65 計画
遅れてしまい申し訳ありません。
さて、メールは送った。
ヴィルゴさんも来る。カラコさんも来る。ワイズさんなんか、触手あげようか? とか言ってたけどそういう問題じゃない。あの触手にリベンジするのが大切なのだ。
今まで俺は女性に囲まれていた。しかしその中でラッキースケベを経験したことは一度もない。ゲーム内に温泉がないから、とか。スカート履いてる人がいないとか色々言い訳はある。
しかし俺にその努力が足りなかった、というのもあるだろう。
ラッキースケベを発動させるのに努力なんていらない。それが発動できるのは生まれ持った運だ。とか、ラッキーじゃなかったらただのスケベだとかいう人もいるかもしれない。
努力は人を裏切らない。
努力さえすればラッキースケベを意図的に仕掛けることも可能。それにあくまでもそれは触手のやったことが見えてしまっただけで俺自体には何の非もない。ヴィルゴさんに殴られることもない。
完璧だ。
「シノブさん、お待たせしました」
カラコさん達には東の森で触手を取らなきゃいけないということのみを伝えている。カラコさんのことだから、それがルーカスさんに紹介された店がらみのことだとはわかっているが、守るべき秘密は守らなければな。
「ヴィルゴさんはまだ来ていないな。ワイズさんにも連絡したが、やることがあるそうだ」
いつもあの人一体何してんのかな。やはり生産しているのだろうか。何かを売っているとは聞かないが。魔法陣って凄い便利そうなのに全然人いないよなー。
「新しいモンスターの仲間、楽しみですね」
よく見るとカラコさんの腕の部分が少し凹んでいる。ブレス機関が外されたからだろうか。ダメな人にはダメな感じだ。グネっとなってる、グネっと。
新しいモンスター。補助系。……思いつかないな。何だろうモフモフな蝙蝠かな?
と、ヴィルゴさんが歩いてくるのが見えた。
ペットの姿は見えない。
「待たせたな」
ヴィルゴさん達一行はかなりパワーアップしていた。
そして……。
「こっちが新しい仲間のマラ。サキュバスだ」
幼女! ではない。デフォルメされたサキュバスかよ!
二頭身のそのサキュバスはふわふわと肩辺りに飛んでいた。
ヴィルゴさんってネーミングセンスはどうなのだろう。マラ……マーラ。南アメリカのウサギかな?
「可愛らしいですね」
カラコさんが触ろうとするのをふわふわと回避している。
見た目は悪魔って感じだ。コウモリの羽に黒い尻尾。サキュバス……だよな。これで誘惑できるのか?
「私が戦った時は普通の人サイズで戦いがいがあったんだけどな。
調教したら、プチデビルになってしまったんだ。戦力の低下はあれだが」
ということは。
進化したらでっかくなってボンキュッボンになるのか。そしてこのパーティー唯一の男性は俺だけだ。大人になったサキュバスが誘惑して精を絞りとるのは俺しかいない。パラ色の未来が見えた。
ヴィルゴさん、よくやった。本当にありがとうございます。
「野獣に襲われないように、そして襲わないようにしっかりとしつけをするから心配しなくても大丈夫だぞ」
……襲われないようにするのは大切だな。襲わないように?
「ヴィルゴさん、なんか間違っていないか?」
「なんだ。補助役にするのだから襲わせないで味方のサポートを覚えさせるんだろ?」
その意味か。ヴィルゴさんのことだからてっきり俺のことを言っているのかと。
「野獣はどこにでもいるからな。カラコちゃんも気をつけたほうがいいよ」
「は、はい」
野獣って完璧男のことじゃないですか、嫌だなー。俺みたいな紳士もいるっていうのに。風評被害もいい加減にしてほしい。俺がいつ野獣のような行いをしようとしたのだろうか。俺は常に極めて紳士的に物事を考えているつもりなのだが。自らの手を汚さずしてラッキースケベを狙う俺は紳士ではなく策士かな?
ヴィルゴさんの調教が種族としての本能を上回るのを願おう。無理だろうがな。精々頑張るが良い。俺は棚ぼたで幸せになる。
そしてラビとヴィルゴさんの装備が変わっている。
ラビは金属でできた鉢巻を巻いて、足には爪がつけられている。その中でも特に目立つのが手に持っている金属棒だ。ついに道具を使いこなすようになったか。という感じだ。
そしてどうやって掴んでいるのだろうか。某猫型ロボットのように貼り付いているのか。とても物を掴める手の造形には見えない。
そしてヴィルゴさんの装備も変わっている。背中の盾がなくなって、小手がでかくなっている。
「ああ、シノブ。ありがとう、と言っておこうか」
俺が何かしたか?
