56 あっけなく終わった
「シノブさんシノブさん、女の子と戯れてる場合じゃないですよ!」
称号について相談しに行っていたカラコさんが走って戻ってきた。
「一体どうしたんだ?」
「シノブさん、ネメシスさんの性別は?」
「男……じゃないのか?」
見た目は性別不明だけど。
「ですよねですよね。驚かないで聞いてください。ネメシスさんは女性です」
「……え?」
え?
え?
どゆこと?
あれで女性なの?
絶壁にもほどがある。
絶壁アンド絶望。
確かに体は華奢だけどさ。
「なんか私だけが知らなかったのかと思いまして」
声も中性的だし、顔も見えないし、体形も棒人間だし。わかるわけねえよ。
「冗談とかいう線は?」
「ヴィルゴさんも知ってたのでそれはないかと」
うーむ。あのネメシスが女性とは。世界は広い。うーむ。ネメシスの周りでも言動には気をつけなければ。致命的なミスをする前に気づいてよかった。
と言った感想しか湧かないが、カラコさんはもっと大きなリアクションが欲しかったようだ。
「な、何だってー!?」
「リアクションが遅いです」
どことなく不満気な顔をしているように見える。確かに自分は凄く驚いたのに周りは知ってたよ、とかあー、そうなんだー程度の反応だと何か嫌だよね。
「あ、精霊使いのネヴィと、火の精霊のアイネル。こっちは俺のパーティーメンバーのカラコさんだ」
「こんにちは」
『ふふふ、可愛らしい子。よろしく』
「か、可愛いなんてそんな」
AIに言われたからか照れているようだ。AIもお世辞は言うし、嘘もつくぞ。
「こ、こここ、こんにちは」
どんだけどもってんだこいつは。
「し、シノブ君。こんな可愛い子とパーティー組んでるなんて」
AIの精霊相手には普通に話せるのに、女の子相手だと話せなくなるんだな。
「彼女、アバターがリアルと同じらしいですよ」
「な。シノブ君、いや、シノブさん。紹介してはくれませんか」
いや、さっき紹介したじゃん。それにさん付けって。
「あー、ネヴィさんは精霊魔法の第一人者。プレイヤーの中でも数少ない精霊と契約するまでに到った人だよ」
「それは凄いですね」
「い、一応火の精霊導師の称号をもらってたりします。はい」
続々と称号持ちも増えてるな。
ジンは無事に称号を手に入れられたのだろうか。
でもよく考えたら称号ってプレイスタイルを変えられなくなるのじゃないだろうか。俺は特にボーナスとかもついていない。ただ弓が盗まれなくなるだけだが、称号があるから、武器を変えたくても無理とかさ。
俺の場合は弓を使わなくなったら称号が消えたりするのかな?
ネヴィは可愛い女の子とのお話を楽しんでいたようだ。カラコさんは困惑気味だったけど。そしてアイネルの目が怖い。俺は頼まれただけだ! 無罪だ!
「戦力にはならなさそうだよ。焚き火代わりになるぐらいの性能だ」
未来にどうなるかはわからないけどな。
「そうですか。それで結局公開はするんですか?」
「ただのお楽しみ要素だしな。公開したところで不利益があるわけでもない」
「なら掲示板の方に書き込んでおきます」
手際がよくて自分のやることをわかっているな。
これで町中にロリが溢れかえる……誰の策略だ。ロリコンか。いや、まだエレメントがロリと決まったわけではない。ロリorショタ。何らかの手段をすると、進化するのかな?
そう自分好みの女の子に育てればいい。現代版光源氏ができる。
そしてこのゲームはいつからギャルゲーになったんだ?
召喚魔法で可愛い女の子の魔物を召喚して、精霊魔法で美しい精霊のお姉さんと契約、調教でNPCの女冒険者を……これはいけないな。たぶん犯罪。第一NPC相手に調教が発動するのか。
発動してもってか対話ができるんだから普通に雇えばいい。
さあ、そうしてリアルの女子と話せない人のハーレムパーティーが出来上がるわけだ。道理で少子化が解決されないと思った。
まあ、VRが大衆化した時点で若者の現実離れが叫ばれてたけどな。これからどんどん物事がVR内で済まされるようになるんだし、影響ないのは飲食店ぐらいかな。
それは今関係ないことだったな。
現実では冴えない女の子でもアイドルになれちゃうのがVRだ。
「カラコさん、勇者の称号どんな感じだった?」
「勇者の威光は、カルマを低くするんじゃないのかと言われました。人の家からアイテムを取っても何も言われなくて、やたらNPCの好感度が上がるらしいです。魔王の威光を持っていた時には逆のことが起きていたと言っていました」
何もしてないのに敵対的な目で見られ、盗んでもないのに盗んだと思われていたのか。魔王でそれはキツイな。
魔王を止められてホッとしているわけだ。
「器用貧乏はステータスに補正ですね。全ステータスに55追加されました」
カラコさんが主人公なのかな?
