希望の可能性
最近、どっと仕事が忙しくなり、小説が手に着かないことが増えました・・・って前にも似たようなことを行ったような……。
温かな家族の暮らしはもう戻らない。
生きることさえつらいジルマが最後に望んだことは、異種族ハンターに連れ去られたルコールを見つけ出すこと。
それを叶えるために、彼は影と言う悪魔の力を手にしたのであった。
そして、再び開戦するマスクナとアストの戦い。
ゴウマはアストを勝利させるために、希望を掛けた電話を繋げるのであった。
ホームの地下施設にあるシャワールームにて、体から噴き出す汗を流す者がいた。
このシャワールームはたまに地下施設で戦闘訓練を行っている夜光達の汗を流すために作られたもの。
たびたび地下施設で働く者達も汗を流しているため、広い意味で重宝されている。
「ふふふ~ん」
体がお湯に包まれるなんとも言えない快楽から、陽気な鼻歌がシャワールームに響く。
「失礼します!!」
しかしそこへ突然、ドアを思い切り開く無法者が現れた。
それはホーム兼地下施設の男性スタッフであった。
彼が入ったのは女性用のシャワールームであるため、本来ならば女性から制裁を受けて騎士団に連行されるオチだが、今回は少し特殊であった。
「覗くなや! このスケベ!!」
それはシャワーを浴びていたのが、きな子であるということ。
浴びているとは言っても、シャワーで貯めたお湯を桶に貯めて作った簡易風呂に入っているだけ。
女性は1人もいないが、これはきな子がシャワー中は誰も入るな立札をドアに掛けていたからだ。
だからきな子以外誰もいない女性用のシャワールームに男性スタッフが躊躇なく入ることができたのだ。
女性用シャワールームに男性が入るのは良くないが、やはりウサギしかいないことを踏まえると、入る抵抗感が薄れるのも仕方ないこと。
それでもノックくらいはとは思うが、彼には急ぎの用件があった。
「もっ申し訳ありません! ですが、親父から緊急連絡が入っています! 大至急メインルームにお戻りください!」
「なんやて? ゴウマちゃんが?」
きな子は桶から出ると、バスケットに入っているタオルで体を軽く拭くと、男性スタッフを横切っドアをくぐる。
だが、シャワールームを出ると、背中を向けたまま男性スタッフに告げる。
「兄ちゃん。 慰謝料用意しときや」
それだけ言い残すと、きな子はメインルームに走って行った。
「・・・は?」
茫然とする男性スタッフだが、後日、彼はきな子によって痴漢容疑で騎士団に通報され、数十万クールの慰謝料を本当に支払わせられた。
以降彼は、その時のことがトラウマとなり、シャワールームを使うことはなくなった・・・と噂されている。
「あっ! きなさん、ひどいですよ! 私に仕事を押し付けて勝手にシャワーなんか浴びに行って!」
メインルームできな子を出迎えたのは、作業着に身を包んだハナナであった。
手には工具を持っており、顔や頭のヘルメットには、油の汚れがべったりとついている。
パっと見ただけでは、ただの女性作業員にしか見えない。
だがきな子は「そら、ご苦労さん」と薄っぺらい労いの言葉だけ掛けると、通信担当の女性スタッフの肩に飛び乗る。
「ゴウマちゃんから連絡あったんやてお?」
「はい。 周辺に電波塔がないので、非常用電話で騎士団本部を経由してこちらに連絡を取っているようです」
「姉ちゃん、悪いけど、ちょっと席変わってくれへんか?」
「はい。 どうぞ」
女性スタッフが席を離れると、きな子は肩から席へと飛び移る。
そして、通信装置のスイッチをオンにすると、設置しているマイクに向かって「ゴウマちゃん聞こえるか?」とゴウマに呼びかける。
『・・・先生ですか?』
「どないしたんや? 今日は劇見に行ってたんやないんか?」
『話せば長くなるので、端的に申しますが、実は、今アスト達が戦闘中でして、かなり苦戦しているんです』
「影の連中かいな?」
『いえ、ある意味、それ以上の強敵です』
「気になるな・・・ちょっと待って」
きな子は席を代わってもらった女性スタッフに目を向ける。
「姉ちゃん。 すまんけど、アストのマスクとメインモニターをリンクしてって、みんなに頼んできてくれへんか? 電波塔なくても、映像だけならつなげるができるさかい」
「わかりました!」
女性スタッフはそう言うと、どこぞに走って行った。