「イッカクに私の装備を作るように頼んでたんだろ? 格闘戦ができて、それでいて壁役もこなせる装備を」
そんなこと頼んだこともあったな。
イッカクさん覚えてたんだ。
あのゴツゴツしい小手で敵の攻撃を受け止めるのだろう。凄く重そうだ。
ヴィルゴさんだけで十分にバランスのとれたパーティーだと思う。ヴィルゴさんの盾に、ラビの棒、そしてマラの補助。
俺らいらないな。
マラがサキュバスだった時は嫌な攻撃ばかりをしかけてきたらしいが、プチデビルになった今ではどこら辺まで弱体化しているかわからない。
そんな小さくなっていきなり戦闘なんて大丈夫なのかと思うが、ヴィルゴさんなら大丈夫なのだろう。調教したモンスターは召喚獣と違って自立してるから、もしヴィルゴさんが死んだら弱いマラだけ取り残されることになる。
そんなことにはそうそうならないと思うけど。油断は大敵だ。
「それで、東の森に触手を採取しに行くのか」
「NPCのクエストでね」
そういうとヴィルゴさんも詳しいことを聞いてこなかった。
そして卵はどうなったんだろう。すごい気になる。
新しい仲間も増えて、俺たちのパーティーは五人になった。安定を求め、盾をもう一つ増やすか、専門の回復しかしない人を増やすか。今は大丈夫でもいずれヴィルゴさんでは庇いきれなくなるだろう。
ヴィルゴさんの腕が凄いのだが。ダメージを負うと回復魔法を唱える。歩いてたり、走ったりしていると魔法は失敗しやすい。盾でなんかで攻撃を受け止めても、だ。
相手の猛攻を最小限の動きで避けて魔法を完成させる。
まあ、俺も走りながら魔法を唱えることは可能だがな。簡単なものなら。
横でカラコさんが昨日起きた屈辱的なことを話している。カラコさんが魅了されて、俺が死んだ話だ。
怖いよな。VR内だけとはいえ、一種の洗脳だぜ? 洗脳された軍隊とかできそうだ。体に悪影響とか与えないのだろうか。魅了にかかったらやたら触手を好むようになるとか。
うん。凄い鬼畜なことを思いついたけどここで考えるのはやめておこう。もしヴィルゴさんに考えを読まれたら殺される。薄い本じゃよくあるけど現実ではね。やったら犯罪だし。
そう考えるとVRって本当に微妙なところだよな。リアルと空想の狭間というか。世界は作られたものだけど、人はちゃんと生きている。
俺も現実とVR内の違いをしっかりと認識しなおさないとな。
森の前でカグノとファイアゴーレムを呼び出す。
ヴィルゴさん達と自己紹介している。
随分賑やかになったな。うるさいぐらいだ。
7人。動物その他も含まれるが7人で森の中を進んでいく。触手、テンタクルは森の奥にいる主に状態異常を駆使してくるモンスター。植物らしく火に弱い。
状態異常がかなり厄介で対策していなければ死に戻りもあるという。
逆に考えよう。耐性系のスキルを得る良い機会だ。
それにこちらは体が炎でできたものが2人もいるのだ。そして火魔法を使えるのは俺だけ。戦闘の状態は俺がどれだけ上手く動くかによるだろう。
ファイアゴーレム。エウレカルテル号と同じものなのかは知らないが、カグノは上に乗って嬉しそうだ。
2人とも火だし、状態異常かからなさそう。
昨日カラコさんのみが魅了の状態異常にかかったのはこの中で一番精神力が低くかったからだろう。今、この中でかかりやすいのはラビとカラコさんのどちらかだ。ラビが敵にまわるのは恐ろしい。上手くカラコさんだけを魅了にかける必要がある。
よく考えたら操られる勇者ってまずくね?
「今は昼です。もう昨日みたいなことは起こりません」
カラコさんが宣言するが、それはどうかな。
進行方向にある素材のみ取って、少し離れたところにあるものは無視して進んでいく。
ああ、取りたい。折角見つけたのに。という思いを打ち殺して進む。採取ばかりしていては何時までも進まない。
見たことないデカイ素材とかあったけど。やっぱり奥に行くほど珍しいものが多いな。見て植物学発動させてるだけだけどな。採取に一苦労しそうなものから、どうやって採取しろって? というようなものまである。
近づくと酸を噴き出すとか、毒の花粉を撒き散らしているのはまだ良い方で、蟻の大群に食べられたりとか、その場で意識を失い体が溶かされるとか。
植物学なしで進むのは難しくなるかもな。このまま森の魔物化が進むと。
そもそも鑑定って採取する前のアイテムがわかるのか?
