常識への反逆
明けましておめでとうございます! 今年初の投稿です! いつも読んでくださる読者の方々には感謝の気持ちでいっぱいです! これからもどうぞよろしくお願いします!
ケンタウロスの住むドープの森で見合いをすることになった夜光とルド。
その前夜、自分のせいで周りの者を傷付けてしまったことを知ったルドは今の自分を捨て去るために夜光のもとに夜這いにきた。
しかし、夜光はそんなルドを突き返し、ルドの本心を引き出すことができた。
ルドは見合いの席で両親に自分の本心を伝えることを決めた。
そして見合い当日、ルドは父であるストーンから衝撃の言葉を告げられた。
ストーンは隣に立っている若いケンタウロスの男に視線を向け
「ルド、この方と結婚しなさい」
とあまりのことにルドは頭が真っ白になった。
「なっ何言ってんだよ! 今日は夜光とのお見合いじゃないのかよ!?」
ストーンはルドに視線を戻し
「すまん。あれは嘘だ」
「うっ嘘!?」
「あれはお前をこの森へ連れ帰るための口実だ。
いきなり結婚しろと言ってもお前は聞く耳持たんと思ってな」
ルドがショックで呆然としていると、母親のフォーレが歩みより
申し訳なさそうに語る
「あなたやゴウマ国王達に嘘を付いたのは謝るわ。私もお父さんも嘘を付いたことへの償いはするつもりよ?でもわかって、ルド。
これもみんな、あなたの"病気"を治すためよ」
「・・・どういうことだよ?」
ルドは、混乱しながらも口を開く。
「私達も私達なりにお前の病気について調べていたんだ。だが症状がわかっていても、有効な治療がない。だから乱暴な方法ではあるが、お前を結婚させることで、女としての自覚を持ってほしいと思ったんだ」
「(なんなんだよ・・・何がどうなってんだよ・・・)」
現実を受け入れられないルドに、結婚相手であるケンタウロスが自己紹介を始めた。
「初めましてルドさん。私はツリーと申します。このような形では、ありますが、あなたを必ず幸せにします。どうか私と結婚してください」
足を曲げ、深々と頭を下げるツリー。
そこへストーンがツリーについて話す。
「ツリー君はお前が森を去った後の武闘大会で、連続優勝するほどの実力を持つ男だ」
「お義父様、私などルドさんに比べたらまだまだ未熟者です」
謙遜しているように聞こえるが、さらりとお義父様呼びするふてぶてしいツリー。
「何よりお前が初恋の相手と聞く。私はお前を愛する強い男にお前を任せたいと思っている」
「初恋?」
ルドが気になるワードについてツリーに尋ねる。
「あなた様はご存じないと思いますが、私は何度かあなたを大会でお見かけしていました。数々の試合で戦うあなたのその強さと美しさに私は心を奪われました。そんなあなたとの結婚の話をお義父様からお聞きした時は夢のようでした。たとえ、あなたの病気を治すためでも、私はあなたの夫になれることを誇りに思います!」
ツリーの気持ちに対し、ルドは全く興味はなかった。
結婚相手がどんなやつだろうと、両親が勝手に決めた結婚なのに変わりはない。
その上、夜光達を巻き込んでしまった。
ルドはその事実を受付入れずにいた。
そこへ突然現れたゴウマ達。
「ゴウマ国王。どうしてここに?」
驚いたストーンがそう尋ねると、ゴウマは穏やかだが強い口調で応えた。
「先ほどセリア達があなた方の話を偶然聞いてしまいまして、それを我々に教えてくれたのです」
結婚させられそうなルドを見て、セリアがマイブレでゴウマ達を呼んだのだ。
「それよりお二方、これはどういうことでしょうか?」
ストーンは一歩前に進み、
「見合いと偽ったことは後で償おう。だが、これが我々が考えられる唯一の希望だ」
「・・・嘘をついたことは構いません。だが、子供に望んでもいない結婚を押し付けることがあなた方の希望なのですか?」
ゴウマの顔が少し険しくなる。
「強引なことは理解しているつもりだ。だが結婚し、子供を作り、家庭を持つことこそ女として常識を痛感できるはずだ!」
「前にも申したはずです! 障害は病気とは違う。治そうとするのではなく、障害と向き合うことが本人にとっての前進なのです!」
互いに譲らないゴウマとストーン。
そこへ我慢できなくなったスノーラがゴウマの後ろから飛び出した。
「このような結婚はやめてください!」
「スノーラ・・・」
