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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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49 それぞれの欲望

『ウハハハハ、久しぶりだな!』

「ごぶたさしてます」

 この人達は何も変わっていなかった全員が暇そうに雑談してるだけ。

 てか狩人ギルドそのものに人がいない。遠距離攻撃担当は全て暇しているみたいだ。


『ふむ、珍しい武器を背負っているね』

『弓使いか、何の魔法を使えるのか?』

『弓使いには風魔法が1番じゃて』

『ご老体言いますな。最高の威力を持つ火魔法こそ弓の火力を補うのに良いでしょう』

『おいおい、てめえら。こいつが物理攻撃主体の弓使いだったら、土魔法だろ?』

『皆さん落ち着いてください。最も汎用性が高いのは水魔法ですよ? 弓に纏わせるものだけで決めるわけではありません』


 様々な批評を言ってくるが、俺は聖徳太子ではないのだ。1人ずつにしてほしい。


「魔法は木魔法と火魔法です。何か弓使いにオススメのスキルはないかと思いまして」

 赤い杖を持った火魔法の教官である若い男が勝ち誇ったような顔をする。


『燃え盛る炎。それは激情を表している。それをいかに抑え込むかが、火魔法の本質なんだよ』

『この者は新たに魔法を決めにきたのじゃ引っ込んでおれ』

 残る選択肢は風、水、土だけだ。


「近寄られた時の足止めとか、接近戦にも対応できる者が良いですね」

 土魔法使いが、ニヤッと風魔法使いであろう爺さんを見る。


『ワシには突風がある! ブラスト!』

 風魔法使いの爺さんが魔法を唱えると、その場に動くのも困難なほどの突風が吹き付ける。


 誰かが叫んでいるような声がするが、それも風の音で聞こえない。屋内でこんな魔法使うとか、認知症が進んでいるのじゃないだろうか。


 だが直ぐ風は土でできた壁に遮られた。

「風は土に勝てねえんだよ。クラック」

 風魔法の爺さんの足が床にできた割れ目に落ちる。

 そして問題なのが、ここが2階ということだ。1階に繋がってるわけじゃ……ないよね?


「土魔法はその特性としてオブジェクトが残る。1番足止めに適してると思うぜ。マッドプール」

 風魔法の爺さんの足元に泥沼ができて腰まで泥に沈む。だからここ建物の中で2階だよね?


「ええい、わかっておるわい!」

 風魔法使いはフワっと空中に浮き上がると泥沼を抜けた。


 四大魔法属性の使い手で唯一の女性の水魔法使いが手から水を出し、風魔法使いの泥を拭った。


「ちなみに水魔法はどんなものが?」

『そうですね。回復魔法から足止め、高威力の攻撃魔法から、補助魔法までと何でも揃っている万能な魔法です』

『それは器用貧乏って言うんじゃないのかい?』

『炎で攻撃するしか能のないものは引っ込んでいてください』

『本当のことを言われたから怒ってるんじゃな』

『怒ってなんかいません』

 四属性の魔法使いはそれぞれ仲が悪いようだな。


「ハ……テオドールさんはなんか狙撃手にオススメのスキルありますか?」

『うーん。そうだな。弓使いなら風読み。これは風を読んで弓を当てやすくするものだ。それか魔眼だな。魔力が見える。魔法がどこに来るのかわかるようになる。俺たち弓術士に取って最も危険なのは魔法だからな』


 命中率は気にしてないし、魔法も食らう敵はまだいないしな。

 ここは土魔法が妥当だろうか。水魔法に毒を混ぜるという手段も興味はあったが。

「今回は土魔法を取ることにします」

 土魔法使いがガッツポーズをする。


「なんか四大属性以外の魔法が使えるようになるのには心当たりがありますか?」

 これだけ遠距離専門のNPCがいるんだ。誰か1人ぐらいは知っているだろう。


『俺は雷魔法を持っているぞ』

 まさかのテオドールさんか。

『雷の神を司るダンジョンをクリアしたらいつの間にか使えるようになっていたぞ』

『ああ、それなら私も聞いたことがあります。毎日教会で祈っていた敬虔な信徒が神聖魔法が使えるようになっていたと』

 思わぬ情報が入ったな。神聖魔法は教会に参拝すれば良いのか。参拝は神社だな。教官はなんだろう。


 後ダンジョン。今の所ダンジョンとか聞いたことがない。

「ダンジョンってどこにあるんですか?」

『王都にある転送装置から各種のダンジョンへ飛べるようになっているんだ。若い頃は各地のダンジョンを巡ったものよ。今となってはそれが億劫でな』

 な、何?! 王都だと?!

