血に染まるカルメ
今さらですが、ヒロインが多いことに嘆いています。
平等にしゃべらせるのが大変!!
順調に始まった公開放送。
放送が終了する直前、メインパーソナリティーのオトヒメが首を吹き飛ばされて殺された。
パニックに陥った乗客達は一斉にパーティー会場を飛び出していった。
「一体何が起こったんだ?」
状況を飲み込むことができない夜光達は会場内に留まって頭を抱えていた。
あれほど人でにぎわっていたパーティー会場が、神隠しにでもあったかのように、シンと静まり返っていた。
様子を見に行ったスタッフ達の話によると、乗客達の大半は自室に籠って船が港に着くのを待っているとのこと。
一部の者達は、スタッフや船員たちの静止を聞かずに緊急用のボートで逃げようとしたり、『船を戻せ!』と船長やトーンに直接直談判したりと、過激な行動を始めている。
「奇妙だな……」
「キルカ、どうかしたの?」
オトヒメが死んでいるボックス周辺を徘徊していたキルカが言葉を漏らした。
首まで傾げているそのしぐさが気になったレイランが問い掛ける。
「爆発があった割には火薬の臭いがしない。 血の臭いが混じっていることを差し引いても全く臭いがしないのは妙だな」
「そう? 血生臭くてそんなのわからないよ」
ボックスの周囲にはオトヒメの首から噴き出した血の臭いが充満している。
あまりの強い臭いに、キルカ以外のメンバー達は窓付近にまで距離を取っている。
薬品を毎日のように扱うキルカでもなければ、強い血の臭いがするこの場で火薬の臭いをかぎ分けられることはできない。
「奇妙って言えば……僕も変なひもを見たな……」
「コウちゃん。 ひもって?」
「いや、一瞬だったから見間違いかもしれないけど……爆発が起きる直前、細長い糸みたいなものが殺された女の首に絡まっているように見えたんだ」
『!!!』
セリア・ライカ・スノーラ・ルドの4人が、夜光の何気なく発した言葉に背筋が凍り付き、首元を優しくさする。
糸……爆発……取れた首……それらのワードが彼女達の記憶の奥にしまわれていた、恐ろしい過去の映像を再生させた。
「あなた達、どうしたの? 顔が真っ青よ?」
4人の異変にいち早く気付いたミヤが優しく声を掛ける。
「……以前、糸を使って人の首を爆発させる影と戦ったことがあるんです。
必死に戦ったのですが……私達では手も足も出ず……コウちゃんは……」
「……あの時の奴か」
セリアは恐ろしくなって口を紡ぐも、彼女達の脳裏に映る人影を夜光も察することができた。
夜光もヒヤリと汗を掻き、恐怖を拭うように腹部をさする。
彼らがここまで怯えているのは、影の1人であるスパイア。
スパイアは、殺人現場に偶然鉢合わせた夜光達と戦闘を繰り広げた。
当時6人で挑んだ夜光達だったが、その圧倒的な力の差の前に傷1つ付けることなく敗れた。
重傷を負った夜光達……特に夜光は腹部から大量出血していたため、命を落とす危険性もあった。
当の本人達は知らされていないが、重傷の彼らに手当を施して病院まで運んだのは、その場に居合わせていたエアルとレオス。
特にエアルは、アスト達を皆殺しにしようとしていたスパイアを止めた……いわば夜光達の命の恩人とも言える。
※※※
「許せないっ! みんなを傷つけた上にダーリンのお腹を穴を空けるなんて!」
当事者たちの話を聞いて怒りを露わにするレイラン。
当事者とはいっても途中で意識を失った夜光と、そもそも思い出すことができないセリナは除外された。
「全くだな……それにしても、つくづく刃物と縁のある腹だな」
「うぐっ!」
キルカの何気ない一言に、夜光は夕華に刺された古傷が痛み出し、腹を抑えて膝を折る。
正確に言えば、刺された場所は腹ではなく背中である。
「わたくしとしては、そんな傷を負った後に夜光君をみんなで袋叩きにしたことの方が驚きだわ」
「俺としては羨ましい限りやけどな! なんならマナちゃん! 俺を……」
「いいですよ? ここに果物ナイフがありますから……」
「ぬぉわぁぁぁ!!ちゃうちゃう!! ヤンデレ美少女は好きやけど、刺されるのは嫌や!!
マナちゃん! 笑顔でナイフ向けんといてくれ!!」
「マナさん。 どんな理由があったとしても、”刃物を人に向けるのは良くない”ですよ?」
『えっ!?』
マナを制止しようとしたセリアの衝撃的な言葉に、周囲の空気が固まった。
嫉妬に狂い、包丁をどこからともなく取り出し、平然と夜光に向けるような女から出た理性的な言葉には、『お前が言うな!』というツッコミよりも、『本気で言ってるの?』と言う恐ろしさの方が勝っていた。
※※※
「とにかく……影の仕業と決まった訳ではない現状、むやみに行動を起こすのは危険です。
自室に戻って、船が港に着くのを待ちましょう」
「そうね……本当に殺人事件だったら、わたくし達で対処するのは厳しいわね」
スノーラとミヤの意見に、夜光達は首を縦に振って賛同の意志を示した。
マインドブレスレットのレーダー機能を使うも、反応はなし。
夜光が見た糸や火薬の臭いも影の仕業と決めつける根拠としては弱い。
殺人やテロと言った事件であれば、民間人(姫君であるセリアとセリナは覗く)である夜光達にはどうしようもないことだ。
「そんなぁ! マナちゃんがせっかく出られたラジオをぶち壊しにした奴だよ!?
