三界の神器
すみません・・・話の勧めからがなかなか決まらず、更新予定日をずらしてしまいました。
今回の話は、もう少し後に書こうと思っていたのですが、出すタイミング見つからず。ここで出しました。
突死刑に処されたセリアの幼馴染ゼロン。
彼は異常な愛情をセリアに抱き、彼女と自分が相思相愛であるという虚言を、運命と言う形で受け入れていた。
その歪んだ愛情が、彼の愛情表現をストーカー行為にまで発展させてしまっていた。
恐怖を感じたセリアは彼から逃げ、夜光のいるサトイ病院へと向かう。
そこで、夢を掴みチャンスを捨て、夜光の元に集まったマイコミメンバー達とも合流する。
彼女達の夜光を救いたい想いに折れた誠児が、ゴウマに自分達がこれから夜光を連れて向かう場所の名を口にする……鬼ヶ島……と。
「みんな・・・慌てずゆっくり、1つ1つ降りて行くんだ」
「うん! ルドちゃんは大丈夫? 重くない?」
「大丈夫だ。 オレのことは気にしなくていいから、兄貴を落とさないことだけ注意してくれ」
夜光を乗せたストレッチャーをマイコミメンバー達と共に運ぶ誠児。
その途中、2階と1階をつなぐ階段に差し掛かってしまっていた。
階段を降りるだけなら、なんてことはない段数だが、大の男を乗せたストレッチャーを運んだままとなれば、何度は一気に跳ね上がる。
本来、ストレッチャーを1階や2階に運ぶ際には、エレベーターのような専用の機械を使用するのだが、それは医師か看護婦にしか使えないようにされているため、断念せざる終えなかった。
そこで誠児達は、ストレッチャーを四方に囲み、左右4人で夜光の体を抑えつつ、夜光の足を下にして、1段ずつ降りることにした。
最も力がいる下にはルドと誠児がつき、バランス調整が重要な上にはミヤとスノーラがついた。
ゴウマは手配していた馬車を病院の裏口に誘導するため、一足先に外に出ていた。
堂々とロビーから出てしまうと、医師や看護婦に見つかる可能性が出るため、普段滅多に人の出入りがない裏口から出ることになったのだ。
「・・・よしっ! 降りれた」
「セリナ、安堵している所悪いけど、すぐに親父と合流するよ?」
「わっわかってるもん!」
無事に階段を降りることができた誠児達は、裏口に向かってストレッチャーを転がす。
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「・・・みんな、こっちだ」
裏口から外に出ると、ゴウマが手を振って出迎える。
隣には通常よりも大きい運搬用の馬車が停留されていた。
荷台にはストレッチャーを乗せるために用意されたスノーブが掛けられている。
夜光のストレッチャーを荷台に積み終えると同時に、誠児達も雪崩れるように馬車へ乗り込む。
全員が乗り込んだことを確認したゴウマは「出してくれ」と御者に出発を促す。
ムチのしなやかな音と共に、馬車が前へと進み始めた。
※※※
病室を出発してからしてからしばらくして、ゴウマはマイコミメンバー達に鬼ヶ島について説明を始めた。
「鬼ヶ島というのは、かつて、闇の大陸最強と呼ばれた鬼一族が生まれた故郷だ。
最も、精神戦争後にはすでに絶滅して、島には鬼はいないがな」
「どうして夜光さんをそのような場所に?」
「・・・鬼ヶ島に眠る【闇魔刀】を手に入れるためだ」
「えんまとう?って何?お父さん」
「闇魔刀というのは、【三界の神器】と呼ばれる3つのアイテムのことだ」
「アイテム・・・ですか?」
「1つ目は【光極の御霊】。 天界・・・いわゆる天国の遣いが人間達に授けたとされる宝玉だ。あらゆる悪から心を守り、その美しい輝きを目にした者はどれほど邪悪にそまった心でも、子供のように純粋な心に浄化されると言われている。
2つ目は【無魂の鏡】・・・神の姿を映したと伝えられる鏡だ。
生者が映ればその命を奪われ、死者が映ればもう1度命が宿ると言われているが・・・事実かどうかははっきりとはわからん。
・・・そして3つ目・・・これからワシらが手に入れようとしているのが、冥界の死神がこの世に落としてしまったと言われる闇魔刀だ。
あらゆる存在を滅し、それを手にした人間は、心を喰われ、残虐非道な殺人鬼に変貌すると言われている悪魔の刀だ」
「もっもしかして・・・今ボク達が向かっている鬼ヶ島にあるの? それ」
「・・・あぁ、そうだ。 かつて鬼の首領であった闇鬼が所持していたのだが、影との戦いで彼が死んだあと、扱える者がいなくてな? 危険性も考慮して鬼ヶ島に封印したんだ」
「どうしてそんな危険なものをわざわざ・・・それに、闇魔刀と夜光君を助けるのとどう関係があるのですか?」