「そ、その王都の場所とは?!」

『この街の北西部にあるな。サルディスから真っ直ぐ西だ』

 あの砂漠を越えた場所か。これは重要な情報だ。


『王都はでっけーぞー。今までなら転送装置で簡単に行けたんだがな。最近はその施設も封鎖されてるんだ。王都で何があったんだろうな』

 本当に重要な情報をくれるNPCだな。誰でも聞けば教えてくれるのだろうが。情報ごちそっさんです。


「シノブさん。こちらは終わりました」

 カラコさんが部屋に入ってきて魔法でぐちゃぐちゃになっている様子を見てギョッとしている。


「シノブさんは何を取得したんですか? 私は平衡というスキルです。バランスが悪いと言われまして」

「俺は土魔法だな」


《スキル【土魔法】を取得しました。残りスキルポイントは6です。スキル欄が限界なので控えに回されました》


 毒耐性を控えに回しておくか。いよいよ、スキル欄が逼迫してきたな。


「それでカラコさん。ダンジョンへ行けるし、転送装置もあってわざわざ街の移動が面倒くさいという人のためのシステムもあり、の便利な場所が街の西にあるらしい」

「知らなかったんですか?」

 ああ、知らなかったよ。知らなくて悪かったな。知ってたらこのこと聞いても喜べないだろ? こうやって自分で情報を集めていくのが良いんだ。


 遠距離職の教官達は俺とカラコさんの関係についてあれこれ言っていたが、それは全て無視をして狩人ギルドを出た。



 土魔法はレベル1で覚えられる呪文はストーンバレット。土の弾丸を撃ち出す呪文だな。1回使ったら後はお蔵入りパターンだろう。



「店が多いですね」

 確かにそうだ。前に見た時は空き家ばかりだったのに。プレイヤーの店なのだろう。こちらは個人でも大通りに出せるほど安いようだ。武器や、鎧などが色々なところで売られている。

 しかしわざわざ始まりの街へ来る人は少ないと思うのだが。高くて裏通りにしか出せなくても、自由の街の方が客も来やすいと思う。多人数で大通りの店を買ってもいいしな。


「ここにいる人たちは第2弾が来ることを見越しているんですよ」

「第2弾?」

「後1ヶ月後ぐらいで、追加パッチが当てられると共に、新規プレイヤーが参入できるようになるんですよ。最初に防具を整えるとなったらここになりますから」

 なるほど。


 ゲーム廃人は比較的第1弾に集まり、エンジョイ勢が評価を見て第2弾に集まるらしい。俺たちの評価を見て買うんだろうな。このゲームは最初が肝心だから情報がたくさん出ているのは良いだろう。種族ごとにどんなスキルが取得できるのかとかもあるのだ。

 転生できる可能性はあるかもしれないが。βテスター達は転生してるようなもんだからな。種族が変わってもステータスは高いままだし。


 カラコさんは一体どこでこんな情報を得ているのだろうか。俺なんか最近ゲーム外でいよいよ死の危機を迎えてるっていうのに。毎食弁当を持ってきてくれるサービスにでも申し込もうかな。それだったらわざわざ出前頼んだり、買いに行ったりする必要ないしな。



