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狙撃手の日常  作者: 野兎
拠点
98/166

97 穴の中


 俺がさり気なく転移魔法陣の場所に向かおうとしているところ歩いてくる3人が見えた。いや、2人と1……1匹? アオちゃんとキイちゃんと人間サイズのぬいぐるみの熊だ。

 久しぶりに見るような気がしないでもない。2人で色々見て回っているようだ。どうする。ここで身を隠すか。それとも心温かく迎え、拠点の案内をするか。しかし俺も把握しきれていない建物がまあまあある。ここで恥を晒しても良いものか。

 いや、いかん。隠れねば。


 隠密はつけていないが、フードも被っているため多少の阻害はあるだろう。近づいてきたから隠れたものの、どうするか……。ここで立っててサボりって思われるのも嫌だしな。というより今からサボろうとしてたし。また戻ったら、カラコさんに重労働を言い渡されるんだろう。どうするべきか。


「わ! ……こんばんは」

 バレたか。アオちゃんは驚いたようだったが、挨拶をし、キイちゃんも無言で頭を下げた。礼儀正しくてよろしい。よろしいが……。


「あの……どうしてこんなところに」

 茂みに身体半分を突っ込んでいる状態で見つかるのは非常に厳しい。厳しすぎる。何と言い訳をすれば良いのか。くっ、働け俺の灰色の脳細胞!


「い、いや。綺麗な蝶がここに逃げ込んでね」

 俺達の間に無言の間が通り過ぎた。2人共凄い反応に困っている。キイちゃんは苦笑いしてるし、アオちゃんはオロオロしてる。すみません、俺の下手な言い訳で。


「あ、捕まえられたんですか?」

 そっち方面に突っ込んでくくるのかよ! 引けよ! さっきまでえ? 蝶? 蝶を追いかけて茂みに? とかいう顔してたじゃねえかよ。さて、ここはどう答えるのが正解か。


「あ、あっちの方に逃げていったから俺は行く。じゃあな!」

「え、あ、お疲れ様です」

 と言って俺は颯爽とその場を離脱することに成功したのだった。

 キイちゃんが苦笑いのままだったが、俺は気にしない。



 さて、それより問題は魔法陣だ。建物の真ん前にあるからな。散歩に行く程度の気軽さで自然と脱出せねば。

 できる。俺ならやってのけるさ。


「あ、シノブさん。どうでしたか?」

 ダメでした。


「ウサギ小屋は頼んできた。俺ちょっと受け取りに行かなきゃいけないものがあるんだけど……」

「何ですか?」

 やはり聞いてくるか……。ここは変にごまかしても、カラコさんに悪印象を与えるだけだろう。


「装備の確認に……」

「なぜですか?」

 なぜ……。なぜ? 装備を取りに行くのに理由が必要なのか?


「今からまたタイル張りをお願いしようとしていたのに。鎧なんて邪魔になるだけですよ」

 いやだ! 俺は働きたくない! 働きたく……うわぁ~!!




 いや、本当に女の子には逆らえませんな。本当に怖い。将来結婚したら旦那を尻にしくことになるだろう。まあ、女の子の椅子になれるんだったら大歓迎だけどね。Mではない。


 もう日も暮れようとしている。別に夜でも夜目があるため、大丈夫なんだが。それでも昼間の方が見やすいことには変わりない。さて、蜂どうしよう。

 ヴィルゴさんが調教してくれたら、良いんだがな。作業中の人に何も言えないし。

 しかし随分エントランスは綺麗になった。まだ、転移魔法陣の部分が古い石だが、それは後でワイズさんがやるそうだから問題なしと。建物も半分ぐらい出来上がってることだし。少し中を見てみようか。


 どこか外国の協会みたいだな。ギリシャっぽさを出しているな。まだ全然住めるようには思えないけど、いい感じ。中庭もあるじゃん。

 とブラブラと見て回っているうちにワイズさんと時計職人に会った。ワイズさんは瞑想をしており、俺に気づくと目をあけた。

 そうだよ。瞑想すればよかったんじゃん。MPなんか気にしないでさ。てっきり存在を忘れていた。トレント2体召喚時と瞑想の回復速度どちらが上かはわからないが、試してみれば良かっただろう。しかし俺に瞑想は不向きだったかな?


