受け取った気持ち
結構久しぶりの更新です。
圧倒的と言えるその力で夜光達をねじ伏せるマナ。
戦うことを望まず、マナの心に必死に呼びかけるセリナ。
だが彼女の気持ちをマナはためらうことなく踏みにじる。
多大なショックを受けたセリナは戦意を失ってしまう。
夜光はセリナと共に船内へ一時退却するのであった。
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船内に戻った2人が向かった先は夜光の部屋。
セリナをベッドに座らせ、夜光はエモーションを解除した。
電気のスイッチを入れて薄暗い部屋に光を灯す。
辺りが光に覆われるも、セリナの沈んだ顔にまでは光を射すことはできなかった。
「……大丈夫か?」
「……」
夜光の問いかけには応えず、押し黙るセリナ。
顔は死人のように青ざめ、目のハイライトが失われている。
恐怖を肌で感じるように体を震わせているセリナの横に腰を下ろし、夜光は彼女の肩を優しく抱く。
「セリナ……僕もマナのことはいまだに信じられない。
でも事実がなんでも、マナをあのままにしておくわけにもいかないと思うんだ」
「……」
「……セリナ、1つだけ答えてくれ。 お前にとってマナはなんなんだ?」
「……お友達」
「マナが影だとわかった今でもか? お前にひどい言葉を浴びせて、殺そうとまでした今でもか?」
「それは……」
「気を使わなくてもいい。 お前の本心を聞かせてくれ」
「……」
セリナは口を閉ざし、自らの想いに耳を澄ませた。
普段は思ったことを何でも口にするセリナのこの行為に、夜光はどこか新鮮さを感じていた。
その間、夜光は決してセリナを急かしたり、周囲に目を配ったりせず、ただただセリナの返事を待った。
「……うん。 マナちゃんがどんなに変わってしまっても……どんなに嘘をついても、マナちゃんは私のお友達だよ?」
「……やっぱりそうか」
夜光は内心、セリナの心がマナから離れる覚悟を決めていた。
どんな人間でも、身近にいる人間に拒絶されれば心変わりを起こしてしまう。
だがセリナは、心に深い傷を負ってもなお、決してマナを想う心を捨てなかった。
「でも私……マナちゃんと戦いたくなんてない。
そんなことできないよ……」
「……」
「セリアちゃん達が必死に戦っているのに……マナちゃんが遠くに行きそうなのに……私が何もすることができない……マナちゃんの言う通り……私は何もできない無能なんだよ」
己の無力さと運命にあらがえぬ悔しさに彼女が唇を嚙みしめて涙を流す。
これまでも夢にくじけて涙を流すことは幾度となくあった……それでもなお、彼女がまた気持ちを切り替えて前に進んできた。
その前向きな力は、同じ夢を持つマナの存在が大きかった。
マナに拒絶された今、彼女の太陽のような心は闇の彼方へと沈んでしまっている。
「……セリナ。 僕が昔、家族に見限られて追い出されたことは覚えているか?」
「……」
「何を言っても信じてくれなくて……冷たく拒絶された。少し前まで普通に仲の良い家族だったのにさ……ちょうど今のセリナと重なるな」
「そう……かな?」
「僕は人を信じることをやめてしまった……自分を大切にしてくれる人さえ、信じることができなくなった……そのせいでろくな人生を歩むことができなかった……誠児やセリナ達がいなかったら、僕はこうしてお前の隣で座ることもできなかっただろうな」
「……」
「でもな?セリナ。 お前は僕とは違う。
お前はマナを今でも友達だと言った。
お前に罵声を浴びせた上、殺そうとまでしたマナをだ。
きっとそれは、セリナが誰よりも強い心を持っていたなからだ」
「私は強くなんて……」
「そうか? スマイル局の自由放送のことを覚えてないのか? あの時お前は、夢に挫折して落ち込んでいただろう?
パーソナリティーなんて無理だと諦めようとまでしていた。
それでもなお……お前は踏み留まり、放送で堂々と自分の想いを話すことができた。
挫折してもなお立ち上がれる人間なんてそうはいないと思うぜ?」
「あっあれは……っていうか、夜光が無理やりやらせたんじゃん! 良いように誘導してさ!」
「あぁ……そうだったな。 でもセリナにはやめるって選択肢もあっただろ? 僕だってセリナが本気で嫌がっていたら強制しなかったし……」
「……いまひとつ信じられない。 結構強引だったよ? あの時の夜光」
「……そうだったか?」
「そうだよ! 無理やり席に座らせて、適当に機械を触った挙げ句に全チャンネル占領して!
