船上パーティー
更新が遅くなってすみません。
暗い話を別作品として書いていたので、明るい話を少し書いてみます。
露天風呂にてウラシと対峙した夜光と笑騎。
2人は男のシンボルで格差を見せつけ、一矢報いた。
マイコミメンバー達もウラシの取り巻きの1人、オトヒメと多少のいざこざを起こすも事なきを得た。
身を清めた夜光達は身なりを整え、パーティー会場へと向かうのだった。
「おぉぉぉ!! これまた目の保養やで!」
笑騎のいやらしい視線の先にいるのは、美しいパーティードレスに身を包んだマイコミメンバーとマナだった。
それぞれ色もデザインも異なって入るが、マナ以外の女性陣は所々の露出度が高かった。
特に胸部はドレスの耐久力が伴っておらず先端以外がほとんどはみ出ている。
最大級の大きさを誇るルドとミヤに限ってはドレスが耐えきれずに破れてしまっており、糸で応急処置を施している。
ルドに至ってはこの圧倒的な乳のため、予定していた紳士服を急遽ドレスに変更せざる終えなくなり、顔が若干曇っている。
「も……もう辛抱たまらん!! 秘技、浪花ダイブ!!」
欲の限界を迎えた笑騎が空中に飛び出し、どこぞの泥棒顔負けのすばやさでパンツ1枚となり、女性陣目掛けて一直線に突撃していった。
「ほげぶっ!!」
だが、そんな横暴を彼女達が許すはずもなく……ライカ、スノーラ、ルド、キルカの武闘派4人の鉄拳によって笑騎は見るも無残な姿となってしまった。
※※※
「……んっ? なんだあれ?」
夜光の視線の先にあったのは、舞台上に立つ透明なボックスであった。
人が数人入れるスペースにラジオ放送で使われる機械やマイクが設置されている。
華やかなパーティー会場には似つかわしくない異様な光景に、ほかの参加者もまじまじと見ている。
「あれは公開放送用の特別放送室です」
「公開放送?」
聞き慣れないマナの単語に首を傾げるレイラン。
「放送室の様子を公開しながら放送を流す催しです。
今回の放送は、耳だけでなく目でも楽しんでもらいたいとトーンさんが提案したそうです」
「うわぁぁぁ……精神的にきつそう……」
「そうですね……生放送と周囲の視線から来る圧ははかりしれないものでしょうね」
「マナも放送に出るんだよね?」
「はい……緊張はしますけど、できる限り頑張ってみます」
※※※
「これはこれは……お二方。 お久しぶりですね」
舞台袖から姿を現したのはトーンだった。
「お久しぶりです! トーンさん!!」
「この度はお招きいただき、ありがとうございます」
いち早く挨拶を返したのは、セリナとマナであった。
とはいっても、トーンと面識があるのは2人を除いて夜光とセリアだけ。
スマイル局での1件で、記憶に強く残って入るが、知り合いと呼べるほどの親しみはない。
「セリアさんに夜光さん……でしたね。 あなた達もあの1件以来ですな」
「まあ……その節はどうも……」
「姉がお世話になっております」
「随分と華やかですが、ご友人の方々ですか?」
「えっ? あぁ、こいつらは……」
「初めまして! ダーリンの妻のレイランとその他愛人です!」
夜光が紹介する前にレイランが腕に絡み、嫁アピールの強い自己紹介を述べる。
『誰が愛人だ(よ)っ!!』
「ふあぁぁぁ……」
愛人呼ばわりされたマイコミメンバー達がすぐさま不満を叫んだ。
ポジションをにこだわりのないキルカは気にするそぶりも見せず、眠そうにあくびをする。
「だいたい妻って誰のことよ!?」
「そんなのボクしかいないじゃん」
「いないじゃんって……そもそもあなたは結婚できる年齢ではないでしょう?」
「愛さえあれば大丈夫!」
その後も人目を気にすることなく、レイラン達は微笑ましい言い争いを繰り広げた。
「ハハハ! なかなかの人気ぶりですな!」
トーンも思わず腹を抱えて笑い声を上げた。
言い争いに参加しなかったセリアとセリナは苦笑いを浮かべ、マナに至っては気まずそうに背を向けていた。
※※※
「……それにしても、おっきい亀の船ですね」
言い争うレイラン達を放置し、トーンとの談笑に浸る夜光達。
その中、セリナの口からカルメへのシンプルな評価が飛び出した。