それとも戦闘力インフレ?
無限に強くなっていけるMMOではいずれ僅かな上昇となると思うけど今の時点では画然たる差がある。
えーと、7のステータスがあって、それ1つに対して11レベル上がっているということは。77レベルプラスされてるってことっすか……ついていけません。
何それ。
ヨツキちゃんのステータスが2倍になるとかいう壊れ性能よりかはまだマシだけど。魔力とかカラコさんが持っていてもしょうがないからな。
「それで光魔法を取りました」
え?
俺のポジションなくなるじゃん。
カラコさんもついに魔法剣士。俺も剣士弓師になるべきかな?
意味がわからないか。
「勇者になったからか光魔法が5ポイントで取れたんです」
そうかい、そりゃ良かったね。
俺は存在意義が消えそうだよ。
純粋な魔法職ではなかったからまだマシだけど。そうだよな。カラコさんが魔法を使えるようになったからって俺がどうにかなるわけでもない。
「後は聖剣ですね。ワイズさんは魔剣というのがあったそうです。発動させたら呪われたそうです」
ワイズさん……不憫な人だ。
「使っている武器が聖なるものになるみたいです」
聖なる剣か……エクスカリバーとか草薙の剣とかを思いだすな。草薙の剣っていう言い方より天叢雲剣って言い方のほうがかっこいいと思うのだが、草薙の剣の名称の方が有名だよなー。何でだろう。
聖なる剣とかうんぬんは戦闘中に確かめればいいだろう。
「やっぱり魔王を退治しに行かなきゃいけないの?」
「ワイズさんは勇者と会ったことがないのでわからないそうです」
ワイズさんじゃなくて他に誰か魔王がいるってことだからな。魔王はぶっちゃけ外れ称号なのだろう。
魔王になっちゃった人。どんまい。
俺の称号も外れといえば外れだけどな。この弓自体が称号だと思えば。超遠距離高火力で無双してやるぜ!
狭いところでは全く意味ないが。
そういえばアローレインの検証してなかったな。雑魚が沢山出てきたら試してみても良いんだけど。発射から着弾まで時間がかかるし、当てられる気もしないからな。上に放ってどうやって当てるのかと。
「後何回あるかわからないけど次の侵攻の時に無双しなよ。勇者なんだからさ。他人の獲物を奪っても、勇者だ! っていえば納得してくれるよ」
「そんなわけないじゃないですか。強くて凄い性能なのはわかってますけど」
こんな風に控えめなカラコさんが勇者で良かった。
「ワイズさんによるとあのハエみたいなボスと戦ったことが原因じゃないかと」
あのハエ? それなら俺も戦ったけど。
「あの時称号を持っていないのは私だけでした。だから私に来たのではということを言われました」
くっ、俺にもチャンスはあったというのか。あの時称号がなかったら……なくてもカラコさんだったか。勇者がスナイパーとか聞いたことがない。
スナイパーの勇者とかラノベでありそうだな。魔王を狙撃で暗殺する。正義の狙撃手。
戦闘シーンが見応えなさすぎてコメディに走る落ちだな。
「なんか飽きてきたけど、次が始まるみたいだぞ」
「シノブさんは戦闘に考え事を入れすぎなんですよ。もっと無心で剣を振らないと」
俺は剣士じゃないんだけどな。
剣士は何も考えずに攻撃をかわして斬るを繰り返してればいいけど。魔法使いは残りMPを計算して、盾は注目を常に集めていることを確認しながら、回復役は相手の大技に合わせて回復とかをしなきゃいけないんだよ。
MPはそれなりにあるから、何も考えずに魔法を放っていれば良いのだろうか。
それに何だか腹が減ってきたな。
目の前でおにぎりという日本的な物を見たからだろうか。
よし、これが終わったら飯食いにログアウトするか。
「俺……この戦いが終わったら飯食いにログアウトするんだ……」
「珍しいですね。そして死亡フラグを立てるのはやめてください」
地元ではフラグクラッシャーと恐れられた俺に死亡フラグなど関係ないのだ。今まで様々なフラグをへし折ってきた。恋愛フラグも、友情フラグも、青春フラグも。
死亡フラグなんてそれに比べたら些細なことではないか。
ありがとうございました。