私、寿命が縮まったよ!」
「……」
「あんまり覚えてないけど、スタッフさん達にあの後、すっごく怒られた記憶があるよ! 夜光がいなかった分、マナちゃんと頭を下げたんだから!」
「そっそれは悪かったな……(あの時はマナと戦って、しばらく医務室に引きこもっていたからな)」
「ほんと! 夜光には困ったもんだよ!」
その後もセリナは夜光に対してガミガミと文句を垂れ流してきた。
夜光は聞き流すことなく、その言葉を1つ1つ受け止めた。
「夜光、聞いてるの?」
「聞いてるて……でもまあ、そんなにはっきりものが言えるようになったなら、もう大丈夫だろ?」
「えっ?」
つい今し方まで沈み切っていたセリナの顔は、夜光に対する苦情と共に上がっていた。
唇を尖らせ、可愛らしく怒る姿は普段のセリナである。
あふれるように流れていた涙もいつの間にか止まっており、目には光が戻っていた。
不安に押しつぶされそうになっていた心にも、ゆとりと言う名の日差しが射していた。
セリナ自身も、この心情の変化には動揺していた。
過去の思い出が蘇り、それを夜光と共有することで、2人の間に強いシンパシーのようなものが生まれた。
それがセリナの心に巣食う不安や恐怖心を上書きしたのだ。
「周りのことを見て、感情のままに行動するのが、セリナの強みだ。
考え込んで落ち込むなんて、お前らしくないよ」
「……なんかちょっとバカにされてる気がする」
「褒めてるって。 お前がいつでも明るく笑っているから、僕達もみんな明るくなれるんだ。
影と戦っている時だって、セリナが明るくみんなを元気づけているんだ。
それは誰にでもできることじゃない……セリナだからこそできることだ。
僕達にとって、セリナは太陽みたいな存在なんだぜ?」
「たっ太陽なんて……」
謙遜しつつも、顔を赤らめるセリナ。
好意を寄せる夜光に面と向かって褒められたことに、隠しきれない喜びを感じているのだ。
「太陽がいつまでも沈んでいたら、僕達もずっと暗いままだ。
だから明るく笑っていてくれ、セリナ。
みんな笑っているお前が大好きなんだからさ……マナだってきっと、お前の気持ちを理解してくれるはずだ……親友なんだから」
「夜光……」
夜光は一瞬セリナに微笑む顔を見せると、ベッドから立ちあがった。
「……マナやみんなのことが心配だから、僕はデッキに戻るよ。1人にして悪いけど、セリナはここにいてくれ」
「……ううん、私も行く! マナちゃんときちんと話をしたい!」
そう決意を述べるセリナの目には不安や恐怖といった負の感情がわずかばかりに残っている。
マナへの信頼と歩み寄りたいと願う勇気が、彼女の心を奮い立たせている。
唇を噛みしめ、セリナには似つかわしくない拳をプルプルと震わせている。
「やめとけ……って言っても行くつもりなんだろ?」
「……」
「……わかった。 なら急ぐぞ!」
「うん!」
ピンポンパンポーン……
その時、部屋の中に設置されている放送用のスピーカーからアナウンスが流れてきた。
『お客様にお知らせいたします! 展望用デッキにて、火災が発生いたしました!
スタッフの指示に従って、速やかに避難を開始してください! 繰り返します……』
「デッキって……夜光!」
「あぁ……とにかく行くぞ!」
火災が発生したのは、アスト達がマナと戦っている展望用デッキ。
火元はマナであることは2人も連想できている。
ただ、アストやマナのことについての情報は、無用な混乱を防ぐために伏せられていた。
セリア達の安否を確かめるため……マナと再び言葉を交わすため……夜光とセリナは再びデッキへと向かうのであった……。
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「みなさん落ち着いて! 我々の指示に従ってください!」
「おっおい! 火がもうそこまで来てるじゃないか!」
「ちょっと!押さないでよ!」
「どけっ! こんなところで焼け死んでたまるかっ!」
デッキへ上がろうとするその道中、放送を聞いた乗客達が避難を始めていた。
スタッフの指示に従って避難する賢明な乗客もいれば、我が身可愛さに人を押しのける逃走本能むき出しな乗客もちらほらいた。
急ぎたい気持ちはあるものの、避難する乗客達の波をかき分けて進むというのは、困難を極める。
人とぶつかることもあれば、スタッフ達に避難しろと呼び止められることもある。
その都度、夜光がセリナの手を引いて先へと進む。
時間が経つにつれ、徐々に煙たい空気が夜光とセリナの鼻や口に入り込み、咳を引き起こす。
煙を吸わないように口にハンカチを当てたり、姿勢を低くするようスタッフが支持を送る。
急を要する夜光とセリナは袖を口に当てる応急処置程度の対策で凌ぎ、足早に進む。
足を進めるにつれ、人の波も穏やかになっていく。
「セリナ、大丈夫か?」
「大丈夫! それより急ごう!」
「あっ! 2人共、何してんねん!?」
2人の元にすっとんきょうな声で駆け寄ってきたのは、笑騎だった。
人の波に飲まれていたようで、彼のチェック柄のパジャマはしわくちゃ。
人の波にさらわれたのか、笑騎の体型に耐えきれなかったのか、ボタンも2つ取れている。
「お前こそこんなところで何してんだ?」
「放送聞いて逃げてる途中や! ちゅうかお前!
