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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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57 戦いの終わり

 森の中から巨大なゴブリンが出てきたのはさっきと一緒。しかし攻めて来ずに森の前で隊列を組んで立っている。


 その中心に輿に乗ったデブのでかいゴブリンが出てきた。

 あいつがラスボスか。

 体型からして魔法使いだな。周りの護衛達をすり抜けてあいつを倒すのは至難の技だろう。


『人間どもぉ! 我はゴブリン族の王だ。我が出てきたことに恐怖して死ぬが良い!』

 傲慢なやつだな。こちとら死んでも死なない不死の軍団だっていうのに。


 ゴブリン王の叫びとともに雑魚や、騎兵、空中戦力までざわざわと出てくる。

 うわあ、あんなに沢山いると気持ち悪いな。


「いつかの虫を思い出しますね」

 カラコさんもしきりに腕をさすっている。



『終わりの、始まりだぁ!』

 どっちか終わるんでしょうかね。自分が終わることを予言しているとも取れるし、俺達を終わらせたいとの願望かもしれない。どちらにせよ、現れて声を張り上げてくれたゴブリン王さんには申し訳ないけど早期退場をお願いしよう。

 死んでステータス異常となっていた空中戦力も戻ってきている人が多数だ。

 これで最後ってわかってるから皆、1日1回きりの大技を使う。


「メンテナンス」

 機械音と共にカラコさんの能力がブーストされる。恐ろしい。こんなに能力を上げられたらゴブリンの首でも飛ぶんじゃないか?


 俺にはステータスを強化する術が……ない。ないというよりやりたくない。


「展開」

 青白い光と共にガチャガチャと音を立て弓が組み立てられる。

「装填」

 同じく青色の矢が弓につがえられる。


 さて、矢の雨でも降らせてやろうかな。


「破壊、付加、ダブルアロー、アローレイン、チェイスアロー、ファイアショット!」

 上空に向けて矢を放つ。その矢は上空で徐々に失速し……大量の矢となって地表へ降りそそいだ。

 何十人で魔法を放ったかのような爆発がゴブリン達の中で起きる。


 そして前衛組の非難の目が俺に突き刺さる。まだ沢山いるだろ! なんで俺が獲物奪ったみたいになってるんだよ! 実際、空中地上問わず全てのゴブリンが死滅している。連鎖爆撃でやられたみたいだ。


 周りにいた騎兵達が俺の方へ来ようとするが、前衛がそれを許さない。ヨツキちゃんがデカイのごと吹き飛ばし、カラコさんが全ての首を吹き飛ばしている。前衛を通り抜けた僅かなゴブリンもネメシスに全て一撃で撃ち抜かれている。ワイズさんも巨大な鬼と雷でできた人を召喚して戦わせている。

 マッドは俺の横でうんうん唸っていた。


「大丈夫か?」

「1番ヘイトを、集めるのは誰か。シノブだ。ここにいるのは、あっている」

 マッドは茶色の髪を持った小人ハーフリングだ。大人しめな顔の通り、あまり話さない。ワイズさんみたいなよく話す人の周りにはあまり話さない人が集まるのかな?

 ワイズさんが仮面着用時はネメシスが盛り上げていたのかな?


 マッドの前ではゴーレムがおかしなことをしている。腕を4本生やしている。腕の数が倍になったところで戦闘能力が倍になるか、と言われれば微妙なところだけど腕を振り回している範囲は広くなっている。



 ゴブリン王は回復役のようだ。時折でかいやつのHPが急速に回復している。

 回復役が1番に狙われやすいというのを知らないのかな?


 案の定、数多くの遠距離魔法がゴブリン王に飛んできている。

 護衛が肉壁となって防いているが忙しそうだ。

 大将首をとるとは言わないけど、少し牽制するか。


「装填、加速、破壊、付加、ロックショット」

 強化された矢は護衛の体を貫通して王の体に刺さった。

 護衛の体を通ったからか、王の防御が硬いのか、大したダメージは与えられなかったが。怒り狂ってる。あ、こっちのこと指さした。すげー、まさに軍だな。統制の取れていないこっちとは大違いだ。


「ってやばくね? 敵の総大将きてるんだけど! マッド!」

「三十六計逃げるに如かず……」

 ちょ、置いていくなよ!

 マッドはやたらスタイルの良いゴーレムに乗って逃げている。俺も乗せろよ!


 そうだ! ネメシスがいるじゃないか!


 ごめん、ワイズの護衛で動けん。後は任せた!



 任せたじゃねーよ!

 何で戦闘中にメール送る余裕あんの?

 いやいや、手を合わせてるけど、その余裕があるならこっち助けろよ。てか本来ならばマッドが後衛を守ってんだよね。

 マッドがワイズさん守ってたら、ネメシスがこっちに来たんじゃないの?


 え? ヘイト1番に集めるのは俺だから近くにいたんじゃないの?



 マッドは大分苦労しているジンの補佐に行ってしまった。

 ほとんど無表情なのに、笑顔でサムズアップしている。

 マッドの口が動く。

 ブースト。


 ああーーー!!

 誰が教えたんだ!!


 ブーストして敏捷を上げて逃げろということかこの野郎。


 ……使うしかないのか。

 もう迷ってる時間はねえ、痛みなしの死か、痛みありの生か。

 死んだことないから痛いのかはわからないけどな!



 しかしこんな程度で死亡経験なしの記録を消したくない!

 ちくしょう!


「ブースト!」

 痛っあああ!

 でも倒れるほどではない。でも痛っあい。痛い痛い。声に出すほどではないけど痛あー。

 ああーもう痛い。ちくしょう、今時の温室育ちな俺に痛みを感じろっていう方が無理だ。痛みなんて小さい頃転んだ痛みぐらいしか知らないし。

 あー、でも鉄棒から落ちて頭打った時は痛かったなー。

 そういえば少し前に小指打った。


 あれ? そう考えればこの痛みも大したことなくね?



