亀の招待券
今回はセリナがメインのお話です。
出番がなかったキャラにも少しスポットライトを当てようと思います。
鬼ヶ島での一件で、夜光はマイコミメンバー達に心を開くようになった。
彼らの間には強い絆が結ばれ、関係も深まって行った。
一方のゼロンは、夜光への復讐心を胸に秘め、薄暗い地下で体を癒すのであった。
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夜光が目覚めてから1週間後、ハケ医師から帰宅許可をもらい、アパートでの療養に切り替えた。
普通の生活を送る分には問題ない程度に体は動くようにはなったが、軽いめまいなどでふらつくことがまれにあるため、スタッフへの復帰は未定となっている。
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夜光が自室に帰ってきた日の翌朝。
彼の部屋に来訪者が現れた。
コンコン
「夜光さん、おはようございます。 まだお休みですか?」
声を掛けながらドアをノックするのはスノーラ。
何度かノックを試みるも、中から返事はない。
寝ているのかと頭で思いつつ、無策にドアノブを回す。
ガチャ
「鍵が……」
不用心にも鍵は掛かっておらず、ドアは簡単に開いてしまった。
「失礼します」
自分の行いがマナー違反であることを承知の上で、スノーラは部屋の中に足を踏み入れた。
単なる鍵の閉め忘れである可能性が高いが、何らかのトラブルで施錠できなかった可能性もある。
「夜光さん……」
部屋に入った瞬間、ベッドで眠っている夜光が目に入った。
杞憂であることを安堵したのもつかの間、タンスの前に散乱している夜光の私服や下着に目が入る。
「全く……」
その惨状に見かねたスノーラが回収を試みようと下着を手にした時だった。
「夜光! みんなで起こしにきた……」
セリナを先頭にマイコミメンバー達がぞろぞろと部屋の中に入ってきた。
だが夜光の下着を持ったスノーラを見た瞬間、彼女達の表情が固まり、言葉が出ない微妙な空気が部屋中を包み込んだ。
「なっ! これはその……散らかっていたので片付けようと思いまして……」
空気を伝わり、マイコミメンバー達の思考を悟ったスノーラが事情を早口で話す。
だが、慌てているその様子が返ってあらぬ誤解を招いてしまう。
『……』
「なんですかその目は!? まさかみんな、私が下着泥棒を働いたと言うのですか!?」
『……』
無言を貫くマイコミメンバー達だが、その目からは疑惑の思念が漂っている。
「わっ私は神に誓ってそのような破廉恥なマネは……」
「スノーラちゃんのスケベ」
「がはっ!」
ふくれっ面のセリナから放たれたシンプルな言葉に胸を貫かれたスノーラはその場で膝を付く。
後ろめたいことなどない者でも、純粋無垢な少女の疑惑は痛みを伴ってしまう。
まして、普段から保護者のように接しているセリナにこのような言われのない言葉を浴びせられたら、スノーラとて参る。
はたから見れば犯罪を暴かれ、自供する犯人のようだ。
「そう落ち込むことない。 女とて性の誘惑には抗えぬものだ」
「そうそう。 年頃なんだから仕方ないよ」
「貴様らに言われる筋合いはない!!」
思考のほとんどが性で埋め尽くされているキルカとレイランの無情な慰めに、スノーラは屈辱感を覚え、肩に乗せられたキルカの手まで振り払った。
「……何の騒ぎだ?」
スノーラ達の騒ぎで目を覚ました夜光が、ベッドから上半身を起こした。
まだ調子が戻らないのか、単に寝起きが悪いだけなのか、体がだるくて起き上がりにくいと感じている。
「あっ! 夜光君。 ごめんなさい、起こしちゃった?」
いち早く夜光の目覚めに気付いたミヤが夜光の体を支える。
「ありがとうミヤ……って、なんでみんなここにいるんだ?」
「昨日、夜光君の部屋でマイコミの活動を行うって話したでしょう?」
「あっ! そうだったな」
就活時期も過ぎたことで、マイコミメンバー達は再びマイコミの活動を行うことになった。
しかし全員、夜光以外のスタッフを受け入れなたくないとゴウマに訴えるので、しばらく夜光の部屋で活動を行うという形式で決着をつけた。
「あぁぁぁ! 危険物発見!」
レイランが突然を声を上げ、床に散らばっていた本を1冊拾い上げる。
それは夜光が隠し金庫に締まっていた卑猥な本だった。
目視だけでも10冊以上がある。
「あっ・・・」
『……』
思わず言葉を詰まらせる夜光。
マイコミメンバー達が本を見た瞬間、室内にたとえようのない沈黙と凍えた空気が漂った。
その気まずさに、夜光も出した覚えのない本が金庫から出ていることに疑問を抱く余裕すらなかった。
