予期せぬ再会
毎回日をまたいでしまう自分の更新の遅さに自分でも呆れています。
再び夜光がいるサトイ病院を訪れたセリア。
その後をマイコミメンバー達に付けられ、夜光のことが露見してしまった。
そんな中、医師から告げられたのは、夜光が1週間の命だと言う胸を貫くような余命宣告であった。
冷静さを失い、錯乱状態になるマイコミメンバー達に、ゴウマは病院への出禁を言い渡した。
「なっ何をおっしゃっているのですか!?」
「・・・」
理解しがたい言葉に、セリアは彼の服を掴んで詰め寄る。
だがゴウマは表情を全く崩さないまま、セリアの手を払いのける。
「言葉通りの意味だ。 お前達は金輪際、この病院には来るな! お前達には叶えたい夢があるのだろう? 今は自分のやるべきことに集中するんだ」
「何言ってんだよ!? 兄貴が死ぬかもしれない時に、夢がどうとか言ってる場合じゃねぇだろう!?」
「ボク、今からダーリンを付きっ切りで看病する!」
「そうだね! 1人ぼっちは寂しいもん!」
ゴウマの言葉を聞き入れないどころか、夜光の看病を宣言したレイランに賛同するマイコミメンバー達。
もちろん、そんなことはゴウマもわかりきっていた。
だがこれ以上、夜光のことに関わってしまっては、彼女達が掴んだチャンスを手放すことになってしまう。
「バカなことを言うな! せっかく掴んだチャンスを不意にする気か!?
情や情けを封印し、ゴウマは淡々とマイコミメンバー達を帰そうと試みる。
「・・・わかっています・・・でも、このまま夜光さんを放っておくことなんて、私にはできません。
そんなことをするくらいなら、”夢なんてどうでもいいです”!」
「!!!」
バチンッ!
診察室内に、乾いた音が響く。
頭の中が夜光一色に彩られていたマイコミメンバー達も、音に惹かれてゴウマとセリアに視線を集める。
「おっお父様・・・」
セリアは一瞬何が起きたのかわからなかった。
だが徐々に頬から感じる鈍い痛みが、彼女に”ぶたれた”と告げる。
手で押さえると、頬からわずかな熱を感じるセリア。
だが痛み以上に、彼女の頭を支配していたのは、”ゴウマが自分の頬を力強くビンタした”と言う事実に対する驚きであった。
ゴウマはこれまで1度もセリアに対して手を上げたことがない。
穏やかな性格故か、同じ娘であるセリナに対しても手を上げることはなかった。
だからこそ、このたった1発のビンタは日常で起こりうるものよりも、重く周囲に受け止められたのだ。
「どうでもいいだと?・・・なんてことを口にするんだ!!」
「・・・」
「世の中には、お前のように夢を追って努力することができる人間だけじゃないんだ!
夢を叶えられなかった者・・・夢を追うことに挫折した者・・・夢に向かって努力することすら許されない者・・・自分の思うように生きられない者が大勢いる! そしてお前は今、その者達を侮辱したんんだ!」
「わっ私は・・・」
「お前は・・・いや、お前達はわかっていない! 自分達がどれほどめぐまれているか!
今掴んでいるチャンスだって、お前達の力だけで手に入れた訳じゃないだろう!?
ホームのスタッフ達・・・ギルドの職員達・・・そして、お前達にチャンスをくださった人達・・・大勢の人間がお前達のために動いてくれたからこそ! お前達はそうして頑張れるんだ!