 そしてその横には少し前に見つかった穴。


 そこは深くて、遠見と暗視を組み合わせてみても見えない。何か嫌なことがあった時に飛び込むのに良さそうだ。夜中になったら幽霊がでるとかいうイベントがあるのかな?


「落ちるなよ。……中はかなり広い空間になっているようだ」

 そんなことまでわかってるのか。でも広い空間ってだけなのか? 秘密の地下室ではないのか。まあ、下に降りるには自殺しかないけど。それかバンジーだな。それとも風船つけるとか、パラシュートとか。


「……縄梯子を使っていたらしいな……下に切れた縄が……あった」

 なるほど。疑問に答えてくれてありがとうございます。こんだけの長い縦穴を掘るのも大変だったろうし、降りるのも大変だろうな。特に井戸とかではないのか。


「んで下には何かあった?」

 それが重要だ。


「降りてみるか?」

 え? 良いの? ってか降りれないじゃん。飛び降り自殺でもしろというのか。


「まだ、誰も降りていない。……面白いものが見つかるぞ」

 いや、うん。じゃあ、降りるよ。けどどうやって降りるの?


「下で俺の……モンスターを待たせている。……受け止めてくれるだろう」

 なーるほどね。そういうことか。


「だったら行くよ。暇だし。というか俺装備ないんだけど。危険はないよな」

「……予め危険は排除してある」

 なら行こうぜ。ここで立っているところを見られると、また仕事を頼まれかねん。俺は蜂の処遇をどうするか考え中なんだ。


 ワイズさんが中に飛び込む。うっわ、度胸あるな。

 時計職人は1人で自主勉強をしている。真っ赤に赤熱しているペンを使って、金属に何か複雑な模様を刻んでいる。お疲れ様です。そのペンって拷問に使えそうだな。焼き印みたいな感じで。

 あれ? 身体に魔法陣刻めば最強じゃね?