「闇魔刀はあらゆるものを滅する力がある・・・それはつまり、この世に存在しているものならば、全て消滅させることができると言うことだ・・・たとえ人に巣食う病魔であってもな」
『!!!』
ゴウマの言おうとしていることを察したマイコミメンバー達が大きく目を見開いた。
「おっお父様・・・それはつまり、闇魔刀の力で夜光さんの病気を消滅させると言うことですか!?」
「そのようなことが可能なのか!?」
希望の眼差しで問い掛けるセリアとキルカに対し、絶望に満ちたような暗い顔でゴウマは答えようと口を開く。
「無論、そのまま夜光に振り下ろせば、病魔もろとも夜光は死ぬ。
だが、闇魔刀の力を一時的に弱めれば、夜光を犯す病魔だけを斬れるかもしれん」
「弱めるって、どうやってやるんだよ」
「闇魔刀に生贄の血を1滴吸わせるんだ」
「・・・? それだけ? なんか思ったより簡単ね」
あっけないほど簡単な方法に拍子抜けするライカだったが、ゴウマは首を左右に振り、その安易な考えを否定する。
「手順だけでいえば確かに単純だ。 だが、ただ血を吸わせれば良いわけじゃない」
「どっどういうことですか? お父様」
「闇魔刀にただ血を吸わせるだけでは意味がない。 夜光を助けたい、守りたいと強く思う者の心がこもった血でなければならないんだ。 だからワシは、夜光を家族のように大切にしている誠児に、協力を求めたんだ。 少しでも成功する確率を上げるために」
「・・・じゃあ、私達も血を捧げます。 そうすれば、今よりもっと確率が高くなるのではないですか?」
とっさに”私達”とまとめたセリアだったが、1人として訂正を申し出る者はいなかった。
そんな彼女達に対し、ゴウマは一瞬言葉に詰まり、続きを話すことをためらってしまうが、ここまで来て隠すことはできないと腹をくくり、口を再度開く。
「確かに確立は上がるだろうな・・・だがそれは、払う代償も大きくなると言うことにもなる」
「代償ってなんなの?」
「闇魔刀に血を吸われた者は、成功失敗問わず、贄として寿命を奪われるんだ」
「じゅっ寿命?」
「そうだ。 それがどれほどの時間なのかはわからんが、お前達が生きていける時間が削られるのは間違いない・・・最悪の場合、命すら失う可能性もある」
「そっそんな・・・」
「無論、このことは誠児にも話をしている。 それを承知でこいつは、血を吸わせることを承諾したんだ」
無意識に横目で誠児の顔色を伺うゴウマ。
「そんな顔をしないでください・・・俺は自分の意志で決めたんだ。 怖くないと言えば嘘になるけど、夜光のこんな姿を見たら、なんとかしたいって思う気持ちの方が強くなります」
顔色は決して良いとはいえないが、誠児の気持ちは強く、そして確かだった。
そんな彼の強さを信じたからこそ、この無謀とも言える手段を、ゴウマは決行したのだ。
『・・・』
マイコミメンバー達は全身から恐怖と言うなの寒さを感じていた。
夜光を助けたい気持ちはあるものの、自分達の大切な命を失うと聞けば、その気持ちが揺らぐのも無理はない。
ゴウマも今までこのことを言わなかった理由はこれだった。
大切な存在とはいえ、自分の命と他人の命を天秤に掛けたら、自分の命に重さを感じるのは必然。
誠児のように常軌を逸した男でもなければ、決断等下せる訳がない。
「みんな、自分の命を惜しむことは薄情なことじゃないよ。
もしもみんながこの件を降りたいと思ったら、降りてくれて構わないし、そのことで恨むようなことはしない。
きっと夜光だって、みんなを責めたりしないさ」
マイコミメンバー達の気持ちを察した誠児が、引き返す道を示す。
その言葉に一瞬でも気持ちが揺らがなかったと言えば嘘になる。
「・・・いえ、行きます。 とても怖いですけど、夜光さんを残して自分だけ安全な場所で見守るなんてしたくありません」
死の恐怖を感じながらも、その目には強い輝きを秘めていた。
ほかのマイコミメンバー達も無言のまま頷き、自分達の気持ちを述べる。
彼女たちの目にも恐怖に揺らぎながらも、まっすぐな心がこもっていた。
「・・・そうか」
誠児はそれ以降、マイコミメンバー達に諭すようなことは言わなくなった。
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病院を出発してから2時間ほど経過すると、セリア達の耳に海の波音が聞こえてきた。
「あっ! 海だ!」
窓から顔を出したセリナの目に、青く広い海が映った。
時間的にはまだ夕方くらいだが、辺りはすっかり暗くなっていた。
周囲には街灯のような光を照らすものはなく、星空だけが周囲に光を照らしている。
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「・・・ついだぞ」