ルドとスノーラは互いに一番親しい友達だ。その上、同じ障害者だ。
だからスノーラはルドの気持ちがよくわかっている。
「私はルドと長い時間を共にしてきました。ルドの気持ちは理解しているつもりです! だから断言できます!こんな結婚をしてもルドは絶対に幸せにはなりません!」
スノーラの強い口調にストーンは全くひるまず
「君がルドの友でも我々はルドの親だ。ルドのことは一番よく理解している!子供を愛し、子供にとって最善を尽くすのが親の務め! 君のような子供では理解できないだろうがな」
そんなストーンに、スノーラは少し睨みながら呟く。
「・・・理解する気もありません」
そんなスノーラを落ち着かせるように、そっと肩に手を置くゴウマ。
そしてストーンは、ルドの腕を掴み、
「ルド。そろそろ式の時間だ。パスリングをはずしてケンタウロスに戻るのだ」
パスリングとは、異種族の障害者専用の指輪で、これをはめると異種族は人間になる。
ちなみに外せば元に戻る。
ホームに通うには、人間社会に馴染む必要がある。
だが、異種族の姿ではそれは厳しいため国が支給している。
その上、異種族の障害者と言う身分証明にもなる。
「ケンタウロスの結婚に、人間の姿は不釣り合いだ。外しなさい!」
しかしルドは外そうとしない。何かを言いたげに挙動不審になっている。
「くっ!!」
スノーラがとうとうストーンに飛び掛かろうとした時!
ゴウマが手でスノーラを静止させた。
それと同時に、夜光がルド達の元へ歩みよる。
その目つきは、普段とはどこか違い、するどくなっていた。
「夜光さん・・・」
その時スノーラは、夜光に任せようとするゴウマの意思を感じた。
「なんだ? 謝罪を求めているなら悪いが後に・・・」
夜光は静かに
「常識と違うことがそんなに悪いことか?」
夜光の突然の質問に一瞬、困惑するストーン。
「常識ってのは守るものであっても縛るものじゃないんじゃねぇか?」
「何を言っている?」
「そうやって、常識を通してでしか子供を見ようとしないから、結局子供の事が何も見えてないんじゃねぇか?」
「君のようなスタッフに何がわかる? ルドの気持ちは私達が一番わかっている」
夜光はルドに視線を向け
「おい、ルド。こう言ってるがそうなのか?」
「お・・・オレは・・・その」
ルドはなかなか口を開かない。
言いたいのに言えない。
ルドは自分が情けなかった。昨日、夜光に自分の気持ちを伝えると言ったのに、両親を目の前にすると、口が重くなる。
そんなルドに夜光は歩み寄り、突然無言でルドに平手打ちをした。
「うっ!!」。
「「ルド!!」」
「貴様! ルドさんに何を!」
今まで黙っていたツリーが怒りに満ちた顔で夜光に向かってきた。
しかし途中でスノーラが間に入り、ツリーの足元に威嚇射撃を行い、
「頭をふっ飛ばされたくなければ黙っていろ」
と低い声で銃を突き付けた。ケンタウロスとて銃がなんなのかわからないほどバカではない。
「は・・・はい」
ツリーは借りてきた猫のように大人しく引いた。
頬を抑え、放心しているルドに夜光は冷たく言う。
「お前も男なら、言いたいことははっきり言え。 それができないのなら大人しく女として生きていろ!」
その瞬間、ルドの中で何かが動いた。
「貴様! いい加減に・・・」
ストーンが夜光をルドのそばから引き剥がそうとした時!
「待ってくれ!」
ルドの心からの叫びがこだました。
これまで親に反抗したことがなかった。それは、障害者である自分を見捨てずにいてくれたからだ。
障害の認知が低い異種族から出た障害者は大抵、親が育児放棄したり、一族からはみ出し者にされることが多い。ホームでそういった現実を知ったことで、両親の愛情がどれほど深いものかを感じていた。。
'ずっと今の自分でありたい'という自分の素直な気持ち。
それを言えば両親は悲しむかもしれない。自分に愛想を尽かすかもしれない。
そんな考えが頭をよぎり、これまで本当のことがどうしても言えなかった。
「父さん、母さん。 オレの話を聞いてくれ」
だが、今のルドにはその迷いが消えていた。
「オレ・・・今のままの自分でいたいんだ!」
やっと言えた本音。そしてその一言と共に、ルドの思いが溢れて出た。
「父さんと母さんはオレを娘として見てくれているけど、オレは男なんだ。体は女だけど、心は男なんだ!