 例えば指にファイアボールの魔法陣刻めば指パッチンでファイアボールだせるようになったりするんじゃないか? ちょっと相談してみようか。


 さっき下から叫び声が聞こえたけど、大丈夫なのかな。まあ、なるようになれ。


 何か夢で見たような気がするデジャブ。実際こんな落ちるなんて夢でぐらいしかないからな。

 着地地点には何か柔らかいものがいて、俺の身体は飛び跳ねた。


 あたりは真っ暗……というほどでもない。雷を纏った男と、黒焦げになっているワイズさん。うん、下で誰が支えてくれたかわかるね。


「リフレッシュ」

「……ありがたい」

 何も聞かないであげよう。

 ワイズさんが本を閉じると俺が着地したスライムが消え、代わりにウィルオウィスプが召喚される。

 ある程度中は乾いており、石で全体が固められていた。人1人が通れるほどの通路。前と後ろにワイズさんの召喚モンスターが歩き、道を照らす。


「そういや、ワイズさん。人に魔法陣って刻めないのか?」

「……痛いぞ?」

 痛いの? 痛覚設定無視するのか? そうでなくと火で焼かれるのは痛いと思うが。


「……正直考えたことなかったな」

 そうでしたか。なら試してみると良いな。

「上に上がったら……協力してくれないか?」


 ……どうしよう。痛いのは嫌だ。しかしそういうのに憧れているのは確かだ。どうしようか。うーむ。


「かっこいい呪文でお願いします」

「……善処する」

 いや、そこは任せろだろ。

 しかし俺が持っているのは木魔法と土魔法と火魔法だ。魔法陣を刻むとしたら、風魔法か水魔法だな。雷魔法とかもあるけど。一体どうしようか。


「出るぞ」

 ワイズさんがそう言うと、その通路は終わり、広い場所に出た。かなり広いようだ。俺達の足音が反響している。こんな地下で空気とかの確保はどうしているのだろうか。


 ワイズさんが壁際を何か探っている。

 ガチャガチャという音と共にその広間の天井が光り出し、そこに置かれているものが露わになった。


「ゴーレム……か?」

 単なる鎧にも見える。

 そこには何十体もの、うわー中二病って感じの黒いゴーレムが置いてあった。

 しかしここで戦うことにはならないだろう。ゴーレムの大半が倒れていて、首がなかったり、手足がもがれていたりと色々と悲惨な状態だ。まるで大量殺人現場だ。その割にはオイルとか漏れてるわけではない。元からこういう形でしたと言われても信じ……信じられないけど。割りと綺麗な事件現場だな。


 その他にも奥には巨大な機械があり、未だに不気味な音を響かせて、稼働していた。


 壁の端にある机の書類を見ていたワイズさんが手招きをした。


 無言で突き出された紙にはこんな言葉が書いてあった。

 ついに最強の軍隊が完成した。これさえあればわしが王国の王に……。


 よくあるね。うん、そしてコレを使う前に謀反がバレて、掴まちゃったってことか。それにしては中途半端に全て壊れているのが気になるが。王国軍が利用されないようにってことか? それにしては怖し方も適当だし。そんなものがあったら、自分で奪って使うほうが良い。

 というよりここって王国なんだな。王都があるっていうのは知ってたけど。


「……中には作り方も……書いてあるかもしれない」

 じゃあ、俺は奥の方を見てきますよっと。


 壊れたゴーレム達の間を通り、巨大な機械の元へ行く。その機械は唸り声を上げながら、何かを作っていた。

「魔石?」


 その見た目はゴブリンから取れる魔石によく似ている。なぜここに魔石があるのだろうか。この装置は魔石を生み出す。としたらとんでもない儲けになりそうだ。今はゴブリンが攻めてきたから魔石は安いものの、MPポーションに使えるかもしれない魔石は将来高い価値になるだろう。

 これはカラコさんグッジョブとしか言いようがないな。さすが勇者が紹介された建物。こんなものがあるなんて。


 俺が手を伸ばして魔石に触れようとした時、俺の気配察知が何かを捉えた。


「リフレッシュ!」

 殴られる瞬間に回復魔法を使うことで、瀕死状態から追撃されることを防ぐ。そして吹き飛ばされることによって、回復魔法を唱えた後の硬直を無効化。

 これぞプロの技。

 というより、すっごい痛いな。超回復で目に見える速度で回復しているとはいえ、このまま追撃を喰らったら落ちそうだ。

 ここはあれを使うか。


 魔装。

 カラコさん戦で使おうと思ってて結局使わなかったあれだ。魔法を自らの身体に纏わして、魔法の威力と耐性、そしてステータスを上げる。結構便利なスキル。そして思考加速もだな。