確か、鑑定はアイテムが見れて、識別がモンスターだったな。
植物学は植物だけと。
使い所が難しいということはないだろう。スキル欄を一つ使うものの、育てやすく、初期取得もしやすい。もっと取る人がいても良いはずなんだが。植物鑑定だけでいえば鑑定の劣化だからな。
こうして辺りを見回すとちゃんと作り込まれているのがわかる。
ネーミングセンスが適当なのもあるけど、あ、テンタクルだ。
うん? テンタクル? あれって植物なの?
もしかして植物系モンスターにも植物学が適応されるのか。
テンタクル
触手。うねうねと動いている。湿気の多い森に生息している。大型なものほど品質が高い。触れたものを引き込み消化する食獣植物の仲間。繁殖期になると胞子を飛ばして生息域を広げる。小型の鳥や虫を主に食べている。例え捕まえられたとしても刃物を持っていれば抜け出すのは容易。人間が全力でもがけば逃げられる程度の力しかないのが通常種だが、稀に大型化したものが見つかる。大型化したものはモンスターにも匹敵するほどの力を持ち、人間も捕食することがある。大型化した場合はより獲物を効率的に捕らえられるように各種状態異常を駆使する。テンタクルは大型化した時の危険性から常に駆除されているが、人間の入り込まない場所では注意が必要。その見た目はあれだが栄養はある。
《行動により【植物学Lv3】になりました》
長いな。てかモンスターじゃないのかよこれ。モンスターじゃないやつに死に戻りさせられたって……。
いや、ということは言い訳がつくじゃないか。今までモンスターには殺されたことはない。不幸な事故で死んでしまったことがあるだけだ。
「ちょっと待った」
テンタクルの方へ呑気に歩いていく一行を止める。俺がいなかったら遠足にでも来ているようだ。
モンスターも時々血みどろになったラビが帰ってくるだけで見かけない。そのせいで注意が疎かになっていたのだろう。
すぐ近くにテンタクルがいるというのに。俺がいなかったらどうなったことか。
「シノブさん、何か見つけたんですか?」
「テンタクルだ」
皆が一斉に警戒の体勢を取って辺りを見渡し始めるのには笑える。
「エウレカ号、一歩前に歩いてくれ」
『エウレカ号じゃないもん! エウレカルテル号だもん!』
最初に呼んだ時も思ったがどんなAIが搭載されているのだろう。意味がわからない名前だ。
エウレカ号は言われた通りに前に一歩進んだ。
さて、脅威は排除されたか。
エウレカ号は上手い具合に進んでくれた。
ギリギリ踏むか踏まないかのところでテンタクルが熱さに悶えている。
30センチほど。まだ幼木だろう。いや、花粉で増えるなら幼木はおかしいか?
俺が引っこ抜くとキュウと鳴いて息絶えた。鳴き声がかわいいな。
皆呆気に取られたように見ている。
俺も予想外だよ。こんなの足に絡まれて転ぶぐらいの弊害しかないじゃねえか。
「ということは、その触手集めとやらは終わったのか?」
「リベンジ……できたんでしょうか」
『終わったー!』
皆好き勝手に言っているがダメだ。俺が終わらせん。ここまで奥に来た。テンタクルも駆除されてない。ということはデカイのもいるはず。ここで引き下がってたまるか。何のために来たのか思い出せ。
「あー。ごめん。これじゃまだ足りないかも」
量は指定されていないからな。実際こんな30センチの子供じゃやり直しを言われるかもしれない。
「そうですか!」
カラコさんは嬉しそうだ。よっぽど悔しかったのか、触手の味が忘れられないかのどちらかだな。俺はエロいカラコさんなんて大歓迎だ。果たしてそうなったらヴィルゴさんはどう対応するのだろうか。俺が殴られるかもしれない。やっぱりカラコさん今のままでいいや。
ヴィルゴさんが暇すぎてマラに戦闘の心得を吹き込んでいるのが気になるな。闘わせないんじゃなかったのか?
その時、先行していたラビが戻ってきた。
ラビもうそろそろ冒険者ギルドに登録した方がいいんじゃないかな。武器も防具もあるし。ソロで活動もできそうだし。
「主、この先で奇妙な物を見たのだが。と言っているぞ。もしかしたらボス部屋かもな」
ラビって少し前までふぇぇとか言ってなかったっけ?ヴィルゴさんの声真似がダンディーな声になってる。成長……じゃないな。進化だ。もう目が戦士の目だしな。可愛かったラビはもうどこかに行ってしま……恐ろしいことが思い浮かんだ。
脂肪がなく筋肉だけのサキュバス。そ、そんなことにはならないよな。大丈夫だよな。柔らかいおっぱいとかあるよな。補助だし、後衛だもんな。うん、大丈夫だ。
「行きましょう」
「MPも温存してあるしな」
触手でラッキースケベ計画だったのにとんだことになりそうだ。
俺は運が悪いな。
ありがとうございました。