闇魔刀
この章もだいたい半分くらい来ました
ゼロンを退けた誠児達は、鬼ヶ島へと出航した。
島の周りには巨大な渦潮がいくつもあり、周囲も嵐のように雷と雨が轟いていた。
そして、島に入るために、カイトは意を決して、最も巨大な渦潮に飛び込んだ。
目が覚めた誠児が見たのは、怪しげな謎の東洋風の城であった。
「・・・そうだ! 夜光・・・」
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我に返った誠児は慌てて元居た船内に戻った。
「ひどいな・・・」
誠児の視界に最初に映ったのは、変わり果てた船内だった。
先ほどの衝撃でカイトが持ってきていた食料やサバイバル道具が床に散乱していた。
天井も大きく崩れており、所々に空いている穴から薄い光が差し込んでいた。
「・・・あっ! セリア!」
周囲を見渡す誠児の視界に、最初に映ったのは、床でぐったりしているセリアであった。
急いで駆け寄りセリアを介抱するも、セリアは意識を失ったままだった。
「おいっ! セリア! しっかりしろ!」
誠児はゆさぶりながら、セリアに呼びかける。
無論、容態がわからないので、ゆさぶりの力加減と声量は低くしている。、
「・・・うっ! 私・・・一体・・・」
「どうやら鬼ヶ島についたらしい」
「鬼ヶ島・・・」
誠児の呼び掛けに応じ、セリアはすぐに意識を取り戻した。
まだ意識がはっきりしていないため、ぼんやりと誠児の顔を見つめている。
「ケガはない?」
「・・・はい」
幸いにもセリアの痛覚神経は異常の訴えを起こしていなかった。
だが、徐々に意識がはっきりしていくセリアの脳裏に最も重大な者の顔が浮かび上がった。
「やっ夜光さんは!? それにお姉様達は・・・」
「わからない・・・」
意識を完全に取り戻したセリアはゆっくりと起き上がり、誠児の腕から離れた。
ガタンッ!
セリアが立ちあがるのと同時に、周囲の物が一斉に動き出した。
下敷きにされていたマイコミメンバー達が意識を取り戻したのだ。
「いたたた・・・まったく! か弱い乙女の顔に傷でもついたらどうするのよ!」
誠児とセリアのすぐそばから、ライカが顔を抑えながら、ひょっこりと姿を現した。
顔を壁に思い切りぶつけたことを気にしているのだが、多少赤くなっているだけでケガはなかった。
「・・・んっ? 何よ、2人してじっと見つめて・・・」
ライカの無事を確認したと言うのは喜ばしいことなのだが、誠児とセリアはそれを凌駕するほどの驚くべきものを見て、放心していた。
「えっえっと・・・ライカ。 その頭は?」
「頭?・・・!!」
頭に触れたライカの手には、もふもふとした独特の感触が感じられた。
彼女の頭には犬のような耳が2つ、ぴょこんと顔を覗かせ、人間の耳がある位置には耳そのものがなくなっていた。
「まさかっ!」
彼女がおそるおそる腰に手を触れると、服の中にふさふさした物が入っていた。
服を少しめくると、勢いよく飛び出したのは、犬のしっぽであった。
「ななな・・・なんであたし、元も戻ってるの? パスリングはしてるのに・・・」
この時初めて、ライカが本来の姿でる亜人に戻っていることが判明した。
だが、驚くのもつかの間、ほかのマイコミメンバー達も続々と瓦礫の下から出てきた。
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「おっ押しつぶされると思った・・・お母さん、大丈夫?」
「えぇ、わたくしは大丈夫よ。 あなたこそケガはない?」
「大丈夫!・・・あれっ? お母さん、いつの間にエルフに戻ったの?」
「えっ?」
ミヤは耳は鋭く長い耳に変化していた。
人間と類似した姿を持つエルフ族にとっては、最も代表的な違いだ。
耳に触れ、ミヤも自身の変化に気付くと同時に、レイランの変化にも気づいた。
「レイラン・・・あなたも戻ってるわ」
「えっ!?」
ミヤ同様・・・レイランも耳が変化し、エルフに戻っていた。
「ななな・・・なんで!? パスリングはちゃんとしてるのに!」
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「ぷはっ! キルカちゃん、大丈夫?」
「我なら大丈夫だ。 お前のほうこそ、ケガはないのか?」
「うん、大丈夫だよ。 だからあちこち体を障るのはやめてくれない?」
セリナとキルカも自らの力で瓦礫の中から脱出した。
キルカはセクハラする力が、セリナにはセクハラに対抗する力が残っているため、大事には至っていないことは周囲も認知できた。
「・・・あれ? キルカちゃん。 耳が長くなっていない?」
「・・・! どういうことだ? ダークエルフに戻っている」
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「どりゃ!・・・ふぅ・・・ひでぇ目にあったぜ」
『・・・』
瓦礫の中から出てきたルドがライカ達と同様の変化が起きていることは誠児達にも一目でわかった。
「・・・!! あれっ!? なんでオレ、ケンタウロスに戻ってるんだ!?・・・いてっ!」
ルドの足はズボンや下着は失われ、代わりに立派な馬の脚がルドの上半身から生えていた。
良心ほどではないが、ケンタウロス族となったルドは割と高い天井に頭をぶつけるほどの高身長となっていた。
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「やはりこうなったか・・・」
状況が飲み込めず、困惑する誠児達の元に、ゴウマとカイトが操縦室のドアから姿を現した。
「親父! カイトさん! 無事だったんですか!?」
「まあ、なんとか大丈夫ッス」
「あの、お父様。 やはりとは?」
「この鬼ヶ島には邪気という闇がもたらす毒のような力が密集していてな?
