想いは武と共に
あと1・2話でこの章を終わりたいと思います(できれば・・・)。
セリアを執拗に追い続けるゼロン。
彼はミストを通して鬼達の魂と融合し、禍々しい鬼へと変貌した。
愛に狂い、恩人であるゴウマにすら手を掛けようとする。
そんな絶望的な状況の中で目覚めた夜光。
セリアを愛するゼロンに対し、夜光は否定的な言葉をぶつける。
『・・・僕がセリアを信じていないだと?』
「・・・」
『ふざけるな・・・セリアはこの世界で最も愛しい人だ。
セリアと愛し合うのは運命だと・・・僕は信じている』
「ゼロン・・・運命に人を感情や人生をどうこうできる力なんてないんだ。
お前は運命っていう言葉を過信して、セリアと向き合っていない・・・いや、向き合おうとすらしてない」
『黙れ・・・』
「お前は怖いんじゃないのか? セリアが自分の気持ちを拒否することが・・・。
そこから目を背けたくて、妄想めいた運命で自分をごまかそうとしているんじゃないのか?」
『黙れ・・・』
「ゼロン・・・お前がするべきことは、親父を殺すことでも鬼になることでもない。セリアと・・・自分自身にしっかり向き合うことだ・・・そこから目を背けたままじゃ、お前がつらいだけだ・・・」
『黙れっ!!』
「うっ!」
ゼロンの雄たけびと共に、衝撃波のような突風が吹き荒れた。
まだ本調子ではいない夜光ではその場に踏ん張ることもできず、後方に吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ!」
壁に体を叩きつけられて、床に倒れ込む夜光。
見た目ほど大したダメージは喰らっていないが、立っているのもつらい今の夜光を黙らせるには十分だった。
『好き勝手なことをペラペラと・・・貴様にわかるか!? どうしようもなく愛しいセリアが自分以外の男に想いを寄せるつらさが!! セリアが自分を男として見てくれていない苦しみが!! 貴様のような恵まれた人間に・・・この気持ちが理解できるのか!?』
「できないね・・・僕はお前じゃないからな・・・そういうお前こそ・・・僕の気持ちがわかるのか?」
『何?』
「今でこそこうして人に恵まれているけど・・・最初からそうだったわけじゃない。
僕だって僕なりに苦しんで生きていたつもりだ。 その気持ちがお前に理解できるのか?」
『貴様・・・』
体中がズキズキと痛む上に重くのしかかる我が身を、夜光は胆力のみで立ちあがらせた。
憎々しい視線を向けるゼロンに対し、夜光はこれまで見せたことのない優し気な目を返した。
そして、落ちたマインドブレスレットを拾い、
「僕もさ・・・昔、好きな女の子がいたんだ。 その子もセリアみたいにとても優しくて・・・僕に優しい笑顔を向けてくれる素敵な子だった。 だけど・・・その子はポッと出てきたつまらない男を好きになってしまった。
今のお前みたいにな・・・」
皮肉っぽく口元を緩ませ、かつての自分を嘲笑う夜光。
「でも僕から言わせてもらえるなら・・・お前の方がずっと恵まれているよ。
武器を持って襲い掛かってこようが・・・そんな気味の悪い姿になろうが・・・お前を家族と思ってくれている人が”2人”もいるんだからな」
夜光が一瞬。セリアとゴウマに視線を向ける。
彼らは心配そうな眼差しを夜光に向けるものの、時折その眼差しをゼロンにも向けている。
当のゼロンは夜光しか見ていないので気づいてはいないが、2人が夜光とゼロンの身を案じているのは明白だった。
「ゼロン、お互いに逃げるのはもうやめよう。 女で悲しむ男も・・・女を悲しませる男も・・・僕1人で十分だ」
夜光はそう言って重くなった足を交互に持ち上げ、1歩1歩ゼロンに歩み寄って行く。
だがゼロンはその優しさを負け犬への憐れみと感じ、心を屈辱で絞めつけらた。
『やめろ・・・そんな目で僕を蔑むなぁぁぁ!!』
「ぐっ!!」
その苦しみが怒りをさらに湧き上がらせたゼロンが、感情のままに夜光の顔を掴み、押し倒すように床へと叩きつけた。
その際、ゼロンの腕力で床がくぼみ、夜光の後頭部がめり込んでしまった。
夜光は巨大なゼロンの手を両手で掴み、引きはがそうとするも鬼の力で強化されたゼロンの腕力には何の抵抗もできなかった。
※※※
「やめてっ!!」
「セリアっ!」
「危ないッス!!」
ゴウマの身をカイトに預けたセリアは2人の制止を振り切り、自身の不調を忘れてゼロンの元に駆け寄り、夜光の顔を握っている手を引きはがそうとする。
だが、セリアの細腕では、丸太のようなゼロンの剛腕に力でかなうはずもない。
「お願い・・・もう・・・やめてください・・・」
涙ながらに訴えるセリアを目にしたゼロンは愕然とした。
夜光のために涙まで流すセリアの想いの強さに、心を打ちのめされてしまったのだ。
だが皮肉にも、それは彼自身の夜光に対する嫉妬を増長させる火種となってしまった。
『なぜだ!? 僕はセリアのことを10年も愛し続けていたんだ!!