「きなさん。 どうかしたんですか?」
女性スタッフと入れ替わりにやって来たハナナにきな子は「なんかヤバいらしいで」とだけ伝えるが、当然、ハナナは首を傾げるだけだった。
すると直後、メインモニターにアストのマスクに映る映像が映し出された。
そこにはアスト達が、魔物と化したマスクナと悪戦苦闘を繰り広げていた。
「きゃぁぁぁ!! おばけぇぇぇ!!」
モニターに映るマスクナを見て腰を抜かすハナナ。
それを無視してきな子はゴウマとの連絡を再開する。
「今、モニターで確認したけど。 なんや?このライザップに失敗したターミネーターみたいなんは?」
『正体については後日お話します・・・先生、お願いします。”キバ”を使わせてください』
「キバ!?」
キバという言葉を聞いた瞬間、きな子やハナナを含めた周囲が目を丸くした。
それは、アストの戦力強化のために極秘裏に作られている新たな力。
きな子とハナナがホームの地下施設にいるのも、キバの開発を進めているためである。
「使わせてと言われても、キバの外装はさっき完成したけど、まだ内部調整がほとんど終わってへんねん。 はっきり言うて、今出すのはおすすめできんわ」
『それはわかっています。 ですが、このままではあの子達は殺されてしまいます。
かといって、我々を置いて撤退するような冷静な判断は下せないでしょう』
常々、身の危険を感じたら逃げるように強く言いつけてはいるが、アスト達は感情的になって行動する節が多々ある。
それは戦士としては未熟かもしれないが、それが優しさ故の未熟さだからこそ、ゴウマは彼女達を信頼しているのだ。
「そうやろうな・・・でも危険なことに代わりないで? それでもええんか?」
『・・・先生。 ワシは、あの子達の心の強さに掛けてみたいんです』
「なかなかのギャンブラーやな。 それは好奇心からか?」
『いえ、家族を信じる心からです』
ゴウマのまっすぐな言葉に、きな子は肩を落として「ゴウマちゃんにはかなわんわ」と漏らすとマイクに向かってこう言う。
「了解や」
それを聞くと、ゴウマは『ありがとうございます』と言い残して電話を切った。
そして、きな子の方も準備に取り掛かるのであった。
グレイブ城でマスクナと戦闘しているアスト達は、全く先の見えない戦いに恐怖と不安を覚え始めていた。
「これならどうだぁぁぁ!!」
「いっけぇぇぇ!!」
「!!!」
セリア、ルド、セリナは呼び出したイーグルにまたぎ、全身全霊のイーグルキャノンをマスクナ目掛けて放った。
3つの閃光がマスクナを貫き、辺りに破片が飛び散る。
だがマスクナは余裕を持て余すかのように口元を緩ませる。
「無駄なことばかりなさる方たちですね」
マスクナはあっと言う間に再生し、元の状態に戻った。
そして、長く伸ばした腕をムチのように振るい、イーグルで飛んでいるセリア達を叩き落とした。
3人共、イーグルキャノンを使った反動で避けることができず、モロに喰らってしまった。
「「きゃぁぁぁ!!」」
「うわぁぁぁ!!」
3人は深い森の中へと墜落していってしまった。
すぐさまスノーラが3人に通信を飛ばす。
「セリア様! セリナ様! ルド! 3人共大丈夫ですか!?」
『あぁ、どうにか生きてるぜ。 でも、体が石みたいに動けない』
『わっ私も・・・大したケガはしてないけど、すごくダルくて起き上がれない』
『ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・』
3人の無事を確認することはできたが、マスクナとの戦闘で蓄積した疲労に加えイーグルキャノンの反動まで追加されたことで、一気に3人の体を硬直させてしまった。
セリナはともかくとして、セリアとルドはメインの武器をマスクナに破壊されているため、不慣れなシェアガンで応戦していたが、ここまで疲労が表に出ていてはそれもできないと判断したスノーラは3人にこう告げる。
「わかりました。 とにかく3人は、その場で体力の回復に専念してください」
スノーラは通信を切り、マスクナに向けて弓を構えるミヤの元に駆け寄る。
ミヤの前には盾を構えたレイランが守備に徹している。
「スノーラ、セリア達は無事なの?」
「あぁ。 だが3人共、かなり疲弊している。 加勢を求めるのはやめておくべきだろうな」
