余命宣告
次でセリアのストーカーを出したいと思います。
・・・できたら。
サトイ病院の中で入院している夜光を見つけたセリア。
夜光は自身の身を案じるセリアに対して激しく拒絶するも、吐血して苦しみ出す。
医師の治療のために追い出されるセリアは、夜光のお見舞いに来たゴウマと出くわす。
セリアはゴウマを問い詰め、夜光の症状は過去に使用していた違法薬物が原因だと知る。
何もできない自分を呪いながらも、セリアは夢に向かってペンを走らせる。
そんな彼女の元を訪れたのは、夜光を心配したマイコミメンバー達であった。
「セリア様、夜光さんがどこにいらっしゃるかご存じなのですか?」
「そっそれは、その・・・」
スノーラに詰め寄られるセリア。
夜光のことを伝えることは簡単ではあるが、それはつまり、彼の病状を知ると言うことになる。
そうなれば、彼女達はセリアと同じように、夜光と夢の間に揺れることになる。
特に、お人よしのセリナや夜光に対する愛情を隠さないキルカとレイラン辺りは、自身の夢を放って夜光に付き添う可能性が高い。
だがマイコミメンバー達に夜光のことを伝えないのは、”同じ想い”を抱く同志として卑怯で後ろめたく思うのも事実。
彼女達の夢と想い、2つを天秤にかけたセリアは決断し、ゆっくりと口を開く。
「・・・存じ上げません」
セリアは夜光のことを黙秘することに決めた。
後に何等かの形で知られれば、彼女達はセリアを責めたてるかもしれない。
だがそれでも、自分達の夢が掛かっている大事な時期を不意にしたくない気持ちが勝った。
「セリアちゃん、本当に知らないの?」
「・・・はい」
再度確認するセリナに対しても、知らぬ存ぜぬを主張するセリア。
彼女の言葉を信じたマイコミメンバー達は、それ以上の追求はしなかった。
「ダーリン、どこに行っちゃったのかな?」
「・・・とにかく、もう1度心当たりを探してみましょう。 夜光君のことだから、きっとその辺りでお酒でも飲んでいるでしょうから」
「・・・そうだね」
マイコミメンバー達は夜光捜索を再開するために、マイコミルームから立ち去って行く。
ところがセリナは、ドアの前で1度立ち止まり、セリアと目を合わせる。
姉妹ゆえの特別な力が働いたのか、セリアはその目から、セリナが疑念を抱いていることを読み取った。
「・・・セリアちゃん」
「なっなんでしょうか? お姉様」
「・・・ううん、何でもない・・・小説頑張ってね」
セリナはそれだけ言い残すと、マイコミメンバー達を追って走り去って行った。
走り去る際にセリナが見せたいつものにこやかな笑顔が、セリアの心に罪悪感と言う名の痛みを与える。
「・・・ひどい顔」
壁に掛かった鏡に、何気なく目を向けるセリア。
鏡の中の自分の顔を、セリアは醜いと感じた。
夜光と自分の夢の中で揺れ動き、はっきりとした答えを出せないでいる自分。
姉とマイコミメンバーに夜光のことを黙秘し、それすらも後悔している自分。
「・・・」
決断できない自分に嫌気がさし、セリアの頬を一筋の涙が流れる。
その日の夕方……。
結局思うように小説進めることができなかったセリアは夜光のお見舞いに、馬車でサトイ病院へと向かった。
お見舞いとは名ばかりに、様々なことがのしかかり、つぶれそうなセリアの心が、夜光に救いを求めたのだ。
とはいっても夜光は面会謝絶しているため、会って話すことは難しい。
なので、夜光の顔を遠目で一目見るだけに留めることに決めていた。
------------------------------------
セリアが病院に到着した頃には、辺り一面、夜の闇に覆われていた。
ロビーには以前と変わらず多くの患者達を、医師や看護婦達が応対している。
セリアは人の波を駆け抜け、夜光の元へと進みだす。
「セリアちゃん!」
「!!!」
背後から突如呼び止められたセリア。
その声と呼び方は、彼女が人生の中で何度も耳にしたもの。
間違えようのない自身の認識に疑念を抱くが、後ろを振り返った瞬間、疑惑はシャボン玉のように打ち消された。
「おっお姉様・・・みなさん・・・」
セリアの後ろには、セリナを含めたマイコミメンバー全員がそろっていた。