なのになぜ!! 愛を語ったこともないお前のような男にセリアは心を寄せるんだ!!』
「あがっ!!」
『僕のどこが・・・どこが・・・貴様に劣っていると言うんだぁぁぁ!!』
顔を掴んでいる手にさらなる力が加えられ、夜光の頭から血が流れ始めた。
ギシギシと骨までも悲鳴を上げ、夜光は遠ざかった死が再び近づいてくるのを感じた。
「僕は・・・僕は死ぬわけにはいかない・・・みんながくれた命を・・・簡単に失う訳にはいかない・・・)」
その時、夜光は右ポケットに入っている物の感触に気付いた。
そして、それが何なのかがすぐにわかった。
記憶している感触にヒットしたのか、単なる勘なのかは彼自身にもわからない。
「(こっこれは・・・)」
痛みを堪えつつ、夜光は右ポケットに手を突っ込み、中にある物を取り出した。
それは、意識を失う前に誠児が夜光のポケットに忍ばせていたマインドブレスレットだった。
「ぐっ!」
取り出したまでは良いものの、夜光にはマインドブレスレットを操作する余裕がなかった。
マインドブレスレットを掴んだまま、ゼロンの為すがままにされる夜光。
そんな中、夜光の脳裏にある記憶が蘇った。
それは、ミュウスアイランドで誠児が初めて闇鬼にエモーションした時の光景だった。
ハナナの力で持ち主の元に飛んできた夜光のマインドブレスレットはより強い精神力を持つ誠児に反応して力を与えた。
その際、誠児はマインドブレスレットを操作していなかった
つまり、操作せずにエモーションできる可能性があった。
「(頼む・・・助けてくれ・・・僕を・・・ゼロンを・・・。
セリアを助けてくれ・・・。
僕には親父や誠児のような強さなんてない。
だけど・・・そんな僕に守る資格があるなら・・・力を貸してくれ!)」
夜光の呼び掛けに応えるかのように、突如マインドブレスレットと共に夜光の体が光り出した、
「なっなんだ!?」
あまりの眩い光にゼロンはひるみ、夜光から手を離して数歩後退してしまった。
夜光がその場で立ちあがると同時に光は収まり、その中から闇鬼が姿を現した。
※※※
「しっ信じられないッス・・・あの状態でエモーションするなんて・・・」
夜光のエモーションが信じられず、口を開けて呆気にとられるカイト。
ちなみにカイトは、きな子やゴウマと精通している協力者なので、エモーションのことやアストのことは把握している。
「あいつだからできることさ・・・」
カイトに介抱されているゴウマの口元が緩み、状況に似つかわしくない優し気な笑みを浮かべた。
※※※
『忌々しい鎧め!! 鬼の力を得たとはいえ、所詮はカラクリ。 我ら真の鬼の敵ではないわ!!』
周囲に漂う鬼達が悪態をつく中、夜光は闇双剣を構える。
だがやはり足元がおぼつかず、息も荒々しい。
満身創痍な夜光に屈辱をなめさせるように、ゼロンは無防備にその場で仁王立ちする。
「ハァ・・・ハァ・・・口で言ってもわからないなら・・・その体に叩きこんでやるよ。
お前が何をすべきなのかを・・・!!」
夜光はゼロン目掛けて一直線に突撃した。
「ハァ!!」
勢いよくジャンプし、ゼロン目掛けて闇双剣を振り下ろす。
カキンッ!!
