69 懐かしの友
遅刻してきたこの3人は俺の高校の時の同級生だ。声でわかる。
骸骨なのがうるさくて、面白いことを持ってくる横山左門。ノリが良くて中性的。どこか達観している変人の柏原陽太。萌系のシュミレーションゲームにしか興味が無かったはずの古典的なイメージ通りのオタク。豊中佐助。
俺達は四人でいつもVRゲームばかりをして遊んでいた。それこそリアルなんて知ったもんかというように。
俺が何故偽名を使ったかには理由がある。
そう、それは高校2年の終わりだった。
[VR四天王を辞める]
[誰が?]
[俺だ]
[はぁ? ふざけんなよ!]
[ふざけてなんかない]
[シノブも『あー、最近面白いゲームもないし、そもそも親がゲームばっかしてると五月蝿いんだよなー。そもそも俺ら受験生だし。こんなダラダラしてるお前らがおかしいんだ』とか思ってるんだよ]
[さすがだ。概ね合ってる]
[いいんじゃね? 人には人の理由があるっしょ]
[お前ら、俺らの絆はそんなもんだったのかよぉぉぉ]
サイドアンドレフトが1人地面に向かって叫ぶ結果となったが、そういうことだ。
俺は受験とVRゲームで、受験を選んだ。
家を継ぐとか、ニートになるとか言う選択肢は俺にはなかったのだ。次男だしな。第一俺が当時高かったVRヘッドギアを持ってたのも、親が定価よりかなり安く買ってきたからで、この3人みたいに金持ちって訳じゃないのだ。
あの時は義務教育受けたらVRヘッドギア貰えるとか信じられなかったな。ゲームやり放題じゃん。
色々と悪用できないようにはなっているのだろうが。
俺が大学に入ってからは連絡を取ることもなく、どこがであいつらはゲームやってんだろうなと思っていた。俺としても抜けた引け目があるから、連絡を取りづらかったというのもある。
まさかGWOにいるとは。
3人とも抽選に当たるなんて運がいい。転売屋から買ったのかもしれないが。
ということで俺は声を出すこともできずに息を潜めていた。
一言言えば良いだけなんだけどな。ちなみに俺は友達に学校外で会っても、向こうから来ないかぎり無視をするタイプだ。
『えー、では続きから始めよう。魔法は自然の万物を操るものであり、人智を超えた力だ。未だ解明されていないことも多い。が、その魔法には核がある。この中に剣士はいるかね?』
続きといってもキリのいいところまで巻き戻っている。優しいことだ。
「はいはいはい!」
サイドアンドレフトが手を挙げる。ヒナタとピグマリオンは一体どうやって戦うのだろうか。
『はいは1回だ』
「はい!」
相変わらずテンションの高いことだ。
『魔法の核を破壊することで、魔法そのものの効果をなくすことができる。魔法を使う場合も核を制御することによって様々な用法が可能になってくる』
一先ずあの3人は放っておいて、今は講座に集中しよう。
魔力操作も核に関係があるのかもしれないな。ファイアボールが操れて他の魔法がイマイチなのはそれもあるのかもしれない。核か……。
『魔法使いを相手にする時は核の見極めが大切なのだが、核は常に決まった場所にあるとは限らない』
何だと? じゃあどうやって見つけろと?
『魔法が小さい場合はその魔法そのものが核となっているものが多いんだ。しかし大きい魔法の場合は核の位置は一定していない。魔法を使う側、魔法を破壊する側、双方共にこの核を見ることが戦局を決定することになる』
そして後ろに置かれている袋からまた何かを取り出す。
『これは魔眼のスキルオーブだ』
おお、魔眼! かっこよさそう!
「魔眼! 魔眼だってよ。厨二病だな。俺に目はないけどな!」
「うっさい」
「それな」
フォローしてくれる人がいなくて、サイドアンドレフト……サフドは落ち込んでいるようだが、俺もフォローしない。そもそも大声を出すほうが悪いのだ。
こういった調子で講座は進んでいった。
長かった講座も終わった。
両手武器術、片手武器術、回避術、重装、魔法装、無魔法、魔力操作、気配察知、魔眼、鑑定、錬金、模造、採取、精密操作、指揮のオーブを手に入れた。
それにプラスして、ダンジョンへの招待券。経験値上げに良いそうだ。
……ナニコレ。今確認して量の多さに驚いた。こんな量産できるもんなの? スキルオーブって。いやいや、圧倒的にお得ですよ。お得というか、これに来た人は目利きだというか。なんというか。なんというか。これを売れば一財産築けるとか色々考えたけど、ここはスキルポイントで取れるものとかいらないものは保存しておいて、今取れなくて、かつ戦力増強になるものは使ってしまえば良いだろう。
「後で色々訊きたいことがあるんだけど、フレンド登録してくれるかな?」
もちろんだ。こんな可愛い子なら。
俺は親指を立てて満面の笑みを浮かべたが、それは見えなかっただろう。やっぱり兜ぐらいは外したほうが良いのだろうか。でもなんか今更外すのも気恥ずかしいというかなんというか。これはマスクをつけたら外せなくなる例のやつに似ているだろう。
「このチケットって貰った人しか行けないし、ここのメンバーでダンジョン行こうぜ!」
サフドがまた余計なことを……。
俺は断ろうと腰を上げた。俺が自己紹介してからヒナタがニヤニヤとこちらを見ているのが気になる。怖い。わかってるなら、話しかけてよ!
「全くサフドもどんだけ鈍感なんだか。お前みたいに女子を簡単にナンパできるような軽い男なんかじゃねーんだ。咄嗟に出した名前から気づきやがれ。このまま気まずいままだろうが」
ヒナタが声を低くして口調を変える。
これは……バレてますね。
「いや、最初の名前の時点でなぁ。声も聞き覚えがあって、コウって時点で1人しかいないじゃん。やっぱサフドって馬鹿っしょ」
「馬鹿とは何だ馬鹿とは。確かに馬鹿だが……馬鹿だ……」
サフドが1人で落ち込んでいるのは放っておいていいだろう。やつの自爆だ。
しかしバレていたとは。必死で手話をしていた努力はどうなるんだ。
「見てて面白かったし」
「それな。中々笑えた」
相変わらずな奴らだな。
「お前らは一体何を言っているんだ?」
サフドは俺らを見て首をひねっている。
「シノブさんチーっす」
「シノブだとぉ!?」
「うるさい」
ヒナタの一撃によりまたサフドが沈む。
こいつらは……何も変わっていないな。
「……久しぶり、だな」
俺は兜を脱ぎ、懐かしい友へと顔を見せたのであった。
ありがとうございました。