「確か……昔飼っていたとか……」
夜光がそう付け加えると、トーンの顔が少し曇った。
「ええまあ……飼っていたのは私ではなく……孫ですがね」
「孫? トーンさんってお孫さんがいたんですか?」
「はい。 実はカルメという名前も孫が飼っていた亀から取った名前なんです。
孫はカルメを我が子のように可愛がっていましてね。
いつか大きな亀に乗ってみたいとよく言ってましてな……孫の夢を叶えたい一心で作ったのが、この船とと言うわけです」
「ふわ~……素敵な話ですね。 お孫さんもとっても喜んでいるんじゃないですか?」
「……そうだと良いですな」
「えっ?」
「実は……孫はもう7年以上も前に亡くなっているんです」
そう言うと、トーンは首から下げているロケットを開き、中にある写真を夜光達に見せた。
そこには茶髪の小さな女の子が微笑む姿が写っている。
「この子が生まれて間もなく、娘夫婦が火事でこの世を去りまして……それ以来、私が男手1つで育てていましたのですが……孫に乗船したカルメの処女航海で船のエンジンが故障し、孫はカルメと共に暗い海の中へと沈みました。 皮肉にもその日は、孫の7歳の誕生日でしたがね」
「沈んだって……じゃあこの船は?」
「新たに作られた船です。 もちろん、2度とあのような悲劇が起こらないように、安全面は徹底しています」
「そうだったんですか……ごめんなさい。 何も知らずに余計なことを言って……」
「いえいえ……セリナさんが気に病むことはありません。
私の方こそ、祝いの場でこのような話を……申し訳ありません」
「(なんだか空気が重苦しいな……適当に話題を変えるか……)」
空気を変える話題を探そうと夜光が辺りを見渡していると舞台の天井から下げられている看板が目に入った。
「あっ……あの! あれはなんですか?」
「あぁ……あれはウラシ様が考案なされた催しです。
なんでもこの会場で最も女性に好感を持たれている男性を決めるとか……よろしければ、夜光さんも参加されますか?」
「あっえっと……参加しようかな? (僕は何を言っているんだ?)」
話の流れで思わず参加を了承してしまったことを軽く後悔するものの、相手がどんぐりことウラシと思えば、勝機が見えなくもない夜光。
「それはよかった! 参加者がウラシ様1人しかいないので、盛り上がりに欠けるのではないかと危惧していた所でしたので……」
「1人だけ? なんでまた……」
「無理もありません。 参加条件が5人以上の愛人を連れている男性でして……」
「(そりゃ参加者なんて集まる訳がねぇよ……ハーレム主人公じゃあるまいし……そんな無茶無茶な条件に当てはまる男なんて……あっ!)」
この時夜光は初めて気が付いた。
愛人ではないにしろ、自分に好意を抱いている女性達(ルドは特性上少し違うが……)に囲まれている特殊な環境にいる自分はこの条件に当てはまるのではないかと……。
トーンもそれを見越して、夜光に参加を促しているのだ。
「助かりました。 さっそくエントリーしてきますよ」
「あっ!ちょ……」
邪気のない笑顔で舞台袖に消えて行ったトーン。
『……』
残された夜光達の周辺には、さらに重い空気が流れ始めていた。
※※※
「一体あなたは何を考えているの!?」
「いや……なんというか……話の流れで……」
「言い訳しない!」
「すみません……」
エントリーが決まった後、夜光は事のあらましをその場にいなかったメンバーに伝えた。
当然皆からは反感を買い、今まさに全員から説教を受けている所。
「あの……コウちゃんのお説教はともかく、エントリーの方はどうしましょう?」
説教されている夜光を見かねたセリアが、問題点の解決策を問う。
彼女の言葉でライカ達の頭に上がっていた熱と血がゆっくりと降下していった。
「どうするも何も断ればいいんじゃないか? こんな訳のわからない催しにわざわざ付き合ってやる義理はないわけだし」
「(まあそうだよな……)」
「そうだけど……参加者がいなくてトーンさんも困っているみたいだし、
断るのも悪いよ」