「やべっ」

 俺の周りはゴブリンの護衛達に囲まれている。

 あのさ、皆ワクワクした顔で俺を見るのはやめてくれない? 何の無双を期待してるの?

 とりあえずはこの包囲網から抜けださなければ。



「エクスプロージョン!」

 俺に攻撃をしかけようとしたゴブリンの顔で爆発が炸裂する。

 1発でゴブリンは絶命した。

 ブーストの効果は大きいようだな。


「ファイアボール三連弾!」

 右手に1つ、左手に2つ呼び出してそれぞれ雑魚ゴブリンに当てる。


 数が多すぎる。

 雑魚を減らさねば。


「ファイアストーム!」

 ゴブリン達が王ごと炎に巻き込まれる。

 雑魚は消えたが……ちくしょう。でかい護衛は回復されている。


「クラック!」

 ゴブリン王の乗っている輿を動けなくする。機動力はこれでなくなった。さっきまでのスピードは担ぎ手が拘束から抜け出ない限りは出せない。

 そう担ぎ手は輿を担いでいるから手を使うことができない。だから抜け出せないのだ。


「はっ、俺と対峙するには100年早かったようだな。顔を洗って出直してこい! エクスプロージョン!」

 魔法は護衛に阻まれたが、一体消せたのは大きい。


 さあ、逃げ出すとするか。




 その時、俺の元へと走ってくる大量の馬の足音が聞こえた。


「助太刀するわ!」

 ゴブリンだらけの戦場に颯爽と現れたのは団長アカの率いる赤の騎士団。

 赤色の装備の人もそうじゃない人も巨大ゴブリンの間を一団となって通り抜け、すれ違いざまに槍を振るったり、魔法を放ったりしている。

 カッコイイぜ! カッコイイけど……。


 逃げるに逃げられなくなったじゃないか、ちくしょう。

 ドスンと音がした方向を見ると輿からゴブリン王が降りていた。

 あんな太ってるのに歩けるのか。

 おいおい、魔法剣を取り出したよ。


「ウッドバインド!」

 剣を持っている方の足から手まで拘束された。

「グロウアップ。クラック!」

 ゴブリン王の右半身と左足は拘束された。


 さて、料理の始まりだ。


『ぬん!』

 体を揺すぶっただけで全て解除されたよ。料理始まらなかったよ。


「ファイアウォール!」

 一応ボスとの間に壁を張っておく。

 これでこっちには来れないとは思うが。

「ロックバレット!」


 発動が早く弾速が速いこの魔法はゴブリン大には最適だ。目に当てると目が潰れるしな。


 近寄ってくるやつの牽制へとなる。後は騎士団への補助かな。


『ぬおおおおおお!』

 は?


 気が付いた時には俺の体は宙に舞っていた。

 ファイアウォールが消えて、さっきまで俺がいたところにはゴブリン王がいる。

 大ダメージを与えたが、回復されてそれも無意味だ。


 ゴロゴロと転がっていき、包囲網からは抜け出せた。6割削られたよ。

 そんな俺に次々と回復魔法が降り注ぐ。


 ありがとう誰かさん。

 誰かの範囲指定の回復魔法を浴びれたのかな?


 早速ゴブリン達がこっちを向いている。随分人気者になったもんだ。


「装填、加速、破壊、連射、ダブルアロー、チェイスアロー、レインアロー、ファイアショット!」

 上空へ大量の矢が飛んでいく。


 強化されててもMP消費きっつ。

 しかしそれに見合う性能は……。



 降り注ぐ矢、その一つ一つがゴブリン大一体を死滅させるだけの威力を持っており、地面に当たると一斉に爆発を起こした。爆発に爆発の連鎖。



 目の前が真っ白になった。

 死に戻りしたわけじゃないよ。爆発の光が凄すぎてさ。

 目の前が真っ暗になる場合と目の前が真っ白になる気絶の違いで病気の種類が大体わかるらしいね。


 俺の爆発に巻き込まれた前衛の人たちは大丈夫だっただろうか。騎士団が範囲から出ていたのは確認したけど。

 称号持ちが少ないヴィルゴさんのパーティーとか不安だな。


『こ、この我が……少々人間というのをなめていたようだ……』

 地響きを上げて、ゴブリン王が倒れた。

 俺は人間じゃなくて半樹人だけどな。


 大将首を上げるつもりじゃないとか言って上げちゃったし。

 周りから注目されてるし。

 すみません。プレイヤースキルとかじゃなくて装備が強いんです。


「シノブさん……」

 カラコさんが歩いてきた。

 装備がボロボロになってる。

 煩悩退散!


「凄かったなぁ、シノブ! あれに巻き込まれたら死んでたぞ?」

 俺たちのパーティーが近づいてくる。誰一人として欠けている人はいないようだ。

 よかった。


「すみませんでした」

 謝っておく。これで誰か死んでいたら恐ろしいことになっていた。


「シノブ、そんなことより言うことがあるんじゃないのか?」

 ヴィルゴさんが肩を小突いてくる。相変わらず男らしい。

「言うこと?」

「勝ち鬨だ」

 俺が大将首を取ったからかな?


「か、勝ったぞー?」

「「「うおおおおおおおおおおお!!」」」


 ビビったー。

 戦場中の人が武器を振り上げて、それぞれ思い思いの魔法を放っている。

 それを見ているとやりきった感が出てきた。


「装填、加速、付加、ファイアショット!」


 空中に巨大な花火が打ち上げられた。



 これで森で採取ができるぞ!




《街防衛クエスト【ゴブリン族の侵攻】がクリアされました》

ありがとうございました。

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