私達で犯人を捕まえようよ!」
唯一セリナだけは、犯人確保を提案する。
本人にとっては真面目な話なのだが、周囲からすれば子供のダダを聞かされているのと同意。
「それは騎士団の仕事! バカ言ってないでさっさと戻るわよ!」
「ふにゃぁぁぁ!!」
不本意なセリナの腕を掴み、ライカが強引に部屋へ連行していった。
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「……ほんとにこの辺なのか?」
「う~ん……ここでメモを書いたような気がするんだけど……」
会場を後にし、各々が自室に戻ってからしばらくして、夜光のマインドブレスレットにセリナから連絡が入った。
『夜光~……私のメモ、どこかに落としたみたい。 一緒に探してくれない?』
殺人鬼がうろついているかもしれない船内で1人にさせる訳にもいかず、夜光も一緒にメモを探すことになった。
ちなみに協力者は夜光限定。
理由としては、夜更かしは乙女の敵という意外な気遣い。
笑騎は普通にド忘れ。
「……あっ! これか?」
「えっ?……あぁぁぁ!! それだよ!」
捜索から10分後……夜光がベンチの下に入っていたウサギのメモを見つけた。
「メモも見つけたことだし、部屋に戻るぞ?」
「うん。 夜光、ありがとう!」
メモ捜索があっけなく終わり、2人は部屋に戻ることにした。
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「おいっ! いつまで掛かっているんだ!?」
「すっすみません。 でっですが、こんな夜にボートで海に出るのは危険過ぎます!」
「うるさいっ!! こんな危険な船の中にいるよりはマシだ!」
「ウラシ様! 早くこんなところから逃げましょう!!」
「私、死にたくありません!!」
部屋に戻る道中、2人はスタッフ達に怒鳴り声を上げているウラシを見かけた。
彼は何人かのスタッフ達に、緊急避難用のボートを海に下ろすように命じているのだ。
その理由は、もちろん身の安全を確保するためにボートで逃げるため。
オトヒメが殺されたことで身の危険を感じたウラシが冷静さを失っているのだ。
取り巻き達もオトヒメが殺されたことを嘆くこともなく、ウラシと共に自分達の保身だけを考えている。
取り巻きの1人が航海術を持っているため、無事に帰れると確信している。
だがここの海は波が激しく、ボートでは転覆する可能性が高い。
その上、水温はかなり低く、海に落ちてしまった者が低体温症で命を落とすことは珍しくはない
そのことをスタッフ達が何度警告しても、ウラシ達は聞く耳を持たない。
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「ひどい……お友達が殺されたのに……」
オトヒメの死を嘆くこともなく、自分達の保身だけを考えるウラシ達の身勝手さに、怒りと悲しみを覚えたセリナ。
「そういうなセリナ。 みんながみんな、お前のように強い訳じゃないんだ」
「私、強くなんかない。 みんなが大好きなだけだよ」
「……そうだな」
ウラシ達に背を向け、夜光とセリナはその場を後にしようとした……その時だった!!
『きゃぁぁぁ!!』
背後から突然上がった女性達の悲鳴……同時に鉄のような臭いがわずかに2人の鼻を刺す。
「なっ何!?」
「嘘…‥」
振り返った夜光とセリナの目に映ったのは、首を切断されたウラシの変わり果てた姿だった。
オトヒメとは違って切り口は刃物によるもの。
周囲にはウラシの血を被ったスタッフや取り巻き女達が突然のことで言葉を失っている。
「うわぁぁぁ!!」
「たっ助けてぇぇぇ!!」
我に返り、パニックに陥ったスタッフと取り巻き達がクモの巣を散らすようにその場から逃げて行った。
皮肉なことに、ウラシに媚びを売っていた取り巻き女達の中に、彼の死を嘆く者は誰1人としていなかった。
「あっあいつは……」
夜光とセリナの目が捕えていたのは、ウラシの死体だけではなかった。
そこには、血まみれの剣を握って立ち尽くしていたスパイアの姿があった。
「……」
「あっ! 待ちなさい!」
「おいっ! セリナ無茶はよせ!」
夜光達と一瞬目が合ったスパイアはその場から走り去る。
セリナは彼女なりの正義感からスパイアの後を追い、夜光もそれに続く。
だがライカ以上のスピードを誇るスパイアだが、幸いにも通路は1本道でその先にはデッキに続くドアしかない。
「みんな! あの時の蜘蛛野郎が現れた! すぐに来てくれ!」
夜光は走りながら仲間達に応援を要請する。
追跡中なので、一方的な連絡にしかならず、きちんと伝わったかどうか確認するほど、夜光に余裕はななかった。
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「セリナ! 1人で突っ走るな!!」
「あっ! ごっごめん」
「あいつはどうした?」
「それが見失っちゃって……」
デッキでようやくセリナに追いついた夜光。
辺りを見渡すも、スパイアの姿は見えない。
「逃げたのか?……!!」
もうどこかに逃げたのかと思った時!! 雲に隠れていた月が顔を出し、カルメに光を射す。
それと同時に、人の形をした影が2人の間を裂くように床に浮き上がった。
「!!!」」
おそるおそる振り返ると、スパイアが上のデッキから2人を見下ろしていた。
再び対峙したその強敵に、忘れかけていた敗北の恐怖が蘇った。
夜光「あのハーレム崩れ。 何かあるのかと思ってたら、あっけなく死んだな」
セリナ「前のチチハラのために、作者が適当に出したんだって」
夜光「あの茶番のためにか? それで用がなくなったら殺すって……あいつも浮かばれないだろうな」
セリナ「しゃべらせるのが大変とか言ってるし、もしかしたら私達の誰かが……」
夜光「恐ろしいことを言うな!!」




