4 笑う教官と学ぶ狙撃手
第二訓練室には何人かのプレイヤーがいてNPCに武器を教わっていた。外の喧騒と比べてもここは閑散としている。
ここは魔法や弓など、遠距離専用の訓練室なようだ。
ドア付近で手持ち無沙汰にしているNPCに弓のことを聞いてみる。
『おお、あんた弓術士か!』
筋骨隆々のおっさんに声をかけられた。教官役NPCはだいたい筋骨隆々だが。
弓を使っているのだろう、右腕だけが異様に筋肉がついている。こうはなりたくないものだ。
『俺は鷹の目のテオドール。よろしくな』
「よろしくお願いします」
ハゲで右腕だけマッチョのテオドールさん。よし覚えた。ちなみに目は普通の人と同じだ。
『それで、何を聞きたいんだ?』
「矢と魔法を組み合わせることができるって聞いてきたんですけど……」
ニカニカ笑いながら聞いてくる。よほど習いにくる人がいなかったのだろう。
訓練室のドアでたむろしてるNPCのおっさん達はマイナー職の教官なのだろうな。しかし立っているだけではなく、雑談もしている。作り込まれているな。
『魔法矢には魔法スキルが必要だ。持っているか?』
「火魔法と木魔法を持っています」
『上々だな。まず俺があの的にむけて放つからよく見とけ!』
テオドールさんは背負っている弓をおろし、矢をつがえた。
『属性は火! ファイアショット!』
矢が炎に包まれ、的に向けて飛んでいく。火矢ではなく、炎そのものが弓の形となっている。
見事に的に命中し、的は燃え落ちた。
『どうだ!』
テオドールさんがドヤ顔をしてこちらを見たので拍手をする。
『俺のを貸してやるからやってみろ』
貸出制とは親切設計だな。
俺はテオドールさんの真似をして弓を構える。弓術Lv.1のおかげか、それなりに様になっているような気がする。
「属性【火】ファイアショット」
《スキル【ファイアショット】が認証されました》
的の真ん中には当たらなかったものの、的を燃え上がらせた。
後ろでテオドールさんが『さすがは俺の弟子だ!』とか笑ってるけど、いつの間に俺は弟子になったのだろう。
木魔法も試してみる。
「属性【木】……ウッドショット」
《スキル ウッドショットが認証されました》
名前に迷ったがどうやらあっていたようだ。ウッドショットってダサいけど。
雷だとサンダーショット、水だとウォーターショットとなるのだろう。
ウッドショットの効果は刺さった後に発揮された。矢の途中の部分が枝分かれし、的に刺さったのだ。痛そう。
『これでお前も立派な弓術士だな。威力は魔力依存。魔法矢として使う場合は精神力も少し消費するぞ。あとは使っていくうちに覚えるだけだ! ガッハッハ!』
言い忘れていたけど俺は狙撃手です。
「ありがとうございました」
俺は弓をテオドールさんに返しながら一礼した。
他に何か聞くことはあったかな?
『良いってことよ。これで要件は済んだか?』
「えーと、弓の命中率って何依存ですか?」
『弓を上手く的に当てるのには器用さが必要だな」
……今度から器用さも上げていこう。
俺は再度テオドールさんに礼を言い、その場を離れた。
暇な時はだいたい第二訓練室にいるらしいので、わからないことがあったらまた聞きに行けばいいだろう。
先ほどファイアショットとウッドショットをすることでわかったが、精神力の消耗は普通の魔法と比べると少ない。矢が使い捨てになるのがもったいないが、仕方ないだろう。これからは金策に走ることになりそうだ。
最初に俺がきた広場に戻り、地図で武器屋の位置を確認する。どの通りにも武器屋はあったが、俺は広場に最も近い、北通りの武器屋へと行くことにした。
《【草原の主】が倒されました。街道への道が開かれました》
突如インフォがなる。
もう最初のボスがクリアされたようだ。ゲーム開始からまだ4時間と少ししかたっていない。周りにプレイヤー達もザワザワしている。
このゲームはボスを倒していくことでエリアが開放されていくシステムとなっている。誰かがボスを倒したならば、そのボスはショートカットすることができるが、俺は自らの力を試すために挑戦するつもりだ。
ボスを討伐することで経験値が大量に貰えそうだからという理由もある。
武器屋では様々な武器が売られていた。剣や槍に紛れて銃があるのには、やはり違和感を感じる。
肝心の石の矢の値段は1本で10G。10本買った。
高いが、1本でウサギ1匹が狩れるとしたら収支はプラスとなるだろう。
狩れるとしたら、だが。
俺はまた草原に来ていた。
「やっぱりパーティーは必要だな」
周りを見てもそう思う。
俺の器用さでは動いているウサギに矢は当たらなかった。
結果、ウッドバインドで拘束してからファイアショットで仕留めることになる。
ファイアボールで仕留めるよりかは微妙に消耗が少ない。
《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》
《スキルポイントが2増えました》
ウサギを3匹ほど狩ったところでレベルアップした。
器用と精神力を交互に上げていくことにしよう。
名前:シノブ Lv3
種族:半樹人
職業:狙撃手
称号:魔王の守護
スキルポイント:4
体力:90
筋力:25
耐久力:40
魔力 :50
精神力:35
敏捷 :15
器用 :30(+5)
《戦闘行動により【火魔法Lv3】となりました》
《戦闘行動により【弓術Lv2】となりました》
《戦闘行動により【木魔法Lv2】となりました》
《火魔法 ファイアフライ取得しました》
ファイアショットでは火魔法と弓術両方のレベル上げができるようだ。
火魔法では新魔法を手に入れた。
火魔法は攻撃魔法のイメージがあったが状態異常の攻撃だった。
ファイアフライを発動させるとホタルのような光が宙を舞い、それを見たウサギは皆、何かに取り憑かれたように放心していた。
辻ヒールならぬ、辻ファイアフライができる。
その後、ファイアショットを打ち込んだのだが、精神力不足が辛い。
俺は手に入れたアイテムを全て売却し、また広場に戻っていた。
ベンチに座り、ボーッと周りを眺めているだけでもファンタジーが満喫できて楽しい。プレイしたての時にしかできない楽しみ方だ。
やはり、このスキル構成は戦闘には向いていないのだろうか。
少ない精神力、当てられない弓。長期戦闘には明らかに向いていない。
てか、スナイパーも全然できてないしな。
「これからどうしようか……」
口から思っていることが出てしまった。
「貴方も迷っているんですか」
「ふぇ!?」
思いもよらぬところから返された言葉に思わず、変な声が出てしまう。
「すみません。急に声をかけてしまって」
俺の横には黒色の初期装備をつけた女プレイヤーがいた。
ありがとうございました。
おっさん達の次の出番は未定です。