そんな多大な恩を、お前達は一時の感情だけで、それらを全て無にする気か!?」
初めて腹の底から大声で怒鳴ったゴウマは、肩から呼吸をし始めた。
彼女達の夜光を想う気持ちを全力で否定し、愛する我が子にまで手を上げる自分。
この時ほど、ゴウマが自分自身に嫌気が差した時はない。
『・・・』
初めて目の当たりのするゴウマの怒りに、マイコミメンバー達は言葉を失い、硬直してしまっていた。
何か言い返そうと、関上げてはいるのだが、ゴウマの最もな言葉に対する反論が思い浮かぶ者は現れなかった。
「・・・わかったら、とっとと行け! 言っておくが、王であるワシの言葉を無視してここに来れば、お前達を反逆者として捕える! そうなったらどうなるか、わかるな?」
『!!!』
ゴウマの目は本気だった……。
それはすなわち、病院に再び足を踏み入れば犯罪者になると言うこと。
そうなれば、マイコミメンバー達の未来は絶望へと染まる。
その後、ゴウマはホームに連絡し、マイコミメンバー達を送迎するためにスタッフを何人か呼び出した。
ゴウマの強い言葉が響いたのか、マイコミメンバー達は抵抗せず、スタッフ達に連れて行かれた。
「・・・親父。 何もあそこまで・・・」
マイコミメンバー達が立ち去った後、事の成り行きを見守っていた誠児が口を開いた。
「・・・ああでも言わないと、あの子達は引き下がらんだろう・・・」
「だからって・・・」
「それに、”あのこと”を知られる訳にはいかない」
「・・・それって、前に言っていた”アレ”ですか?」
「・・・そうだ。 こうなった以上、夜光を救う術はアレしかない・・・誠児」
ゴウマは乱れた息を整え、背中越しに誠児に語り掛ける。
「ワシには、夜光をこの世界に呼んだ対なる者として責任がある。 だがそれ以上に、夜光はワシにとって家族も同然の男だ。 だから、あいつを救える可能性が1つでもあるなら、ワシはそれに賭けたい」
「・・・あぁ、それは前に聞いたよ」
実は夜光が入院してすぐ、ゴウマは誠児に自分が夜光を呼んだ対なる者であることを告げていた。
それを聞いた誠児は咎めるようなこともせず、「そうか・・・」とあっさり受け入れた。
まだ1年も経っていないが、彼にとって、心界とホームは第二の故郷と呼んでもいいほど居心地の良い場所。
ゴウマに対しては、怒りよりも感謝の気持ちの方が大きいくらいだ。
そしてその際、誠児はゴウマから”ある提案”を持ちかけた。
治療すらできない夜光を救えるかもしれない唯一の方法・・・だがそれは、非常に危険な賭けでもある。
「誠児・・・ワシはこれから”島”に向かう準備に取り掛かる。 お前はどうする?」」
「・・・それも前に言ったはずですよ?・・・夜光を助けられるのなら、俺はどんなことだってやります!」
「・・・そうだったな。 では、準備が終わるまで、お前は夜光のそばについていてやれ」
「はい、わかりました」
「くれぐれも夜光には”例の件”について話したりはするな。 あいつが知れば、絶対に拒否するだろうからな」
「わかっています・・・」
ゴウマは準備に取り掛かるため、誠児は夜光に付き添うために、それぞれ診察室を後にしたのだった……。
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病院から強制的に追い出されたセリアは、その足で城の自室に帰ってきていた。
ほかのマイコミメンバーもそれぞれ帰宅して行った。
「私は一体・・・どうすればいいのですか?」
セリアは自室のベッドに横たわり、見慣れた天井とにらめっこしながら自問自答を繰り返していた。
彼女の脳裏によみがえるのは、怒りに満ちたゴウマの言葉。
彼の言っていたことは全て正しいし、道理にも叶っているとセリアも思う。
だが、納得しようとする彼女の頭をちらつかせる苦しむ夜光の顔。
「・・・書けない」
気を紛らわせようと原稿用紙の上でペンを走らせようとするが、ペンは一向に進まない。
彼女の中ではまだ踏ん切りがついておわず、その迷いがペンの進行を停止させているのだ。
「・・・」
セリアはペンをペン立てに立て掛け、お気に入りの小説を読んで、乱れた心を鎮めようと試みる。
本の世界に入り込めば、どれほど心が騒いでいようと、徐々に静まり返るのが彼女のスタンダート。
だが、いくら読んでも心の乱れや迷いは消えることはなかった。
「・・・できた」
心の平常を取り戻すことはできなかったセリアだったが、とうとう小説を書きあげることができた。
彼女自身も、最高の出来だと胸を張って言えるほどの自信作だ。
「あっ・・・」
達成感に包まれた彼女の目に映ったのは、壁に掛けてあるカレンダーだった。
そこには、跨いだ日に付けられたバツ印が、丸に囲まれた日の前日で止まっていた。