セリナちゃんとどこに行く気や!?
まさか、セリナちゃんに手ぇ出す気かっ!?」
「お前じゃあるまいし! この非常時にそんなことするかっ!」
「アホ! 俺かて時と場所くらい選ぶわ!」
「だったら最初から変な疑念ふっかけるな! この変態豚!」
「じゃかあしぃ!! 女にブチこむことしか頭にないお前なんか、変態以下やろがい!」
「2人共、今はケンカしてる場合じゃないよ!」
「「うっ!……すみませんでした」」
口汚く互いを罵る2人の間に、セリナが割って入った。
犬猿の仲で誠児辺りが仲裁に入らなければ、取っ組み合いまで始める夜光と笑騎。
だがこの時ばかりは2人はすぐに身を引くことができた。
火災のこともあるが、言動が幼いセリナに諭されたことが、彼らのプライドに軽いジャブを浴びせてしまったのだ。
「とっとりあえず、俺とセリナはデッキに行って、影と戦っているセリア達に加勢する。
お前はさっさと避難しろ」
「げぇ! この船影がおるんかいっ! そら火災くらい起きるわな。
とりあえず避難させてもらうわ……あっ!そういえば、マナちゃんどこにおるか知ってるか?
ずっと探してるんやけど、見当たらないんや」
「「!!!」」
マナの身を案ずる笑騎の問いに、夜光とセリナは口ごもってしまった。
今、セリア達が戦っている相手がマナであることを伝えるのが、この問いに関しての無難な回答であろう。
だがそれを今、笑騎に伝えては、彼に余計な混乱を招いてしまう。
女好きで誰彼構わずセクハラを繰り返す直結男のイメージが強い笑騎だが、根本は良識的な人間と言える。
実際、暴漢に襲われていたり、ケガや病気等で倒れている女の子がいれば、下心を一切見せず救助に向かう男気がある。
ホームでセクハラばかりしている笑騎がなんだかんだ人望があるのは、そうした人の良さが評価される部分が大きい。
そんな笑騎がマナのことを知れば、避難よりもマナの安否を優先する可能性がある。
下手をすれば、マナを心配するあまりにデッキへと一目散に駆け出す恐れすらある。
「まっマナちゃんは先に避難したよ!」
気を使ったセリナが、笑騎に偽りを告げる。
正直者で嘘をつくのが苦手な彼女の態度や声音が、隠しきれない本音を無意識に出してしまう。
もはやマナに何か起きたと言ったも同然である。
「……そうか。 それなら安心やわ」
ところが、笑騎はセリナの虚言を受け入れた。
口元を少し緩ませ優しく微笑む笑騎。
嘘だとわかってはいるが、それを咎めたり真相を話させようとする気は笑騎にはなかった。
下手な嘘をついてまで口を閉ざす彼女の心情を気遣った笑騎なりの優しさである。
彼の態度を見ていた夜光には、その気持ちが以心伝心の如く伝わっている。
「(僕があいつの立場であっても、同じことをしただろうな……)」
「ほな俺は避難するから!セリナちゃん、無理せんといてな?」
「うっうん。 ありがとう!」
笑騎はセリナにエールを送ると、再び乗客達の波の中へと戻ろうとする。
「気を使わせたな」
「女の子の気持ちを察することができひんで、ハーレム主人公は務まらんからな」
「……そうか」
「理由はよう知らんけど、マナちゃんのことは頼むわ」
「……あぁ」
すれ違いざまに小さな声で言葉を交わす夜光と笑騎。
マナを案ずる気持ちはあるものの、夜光達に任せるのが最善であると察した笑騎から託されたその気持ちを、夜光はしっかりと受け取った。
ミヤ「このところ、更新の速度がさらに落ちている気がしますね」
ゴウマ「本編以外に書いている作品があるのだから、仕方あるまい」
ミヤ「更新した話の修正まで裏で行っているみたいですし……」
ゴウマ「あれか……内容を少し読んだが、大幅な修正を行っているみたいだな。
まあ、話が長すぎていつになるかわからんが……」
ミヤ「まあ、ここでこうやってわたくし達をしゃべらせている辺り、割と余裕があるのかもしれませんが……」
ゴウマ「うっうむぅ……(自分で自分の首を絞めるというのはこういうことを言うのか?)」