「グラストラップ!」

 でもとりあえず、スキルを変える時間だけはくれ。


 相手はそのまま罠に突っ込んでくれた。急遽戦闘用スキルと変える。

 この機械は壊したくないから、弓は使えないな。それに最初に殴られた速さからして、使うのは龍槍がベストだろう。


 俺は龍槍を構え、魔装を発動させる。俺の身体を炎が包む。

 と同時に思考加速も発動させた。体感遅くなってる? 効果はよくわからない。


「ファイアゴーレム!」

 俺の横にファイアゴーレムが出現。立ち上がった敵に向かって拳を振った。

 何か堅いものに当たったような音がする。


 ようやく確認できた。

 襲いかかってきたのは壊れていたゴーレムと同じここで作られたものだろう。しかし他とは違う。その大きさ。4本の腕。強化版というやつだろうか。


 驚いたことにエウレカ号が押されている。連撃でエウレカ号は吹き飛んだ。


「受け取れ!」

 俺が投げた龍槍をまるでどこかの主人公のように後ろも見ずにすかした顔をして受け取ったエウレカ号。顔はないけど。


「出てこい。カグツチノカミ!」

 光りだしたエウレカ号に気圧されたように、立つゴーレム。変身シーンの時に攻めてこない悪役か。空気を読んでいらっしゃる。


 さて、俺は神弓を取り出して、射ないが魔力ブーストのためだ。


『カグノ参上!』

 はいはい。わかったから今は前の敵に集中してくれ。死に戻りはしたくないんだ。


 自らの身体のように龍槍を操り、ゴーレムの装甲に傷を作っていく。先程までは押されていたが、今は互角といった印象だ。というより火に強いんだろうな。

 カグノの身体から出る炎も効いていないようだ。


 なら俺は土魔法を使うべきだな。


「ストーンバレット!」

 魔力操作は使っていない。普段できないことが実戦ではできるとも思えないからだ。

 カグノとの距離が離れる度に、魔法を放ち援護をする。長い戦闘が続いて、双方ともに傷ついている。しかし2人なぶんこちらがいくらか優勢だ。

 しかしイレギュラー要素もあるし、速めに決着をつけたいところなのだが……。


 なんでワイズさん気づかないんだよ。魔法も放ってるしさ。それなりに戦闘音はあるはずだが。イヤホンで音楽でも聞いてるのか?

 あの人がくればすぐに終わると思うのだが。一体どうすれば良いのだろうか。


 敵は堅い装甲と、4本の腕についている爪で攻撃をしてきている。

 カグノはそれを華麗に避けているが、当たればスプラッタなことになるのは間違いなしだろう。

 そして動く度に揺れる胸が俺の精神を削る。



 これが1番の敵だろう。これのせいで攻撃のタイミングを見逃した時が幾度と無くある。カラコさんが貧乳で良かった。まあ、貧乳も何もうちのパーティーは皆胸当てをつけてるから、揺れないんだけどね。

 目の保養となるが、心臓に悪い光景だ。この動悸はもしかして恋だろうか。俺はあの揺れ動く胸に恋を……。

 よく考えたら男として産まれた時からずっと恋してるな。今に始まったことではない。



 これは俺の弱点だな。色仕掛けとかされたら絶対落ちる。こんな俺がギルドマスターで良いのだろうか。


『ていやーっ!』


 そんなに激しく動くのはやめてほしいな本当に。それとも、後衛として魔法を使わせている方が良いのだろうか。

 狙っていたのだろうか。ついにカグノの攻撃で腕の1本が外れた。

 これで戦闘力は25%減だと思いきや、新しい腕が身体の中から出てきた。なんじゃこりゃ。


召喚サモン【三方結界】」

 ゴーレムを中心にして、薄い三角形の形の領域ができる。ゴーレムの動きは遅くなり、カグノは足蹴にして距離を放した。絶対領域!

 遅いよワイズさん。


 俺の後ろには雷を纏う男。真っ赤に燃える炎。全く頼もしいことこの上ないね。


「……遅れてすまない。召喚サモン【吊るす紐】」

 ヘビのように動く紐がゴーレムの足を捕まえ、宙に吊るす。

 凄いな。何も上にないのに吊るされているのは不思議な感じだ。魔法だな。


「なるべく……壊さないようにしたい」

 雷を纏った男がゴーレムに触れて電気を流すと、ゴーレムは動かなくなった。麻痺だろうか。機械が麻痺になるというのもおかしな話だが。


 拘束は解除されて、ゴーレムはぐったりと地面に下ろされる。

 ワイズさんは何か紙を取り出して、ゴーレムに貼り付けた。


「封印は呪符の分野なんだがな……」

 それでもできるのがかっけーっす。

 というか最初に逃げて、ワイズさん呼べばよかったんじゃね?

 俺のバカ! MP返せ!