鬼一族がいなくなったあとも強くこの島に残っているんだ」
「毒・・・ですか?」
「いや・・・毒とは言っても、命を危険に陥れるようなものではない。
ただ、島に存在する邪気以外のあらゆる力を麻痺させてしまうんだ。
パスリングもおそらく邪気によって麻痺させられて、一時的に力を失っているんだろう」
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「何!? じゃあ、スノーラが1番あぶねぇじゃねぇか!」
ゴウマの話を聞いたルドがいち早く動いた。
スノーラは人魚であるが、異種族ハンターに襲われたことでヒレを失っているので、元の姿では、地上でも海中でも生きるのは困難になりゆるのだ。
「スノーラ! どこだ!?
瓦礫を乱暴にかき分けながら、必死にスノーラの名を呼ぶ。
「る・・・ど・・・」
ルドの耳にうっすらとスノーラの声が聞こえてきた。
声のした場所の瓦礫を持ち前の怪力でどかしていく。
「スノーラ! 兄貴!」
瓦礫の下には、人魚の姿に戻っていたスノーラが眠っている夜光を庇うように覆いかぶさっていた。
「スノーラ! 大丈夫か!?」
「私なら大丈夫だ。 それより夜光さんを・・・」
誠児達はすぐさま夜光とスノーラの元に集結し、カイトが夜光の容態を確認する。
「ケガはないッスけど、容態は著しくないッスね。 急がないと間に合わないッス」
「仕方ない。 みんな。 まだ本調子じゃないかもしれないが、すぐに出発する」
ゴウマのその言葉に異議を唱える者は誰もいなかった。
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座礁した船を乗り捨て、誠児達はゴウマを先導にし、東洋風の城に向かうことになった。
人魚になって歩けないスノーラは、海水の入った空箱に入れ、カイトが運搬役を買って出た。
ストレッチャーで補装もされていない道を進むのは危険と判断され、夜光はカイトが船に乗せて持ってきていた車いすを使って運ぶことになった。
「お父様。 あの城に、闇魔刀があるのですか?」
「あぁ、そうだ。 あれは鬼ヶ城と言って。 鬼一族が自らのシンボルとして建てた城だ。 まあ、鬼がいなくなった今では過去の遺物に過ぎないがな」
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紫色の薄気味悪い森林をしばらく進んでいると、誠児達は城の門に出た。
「うわぁ・・・ボロボロ・・・」
セリナのストレートな感想がゴウマ以外の者が感じた率直な言葉だった。
門とは言っても、外装はほとんどボロボロで、門自体も半分以上開いたまま開閉機能を失っているので、誠児達は簡単に入ることができた。
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門を通り抜け、そのまま城の中に入ると、中はかなり広々としてはいるが、内装はかなり痛んでおり、所々かび臭い。
あちこちに装飾品らしき恐ろしい鬼の像が置かれているが、こちらもかなり傷んでいる。
周囲には階段がらせん状に設置されており、城のてっぺんにまで続いている。
「・・・まだ動くといいが」
ゴウマは中央に聳え立つ大きな柱に手をそえると、力の限り柱の壁を押す。
ガコン。
すると、ゴウマが押した柱の壁がスイッチのように押し込まれ、頭上からエレベーターらしき巨大な箱が降りてきた。
「なっなんスか? これ。 めちゃくちゃでかいッスね」
「最上階まで一気に上がれる昇降機のからくりだ。 ワシがまだ鬼だった時に、よくこれの世話になった。 鬼が乗るサイズだから、これくらいの大きさが必要なんだ」
降りてきた昇降機はかなり大きく、ケンタウロスとなって体重や身長も大幅にアップしたルドが乗ってもびくともしない。
「よしっ! 最上階に向かうぞ!」
昇降機の内部に垂れているひもをゴウマが引くと、昇降機はゆっくりと上昇していった。
