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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
43/166

42 イベント前日 カスタマイズ

 今日も雲ひとつ無い晴天。

 このゲーム内に天気ってあるのだろうか。今のところ晴れしか見たことはないが。

 別に晴れでデメリットがあるわけでもない。紫外線もないし、日焼けするわけではないからな。ただ空を見上げると眩しいから上空への警戒が疎かになりそうだ。元から上空を飛んでいるような種族は別だが。

 でも雨が降ると火魔法の効果が下がりそうだ。どっちにしろ晴れなのは良いことだ。まだ始まってから一週間程度だもんな。たまたまゲーム内でここが、雨の少ない地方という設定の可能性もある。後は雨季と乾季がわかれているとか。

 日本が湿りすぎなだけで、これぐらいの天気が続くのが普通なんだろうな。オーストラリアとかカラッとしていて住みやすそうだ。

 24時間クーラー完備で、不慮の事故があった場合には強制ログアウト。停電しても内部バッテリーにより8時間駆動可能! な装置を使っているからな。

 8時間という数字が廃人仕様だ。8時間もあれば電力も復帰するだろうって。

 このまま色んなところがVR化していったら、運動も勝手にさせて、食事不要とかになるかもしれない。恐ろしいことだ。今でさえ生理的なこと以外は全てVR内で出来てしまうのに。


 メールが来ている。竜人弟からだ。ポーション瓶についてだな。今日は1日いるので、そちらの都合に任せます。だって。

 困ったな。俺も特に用事があるわけでもない。スケージュール帳を持っているわけでもない。こういうのは忘れてしまう。


「まあ、カラコさんに」

「私がどうかしましたか?」




 びっくりした~。


「心臓に悪い。驚かさないでよ」

「おはようございます。おどかしたつもりはなかったんですが」

 カラコさん、今日はいつもより早いな。いつもなら、俺が生産をしている時間ぐらいはあったんだが。

「それで私が何ですか?」

「ああ、竜人兄弟からポーション瓶を返してもらう時間をね。俺は特に予定はないからいつにしようかと」

「ギルド設立関連の予定はたくさんありますけど。今日は1日中狩りに当てましょう。西の方も行ってみたいですし。ということで、今から連絡をつけて返してもらったらいかがでしょうか」

 ギルド設立って何するんだっけ。面接とか、拠点とか、クエストとかだったよな。すっかり忘れていた。というか、面接と拠点選び以外は俺がやらなくてもいいよな。優秀な部下達がやってくれるはず。


「今からか。メールしてみるよ」


 今はどうだ? とメールをする。

 そして画面を閉じる前に返信が帰ってきた。早いな。待機してたのか。


 今から冒険者ギルドに行きます。とさ。

 どこかで狩りをしていたなら悪いことをした。


 拠点を持たない人は冒険者ギルドからスタートになる。

 始まりの街、ノルセアでは真ん中の広場だ。

 ログアウト地点は自由だ。街の中でないとログアウトできないけどな。


「今から来るってさ。それにしても今日は早いな」

「装備を取りに行く予定があったので」

 装備というと昨日言っていたやつかな。何か用事があると言っていたけど。


「遡行成分については調べたのですけど。そもそもポーションを抽出しようとした人が少ないし、飲んでも何も変わらないため。ただの世界観のため、と言われていますね。私はただの水でもいいと思うのですが。後、名前以上は鑑定スキルでも、見れないみたいです。薬品知識なんて持っている人はほとんどいませんから、そのスキルで見ることができるかもしれませんが」

 そういえば、そんなこと頼んだな。その後にあったことが衝撃過ぎてすっかり忘れていた。


「ああ、ありがとう。また薬品知識のレベルが上がったら見てみるよ。そして昨日の夜なんだけどさ」

 PKに襲われてワイズさんの恐ろしさを知ったと言うと、カラコさんはほら見ろという風に鼻を鳴らした。


「無事で良かったですね。これでわかったでしょう。1人で行動するのはやめましょうね」

 なんだなんだ。カラコさんに母親の影が重なってみえるぞ。状態異常か!



「ああ、後今日中にえるるさんが防具完成させてくれるって」

 そんなこんなで俺が思い出せる限りのことを話していると、ギルドの入り口に竜人弟が入ってきているのが見えた。

 腰には黒色の剣を2本さしている。暴食の……双剣かな。


「シノブさん。兄者が礼を言っていました。ありがとうございました」

 綺麗に中身がなくなった瓶を返してきたな。お残しがないのは良いことだ。


「それでその兄はどうしているんだ?」

「兄者は街道に1人でボスがポップするのを待っています。私は羽があるので飛んできたというわけです」

 ボスを周回してるのかこの兄弟。しかも2人で。相当のプレイヤースキルがあるのだろう。

 前見た鳥は……特に何もしてなかったな。パーティーの戦力になれそうには思えない。



「そんな時に呼び出してしまってすまなかったな」

「いえ、暇を持て余していましたから。ではまた明日会いましょう」


 そうして忙しそうにまたギルドを出て行った。


「レベル上げに勤しんでますね」

「そりゃあ、イベント前日だもんな。気合入れておかないと」

「私は装備を取りに行きますけど、シノブさんはどうしますか?」

「俺も行くよ」

 生産をするにしてももうヤク草が残り少なくなっている。東には取りにいけないし困ったものだ。毒薬つくれば調合のレベルは上がるけど。未だ使い道がわからない植物はたくさんある。