《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》

《スキルポイントが2増えました》

種族:半樹人

職業:狙撃手 Lv33

称号:神弓の射手

スキルポイント:28


 体力:90(-35)

 筋力:30

 耐久力:40

 魔力 :100(+58)

 精神力:100(+5)(+49)

 敏捷 :20

 器用 :80(+28)



《戦闘行動により【火魔法Lv24】になりました》

《戦闘行動により【土魔法Lv12】になりました》

《戦闘行動により【木魔法Lv18】になりました》

《戦闘行動により【気配察知Lv9】になりました》

《戦闘行動により【魔法装Lv4】になりました》

《戦闘行動により【思考加速Lv6】になりました》



 土魔法なんて一気に2つも上がった。中々良い経験値だったんだな。倒してないけど。

 思考加速もレベルアップしたし、次こそは本気を出してほしいものだ。

 やはり精神力。MP足りないしな。魔力に振ってもMPは増えることは増えるんだが、やっぱり精神力の方が良いな。全体攻撃魔法対策として。



「そのゴーレムどうする?」

 俺も瞑想しようかな。でも皆立っているのに。俺だけ座るというのも……知ったこっちゃない。ワイズさんも瞑想持ってるなら理解してくれるだろう。

 俺はその場で座り、正座をして目をつぶった。


「……唯一動いているゴーレムだからな。……改造する」

 なるほど、なるほど、なっ。


『だーれだ』

「もうされる前から俺は目を閉じているし、そもそもこの場にこんなことをするやつはカグノしかいない! わかったからさっさと離れろ!」

 背中に当たる熱い柔らかいものが俺の心の平穏を脅かすのだ。瞑想している意味がない。

 カグノはしょんぼりしながら、離れたようだ。


 後で可愛がってやるから、今は我慢しなさい。目を閉じながらMPを確認してみると、トレント2体にファイアゴーレムという負担をかけているにも関わらず。ジリジリと回復していっている。本当にゆっくりだけどな。3体呼んでこれなら、覚醒使いまくってもしばらく瞑想すれば1戦につき一度使うとかできるかもしれない。使うほど強敵に出くわさないと思うけどな。


 何かを引きずるような音が離れていく。さっきのゴーレムを運んでいくのだろう。それにしてもあのゴーレムは何なんだ? 他の多くは無惨に壊されていたのに。

 中途半端な壊され方。そして、未だに稼働し続けている魔石を生み出す機械。そしてあの奇妙な風貌。

 よく思い出せ。あそこに手が千切れたゴーレムはあったが、そのゴーレムの手はどこかに落ちていたか?


 俺は入った時に、綺麗だと思った。それはあのゴーレムが仲間の部品を使って、あれだけ大きくなったからなのだろう。

 謎は全て解けた。見た目は大人! 中身は探偵。その名は名探偵シノブだ!


 ……よく考えれば大人と探偵って相反する言葉じゃないから何の決め言葉にもなってないな。というより探偵の90%は大人だろう。高校生探偵とかもいるのかもしれないが俺は知らない。第一高校生に事件なんか関わらせたらPTAが黙ってないだろう。



 俺はスタイリッシュに一回転しながら立ち上がり、横でしょんぼり下を向いているカグノの手を取った。


「あつっ!」

 忘れていたな。素手では触れないんだった。


 カグノは自らの手を眺めて、悲しそうな顔をしている。これはまずい。泣かれたら困る。というよりこの見た目で泣かしたら、俺が何をしたのかと思われる。


「ほら、カグノ! 俺の背中に乗れ!」

「え? 良いの?」

「良いから!」

 カグノは嬉しそうに笑うとダイブしてきやがったこの野郎。俺の筋力値は低いんだぞ。

 天国だったのは最初だけ、その後は背中に意識を集中させることもできずに、ただただ現実逃避をしながら、一歩ずつワイズさんの元へと歩いていったのだった。

 女性相手に失礼かと思うが、カグノ重い。

ありがとうございました。

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