その丸はセリアが応募しようとしている小説大賞の期日を現わしている。
「もうこんな時間!・・・」
今日が期日であることに気付いたセリアは慌てて時計を確認するが、長針と短針は午後2時半を示していた。
応募は今日の午後3時まで……郵送では間に合わないが、小説大賞の発表会が開かれるホールに行けば、直接応募することはまだ可能である。
「ここから会場まで、馬車を使えばどうにか・・・!!!」
この時セリアの脳内に、サトイ病院で聞いた医師の余命宣告が再生された。
「1週間って・・・ちょうど今日じゃ・・・」
むごい現実がセリアの胸を貫いた。
夜光の余命と小説大賞の期日……2つのタイムリミットが今日重なっていたのだ。
サトイ病院とホールはちょうど正反対の場所に位置している。
もしサトイ病院に向かえば、確実に小説大賞には応募することができない。
そうなれば、セリアの夢は遠のいてしまう。
しかし、応募した後に病院へ行けば、かなりの時間をロスし、夜光が死ぬ可能性が高まる。
「・・・(夜光さんが死ぬとは限りません)」
少し迷った末、セリアはホールへ向かうことを決意する。
書き上げた小説をカバンに入れ、会場に向かおうとするセリア。
自室のドアを開けた瞬間、その足が突然止まった。
「・・・」
夜光の頭に、ある記憶が再生される。
それは、夜光と初めて出会った日の夜……今、セリアのいる場所で、上手く人と話せない彼女を不器用ながら励ます夜光の言葉。
大きな体で優しく抱きしめた時に感じた彼のぬくもり……。
今、セリアが立っているその場所で、彼女は夜光のことが心に残ったのだ。
当初はそれがなんなのか気付かなかったが、今ならそれが恋だとはっきり言える……口にすることもできる……セリアをそこまで強くしたのは夜光と言う1人の男
そしてそれは、セリアだけではない……姉であるセリナや仲間であるマイコミメンバー達……みんな夜光がいたから、寄り添うことができた……夢を追う力を持てた。
何よりも、セリアは夜光と約束した……自分の書いた小説を1番最初に読むと……。
「・・・私は一体、何をしているのでしょうか? 大事な約束まで忘れて・・・」
セリアの決意はとうとう固まった。
うつ向いていた顔を上げ、自室を飛び出したセリアは馬車が止まっている城の停留所へと走った。
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「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・あの、すみません。 急いでサトイ病院に向かってくれませんか?
」
停留所についたセリアは、馬車の上で待機している御者にサトイ病院へ向かってほしいと願い出た。
御者はいつもの老人ではなく、かなり若い男のように見えた。
だが、黒い帽子を深くかぶり、顔の半分が見えない。
「あっあの・・・すみません・・・」
無言のまま、目も合わせない御者を不信に思いつつ、もう1度声を掛けるセリア。
すると、御者は口元を緩ませ、不気味な笑みを浮かべる。
「・・・本当にそれでいいのかい?
「えっ?・・・」
「・・・君が行くべき場所は、そこではないだろう? セリア」
「あの・・・何を言って・・・」
「それとも、あんな死にぞこないのために、君は夢を捨てると言うつもりかい? 君はそこまで愚かな女性はないだろう?」
「どっどうしてあなたにそのようなことを言われなくてはいけないのですか!?
私がどのような決断をしようとも、あなたには関係ありません!!」
セリアの強気な発言に、御者は「ヤレヤレ・・・」と言わんばかりに首を左右に振る。
「悲しいな・・・関係ないなんて・・・僕と君の中じゃないか・・・」
「あっあなたは一体・・・!!!」
「僕の顔を忘れたのかい? セリア」
そう言って、御者はかぶっていた帽子を取り、素顔を露わにした。
その顔を見た瞬間、セリアは驚きと恐怖のあまり、金縛りにあったかのように硬直してしまった。
「あっあなたは・・・」
「思い出してくれたかい? 僕の愛しいセリア」
「ぜ・・・ゼロン!!」
そこにいたのは、かつてセリアが心を許していた数少ない人物、ゼロンであった。
ライカ「きゃぁぁぁ!!」
ルド「うわぁぁぁ!!・・・ってなんだよ急に!」
ライカ「さっ最後のシーンが怖くて思わず・・・」
ルド「お前の悲鳴の方が100倍怖いわ!!」
ライカ「だって、死んだ人間が目の前にいたら驚くでしょう!?」
ルド「だからってビビりすぎだろう!? だいたいお前は・・・」
笑騎「よう、2人共! 何してんの!?」
ライカ「いやぁぁぁ!!」
ルド「来るな!! 変態野郎!!」
ボカッ!!スカ!!(殴られる音)
笑騎「おっ俺が何したっちゅうねん・・・」




