ぬくもりに包まれて
ここにきて、ヒロインの多さに後悔を感じました。
夜光の精神世界に降り立ったセリア達。
心の導くままに、彼女達は夜光の元にたどり着いた。
夜光は死を過去の制裁と受け入れ、セリア達を拒絶する。
だがそれは、夜光の本心ではないことを無意識に流れる心の声が、セリア達に伝わっていく。
自身を偽り、誠児以外の全てを遠ざけようとする夜光の弱さが、徐々に露わになっていく。
「いつまでぐちぐち言ってんのよ!!」
ライカが再び前に出て、夜光に言葉を投げかけた。
「あたしにあれだけ偉そうな説教垂れてたあんたはどこに行ったの!?
いつもあたしに突っかかてくる気力はどうしたの!?」
「そっそれは・・・」
「こんなところでうずくまっているくらいなら、いつもみたいにバカやってみんなを困らせなさいよ!!
あたしが・・・あたしがいつだって駆けつけるから!!」
「ライカ・・・」
ライカの口調はいつも通り強気だが、その顔は今まで見たこともないほど涙で歪み切り、
夜光に帰ってきてほしい気持ちがにじみ出ているのだ。
「兄貴・・・死にたいなんて言わないでくれよ・・・」
次にルドが1歩前に出てきた。
ライカ以上に涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている。
「つらいなら・・・苦しいなら・・・オレがいくらでも相談に乗るからさ・・・兄貴を怖がらせる奴がいるなら・・・オレが全力でぶっ飛ばして、兄貴を守るから!! だから・・・頼む・・・」
「ルド・・・」
ルドは床に手を突き、土下座のようなポーズで夜光に懇願した。
精神世界とはいえ、誇り高きケンタウロス族にとって、他人に頭を下げると言うのは恥辱以外の何ものでもない
人間として生きているといえ、ルドにもそのプライドは持ち合わせている。
それに反してでも、ルドは夜光を想い留まらせようとしている。
その想いが夜光にもひしひしと伝わってくる。
「夜光・・・」
次に前に出たセリナは、親離れを惜しむ子供のように嗚咽して泣いていた。
「私ね? 夜光と初めて会った時のこと、今でもはっきり覚えてるんだよ?
いつもちょっとしたことで、名前も顔も忘れちゃうのに・・・夜光の顔や話した言葉は覚えているんだ・・・それからも、夜光やみんなのことはちゃんと覚えてる。
夢に向かって頑張ろうと思える。
夜光と出会えたから、私はこうしてみんなと一緒に頑張れるんだよ?
だから・・・死ぬなんて言わないで・・・大好きな夜光と、こんなお別れしたくないよ・・・えっぐ・・・」
「セリナ・・・」
止まらない涙を拭いきれなくなったセリナは、隣にいたライカの胸を借り、赤ん坊のように声を上げて泣き出した。
今までちょっとした感情のゆらぎで子供の用に泣くことはあったが、こんな風に心の底から誰かを想って涙を流すセリナの姿を、夜光は見たことがなかった。
「夜光君・・・」
次に身を乗り出したのはミヤ。
「病院の屋上であなたは言ったわよね? 死ぬのは裏切りだって・・・わたくしはあなたにそう言ってもらえたから、こうしてレイランと生きているのよ? あなたがあの時手を掴んでくれたから、今のわたくしはあるのよ? あなたは夕華さんだけでなく、自分自身の発した言葉も裏切るつもりなの!?」
「違う! 俺は・・・自分を大切にしているこの気持ちを、少しでもいいから他人に向けてくれっていう、誠児の言葉を守りたかっただけだ・・・お前やレイランのためじゃない・・・俺を助けてくれた誠児に少しでも恩返しがしたかった・・・俺はお前達を恩返しに利用しただけだ・・・お前達のことを大切に思っていた訳じゃない・・・」
深い後悔や罪悪感に押しつぶされるように夜光は頭を抱えて膝を付いた。
「・・・わたくしにはそれだけだとは思えないわ。
誠児君の言葉が根本的な理由なのは本当でも、あなたの言葉や行動はあなた自身の物でしょう?