「もう! ダーリンったら! ボクという妻がありながら!」
先程のセリア同様、ふくれっ面でプンスカと可愛らしく怒るレイラン。
その他のマイコミメンバー達も本に対する嫉妬混じりの怒りが心に灯っていたことは事実。
だがそれ以上に彼女達の心を支配していたのは、恐怖だった。
「いっいや……それよりなんで、その本そんなにボロボロなんだ?」
レイランの持っている本を始め、床に散らばっている卑猥な本は、鋭い刃物で切り付けられ、原形をとどめていなかった。
「……なにこれ? 本に載っている女の顔が切り取られてる」
ライカが本を1冊拾い上げ、中身をペラペラとめくる。
本の表紙や中身には、卑猥な服や水着、はたまた生まれたままの姿の女達が載っていた。
だがなぜか、全員の顔が刃物で全て切り取られていた。
残された体にも、刃物で刺したような跡が数ヶ所見受けられる。
その傷跡から、刺した者が呪いの藁人形の如く、恨みや憎しみを込めていたことが察せられる。
「卑猥な本とはいえ、惨い……。 一体誰がこんな猟奇的な……!!」
その時だった。
スノーラの脳裏に、刃物に連なる猟奇的な女の顔が浮かび上がった。
『……』
周囲の者達も、スノーラ同様の顔が脳裏に浮かび上がり、まるで示し合わせたかのように、みな一斉にセリアに視線を向ける。
「……何か?」
そう返すセリアは、まるで菩薩のような美しい微笑みを夜光達に向けていた。
あまりに邪気のないその笑みに、周囲は凍り付いた。
『……』
夜光達はアイコンタクトで、それ以上本に関わることはやめようと以心伝心し、本はマイコミメンバー達の手によってゴミ置き場に葬られた。
そのついでに、散らかっている夜光の部屋の掃除が行きずりで行われたのは、部屋の主たる夜光も予想外だった。
※※※
掃除があらかた終わると、昼を過ぎていた。
昼をどこで食べるかという話になるものの、セリナの「ラーメン!」に異議を唱えるものはおわず、必然のように天下統一に足を運ぶ夜光達だった。
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「……あっ! そうだ!」
店内に入り、注文を待っている間、自身のメモを見返していたセリナがあることを思い出し、ポケットから折りたたまれた封筒を取り出した。
「セリナ様。 その封筒はなんですか?」
「昨日、トーンさんからお手紙と一緒にこの招待状が届いたんだ」
トーンとは、ディアラット国でも有名なラジオパーソナリティーで、以前セリナとマナが実習に行っていたスマイル局で、夜光とセリアも面識がある。
「豪華客船"カルメ"?」
スノーラはセリナから受け取った招待状に書かれた船の名を口にする。
招待状には船の名前の他、可愛らしい亀のイラストが描かれていた。
隅には【マインドコミュニケーション様歓迎」とまで記されており、手紙によれば人数は問わないとのこと。
「豪華客船? なんでそんなものを送ってきたんだ?」
「この前のスマイル局で色々あったでしょ? そのお詫びなんだって」
「お詫びって、別にあの人が悪い訳じゃないのに・・・っていうか、なんで亀?」
「船の造形が亀をかたどっているからみたいです」
夜光の小さな疑問に答えを示したのは、夜光達にお茶を運んできたウェイトレス姿のマナだった。
「マナちゃん!」
「私もトーンさんから送られてきたんです」
マナはそう言うと、ポケットからセリナと同じカルメの招待状を取り出す。
「お前もか……って言うか、亀をかたどっているって?」
「それは……口で説明するより、実際に見た方が早いと思います」
そういうと、マナは店に置かれている今日の新聞を手に取り、夜光達のテーブルに広げた。
彼らの目に最初に飛び込んできたのは、”ラジオ船【カルメ号】の完成!!”という大きなタイトルと巨大な亀のような船の写真だった。
その記事には、カルメの事が書かれている。
カルメとはラジオ局を兼ね備えた巨大な豪華客船。
電波の関係でラジオが聞けない離島の住民達に放送を聞かせたいと言う、トーンの強い意志で設計された船。
5年という長い時間と莫大な費用を出費し、ようやく完成を迎えることができた。
1週間後に複数のゲストと共に処女航海に出港し、その夜に初回放送が流れることになっている。
ちなみに亀をモチーフにした理由は、昔飼っていたからとのこと。
「ラジオ局を兼ね備えた豪華客船か……」
「はい。 この前の騒ぎでスマイル局が使えなくなってしまったので、この船で放送を再開するそうです」
「マナちゃんよくそんなこと知ってるね」
「えっと……実は……」
