすがに気づいた。
「あっあの、そんなものをどこから」
「うるさいです!! 巨乳なんて、私が絶滅させてやるぅぅぅ!!」
セリアの質問に応じず、女神はバズーカを放った。
『きゃぁぁぁ!!』
「うわぁぁぁ!!」
露天風呂は大混乱になった。
悲しき貧乳女神の暴走を、カメラ片手に見守るきな子。
もちろん被害に合わないように、露天風呂からは離れている。
「・・・格差社会は残酷やな」
きな子はそれだけ呟くと、カメラのシャッターを押した。
後日、この写真を編集者に1000万クールで売り飛ばすきな子であった・・・
大浴場を2時間満喫した夜光と誠児は、風呂から上がることにした。
「ゴクゴク・・・」
「ゴクゴク・・・」
冷蔵庫の牛乳が2人の火照った体を心地よく冷やす。
2人は用意された衣服に着替え、来ていた私服は従業員が洗ってくれるようなので、預けることにした。
大浴場を出た2人が部屋に戻るために受付を通った時、サーマが声を掛けてきた。
「湯加減はいかがでした?」
「最高でした。 どうもありがとうございます」
笑顔の誠児がそう答えると、サーマはにこやかに微笑み、
「それはよかった。 あと1時間ほどでお食事ができますので、それまでのんびりくつろいでいてくださいね」
「はい。 そうします」
「何かありましたら、私がここにいますので、なんなりとお申し付けください」
その言葉を聞いた瞬間、夜光の目つきが変わった。
「あなたはしばらくここにいらっしゃるのですか?」
「!!!」
突然の夜光の敬語に、誠児は嫌悪感を感じた。
「はい。 お食事の際は皆様のおもてなしをするので、それまでは」
「・・・そうですか」
不気味な笑みを浮かべる夜光に誠児は小声で尋ねる。
「・・・お前、サーマさんを狙っているのか?」
その問いに、夜光も小声で答える。
「まだわからねぇよ。とりあえず探りを入れてみて、いけそうなら一晩過ごそうと思ってる」
夜光の”悪い癖”にため息しか出ない誠児。
「・・・まあ。ほどほどにしとけよ?」
誠児はそう言い残すと、部屋に戻っていった。
そして、残された夜光は、獲物を狙う獣のような目で、サーマに近づくのであった・・・
それから1時間が経過し、誠児は食堂へと向かった。
食堂は、大浴場に向かう途中で案内されたので、場所は知っていた。
食堂に入ると、まず目にしたのは、檻に閉じ込められている笑騎だった。
笑騎はタオル姿のまま、魂が抜けたように倒れていた。
全身についている無数のアザが笑騎の味わった地獄を物語っている。
その上、檻には心界の文字で【女を与えないでください】とい注意書きまで張られていた。
誠児が檻を素通りすると、かすかな声で「オバハンはいやや・・・」という笑騎の遺言のような声耳に入ってしまった・・・
誠児が席を探していると、セリア達の姿を見かけた。
しかし、なぜか全員ボロボロな上、疲れ切ったという感情が空気を通して伝わってくる。
「あの・・・みんなどうしたの?」
誠児がおそるおそる尋ねると、頬を膨らませたセリナがこう言う。
「どうもこうもないよ!! 女神様がひんにゅ・・・」
セリナが貧乳という言葉を発する前に、ライカがセリナの口を塞ぐ。
「このバカ! 今その言葉は禁句でしょうが!」
「ふごふご(ごめんなさい)」
状況が飲み込めない誠児の目に、平然と座っている女神が映った。
きな子とバカンスに来ている女神がここにいるのはなんとなく理解できるが、なぜセリア達と離れて座っていることが気になった。
「・・・あの女神様。 どうして彼女たちから離れて座っているのですか?」
「・・・巨乳なんかと一緒に食べたくありません」
不機嫌そうにそう答える女神。
「巨乳?」
誠児は自然にセリア達と女神の胸を見比べる。
「(もしかして・・・)」
女神が不機嫌な理由を察した誠児の前に、食堂に入ってきた夜光が現れた。
「誠児。 飯には間に合ったよな? ってどうしたんだ?お前ら」
ボロボロのセリア達を見た夜光が、そう尋ねると
「夜光! ちょっと来い!!」
誠児はすぐさま夜光を連れて、一旦食堂から出ると、夜光に貧乳を気にする女神は巨乳のセリア達に襲い掛かったという自分の考え(間違ってはいない)を伝えた。
「・・・ハタ迷惑な女神だぜ」
呆れる夜光に、誠児はさらにこう続ける。
「とにかく俺達は彼女たちを刺激しないように離れて食べよう。 あと間違っても女神様に貧乳なんて言うんじゃないぞ? あのボロボロの姿から察するに、かなり恐ろしいことになりそうだ」
「・・・ったく。 飯くらいゆっくり食わせろよ」
その時、誠児はふとサーマとのことを思い出した。
「そういえば、サーマさんのことはどうなったんだ?」
「・・・今晩は部屋に戻らねぇと言っておこうか」
いやらしく微笑む夜光に、誠児は特に驚く様子もなく
「うまくいったのか?」
「まあな。 向こうもこの前、男に振られたらしくてな? 今晩だけでも男を感じたいんだとよ」
「止めはしないけど、マイコミメンバーには知られるなよ? もし彼女たちの耳に入ったら、笑騎の二の舞だ」
「俺がそんなドジ踏むかよ!」
余裕ぶる夜光に、誠児の不安は強まる。
しかし、この時の夜光には知るよしもなかった。
この後に待ち構える恐ろしい体験を・・・
ライカ「全く! スノーラのバカが余計なことを言うからひどい目にあったわよ!!」
セリア「でっですけど、結局女神様はどこからバズーカなんて・・・」
ライカ「・・・あんた、これからもヒロインとして生きていきたいなら、そういう細かいところはスルーしておきなさい。 あんまりしつこいと、作者にヒロインを降ろされるかもしれないわよ?」
セリア「そっそれは少し困ります・・・」
ライカ「だったら今後は気を付けなさい。それと、今後女神様に貧乳って言葉は禁句よ?
特にあたし達が言うと嫉妬してまた暴走するかもしれないから」
セリア「わっわかりました。 決して貧乳とは言いません」
女神「今貧乳って言ったのは誰ですかぁぁぁ!?」
セリア・ライカ「きゃぁぁぁ!!出たぁぁぁ!!」