ゼロンが腕で夜光の斬撃を防ぎ、金属同士がぶつかり合うような音が鳴り響いた。
ゼロンの右腕には傷もついてないが、夜光の方は防がれた際の衝撃で闇双剣が跳ね返されてしまった。
『フンッ!!』
「ごぶっ!!」
その一瞬の隙をゼロンは見逃さず、夜光の顔目掛けて拳を放った。
拳はめり込むように命中し、夜光の体を床に叩きつけた。
闇鬼のアーマーのおかげで生身よりはダメージは少ないが、体中に感じるにぶい痛みが安易な考えを捨てさせる。
「くっ!!」
悲鳴を上げる体にムチ打って立ち上がり、夜光は再び闇双剣を構える。
「夜光さん!」
夜光の身を案じたセリアが駆け寄ろうとするが……。
「来るなっ!」
夜光は大声を上げてセリアを静止させる。
セリアを危険から遠ざけたいと言うのもあるが、ここで彼女の優しさに甘えれば、ゼロンに伝えたい意志が全てが薄っぺらい言い訳になる。
「・・・わかりました」
その意を感じ取ったセリアは、夜光の言葉に従い、2人を見守ると決めた。
「このっ!!」
夜光はバカの1つ覚えのように、再度ゼロンに突撃を試みる。
無謀な攻撃であるが、体力に余裕のない夜光に何等かの策を思いつく天啓などない。
あったところで今の夜光に実行できるかも怪しい。
「ハァ!!」
カキンッ!!
今度はゼロンの腹部の腹部目掛けて闇双剣を薙ぎ払うが、先ほどと同様に金属音のような音が響くだけで、傷1つ付かない。
もう一方の闇双剣で足を狙っても、結果は同じ。
『意気込んでいた割にはこの程度か?』
「おぐっ!!」
ゼロンはその巨大な足を持ち上げると、攻撃による疲労で茫然としている夜光を前から踏みつけた。
夜光はその衝撃で、闇双剣を2本とも手放してしまった。
その上、腹部にゼロンの足がのしかかっていることで身動きも取れない。
「ごぶっ!」
体に掛かる圧力に耐えきれず、口から血を吐き出してしまう。
そして、ゼロンは夜光から足をどけ、右手で首を掴んで持ち上げた。
『ここまでだ・・・』
そう言うと、ゼロンは夜光を掴んでいる右手に力を加え、首を絞め始めた。
「くっ!」
首を圧迫され、息苦しさを感じる夜光。
ゼロンの手を引きはがそうとするも、やはり腕力では太刀打ちできない。
『死ねぇぇぇ!!』
「・・・お断わりだ!!」
夜光は右足のホルスターからシェアガンを引き抜き、ゼロンの顔を撃った。
『うっ!!』
威力が弱いとはいえ、ゼロ距離で顔を撃たれたら、ひるむのは必然。
ゼロンは夜光から手を離し、顔を左手で覆って数歩後退する。
「けほっ! けほっ!」
夜光は首を絞められたことで思わずせき込み、その場でうずくまってしまった。
首を抑えて呼吸を安定させるまでにはさほど時間は掛からなかったが、ゼロンが大勢を立て直すには十分だった。
『こざかしい!!』
ゼロンは固めた拳をうずくまる夜光に振り下ろす。
だがその時!!
「夜光!!」
ゴウマがとっさに闇魔刀を夜光目掛けて投げつけた。
「!!!」
夜光は拳が当たるギリギリの所で前転の要領で回避し、ゴウマが投げた闇魔刀をキャッチした。
『何っ!?』
ゼロンの拳は回避されたことで床を貫き、はまってしまった。
『エクスティブモード!!』
その機を逃すまいと、夜光はエクスティブモードを起動し、闇魔刀を鞘から引き抜いた。
『このっ!!』
ゼロンはすぐに腕を引き抜き、夜光に視線を戻そうとする。
「どりゃぁぁぁ!!」
『がはっ!!』
だがその一瞬の隙に、夜光はゼロンの腹部に渾身の一撃を喰らわせることに成功した。
ただ、夜光はゼロンの命を奪わんとするために、闇魔刀の刃を逆さにすることで、斬撃ではなくみねうちを決めた。
それでも、闇魔刀によるものなため、大きな一撃には違いない。
『あ・・・あ・・・』
ゼロンはそのまま倒れ、意識を失ってしまった。
ルド「なんかえらくあっさりと決着ついたな」
セリア「ゼロンは本来、争いごとが嫌いな人でしたから」
ルド「そういえば、港で戦っていた時もシェアガン頼みだったな、あいつ」
セリア「はい・・・でも本当は、優しくて思いやりのある人なんですよ?」
ルド「恋は盲目とはよくいったもんだな・・・」
セリア「はい・・・とはいっても、私自身、ゼロンのことは言えませんけど・・・」
ルド「(下手したらゼロンよりおっかないからな、こいつ)」