ルドの最もな意見に元凶たる夜光も頷き掛けるが、セリナがトーンを気遣って反対する。
「セリナ様のお気持ちはわかりますが、そもそも内容が全くわからない催しに参加すると言うのも……」
「そうよね……舞台上に下げられている看板には、”モテ男大会”としか書かれていない訳だし……それ以前に、参加条件が”5人以上の愛人がいる男”という時点で理解が追い付かないわ」
「あの~……」
夜光達の頭脳とも言えるスノーラとミヤですら理解できないと頭を悩ませる中、マナがおそるおそる会話の輪に入ってきた。
「マナちゃん、どうしたの?」
「さっきウラシさん達の話を聞いちゃったんだけど、この催し……内容がそもそも決められていないんだって」
『はぁ!?』
マナの話によると……大会と言うのは肩書きで、実際はウラシが侍らせている女達をパーティー参加者に見せるだけの言わば自慢するだけの場だと言う。
愛人が5人以上いる男は自分以外ないと高をくくり、実際に参加者が現れた時の対応等は全く考えていなかったとのこと。
突然の参加者に困惑し、今は内容をウラシが必死に考えているとのこと。
「それじゃあただの茶番かよ……」
「まあ……仮に愛人がいたとして、それをわざわざ人前に晒す愚か者等おらんだろうからな」
夜光達は知らないが、パーティー参加者の中には愛人を連れている金持ちの御曹司や男爵が何人かいる。
だが参加条件に見合っていたとしても……キルカの指摘通り、人前で愛人を紹介するような酔狂な人間は、ウラシを除いていない。
「じゃあ参加するの断る? だったら早くしないと始まっちゃうよ?」
「……いや、それはちょっと早計じゃないかしら?」
参加拒否を問うレイランに物申したのは、こういった話に興味を示さないはずのライカであった。
「このまま参加して大会が行われなかったら、これはただの茶番だってことが明るみに出てあいつらのバカ面に泥を塗ることができるかもしれないわ。
仮に何かあったとしても、あの脳ミソが軽そうな男が考えたことだもの……まともな催しが出てくるとは思えないわ。
デッキでの借りを返す良い機会とは思わない?」
ライカの提案に、参加拒否に傾いていた夜光以外のメンバー達の旗色が変わった。
デッキでウラシ達が夜光に大した仕打ちに対し、本人以上に怒りを見せていたマイコミメンバー達。
その場では、夜光の体を気遣って身を引いてはいたが、みんな後から報復に行こうと内心躍起になっていた。
だが、ウラシ達のようなプライドの高い上流貴族にとって、暴力で袋叩きにされるより、恥をかいて名前に傷がつくことの方が精神的に応えるもの。
その考えに至ったライカだからこそ、参加を希望したのだ。
「……そうですね。 あの方たちがコウちゃんにしたことを咎めもせず許すことはできません」
「うん……トーンさんのこともあるし、あの人達をぎゃふんと言わせてやりたい!」
「愛人ってのがちょっと引っかかるけど、このままやり返さずに引き下がるのも面白くねぇな」
「確かに……奴らには痛みというものを知る必要がある」
「愛するパパに傷をつけたことを後悔させてくれる」
「夫の仇を討つのも妻の務め……ぎったんぎったんにしてやるんだから!」
「仕返しという言葉には抵抗があるけれど、これも身から出た錆……覚悟してもらいましょう」
ライカ以外のメンバー達も、愛故の怒りに身を焦がし、大会と言う名の茶番に出る決意を固めた。
「……どうなるんだ? これ」
先の見えない不安にお卒部されそうな夜光を引きずり、マイコミメンバー達は舞台に上がって行った。
セリナ「なんかここで話すのも久しぶりだね」
スノーラ「仕方ありません。 ついこの前まで別作品に集中していたのですから」
セリナ「むぅ! 並行して書きますとか言ってたのに!」
スノーラ「あの素人作者にそんな器用なマネができる訳がないでしょう?」
セリナ「それもそうだね……それで久々の本編なのに、なんだか変なことになったね」
スノーラ「これも運命のイタズラということでしょうね」
セリナ「正確に言えば作者のイタズラだけどね」
スノーラ「それに振り回されるこちらの身にもなってほしいものです」