それにわたくしには、あなたに他人を想う心がないなんて思えない・・・いいえ、絶対にどこかにあるわ!」
「ミヤ・・・」
「それでもあなたが死を選ぶというのなら構わないわ。 わたくしが力づくであなたを連れ帰るから・・・」
ミヤのその目からは、涙は流れず、代わりに夜光を連れ帰るという強い信念が溢れていた。
ほかの者達のように不安を感じていない訳ではない。
彼女はこれまで多くの涙を流した。
悲しみ・・・怒り・・・恐怖・・・様々な感情を涙で流してきた。
泣くことで、少しでも苦しみから逃げたかったからだ。
だが、夜光と行ったチップとの墓参りを最後に、彼女は涙に逃げるのをやめた。
強くなって、自分以外の人間の涙を拭えるようになりたい。
それが孤児院で働きたいという夢に繋がったのだ。
「夜光さん・・・」
凛々しくも優しい笑顔で前に出てきたのはスノーラ。
「申し訳ありませんでした。
ミュウスアイランドで夜光さんが呟いた本音を聞いた時に、その苦しみに気付くべきでした。
そうすればもっと早く、あなたに寄り添うことができたのに・・・」
夜光はミュウスアイランドにて、レーツに監禁されていた時、自身の人生を諦めていることを薄く口にしてしまっていた。
「謝るな! お前が悪い訳じゃない・・・俺が何も言わなかったから・・・」
「それがわかっているのなら、これから遠慮なくなんでもおっしゃってください・・・あなたに振り回されるのは・・・もう慣れていますから」
「スノーラ・・・」
「だから・・・帰ってきてください・・・またあなたの隣で・・・歌を・・・歌わせてください・・・」
顔を伏せたことで美しい前髪が垂れて目を覆う。
その影からうっすらと見える小さな光と震える体。
夜光を笑顔で迎え入れたい一心で、泣きたい衝動を抑えているスノーラの優しさが、夜光の心に痛いほど伝わっていく。
「ダーリン・・・」
レイランは祈りを捧げるかのように両手を握りしめ、右目から一筋の涙を流す。
「ボク・・・ダーリンのことが大好きだよ? 大好きなダーリンのお嫁さんになって・・・子供を作って・・・あったかい家庭を作りたいんだ。 だから・・・死んじゃいやだよ・・・」
「・・・夕華がどうなったか知ってるだろ? あいつだって・・・」
「知ってる・・・でもだからって、ボクがダーリンを大好きになっちゃいけないの?
お嫁さんになっちゃいけないの? 一緒にいちゃ・・・ダメなの?」
「レイラン・・・・」
レイランはいつも夜光との結婚を夢に見ている。
その想いを言葉や行動に移し、ずっとアプローチを続けてきた。
だがレイランはまだ14歳。
一時の恋愛感情に流されているに過ぎないと、夜光はずっと軽く受け流してきた。
だが彼女の幼稚ながらも愛情に満ち溢れる言葉が・・・”ダメだ”という言葉を夜光の喉奥に押し込ませた。
「パパ・・・」
キルカの目は、にらみをきかせるように鋭くなっていた。
ぼんやりとした性格ゆえか、彼女は普段から目や顔で感情を露わにすることは滅多にない。
だが今のキルカは目でも顔でもはっきりとわかるほどの怒りを露わにしていた。
「我が初めて愛を感じたのはこの程度の男なのか!?
愛を語る女を見捨てて、死に逃げるような臆病者なのか!?」
「悪かったな・・・弱くて・・・」
「弱いだと? 父上と向かい合うことができずに逃げようとした我を力ずくで引き戻してくれた男が弱いと言うのか!?
そんな男に、我が心を奪われたと言うのか!?
我が愛する男を・・・卑下に見るのはやめろ!!」
「キルカ・・・」
キルカは激しい怒りを覚えていた。
過去から逃げるために死のうとする夜光。
自分自身を見下す夜光。
そのすべてが、キルカの怒りに火を点けていた。
これが愛故の怒りというものなのかもしれない。
「夜光さん・・・」
最後に口を開いたのはセリアだった。
初めて夜光と出会った時に比べ、彼女の顔立ちはとても凛々しく強い心が溢れていた。
「私達の気持ちを聞いてもまだ、死を受け入れるつもりですか?」
「それはとうぜ・・・」
「嘘を言わないでください!」
セリアの叱責のような声に、夜光は思わず言葉を飲み込んでしまった。
「本心を言ってください。 口にしなくても伝わってきますが、私は・・・私達は夜光さんの口からお聞きしたいんです」
「やめろ・・・」
「本当のことを言ってください。 夜光さんは本当に死を望んでいるのですか?」
「やめろっ! これ以上、僕の心を聞くなぁぁぁ!!」
狂ったかのように、夜光は叫び声と共に、自身の本心を知られる恐怖を吐き出した。
「・・・姉さんたちに見捨てられて、僕は人を好きになることも信じることも嫌になった。
だから僕は、自分のためだけに生きることにした。
夕華がどれだけ僕を愛してくれていたのか、わかっていたのに・・・僕は夕華を裏切って死なせてしまった・・・今でもその時の記憶が頭に焼き付いて離れない・・・」