「そうね。 かといって、わたくし達も余裕がある方ではないわ。 このまま長期戦が続けば、間違いなくわたくし達が敗北する」
そこへ、2人の会話にレイランが盾を構えたまま割って入る。
「でも、どうやって倒せばいいの? ボク達の攻撃どころか、切り札のイーグルキャノンすら効かないんだよ?」
レイランの問いに対する回答は、ミヤとスノーラも知りたいものであった。
そして、ライカはと言うと、マスクナが繰り出す無数の拳を片っ端から斬り落としていた。
単調な攻撃のため、斬り落とすたけなら簡単だが、それが無限に再生するため、結果的にライカの体力が削られるだけであった。
「これじゃあ、キリがないわ! 一体どうしたら・・・あぐっ!!」
無数の拳の1つがライカの腹部に命中してしまった。
蓄積していった疲労が生みだしてしまった小さな隙が、彼女の大きなダメージの要因となってしまったのだ。
ライカは殴られた際の衝撃のまま、地面に叩きつけられ、数メートル転がってっしまった。
幸いにも、急所は外れていたので、大事には至らなかった。
ただ、疲労がかなり限界を迎えており、激しい息切れを起こしていた。
「うっ・・・! キルカ」
起き上がったライカの目に映ったのは、茫然とうつ向いているキルカであった。
先ほどの話を聞いて頭かなり混乱しているようで、目に光が灯っていないように見えた。
するとそこへ、全員に向けた通信が入った。
『みんな! 無事か!?』
通信を入れたのはゴウマであった。
彼らがいるのは電話の使えないエリアだが、マインドブレスレットとゴウマの通信機は女神石の不思議な力で通信しているため電波塔は不要。
『よく聞いてくれ。 今から君達の中の2名を転送システムでホームに送る。 そこできな子先生の指示に従って動いてくれ。 後の者はできるだけ、マスクナさんを食い止めてくれ』
撤退命令かと思いきや、転送されるのは2名と言う所が引っかかったアスト達。
その疑問を口にする前に、ゴウマが転送される2名の名を口にする。
『ホームに戻るのは”ライカ”、”キルカ”。 この2名だ』
「待ってください! 話が全然見えません! どうしてあたしのキルカだけがホームに戻らないといけないんですか!?」
意味不明な指示に対する説明を求めるも、ゴウマは顔を少し前に倒して軽い謝罪の態勢を取る。
『すまん、今は説明している暇はない。 とにかく、これがこの状況を打破できるかもしれない唯一の可能性なんだ』
「でっでも・・・」
ライカは横目で隣でうつむいているキルカの様子を伺う。
まだ混乱しているようで、頭を抱えながら念仏のように小声でぶつぶつ独り言をつぶやいている。
客観的に見て、とてもゴウマの指示やきな子の指示に従って行動できるとはライカには思えなかった。
指示に従うことに迷いを見せるライカに、ミヤがこう語り掛ける。
『ライカ。 ここはわたくし達が食い止めておきますから。 あなたはホームに行って』
「何言ってんの? ただでさえ、ギリギリで抑え込んでいるのに、あたし達までここを離れたら・・・」
『そんなことはわかっているわ。 でもこのまま戦ってもいずれわたくし達が負けるだけよ』
『お母さんの言う通りだよ。 ボクもなんとか頑張ってみるから。 お願い・・・』
『ライカ。 心配してくれるのはありがたいが、私達とて自分達の命を守る心構えは持ち褪せている。 危険だと判断したら、みなを担いででも、撤退するさ』
スノーラ達の言葉に後押しされ、ライカはホームに戻る決意を固めた。
「別にあんた達の心配なんかこれっぽちもしてないけど、そこまで言うなら、せいぜい死なないようにしてなさい」
それはライカなりに、みんなの身を案じた言葉を口にした直後、ライカとキルカの体を転送システムの白い光が包み込み、2人は一時的にその姿を消したのであった。
セリア「きゃっ! きっキルカさん! 胸を触るのはやめてください!」
キルカ「すまんな、最近シリアスな場面ばかりで、女体が恋しくなってな」
セリア「こっ困ります」
キルカ「お前が望むのならば、このまま寝屋で初夜を迎えさせても良いのだぞ?」
セリア「えっ遠慮します(キルカさんのこう言う所、夜光さんに似ている気がします)」
キルカ「何やら失礼なことを考えなかったか?」
セリア「いっいえ、そんなことは・・・」
キルカ「体に直接聞いてやろう・・・さあ、大人しく我に身をゆだねるのだ」
セリア「いやぁぁぁ!!」