「カラコさん。好きな食べ物は?」

「唐突ですね」

 それを今日の夕食にしようと思っただけだ。


「ジャンクフードは好きですね。時々無性に食べたくなります」

「太るし、体に悪いし、生活習慣病になるぞ」

「毎日食べてるわけでもないので大丈夫です」

 ジャンクフードか……カップ麺でも食べようかな? 近くのコンビニの牛丼の方が体にいいか。両方とも野菜はないけど。一緒にサラダも買えばよいか。


「シノブさんは好きなものはないんですか?」

「中華料理が好きかな」

 買いに行くことすら面倒くさい時に出前を頼んだりする。というか最近はいつもそうだな。みるみるうちに痩せ細ってくる俺を見て、看板娘ちゃんが心配してくれてるぐらいだ。

 今日、出前を頼まなくても電話しなければ生死の確認にきてしまうだろう。


「餃子とか、ラーメンとかですか」

「ラーメンよりも天津飯とか小籠包とかの方が好きかな」


 なぜ中華料理屋は出前をしてくれるのにフランス料理屋やトルコ料理屋はしてくれないのだろうか。近くのカレー屋はテイクアウトOKだが出前まではしてくれない。そういえば最近カレーも食べてない。しかしこの弱った胃腸ではショック死してしまうだろう。


「カラコさん……俺も筋トレとかしたり、ちゃんと昼食べたりしないとダメだよな……」

 このノリで行ったら死んでしまうと思う。でも昼食べたらトイレに行きたくなるんだよな。


「てっきりシノブさんは点滴生活なのかと思ってました」

 ……まあ、そう思う人もいるだろうな。元々代謝が低くて、1日断食するぐらいなら普通にあるような生活だったからな。1週間昼飯抜き、トイレが朝と夜だけの生活でも生きれる。しかし不健康なことには変わりない。


「まあ、死にかけたら考えるよ」

「冗談に聞こえないですね……」

 冗談ではない。世の中にはトイレと一体化したダイブ機械もあるらしい。それでも食事を摂る必要はあるが、随分楽になるだろう。



「特に買うものもありませんし、暗くなる前に早く帰りましょうか」

 俺も露骨な客引きに嫌気がさしてきたところだ。帰ってイッカクさんを説得しよう。ヴィルゴさんにあの鎧を着せろってな。



「ヴィルゴさんはまだ戦闘中ですね。夕食は大丈夫なんでしょうか」

 電話が繋がらないことを確認してカラコさんが言う。たぶんまだ齧られているのだろう。カニの肉は足りているのかな?


 俺たちが通るとウサギ達が逃げていくのが見えて自分が成長したことを実感する。

「ストーンバレット!」

 逃げ遅れたウサギに石つぶてを当てる。スピードも速いし、威力もある。これは使えるかもしれないな。ファイアボールだと避けられてしまうもんな。


「それが土魔法ですか」

「中々使い勝手が良さそうだ」

 MP消費も少ないから雑魚相手にはちょうどよいな。



 明日までにどこまで上げられるか。目指せ、レベル15だな。

 それは無理だとしても10までは育てたいところだ。


《戦闘経験により【土魔法Lv2】になりました》


 ウサギ相手に無双していたら上がったが、火魔法の時に比べて上がりが悪いような気がする。気のせいかな。




「確かシノブさん料理スキル持ってますよね。ウサギの肉。焼けたりしないんですか?」

 カラコさんも持っていると思うが。何故俺に任せるのだろう。家庭的な男子になれというのか。


 ウサギの肉を具現化させてみる。


「何で焼けばいいんだ?」

「バーナーじゃないですか?」

 バーナーは手から出るからやりにくいんだよな。火力も高いし、だからといってエクスプロージョンで破裂させるわけにもいかないし、ファイアボールもどこかに飛んでいってしまう。


 ここは人間らしく道具を使うのが良いだろう。



「第1回、シノブのサバイバル講座ー!」

「いえーい、パチパチ、ドンドンパフパフ」

 気の入っていない歓声だな。パフパフってなんの音なんだろうか。パフパフ……パフ。ユスリカの染色体の膨らみのことだろうか。それかおっぱいか。カラコさんにそんなものないか!


