5 機械人間と半樹人
すみません。遅れてしまいました。
「はじめまして。私はカラコといいます」
「え、えーと。初めまして?」
話しかけてきたプレイヤーの背は低く、黒髪を肩の辺りで切っている。ボブカットというのだろうか。可愛らしい女の子だ。
可愛くないアバターの女などいないのだが。
「どうも戦闘が上手くいかなくてどうしようかと途方にくれていたんです。そしたらあなたのため息とつぶやきが耳に入って思わず声をかけてしまったというわけでなんです」
なるほど。この人もまた無理なスキル構成にしてしまったのか。
「俺の名前はシノブ。良かったら相談に乗ろうか?」
「ありがとうございます。他の人の意見が聞きたかったんです」
ナンパではない。理由を大きな声で言うのははばかられるが決してナンパではない。
俺たちは街のレストランに入った。彼女は奢ってくれるというが、俺には食事は必要ない。
「半樹人でスキル【光合成】を持っているからな。食事は必要ない」
俺が光合成を発動させると体の皮膚が少し緑色になった。いや、シュレックじゃねーよ!
「私の種族は機械人間です。魔力がなくて、人間より前衛向きの種族みたいです」
機械人間か。見た目は人間にそっくりだ。
「スキルは邪眼、復活、記憶保持、思考加速、二刀流、必殺、カスタマイズ、怯み無効、メンテナンスです」
俺はズッコケそうになった。魔力がないから魔法スキルがないのはわかる。しかし武術系スキルが1つもない。
どうも戦闘が上手くいかないんじゃなくて、戦闘系スキルがないじゃないか。
邪眼は見たものにランダムでバッドステータスを与える能力。
復活は死んだ後に低確率で復活するロマンスキル。
記憶保持は知らない。記憶を保持するというスキル説明だが、何の役に立つのだろうか忘却系のバッドステータスでもあるのかな?
思考加速は戦闘時にだけ周りの時の流れるスピードが遅くなる。
二刀流は武術スキルを持ってる時に二刀流ができるようになる。
必殺は首とかの弱点を突いたときのダメージの大幅な増加。
カスタマイズとメンテナンスと怯み無効は恐らく機械人間専用スキルだろう。
「それでスキルポイントがなくて武器が買えなくて、それでラビットに挑んだんですけど全然戦えなくて……」
俺は装備をつけたことで200Gを手に入れることができたが、装備がないこの人はできない。
そして武術スキルを持っていないため、徒手空拳で戦うこともできない。
目の前のカラコは無表情でカルボナーラを食べている。無表情なのは機械人間だからだろう。機械人間がカルボナーラを食べるのかというツッコミは入れてはいけない。
俺はここで、あることを思い出した。俺は前衛を欲しがっていた。
片手剣のスキルなどを持たせればスピードのあるアタッカーになれるだろう。
ここで大事なことを聞く。
「1日のうちどのぐらいログインできるかわかるか?」
「むぐ? 私はいつも暇ですよ。朝起きてご飯を食って、ログインして、寝るだけの生活です」
何の仕事をしているのだろう。
「提案がある。俺とパーティーを組まないか?」
「いいのですか?」
「パーティーを組むなら俺が武器を買ってやることもできるしな。それに俺は弓と魔法を使う後衛だ。前衛が欲しいと思っていたところだ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。シノブさん」
「こちらこそ」
ぼっちになることを危惧していたがすんなりパーティーが決まったな。
《カラコさんがフレンドに追加されました》
《カラコさんがパーティーに参入しました。リーダーはシノブです
パーティー名を設定してください》
「パーティー名、どうする?」
わざわざつけなければいけないのが面倒くさいな。
「木製人形はどうですか? シノブは樹人だし、私は機械人間。ぴったりだと思います」
「あ、ああ。いいと思うよ」
スキル構成見た時から薄々感じてたけどこの人厨二病だ。木製人形と書いてデウスエクスマキと読ませるのも中々だ。
《木製人形
メンバーは2人です》
《クエスト【パーティーに入る】が達成されました。 報酬 仲間の絆》
報酬はお揃いの腕輪だった。つけられるようなのでつけておく。効果は無しだ。
「じゃあ、カラコ用の武器を買いに行こうか」
武器屋についたとき重大な問題が発覚した。
1番安い武器。鉄のナイフで、250G。
俺の所持金は220Gだ。
「180G!」
『240Gだ』
「もう一息、200!」
『230G』
「220G、これ以上は出せない」
『ちっ、220Gな。持ってけ』
《スキル【値引き交渉】が取得可能になりました》
なんとかなった。
「シノブさんはすごいですね。30Gもねぎってしまうなんて」
「自分でも驚きだよ」
新たなスキルが取得可能になったが、取る余裕はない。
《クエスト【武器を装備する】が達成されました。報酬 200G》
《クエスト【ウサギを狩れ!】が発注されました。依頼 ラビット10匹の討伐
街の外の草原でラビットを狩りましょう 》
こういうウィンドウも共有されるのか。
これで借金は20Gのみになるわけか。
《カラコさんから220Gを渡されました》
あれ?
「金持ってたのか?」
「最後余ったスキルポイントをお金に変えたんです。それでも武器を買うには足りなかったし、カルボナーラ食べて無くなっちゃたんですけど」
なんてやつだ。ちょっとあるって最初に言えよ。値引き合戦しちゃったじゃないか。
いや、スキルを入手できる条件が揃ったから、感謝するべきなのか?
「武器も調達できたことだし、外に行ってレベルを上げましょう!」
カラコは手に持ったナイフをクルクルと回しながら言ってきた。危なっかしいことこの上ない。それがポーンと飛んで俺の目に刺さったらどうなるんだ。
「まだ、カラコのステータスを確認してない。お互いどんなことができるのか確認してから行こう」
「それもそうですね」
俺たちはお互いにステータスを見せ合うことにした。
名前:カラコ Lv1
種族:機械人間
職業:侍
称号:無し
スキルポイント:0
体力:35
筋力:55
耐久力:50
魔力 :0
精神力:30
敏捷 :45
器用 :45
パッシブスキル
【復活Lv1】
【記憶継承Lv1】
【思考加速Lv1】
【二刀流Lv1】
【必殺Lv1】
【怯み無効】
アクションスキル
【邪眼Lv1】
【カスタマイズ】
【メンテナンス】
何かもう色々お腹一杯です。
職業が侍でよかった。これで変な職業だったら目も当てられなかった。
ロボットサムライって何かあったような気がする。
「カスタマイズとメンテナンスの詳細を教えてくれないか?」
「カスタマイズは~の部品というアイテムを使い、色々強化できるスキルみたいです。メンテナンスは体力を少し回復して、一定時間敏捷と筋力にボーナスですね」
中々使えるスキルだ。俺の光合成も食費がかからなくていいのだが、戦闘に使えないのが難点だ。
「シノブさん、魔法使いなのに、体力が高いですね」
「樹人はタンク向きの種族らしいからな」
ここで使えない野郎だな、パーティーは解散だ。と言われても仕方がないと思う。
「ロマンですね」
カラコの反応は俺の想像の斜め上をいった。
「わかってくれるか! そうだよ、ロマンだよ」
「倒れない後衛、いいと思います」
カラコとは色々趣味があいそうだ。
ありがとうございました。
アクションスキルでもレベルがあるのはあります。
パッシブスキルでもレベルがないものもあります。