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高飛車

作者: 藤黒李桜

「夜桜李桜」と前は名乗りましたが、本日より「藤黒李桜」という様に変えさせて頂きます。よく見れば、桜が二つ付いていたので、「トウコク」というように変えました。

 序章


 一度きりの此の人生において、幾度となく、重みを感じて来ました。

 私の周りを囲うのは、人の群れ。嘗て人は、私の本性を暴き、見下した生き物。そう簡単には信じられるわけでもなく、唯々私は絶望するだけでした。



 一話


「何時も済まないねぇ」


 私の残った唯一の祖母がそう云った。祖母は私にとってとても大事な存在であり、私が周りから蔑まされても、「大丈夫だよ」と頭を撫でてくれていました。


「御前に、何も残せやしなくて、本当に御免ね」

「何を言っているんだい、婆ちゃん。貴女は未死なないでしょう?」

「あぁ、私が御前のお母さんだったら、良かったのにねぇ」


 祖母は、私とは反対方向を向いて、悲しそうに云った。そして私に振り向くと、其のか細い腕で私の頭を撫でました。

 私は、母に捨てられました。母は男遊びが激しく、或る男と遊んでいる内に私を身籠りました。母は勿論母性に駆られたそうですが、物心付く前の私を祖母に預けて、其の儘行方知れずになりました。然し数年前に電報で届いた知らせは、「ハハシボウ」と云う、悲しき通達でした。


「大丈夫だよ、私の母さんは、貴女一人だからね。だから、大丈夫だよ」

「そうかい・・・そうかい・・・」


 祖母の、私の頭を撫でる手が、まるで椿の花が落ちるようにぼとりと畳の上に落ちました。祖母は死んだのです。誰にでも優しく、時に厳しかった祖母は、村の中でも有名の人物でした。祖母が若い時に、村の中で行方不明となった少年を助け出し、其れから一躍有名人となりました。

 村の英雄である祖母の葬式には、村中の人々が集まり、葬儀に涙してくれました。然し私は、何故か涙を流す事を躊躇いました。「冷たい人」と咎める人もいません。


「あぁ、貴方は何て優しい人でしょう」


 不意に、一人の女性が私に話しかけてきました。


「如何して、私が優しいと思ったのですか?」


 彼女は私の問いに「如何してかしらね」と、曖昧に答えた。他の村人達も私の元へと続々と集まり、口々に「優しい」と答えました。


「止めて、止めてくれ・・・!」


 私は彼等の放つ、「優しい」という言葉が嫌になりました。嫌になったと口で云っても、私は其の言葉の重みが嫌でした。

 昔からそう大人達に云われてきた私にとって、「優しい」という言葉は、最早生きるうえでの枷となっていました。気付けば葬式も終わり、私は逃げるようにその村を後にしました。



 二話


 あれから早二年。村を逃げ出した私は、神奈川に居ました。

 じっと身を潜め、村からの手紙にも返答を書く事はありません。其れは今もそうです。自分を閉じ込めていたあの村を捨て、新しい自分を見付ける為に上京して来たのに、私は未だに、‘新しい自分’を見付け出せていなかったのです。


「もう、止めてくれ・・・頼む、から・・・」


 私の声は日を追うごとに枯れて行き、今はうつ病となってしまいました。あの日に浴びた「優しい」という言葉が耳から離れず、ずっと脳内で繰り返されていて、気分すら悪くなっていきます。

 其の一方、私には本気で‘守りたい’、と思う女性が現れたのです。彼女は今と昔の私を受け入れ、毎日私の処に来、其のうえ私に外の世界について教えて呉れるのです。


「大丈夫? 今日は、行けそう?」

「・・・なんとか、行けそうな気がする」


 私は、彼女の言葉に曖昧に答えました。彼女の姿が、優しさが、嘗て親代わりだった祖母に似ていたからです。彼女と祖母の姿が重なってしまって、私の眼には涙が溢れだしました。彼女は私の涙を其の綺麗な指で掃って、私に一つの鈴を呉れました。


「お守り。私と、貴方だけのお守り」


 彼女は悪戯に笑って、私の頭を撫でました。その手つきも祖母に似て、とても暖かいものでした。

 私は外の世界から隔離された部屋に居ました。外の世界と触れ合う事を、私は恐れたのです。金と欲の入り混じる外の世界で、私の様な半端者が生き延びられるだろうか、と。逃げているだけかもしれません。ですが今日私は、外へと出向きます。

 然し、私が外に出る決心をした矢先、悲劇は起こってしまいました。


「おい・・・おいっ!」


 彼女が、事故により亡くなったのです。原因は、最近噂の殺人鬼の仕業でした、警官でも手を付けられず、一旦は迷宮入りとなった捜査だったのですが、彼女の一件で、亦再捜査を行う事となりました。

 私は彼女の遺体を眺め、彼女に縋って云いました。


「お前も、私を独りにするのか・・・? 私は、如何したら・・・君以外を、私は、愛せないよ・・・」


 私は、涙交じりに彼女に云いました。何時もなら笑って返事をして呉れる彼女は、今はもう、帰らぬ人となり、其の体温は冷たくなったのです。

 私は彼女と約束した事を思い出しました。「若し自分が死んでも、前を向け」と。私は彼女の遺体と別れをし、外に出て、天高く跳躍する程に飛び跳ねました。何処かで彼女が、「有難う」と云っている気もしました。

如何でしたか? 一人の男の儚い恋物語でした。

・・・の、つもりでした。

でも此の小説には私の本音も混ざっていますよ? どうぞ、見付けてみて下さい。

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