馬車が停車した場所は、古びた灯台がポツンと建っているだけで船が1隻もない船着き場であった。
「お父様、ここはどこですか?」
「今はもう使われていない船着き場だ。 以前は漁が盛んな港町としてにぎわっていたのだが、取れる魚が減少したり、後を継ぐ若者達が町へ繰り出したりと、色々重なってしまって、住民達は散り散りになてな? 今ではこの船着き場と灯台だけが残っているだけだ。」ここから船に乗り換えて、鬼ヶ島に向かう。 みんな、夜光を馬車から降ろしてくれ」
誠児とマイコミメンバー達は言われるがまま、夜光が乗ったストレッチャーを馬車から降ろす準備を始める。
それと同時に、海の彼方から雄たけびのように鳴り響く船エンジン音とまばゆいライトの光が静寂な暗闇を打ち砕く。
「おぉぉぉい!! みなさぁぁぁん!!」
船の舳先から両手を振るのは、ハナナであった。
マイコミメンバー達が夜光を馬車から降ろした時には、すでに船は船着き場に着いていた。
「トウッ!・・・ひでぶっ!」
舳先から華麗に飛び降りたハナナであったが着地の際に足を滑らせて顔から転倒してしまった。
ダメ押しと言わんばかりに、船からきな子が飛び降り、倒れたハナナの頭に着地した。
「きな子様まで・・・一体どうしたのですか?」
ハナナのことをスルーし、スノーラがきな子に問い掛ける。
「ゴウマちゃんから船の手配を頼まれたんや。 まあ、ウチには色々コネがあるから、どうってことないけどな」
「では、お2人が鬼ヶ島まで船を?」
「そんなん無理や。 鬼ヶ島の周囲にはでっかり渦がぎょーさんあってな? 熟年の漁師でも近づくことすらできひん。 おまけに島の上空は常に台風並みの強い風が吹いとるから、飛行船みたいな飛ぶもんでも着陸は不可能や」
「ではどうやって・・・」
「鬼ヶ島には正規のルートがあってな? そこを船で通れば、渦に飲まれずに島に着ける」
「正規のルート?」
「ふんぬっ!」
ここでハナナがようやく起き上がった。
頭に乗っていたきな子はとっさに彼女の肩にしがみついたため、振り下ろされずに済んだ。
「もともと鬼ヶ島の周囲にある渦は、鬼一族が島を守るために魔力で作ったものなんです。
魔力が失われた現在でも健在なのは、鬼一族の執念と言われています」
「・・・? 待て。 鬼一族が作ったと言うことは、ルートを知っているのは鬼一族だけではないのか?」
キルカが言わんとしていることはここにいる全員察しがついていた。
渦を作ったのが鬼ならば、ルートを作ったのも鬼。
しかし、鬼一族はすでに1匹残らず絶滅している。
それはつまり、ルートを知っている者はいないと言うことになる。
「・・・はい。 ルートを知っているのは鬼だけです」
「では、どうしようもないではないか」
「何言うてんねん。 ”ルートならゴウマちゃんが知ってるやろ?”」
「・・・? どういう意味だ?」
「・・・! あれ? ゴウマちゃん、まだ話してへんかったん?」
「・・・」
周囲の視線が一斉にゴウマへと向けられる。
ゴウマは気まずそうにみんなから顔を背けるが、セリアとセリナは構わず詰め寄る。
「どっどういうこと? お父さんはルートを知ってるの?」
「・・・あぁ、知ってる」
「どっどうしてお父様がルートを知っているのですか!?」
「そっそれは・・・」
言葉に詰まるゴウマの姿を見かねたハナナが代わりに口を開く。
「みなさん・・・確かに鬼一族は全滅しました・・・鬼だろうが人だろうが、死んだ者は生き返りません。 ですが、例外はあります」
「例外?」
セリア達の視線がハナナに移り変わった。
「・・・”転生”と言う言葉をご存じですか?」
「転生?・・・確か、死んだ者の魂が記憶を保持したまま別の生命としてこの世に生を受ける現象と前に本で読みました・・・!! まさか・・・」
「はい・・・お察しの通りです。 ゴウマ国王は、かつて影との戦いで命を落とした鬼・・・”闇鬼”の転生者です」
『!!!』
驚愕の事実に、周りは言葉を失ってしまった。
夜光「おいなんだ! 最後の暴露話! 俺の救出劇がやっと始まったって言うのに、なんで親父が目立ってんだよ!」
キルカ「まあ、タイトルにもなっている中二くさい神器の話も一気に頭から飛んだな」
夜光「作者の奴! 最近スランプ気味だからって、詰込みすぎじゃねぇのか?」
キルカ「まあ、こうでもして話を進めなければ、パパは後書きでしか話せなくなるからな」
夜光「主人公が後書きにしか出てこないって、冗談でも笑えねぇぞ?」
キルカ「まあ、冗談ではなく、現状そうなってはいるがな」
夜光「もういっそ、このまま死んで異世界転生させてくれ・・・」
キルカ「(出番がなさ過ぎてブルーになるパパであった・・・)」