夜光はこの時、目からポタポタと涙を落としていた。
歯を強く食いしばり、耐えようとするが、あふれる涙を止めることはできなかった。
「そんな僕のことを、誠児は家族だって言ってくれた。
たくさんの人生を台無しにした僕に・・・どんなにつらいことがあっても、あいつはずっと僕を支えてくれた・・・だから僕は、誠児以外の繋がりなんてほしいとも思わなかった。
でもあいつは・・・僕に・・・人に優しくしてほしいと言った・・・。
だから僕は、人にほんの少しだけ、優ししようと思った。
だけど・・・人と関わったら繋がりができてしまう。
そう思ってずっとバカやって人を遠ざけようとしていた・・・なのになんで・・・お前達は僕に近づいてくるんだよ・・・なんで1人にさせてくれないんだよ・・・お前達は・・・誰なんだ?・・・」
夜光の頭の中では、大きな嵐が起きていた。
それは彼の記憶と感情を強引に混ぜ合わせ、夜光の心を麻痺させた。
夕華への罪悪感が過去に引き戻し、セリア達の想いが今へ・・・未来へと引き止めようとしている。
夜光の疲弊しきっていた心は、崩壊寸前だった。
「・・・!!」
セリア達は目で互いの心情を伝えると、強く頷き合い、夜光の元へと駆け出した。
先程は走っても走っても夜光の元にはたどり着けなかった。
だが、夜光の弱まった心では、セリア達を完全に拒絶することができなかった。
「!!!」
次の瞬間、夜光の体は優しいぬくもりに包まれた。
セリアが夜光に飛びつき、強く抱きしめたのだ。
続いてセリナが抱き着いたことにより、反動で後ろに倒れそうになるが、後ろからミヤとレイランが抱き抱えたことで、態勢を崩すことはなかった。
横もスノーラ、ルド、ライカ、キルカの4人が固め、夜光は8人に包囲されるような形となった。
「みんな・・・」
「夜光さん・・・帰りましょう。 過去の罪が忘れられないなら、私達も一緒に背負います」
セリアの温かな言葉が夜光の心の嵐を静めた。
嵐が過ぎ去り、天の雲が割れて太陽の光が差し込むように、彼の心を照らす。
「・・・夜光、 もういいだろう?」
そう言って夜光の前に現れたのは、誠児だった。
「誠児・・・」
「みんなお前を助けるために、夢を叶えるチャンスを捨てて、命を削ってまでお前を助けようとしているんだ。 その気持ちがわからないお前じゃないだろう?」
「・・・」
「夜光・・・素直になれ・・・帰ってこい・・・」
「・・・僕は、ここにいてもいいの?」
涙の入り混じった声で、夜光はセリアに問う。
「・・・はい」
「僕は・・・生きていていいの?」
「・・・はい」
「僕は・・・1人にならなくていいの?」
「はい・・・」
セリア達は全てを受け止めてくれると、夜光の心にようやく伝わった。
その気持ちに返答するかのように、夜光は両手を精一杯広げ、セリア達を抱き寄せた。
「ありがとう・・・」」
夜光は初めて嬉しいという気持ちを涙で表すことができた。
自分を想ってくれるみんなの気持ちに包まれ、夜光は安堵したかのようにその場で眠った。
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「・・・」
夜光の意識がはっきりとして、目をゆっくりと開くと、彼はかつて昼奈や夕華と暮らしていた家のリビングに立っていた。
テーブルや椅子、食器棚等、全てが穏やかに暮らしていたあの頃のままだ。
「・・・久しぶりね」
後ろから聞こえてきたのその声は、夜光にとって懐かしくも悲しいものだった。
夜光がゆっくり振り返ると、そこには1人の女性が立っていた。
「久しぶりだな・・・夕華」
それは紛れもなく、夜光がかつて裏切った女性・・・夕華であった。
その姿は血やケガこそないものの、服も髪型も死んだときのままだった。
彼女は静かに夜光に視線を合わすが、その目の奥には、例えようのない恨みと憎しみが感じられた。
つい先ほどまでならば、土下座でもして涙ながらに謝罪を繰り返していただろう。
だが夜光の体には、今もセリア達のぬくもりが、強く残っている。
「ごめん・・・夕華。 僕は・・・死ぬのが嫌になった」
夜光は深々と頭を下げると、夕華に謝罪の弁を述べた。
笑騎「最後の姉ちゃん。 誰や?」
マナ「えぇ!! 夜光さんの過去話、聞いてないんですか!?」
笑騎「あぁ、それか。 俺、感想しか読んでへんかったから」
マナ「なんでまた・・・」
笑騎「あのハーレムクズ野郎が、ボロカスに言われとるんやで? もう笑いが止まらんかったわ。
ショックで落ちこんでるあいつの写真も取ったで? マナちゃんも見てみるか?」
マナ「ひどい性格してますね・・・って! なんでお風呂に入っている私が写っているですか!?」
笑騎「しっしもた!! 写真間違えた!!」
マナ「成敗!!」
笑騎「ふぎゃぁぁぁ!!(でもちょっと嬉しい!!)」