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「・・・最上階だ」
誠児達がそこでみたのは、まるで天守閣のような大部屋だった。
部屋の奥には心界の文字で”闇は鬼と共にあり”と書かれた掛け軸のような物が掛けられており、
中央には鬼らしきミイラが鎧を身に纏って椅子に腰を掛けている。
「ゴウマ様。 あそこにある鬼のミイラはなんなのですか?」
「あいつは守鬼と言ってな? かつてワシの右腕だった男だ。
鬼一族が滅んだ後も、あいつは命尽きるまでこの城と島を守り続けていたと伝え聞いている」
「・・・んツ? アレは・・・」
その時誠児は守鬼の足元に1本の黒い刀が装飾品のように置かれていたことに気付いた。
闇魔刀の持ち手には黒い水晶が埋め込まれており、鞘には黄金の装飾で、凶悪な鬼が描かれている。
「親父。 鬼の足元にあるあれが、闇魔刀ですか?」
「あぁ・・・そうだ」
※※※
誠児達は昇降機から降りると、闇魔刀に駆け寄る。
周囲には気を配っていたが、特に何も起きることはなかった。
「・・・こう言っちゃなんだけど、結構あっけないね」
言い方は微妙だが、レイランの言葉には誠児もマイコミメンバー達も賛同していた。
大切な刀であるため、なんらかのトラップが仕掛けられていると身構えていた結果がこれなのだから無理もない。
「・・・そうでもなさそうだ」
ダークエルフとなったキルカの飛び済まされた感覚が何かの気配に気づいた。
それは同じエルフであるレイランとミヤも同じ。
「何かがたくさん周りに集まって来る」
「・・・味方っぽくはないかな」
誠児達が辺りに再び警戒していると、ゴウマは周囲に向かって叫んだ。
「沈まれ!!」
次の瞬間、黒いモヤのようなものが周囲を包み込んだ。
そこには鬼らしきおぞましい顔がいくつも浮かび上がり、誠児達を睨んでいた。
『お久しゅうございます。 闇鬼様』
鬼の顔の中の1匹が口を開く。
その視線の先にいたのはゴウマであった。
「おっお父さんの知り合い?」
「・・・ワシのかつての同胞達だ。 死んでもなお、この場に魂となってとどまっているとはな・・・」
セリナには目を向けず、ゴウマは魂となった同胞達に1歩近づく。
「みな久しいな・・・」
『闇鬼様・・・まさかこうして再びお目に掛かれる日が来ようとは・・・』
『闇鬼様! 龍一族が滅び、光が弱まっている今こそ!! 闇魔刀を掴み、この世界を闇に静めましょうぞ!!』
「戦争は終わったんだ・・・もう争う必要はない。 お前達はそんなことは忘れ、安らかに眠るんだ」
ゴウマの言葉に、鬼達は目を見開いた。
『なっ何を言うのです!? 世界を混沌の闇に静め天下を取ることが、鬼一族の大願だったのではないのですか!?』
「・・・それは過去の話だ。 それに・・・今のワシは鬼はない。 どこにでもいるただの人間だ。
天下など興味はない」
『ではなぜここに? 何故闇魔刀を・・・』
「ワシの家族を助けるために必要なだけだ」
『かっ家族ですと!? 鬼一族の大願よりも、家族の命が大切だとでもいうのですか!?』
「そうだ・・・今のワシにとって大切なのは・・・家族だ」
ゴウマのまっすぐな目に、鬼達は一瞬言葉を失った。
笑騎「・・・なあ2人共、ちょっとええか?」
ルド「なんだよ?急に」
スノーラ「つまらんことをほざくなら、弾丸を浴びることになるぞ?」
笑騎「2人共鬼ヶ島で元の姿に戻ったんやろ? 確か、ルドちゃんはケンタウロスで、スノーラちゃんは人魚やんな?」
ルド「それがどうしたんだ?」
笑騎「ケンタウロスは下半身が馬で、人魚は下半身が魚やんな?」
スノーラ「だからどうした?」
笑騎「つまり2人共、下半身丸だ・・・ほげばぶべ!!」
2人の鉄拳制裁によって笑騎失神。
ルド「・・・気晴らしにラーメンでも食いに行くか」
スノーラ「・・・そうだな」