「驚かせてごめんね。 実は、みんなでセリアちゃんを付けてきたの」
「つっ付けてきた?・・・どっどうしてそんなことを・・・」
状況が理解できずにいるセリアの額を、近寄ってきたライカがからかうように人差し指で軽くつつく。
「嘘をつきたいなら、次からはポーカーフェイスって言うスキルを身に付けなさい。
マイコミルームじゃ、あんたに合わせてみんな引っ込んだけど、正直、表情で嘘がバレバレだったわよ?」
「そっそうですか・・・」
嘘がバレたと言う点について、セリアはさほど驚きはしなかった。
セリア自身、嘘が下手なのは重々承知している。
尾行は盲点ではあったが、マイコミメンバー達が嘘を見抜いて行動を起こす可能性を考えていない訳ではなかった。
だが、夜光と夢の中で揺れ動くセリアの心には、警戒するだけの余裕はなかった。
「セリア・・・ダーリンはこの病院にいるの?」
「そっそれは・・・」
再び口を閉ざすセリアの肩にキルカの手が乗せられる。
「ここまで来たのだ。 今更、隠しても仕方ないだろう?」
「・・・はい」
キルカの言葉に折れたセリアは、マイコミメンバー達を連れて夜光の病室へと赴くことにした。
------------------------------------
「・・・失礼します」
小鳥がさえずるような声と共に、セリアを先頭にしてマイコミメンバー達は夜光の病室へと入っていく。
『!!!』
幸いにも夜光は眠っていたが、変わり果てたその姿にマイコミメンバー達は言葉を失った。
夜光は最初にセリアが見た時よりもさらにやつれており、顔もまるで死者のように青白くなっていた。
心なしか、腕に刺さっているチューブの数も増えているように思えたセリア。
「セリア・・・これはどういうことなんだよ・・・兄貴、なんでこうなってんだよ!」
「・・・」
「それはワシから話そう」
取り乱すルドを静めるような優しい声音で話しかけてきたのは、病室に入ってきたゴウマであった。
その背後には誠児もいるが、セリア達と顔を合わせようとはしない。
「セリアが来た時から、なんとなくこうなるとは思っていたよ」
隠すことを諦めたゴウマは深いため息を吐き、マイコミメンバー達に夜光の現状について話した。
「・・・と言う訳だ。 お前達に隠していたことは謝る・・・批判も受け入れよう・・・」
『・・・』
話を聞き終えたマイコミメンバー達は、全員沈黙に走った。
あまりに衝撃的な事実に、彼女達の心には多くの負の感情が渦巻いている。
”不安””怒り””恐怖””悲しみ”、大きくなっていく感情が互いにせめぎ合い、感情が表に出ず、マイコミメンバー達は放心状態になってしまっている。
話を聞くのが2度目のセリアですら、心が負に乱れてしまっている。
コンコン・・・。
沈黙が支配する病室の空気を打ち消したのは、ドアをノックする音だった。
開いたドアの向こうにいたのは、夜光を担当している医師であった。
白衣に身を包んだ紳士的な振る舞いの40代の男性医師は、ゴウマに視線を向けてこう言う。
「ゴウマ国王様。 少しお時間よろしいでしょうか?」
「はい、もちろんです」
ゴウマはそう言って立ち上がると、マイコミメンバー達に向かって「お前達はここで待っていなさい」と留まるように言いつける。
「誠児、行こう」
「・・・はい」
ゴウマは誠児を連れて、医師と共に病室を出て行った。
-----------------------------------
医師に連れられてゴウマ達が訪れたのは診察室であった。
ここで語られるのは、夜光の症状について。
耳を塞ぎたくなる報告ばかり聞かされる2人にとっては、あまり居心地の良い場所ではない。
「・・・それで先生。 夜光の容態はどうでしょうか?」
「・・・検査の結果、患者の体を蝕んでいる毒素は心臓にまで到達していることがわかりました。
申し上げにくいことですが、ここまで来てしまっては、もはや手の施しようが・・・」
「・・・先生。 夜光は後どれくらい生きられるんですか?」
ストレートなゴウアの質問に、誠児は息を飲む。
医師は机の資料を数ページ捲った後、ゆっくりと口を開く。
「もってあと・・・1週間かと・・・」
バンッ!!
