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1 イントロダクション

 秋の夕空ってなんであんなにも高く広く感じるんだろうな。

 赤く錆びたような海に大きな夕日がその姿を映しながら、水平線のむこうへと静かに消えていく様子を眺めていると、無条件で郷愁にかられてしまう。

 もっとも、おれは自分の郷里について懐かしいなんて思ったことも、ホームシックにかかったこともない。郷愁といっても、ただ静かに暮れていく一日がもう戻ってくることはないのだと、妙にセンチメンタルな気分になるだけだ。だってそうだろ? 数時間後には、夕日とは比べ物にならないくらい攻撃的な眩しさの朝日によって、また新しい一日が始まり、そしていつも通りに目覚めのコーヒーを味わいながらの一服ともに、おれの日常が繰り返されるんだから。

 そうはいっても、やっぱり美しい景色には人を惹きつけるなにかがあるのは間違いない。この島は西に大きく開けたビーチが数多くあり、そこはたいていが絶好の夕日鑑賞スポットになっていて、島外からの観光客はもちろんのこと、この島の住民にとってもちょっとした癒しを求めて訪れる場所でもあるんだ。

 静かに繰り返す波の音と、澄み渡る風に包まれながら、世界が朱く染められるあの瞬間。人々はどんな思いであの空を眺めているんだろうな。

 そういえば、夕日鑑賞スポットとしても有名なとある展望広場で出会ったある女性はおれにはない不思議な感覚でその夕日を眺めていたな。なんでも、夕日のあの燃えるようなあかは、文字通り命が燃えて海の彼方の楽園へと旅立つときの色なのだと、そんなことをいっていた。

 そのとき、おれは彼女がどうしてそんなことをいっていたのか、正直理解ができなかった。もっといえば、何か怪しい宗教的な妄信でも秘めているのだろうかと、訝しんで彼女のことを見ていたんだ。

 だけど、今となってはおれもなんとなく彼女のいうことがわかる気がする。人の命というのは、その人がどんなにつまらない人生だと思っていても、誰かにとってはかけがえのないものでもあるのだ。

 最後の最後にその人の人生をすべてのみ込んで朱く眩しく燃え上がった炎。それがあの夕日に映されているのだとしたら、あの夕暮れ時の寂しさの理由も、なんとなくわかるような気がすると思わないか。


 まあ、今回おれが目の当たりにしたのは生命の神秘なんていうミステリアスなものじゃない。もっと泥臭くて、ある意味では人間らしい、大いなる絶望と妥協、そして受容の末に待ち構える人の「死」についてだ。

 生まれたからにはおれたちはいつか死ななければならない。それは自然界の法則の中に営むおれたちがすべからく持つ運命だ。

 けれど、その死というものにどうむき合うのかは、人それぞれだとおれは思う。

たとえ一分一秒でも長く生きたいと願うのか。それとも、いまこの瞬間、これまでの人生が最高だったと思いながら、安らかな死を迎えるのか。

 みんなはどうだい? 理想的な死に方なんて変な問いかけだが、けれどそれについて考えておくのは決して無駄なことなんかじゃない。

 なぜなら、誰かの「死」には、必ず他の誰かの「せい」が隣り合っているんだからな。

 

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