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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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48 雪辱戦

「街道にいたら良いんですけど……」

 カラコさんがキョロキョロしながら街道を歩いている。竜人兄弟みたいにボス連戦とかしている人もいるだろうしな。している人より早く見つければ良いだけだ。そしてヴィルゴさんから瓶を回収し忘れていることを伝えてくれて無事に10本の瓶は回収された。本当にヴィルゴさんが思い出してくれて助かったよ。

 これを使え! でポーション投げて、な、なんだこの回復量はって驚かれるところまでが俺の十八番だからな。今までにそんなシチュエーションはなかったがな。これからの使う予定だ。かっこ良くポーションを渡して去っていくのではなくポーション瓶を回収していくのが少し間抜けといえば間抜けだが俺の実力ではないので仕方がない。


「こう歩き回っていてもレベル上げにもなりません。街道を外れましょう」

 なんか前来た時も同じようなことを言っていたな。


「私が成長したということを狼達に見せつけてやります」

 ああ……前狼にやられかかってたっけ。今のカラコさんと狼じゃ、明らかにカラコさんの方が格上だと思うのだが。


 街道を離れると木々が生い茂っていて明らかにプレイヤーが歩くように設定されていないのがわかる。その茂みを物ともせずに鉄の刀で切り開いていく。


 3本の刀を上手く使い分けているな。毒刀は持久戦っぽい時に、鉄刀は威力がほしい時に、暴食の刀は細身だし扱いやすいのかな? 俺の主観だけど。

 カラコさんが力をいれないでも切れていく様が非常に楽しそうだ。やってみたくはあるけど、俺が使ってもああ上手くは切れないだろう。刀術スキルと職業の恩恵があるに違いない。



 キチキチキチキチ……



 突如バッタの鳴き声? 飛行音? とりあえずそんなものが近くでなった。


「バッタですか……」

 カラコさんは不満気であるが、刀を構え、俺も魔法の準備をした。周りが木々で囲まれている今、前衛も後衛もない。どこから襲ってくるのかはわからない。


「上だ!」

 ヴィルゴさんの声にカラコさんが飛び上がり、落ちてきたバッタを切り落とす。哀れなバッタは一撃でHPを刈り取られ、死亡した。こいつのドロップアイテムってなんだっけ。


「まだいるぞ!」

 ヴィルゴさんの警告通り、木の上らへんにくっついている、


「爆ぜろ! エクスプロージョン!」

 呪文を言う前に何か叫ぶキャラっているよね。惑わせ! ファイアフライ! とか燃えろ! バーナー!とか。

 かっこよくはなるけど。バーナーは呪文名自体そのまんまな感じだからあまりかっこよくないな。


 頭上の枝ごと何匹かのバッタが爆発に巻き込まれて消滅する。



「街道にいた時は1匹だったのに、こんな風に群れで戦うんですね」

 ドロップアイテムは……ポーンホッパーの足。と羽。


 一体何に使うのだろうか。足。食うのか?

 ルーカスさんに見せてみようかな。もしかしたら佃煮にできるかもしれない。


 ポーンホッパーということはビショップホッパーやキングホッパーもいるんだろうな。

 俺はチェスはそんなに詳しくないが、将棋はできるほうだ。

 フホッパー、ヒシャホッパーとかギンカクホッパーとかはいないのだろうか。


 フホッパーとか何かふざけているようにも聞こえるな。フォッパーの方がまだ良い。日本語でいうならフバッタとか、キンカクバッタとかのほうが良いのか? いや、でも金閣とか銀閣とか寺の名前でもあるしな。どこかからクレームが入るかもしれない。



「来るぞ! 狼だ!」

 俺って索敵も兼ねた役割してたよね。完璧にラビに居場所を奪われてるんですが。もしもラビが魔法を放てるようになっていたらまずかったな。どちらかというと背景で魔法を放っている俺と、同じく無言でハードボイルドなラビ。どちらが勝つかは明白なことだ。

 ラビは無言で俺を眺めると取るに足らない小物だというかのように狼を迎え撃つ動作に入った。


 兎の仕草から心を読み取れるほど器用な人間じゃないから全部俺の気のせいなんだけどな。


 妄想にしても俺がただの二本足で歩く兎に劣等感を抱いていることは確かだ。傍から見れば兎に対抗心を燃やすとか何なの? とか思われることはあるかもしれないが、これは男と男の仁義無き戦いなのだ。



「中々来ませんね……」

 狼達は包囲しているが、こちらに攻撃するのを躊躇しているようにも見える。

 何でだ?


「私に考えがある」

 ヴィルゴさんが盾を背負い、何やら取り出した。

 そ、それは!


「そう。これはカニの肉だ」


 まさか、こいつ餌付けをしようというのか?! 魔物最低辺のウサギですら、あれだけかかったというのに。そしてウサギがここまで強くなってるんだから、元からまあまあ強い狼だなんてプレイヤーが比にならないぐらい強くなるんじゃないか!?