2人から見たら、変なのはわかってる! でも、お見合いや結婚を勧められようがこの気持ちも考えも変えるつもりはない。
こんなのはオレのわがままかもしれない。父さんや母さんそれに、リーフの気持ちを踏みにじることかもしれない。それでもオレは、自分の気持ちに正直でありたいんだ!」
そして、言葉に一段落つくと、ルドは静かにこう呟く。
「これがオレの素直な気持ちだ・・・」
今まで自分たちの考えに逆らったことがないルドが大声で反抗してきた。
両親はその現実に驚きを隠せなかった。
母フォーレは、ルドの肩に手を置き、動揺しながらも
「何を言っているの!? あなたは病気なのよ? それを受け入れるなんて馬鹿なことを言わないで!」
とルドに言い聞かせた。
だが・・・
「母さん。オレは病気なんかじゃない。オレはただ、オレとして生きていきたいだけだ」
ルドの考えは変わらない。
父ストーンは、その光景を見て夜光をにらみつけた。
その目からは、強い怒りが感じられた。
「貴様! 娘をたぶらかしおって!」
ストーンはその巨大な腕を振り上げ、夜光に殴りかかろうとした。
その腕が夜光に届く寸前で、ゴウマが間に入り夜光を庇った。
ストーンは、ゴウマに当たる寸前で腕を止めた。
「おい。庇ってくれと頼んだ覚えはねぇぞ」
夜光が素直に感謝せず皮肉を言うと、ゴウマは笑いながら
「君の世界では上司が部下を庇うのはおかしなことなのか?」
ゴウマも皮肉を込めた返答をした。
それを聞き、夜光は軽く笑って「さあな」となんともあいまいな言葉で閉めた。
そしてゴウマはストーンに視線を向けた。
「お二人共。 私も子を持つ親です。愛する子のために何かしようとするその気持ちには感銘します
・・・ですが、愛する子供だからこそ、子供の未来も生き方も本人に決めさせるべきではないでしょか?
親の役目とは、子供を導くことではなく、子供を支えることではないでしょうか?」
ゴウマの言葉にフォーレが、不安げな声で尋ねる。
「ですが、その結果ルドが傷つくようなことになったらどうするのです!?」
「その時は我々が全力でルドを支えます! 現にルドは、夜光や仲間たちのおかげで、今こうして、あなた方に自分の意思を伝えられたのです!」
その言葉に、2人は完全に言葉を失った。
そんな両親に、ルドはフォーレから少し離れて、両親の顔が見える位置に着くと2人に向かって
「・・・父さん、母さん。オレは2人のことが大好きだ。これからもずっと一緒にいたいと思ってる・・・だけどごめん」
その瞬間、ルドは一筋の涙を流し
「オレのことは・・・オレに決めさせてください・・・」
その涙と言葉に込められている心を2人は感じ取った。
ルドは自分の人生を歩もうとしている。これまで2人はそれが間違った道だと思っていた。
だがそれは違う。
自分達は、ルドの進もうとしている道を塞いで、無理やり道を変えようとしていたのだ。
そう思うと、これまでしてきたことや投げかけてきた言葉がルドを苦しめていたのではないかという恐怖に襲われた。
ストーンはまるで救いを求めるかのような声でゴウマに尋ねる。
「・・・ゴウマ国王。 私たちは間違っていたのだろうか?」
その質問に、ゴウマは笑顔でこう返す。
「いいえ。 親が子を愛する気持ちに間違いなどありません。 今回は親と子のコミュニケーションが少し足りなかっただけです。 互いの気持ちを言葉にすれば、きっとこのような心のすれ違いなど起きません」
「・・・そうですね」
ストーンはそう言うと、ルドに歩み寄り
「・・・ルド。今まで何も気づいてあげられなくてすまなかった」
あとに続いてフォーレも歩み寄り、ルドを強く抱きしめた。
「今までのことを許してほしいとはいいません。 ただ、お父さんもお母さんもあなたを一番に愛していることだけは信じて」
ルドは涙を流しながらも、まぶしい笑顔で
「生まれたときからずっと信じてるよ」
「ルド・・・」
ストーンも思わず、ルドを抱きしめる。
その目には涙があふれていた。
子が親の愛を信じてくれる。 親にとってこれほどの幸福はない。
3人の涙は懺悔でも後悔でもなく、幸福の涙なのだと、この場にいる者はみな理解していた。