医師が口にしたその言葉と共に、診察室のドアが勢いよく開いた。
「どっどういうことですか?」
ドアを開いたのは、お化けでも目の当たりにしたかのように青ざめた顔をしたマイコミメンバー達だった。
夜光の状態が気になった彼女達は、こっそりゴウマ達の後を付けて聞き耳を立てていたのだ。
そして、医師が放った報告が、彼女達の理性を壊し、ドアをぶち破る言う暴挙に狩り立たせてしまったのだ。
「お前達・・・」
「嘘・・・嘘だよね!? ダーリンが1週間しか生きられないなんて・・・何かの間違いだよね!?」
「ちょっとあんた、医者でしょ! 無責任なこと言わないでよ!!」
「おいっ!ライカ! やめろ!」
医師に掴みかかろうとするライカを羽交い絞めにして止める誠児。
スノーラほどではないものの、マイコミメンバーの中では比較的冷静な部類に入るライカ。
そんな彼女が、初対面の医師に掴みかかるなど、普段の彼女を知る者が見れば異常な行動だが、夜光を想う気持ちを考えたら、無理もないと思える所もある。
「なあ、頼むよ! もっとちゃんと調べてくれよ!!」
「「お願いします!」」
ライカを止めた所で、感情的になりやすいルドとセリナとレイランの詰め寄りは許してしまった。
「・・・」
「・・・」
こう言った状況では、率先して止めに入るであろうスノーラとミヤは、ドアの前で放心したように立ち尽くしていた。
夜光の余命宣告が、彼女達の心に深い傷を負わせ、意志を縛り付けているのだ。
「嘘・・・嘘・・・」
セリアは診察室の壁に寄りかかったまま崩れ落ち、事実から目を背けるように、耳を塞ぎ、呪文のように”嘘”と言う言葉を繰り返していた。
「くっ!」
キルカも冷静さを失い、医師が机に並べていた夜光の診断結果の書類を勝手に読み明かしていた。
だが、医学の知識を持っているとはいえ、キルカは医師でもなければ、薬剤師でもない。
そんな彼女が診断結果を見たところで、どうすることもできる訳がなかった。
「お前達! いい加減にしろ!」
『!!!』
滅多に怒鳴ったりしないゴウマの怒鳴り声に、マイコミメンバー達はひるんでしまった。
その隙をついて、医師に詰め寄っている3人を引きはがす。
「先生、申し訳ありませんが、少し席を外していただけますでしょうか?」
「わっわかりました」
「すみません・・・」
医師を一旦退室と言う形で避難させた後、ゴウマはマイコミメンバー達に向かってこう言う。
「王として命ずる! お前達・・・今すぐこの病院から出ていけ! そして・・・2度と夜光の病室に来るな!」
この時のゴウマは、娘であるセリナとセリアでも始めて見る憤怒の顔であった。
マナ「夜光さん。 1つ引っかかることがあるんですけど」
夜光「なんだ?」
マナ「章にある鬼ヶ島っていつ出てくるんですか?」
夜光「章の後半くらいに出てくるとか聞いたぜ?」
マナ「鬼ヶ島ってことは、鬼退治に行くってことですか?」
夜光「桃から生まれた人間が実在するならな」
マナ「やっぱりイカダで行くんですか? それとも亀に乗って行くんですか?」
夜光「亀は話が違うだろ」
マナ「かぼちゃの馬車かな?」
夜光「せめて童話に統一しろ!」