 カラコさんから発せられる殺気に怯えながら準備をする。



 さて、今回使うのは竹です。使いようによっては炊飯器にもなるし、皿代わりにもなる便利な植物。タケノコは美味しいしね。

「パンブースピア」


 竹林がない場合は魔法で用意しましょう。


「カラコさん。この竹槍を竹串に加工してくれ」

「私木工スキル持っていないんですが……」

 持ってなくてもやる。そうでなければ弱肉強食のこの世界では生き残れないぞ。生き残れてたら一日中VRゲームなんてものに興じてなんてないと思うけど。


 カラコさんは刀で竹を切り落とし、短剣で削り始めた。



 さて、カラコさんが準備をしてくれている間にこちらは火の準備をしましょう。


「ファイアソード!」

 周りの草を焼き払います。草薙の剣だ。いや、薙いでないな。焼いてるから、草焼の剣だな。一気にショボくなったような気がする。


「ストーンバレット」

 土となった地面に石を敷き詰める。これが1番大変な作業だ。


 カラコさんが2本の竹串を完成させる頃、地面は石で整地されていた。途中で折ってしまったりして、かなりのストレスがたまる行為だっただろう。イライラが感じ取れた。カラコさんはぐったりと竹に寄りかかっている。


「疲れました……」

「ありがとう。後は俺に任せろ」


 石で敷き詰められたところの真ん中にファイアソードを突き刺して、周りにラビットの肉を置く。後は頃合いを見計らって竹串で裏返せば完成だな!



《生産活動により【土魔法Lv4】になりました》

《生産活動により【料理Lv3】になりました》

《生産活動により【精密操作Lv4】になりました》


 土魔法が上がったな。敷き詰めるほどの石ころを出すのには苦労したからな。

 味つけは焼き払う時に採取した低品質のオイシ草だけだ。塩も胡椒もないが、美味しくなると信じたい。


「自炊できるのは良いですけど、これを一々するのは手間ですね」

「携帯肉焼きセットとかあるんだろう」

「音楽が流れて、良い焼き具合を教えてくれれば楽なんですけどね」


 それは楽だとは思うけど奇妙な光景だろう。『上手に焼けました!』とか謎のSEが入る。VRでそれをやるとただのホラーにしかならない。どこからか音楽が聞こえてきて、沢山の人が俺の肉焼き成功を祝ってくれるのだ。

 恐ろしい。ポルターガイストかな?


 良い具合に良い匂いが漂ってきたところで裏返す。

 綺麗に茶色に焼かれていて良い具合だ。

「美味しそうですね」

「鑑定スキルを持ってたらどんなもんかわかるんだろうな」

 ここは料理知識というスキルを取るべきだろうか。5ポイントで取れるが……。薬品知識、植物鑑定。どちらも鑑定10ポイントで取れるところを5ポイントで取った。しかし鑑定の方が圧倒的に使いやすいだろう。


 やめておこう。今は何となくで料理を作っているが、俺は別に料理人を目指しているわけではないのだ。



 焦がすこともなく、ステーキは完成した。もしかしたら才能があるのかもしれないが、ステーキに才能が関係するかというとどうかと思う。



「可もなく不可もなく……って感じですね。初めてにしては上出来なんじゃないでしょうか」

 やたら上から目線なのが気になるが、あれだけの食レポができる彼女である。相当の場数は踏んできたのだろう。



 オイシ草の品質が低くても、まあ食えるというものが出来上がった。ステーキの他に白飯とかあればまだ評価は変わったかもしれないが。


「野生って感じの味がするな」




 俺に食事は必要ないのだが。いざとなれば飯食いに街に戻らなくても、こうやって作ればいいな。塩とか胡椒はどこで入手できるのだろうか。



「暗くならないうちに食べ終わって帰りましょうか」

 俺は夜目があるから大丈夫だろうが、カラコさんは問題だろう。


 苦労して作ったかまどを放棄するのには苦労したが、新しく取得したスキルのレベルを上げながら、俺たちはサルディスへと帰るのであった。


 え? ヴィルゴさん? 知らないよ。1人で頑張ってるんじゃない?


ありがとうございました。

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