ルドと両親が和解した後、両親はすぐさまツリーとの婚約を白紙にした。
婚約者のツリーは、「それがルドさんの幸せのためなら」などとキザったらしいセリフを吐きながらも
スノーラと目があった瞬間に一目散に逃げて行った。
どうやら、スノーラの威嚇発砲と脅迫がよほど怖かったようだ。
一方、集まったケンタウロス達は、結婚式の中止にかなりご立腹だった。
わざわざ大勢で集まったのに、いきなり中止を言い渡せば無理もない。
それでも両親やゴウマは、ケンタウロス1体1体に謝罪していった。
ゴウマ達が謝罪している間、夜光達はルドと共に、あるケンタウロスに会いに行った。
先ほどの広場から1キロほど離れた場所にある小屋。
ルドが小屋をノックすると、そこから現れたのは・・・
「・・・久しぶりだな。 リーフ」
それはかつてルドが好意を抱き告白したケンタウロスの少女リーフだった。
「・・・なんでここにいるの? 今日は結婚式じゃなかったの? あんた」
言葉にも表情にも、彼女のルドに対する憎しみが肌を刺すように伝わってくる。
「いろいろあってさ。 結婚式は取りやめになったんだ」
「・・・それをわざわざ言いに来たの?」
「それもあるけど・・・リーフ。 お前がオレを恨んでいるのは理解しているつもりだ。
知らなかったとは言え、オレがお前に人生を奪ったのは事実だ」
「ええ、そうよ! なにもかもあんたのせいよ! あんたのくだらない病気のせいで、私がどれだけ苦しんだかわかる!? 私は夢も居場所も全部失ったのよ!」
ルドは一瞬、顔がこわばったが、決して目線ををそらさなかった。
「・・・そうだな。お前の言う通り、オレが障害者になったせいでいろんな奴に迷惑を掛けちまった。
だからずっと障害者になってしまったことを後悔していた・・・でももうオレは後悔しない。
後悔して立ち止まっていたってなにも変わらない! だからオレは自分の障害と向き合って生きていく!」
「自分のしてきたことから逃げる気!?」
リーフの言葉にルドは声を上げた。
「違う! オレは過去からも障害からも逃げない! だけど、ケンタウロス族がこのまま障害のことを何も知らないままじゃ、同じことが何度も繰り返されるだけだ! だからオレは・・・」
ルドは手に力を入れて、強い口調でその続きを話した。
「オレは精神科医師になる! それで、障害のことをケンタウロス族のみんなやたくさんの異種族に知ってもらう! そうすればみんな、障害を馬鹿にしたり偏見を持ったりしないと思うんだ!」
ルドの強い決意に目を広げて驚くリーフだったが・・・
「・・・馬鹿じゃない? 障害なんて訳のわからない病気なんて、異種族が認知する訳ないでしょ?」
現在心界で障害を認知しているのは、人族と一部のわずかな異種族のみ。
それは、国王であるゴウマの言葉と実際に障害者を支えているホームであるからこそ、できたことだ。
しかしそれでもまだ、多くの異種族が障害を認知していないのが事実だ。
だからリーフが無理だと思うのも無理はない。
「・・・オレは理解してくれるって信じてる」
それは根拠のない言葉ではない。
これまで障害をただの病気と思っていた両親が自分の気持ちを理解してくれた。それはルドにとっての強みとなった。
「・・・くだらない」
リーフはそう言ってドアを閉めた。 もう話を聞く気はないと察したルドはドアに背を向け歩き出す。
しかし、ルドは満足そうな顔をしていた。
「(きっといつか・・・)」
ルドにとってこれはただの会話ではなく、異種族の常識を変えるという誓いだったのかもしれない・・・
スノーラ「・・・」
ルド「どうした?スノーラ。ずっと黙り込んで」
スノーラ「・・・私はそんなに怖いのだろうか?」」
ルド「ツリーのことか? そりゃあ銃を突き付けられた上、威嚇射撃をされたら誰だって怖いだろ?」
スノーラ「むぅ・・・ルドのためとはいえ、少しやりすぎたか・・・」
ルド「銃はともかく、お前の気持ちはうれしかったぜ。 ありがとうな」
スノーラ「礼などいらん。私は親友のために何かしたかっただけだ。しかし今後はもう少し発砲には注意しておこう」
ルド「いや、銃を手放せばいいんじゃないのか?」
スノーラ「それは断固として拒否する!!」
ルド「・・・あっそう」