「ヴィルゴさん! 無理ですよ!」

「はははは、言っていろ。ラビをゲットできたのだ。狼だってできないはずがない!」

 いや、あの時1日以上かかったじゃないか。


 ヴィルゴさんはカニの肉を手に取り茂みを分け入っていく。タンクなのだから、この程度の狼にやられることはないだろうし、回復魔法もあるから大丈夫だとは思うが。


「シノブさん……」

 カラコさんが途方にくれた顔をしている。


「イベント前に戦力増強してるんじゃない?」

 攻撃されて喜んでいるような声も聞こえてくるが……ヴィルゴさんの名誉のために俺は黙っておこう。そういえばマゾヒストの情報を知り得たヴィルゴさんだが、取得したのだろうか。

 まさかな。それだったらあの鎧をヴィルゴさんに着てもらえば良い話だ。まさかな。まさか……。


 いや、ありうる。あの可愛い物が好きなヴィルゴさんが狼を自らの配下に入れるためにやることを全てやるのはわかっているだろう。今もスキルを全て調教用に切り替えているはずだ。

 一方的に攻撃され続ける調教師の苦難。それを克服できる可能性のあるスキルだ。これさえあれば調教師の人口が少し増えるんじゃないか?

 いや、そうではない。あの鎧だ。

 隠密性を上げているとか言っていたが、ヴィルゴさんも静かに動けたほうがいいと思う。問題ない。後はヴィルゴさんが取得しているかを調べるだけだが。


 そしたら俺の装備はどうなるのだろうか。



「ヴィルゴさん! 俺が持っている例のスキル。取得してたりしないよな!」

「ああ、当たり前じゃないか! 取るに決まっているだろう!」

 どことなく苦しそうなのは体中に噛み付かれているからか。もちろんカラコさんの耳は塞いでいるから問題はない。機会人間だからそこが耳じゃないとか落ちはないだろうな。聞かれても何も問題はない会話だったから良いが。


 しかしこれでイッカクさんに言えば良し。俺の装備は初期装備のままだけど……攻撃受けるつもりないし、今でも火力オーバーだから良いよね!


 イッカクさんに事の顛末をメールしておこう。ヴィルゴさんは……明日でいいか。


「ヴィルゴさんもヴィルゴさんですし、シノブさんもシノブさんですよ……」

 カラコさんには苦労をかけているな。


「すまない。俺のプライドとか色々そんな感じの問題だ」

「ヴィルゴさんは置いておいて、私達は先に進みましょうか」

 カラコさんがヴィルゴさんのいる方向ではないほうに向けて歩き出す。切った後があるので遭難するようなことはないので安心だ。砂漠の時はそういうギミックではあったからだけど。


 再び進んでいるとラビが何かを発見した。

 ラビはヴィルゴさんの方には行っていない。ウサギとオオカミ。狩られる方は普通ならウサギだが、この場合レベル差でオオカミが逆に食われるだろう。しかもこのウサギは犬歯が鋭いのだ。もうなんかウサギじゃなくて耳の長い他の生物になっている。


「シノブさん構えてください」

 エクスプロージョンの準備をする。こんな視界の悪いところではこれぐらいしか使えないのだ。バーナーより火力も射程もあり、対象の間に遮蔽物があっても無問題。これほど使い勝手の良いスキルがレベル8で取れるんだから中々次の使い勝手の良いスキルが手にはいらないんだろうな。燃費が悪いという欠点はあるが。


 ガサガサと音を出している正体はトカゲだった。前かじられたことがあるトカゲだ。毒を持っているのだったな。


「カラコさん、トカゲだ」

 俺の指差す方へ、カラコさんが刀で道を作ろうとする前に血だらけのラビが帰ってきた。HPを見ても減っているところはない。返り血だろう。


「街道を選んだのは失敗でしたかね……」

「いや、もっと進めば、ライチョウみたいに手強い敵も……」

 この環境で手強いの出てこられたら終わりじゃん。カラコさんも動きにくいし、ヴィルゴさんもいないし。


 このままバッタか、トカゲだけ出てきてほしいところだな。狼は無駄に警戒心が強いから嫌だ。



《戦闘経験により【発見Lv8】になりました】



 何度か戦闘をしていると見慣れた草原に出た。

 火魔法は後2レベルで新呪文獲得だが、この分だと明日までに上げるのは厳しそうだ。


「出ちゃいましたね」

「そういえば俺はこの街の教官的NPCに用事があったんだ」

 嘘ではない。弓使いに欠かせないスキルは何か聞きにこようと思っていたのだ。


「寄りましょうか。私も何か有用なスキルがないか聞いてみます」


 俺達は懐かしの始まりの街へスキルの情報を得るために行くのだった。


ありがとうございました。

次回、新しいスキルを取ります。

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