マナはなぜか顔を赤らめて手をもじもじさせ、言葉に詰まった。
珍しい光景に思わず夜光達は目を見開いた。
「私……カルメの初回放送に出ることになったんです」
『えっ!?』
「この前運試しに受けたオーディションに受かっちゃって……」
めでたい報告にも関わらず、マナはなぜか申し訳なさそうにセリナをチラチラと見ている。
そのしぐさで、彼女が夢を掴めなかったセリナに気を使っているのだと察した夜光達。
「マナちゃん……すごいよ!!」
ただ1人、当のセリナだけはまるで自分のことのように喜び、マナを力強く抱きしめた。
「せっセリナちゃん?」
「夢に1歩近づいたんだね! よかったよ!!」
子供の用に「わーい!!」とはしゃぐセリナに、夜光達は思わず口元を緩ませる。
「(そう言えばセリナはこういう奴だったな)」
セリナの無邪気な笑顔に、事情を知らない他の客達や店長までもが、花咲くように微笑んだ。
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1週間後……。
夜光達はカルメが停泊している港に向かうため、トーンが手配した馬車に乗り込むことにした。
その中にはもちろんマナの姿もある。
「お父さんは残念だったね」
「仕方ありません。 お父様はお忙しいですから」
実はゴウマもトーンに招待状をもらっていたのだが、どうしても外せない仕事があると言って、キャンセルしていた。
ちなみに夜光が誠児を誘ってみたのだが、シキとの面談日が重なってしまったために断念した。
「それでじゃあそろそろ……あれ?」
馬車に乗る寸前、車内に置いている巨大な木箱が動いたのを、目の端で捕えたマナ。
「なんだろ?……きゃ!!」
気になったマナが箱を空けようとしたその時、勢いよく箱が開いた。
「みんなぁぁぁ!! 俺とチューしよぉぉぉ!!」
箱から飛び出してきたのは、なぜかパンツ1枚の笑騎だった。
その勢いのまま、マナ目掛けて飛び掛かって行く。
「いやぁぁぁ!!」
恐怖……というよりも、拒絶反応ゆえの叫び声を上げるマナ。
日頃から彼のセクハラに悩まされている女性が、マイコミメンバー含めて数多い。
特に被害の大きなマナにとって、笑騎は疎ましいハエのような存在だった。
心根は良い奴だと言うことはみな認識しているが、それをプラスしても女性達の評価はマイナスだ。
「「「悪霊退散!!」」」
「ほげぶっ!!」
マナを庇おうと前に出た、スノーラとルドとライカの3人。
渾身の右ストレートをその顔で受けた笑騎。
勢いまでも殺された彼の体は、そのまま地面に落下した。
その時の彼の表情は、まるで桃源郷でも発見したかのような、幸せに満ちた笑顔だった。
※※※
「こんな狭い空間で美少女に囲まれるなんて、俺は幸せ者や」
馬車に揺られながら床をゴロゴロする笑騎。
先ほどのこともあり、ロープで縛られて拘束を余儀なくされている。
それに関して本人が無関心であることが、かえって周りに不気味さを与えている。
笑騎の話をまとめると、どこからかゴウマがカルメへの乗船をキャンセルしたことを聞きつけ、招待券を譲ってほしいと交渉したととのこと
ゴウマもせっかくの招待券を不意にしたくない思いから、招待券を譲り渡してしまった。
念のために数名のスタッフにも声を掛けたようだが、”豪華客船なんて恐れ多くて乗れません”と口をそろえて拒否した。
「そういう訳で、仲良くしよな!!」
『……』
まだ港にすらついていない現状で、大きな不安を感じる夜光達だった。
ハナナ「あの~きなさん」
きな子「なんや? 今忙しいねん」
ハナナ「忙しいって……マリオストライカーやってるだけじゃないですか」
きな子「うっさいな。 ほんでなんや?」
ハナナ「本編では言ってませんでしたけど、きなさんも招待券もらったんですよね?」
きな子「船のエンジンとかラジオ機具でちょこっと縁があってな」
ハナナ「でもキャンセルしちゃったんですよね? ”亀の船なんか乗れるか!”とか言って……」
きな子「そうや……亀はウチらウサギを辱めた憎き敵や!」
ハナナ「辱めたって?」
きな子「昔、ウチのご先祖様が亀と競争したんや。 でもちょっと寝てる間に、亀の奴がゴールしよった! そのせいでご先祖様が亀に負けたウサギとして辱められたんや!」
ハナナ「それ絵本の話じゃないですか!」
きな子「絵本やろうがエロ本やろうが関係ない! ウチは亀が大っ嫌いや!!」
ハナナ「もしかして、さっきからゴールを無視してクッパにボールを当てまくってるのも……」
きな子「……ご先祖様の汚名返上のためや!」
ハナナ「クッパに八つ当たりしないでください!!」
きな子「亀は1匹残らず駆逐や!!」