 月光草、太陽草もそうだし、他にも色々ある。色々。全部は覚えていないが。

 こういう調合を持っているNPCに聞けば何かわかると思うのだが。

 ルーカスさんは調合持ってるとか言っていたけど、スパイスの調合に使うって言ってたからな。俺も料理スキル持ってるんだからポーションばっかり作ってないで、色々なものをと思うが。


 今ガラス瓶高騰してんだもん。誰だよポーション使ってそのままガラス瓶廃棄してるやつ。ポイ捨てすんな。

 基本ガラス瓶は使い捨てと考える人が多い。俺みたいな特別製のものを使っている場合は、再利用するが、ただのガラス瓶の場合そうだ。ポーション売りも、使用済みガラス瓶を持っていけば割引とかにすればいいと思う。

 俺はどこの生産コミュニティにも属していないので無理だが。



「それで一体何を作ってもらったんだ?」

「そうですね。私のスキル。カスタマイズを遊ばせたままにするのは勿体無かったので、それようの武器を作ってもらっていたんです」

 カスタマイズ、カスタマイズ……。

 思い出した。


「確か機械系モンスターの素材を体に取り込んで更なる進化を遂げるんだよな」

「更なる進化を遂げるかどうかはわかりませんが、概ね正解です。機械工学というスキルを持っている人に偶然出会えたので、その人に作ってもらっていたんです」

 モンスターの素材じゃなくても、機械工学で作れるのか。


「偶然出会えたのは良かったな。機械工学なんてファンタジー世界をぶっ壊すようなスキル取ってる人はあまりいないだろ」

「会えたのもシノブさんのおかげですね。ありがとうございます」

 俺のおかげ? 俺がカラコさんに誰か紹介したことなどあったか。いや、ない。

 ふいに頭のなかに反語という言葉が浮かび上がったが、今はそれはどうでもいい。


 竜人兄弟を紹介したぐらいだな。たぶん。あー、後金ピカ悪趣味鎧も紹介したといえばしたかもしれない。あの鎧はパワードスーツでしたっていうのだったらかっこいい。


 まあ、会えばわかるだろう。




 カラコさんに連れられてやってきたのはイッカクさんの店ほど、わかりにくい場所にあるわけではないが、少し大通りから外れた場所にあった。

 ちゃんと看板がついている。アルファベットで書いてあるからわからない。

 アトリエっていうのはなんとなくわかる。アトリエって何語だっけ?


「お待たせしました」

 カラコさんは挨拶をして薄暗い店内に入っていく。

 カラコさんの後についていくと、少し前に見た人がいた。

 ダークエルフの。

 そう、機械工学持ちだったな。えーと。


「なんだ。お前も来たのか」

 そう、ガイアだ。そういえばそうだな。俺が紹介したみたいなもんか。てか2人はいつ接触していたのだろう。俺の覚えている限りではない。


「もうほとんど完成している。奥に来い」

 まさか、ここにカラコさんは1人で来ていたというのか。うら若き乙女がこのような薄暗い場所に1人で何度も通い詰めるとは何事かと思ったが、そもそもうら若き乙女がゴブリンの首を跳ね飛ばしているような世界なので、論理感は違うのだろう。

 カラコさんと生産職のガイアでは戦ったらカラコさんが勝つと思う。俺も今この場で襲われたら抵抗することも出来ずに垢バンされるであろう。

 いや、襲ったほうが悪いからカラコさんが垢バンされるのかな?

 というより俺がGMコールしなければ。


「シノブさん、早く行きましょう」

「あ、ああ。そうだな」

 関係ないことだったな。俺としては女の子に襲われるなら大歓迎だが、それがゲーム内で起こるとは思いがたい。あるとしたら混乱の状態異常の時ぐらいだな。


 店の奥には様々な機械や道具があり、ここってファンジーだよね? と思わせるものばかりが置いてあった。

 光る鉱石とか現実ではありえないけどな。


 馬鹿でかい機械ばかりあるが、これが機械を作るための道具なのだろうか。俺にはさっぱりわからない。

 ガイアが手に持ってきたのは、鉄っぽい金属でできた。筒状で……筒だ。

 なんと表現するべきか。


「これはドラゴンブレス再現機です。これを私の腕につけることで、手の部分からレーザービームが出るんですよ」

 ドラゴンブレスとか強そうだな。竜人兄弟が撃ってたあれだな。威力も申し分ないし、魔法攻撃ができないカラコさんには良いと思う。


「レーザービームはでない。今のところは風を出すだけだ。肝心のブレス器官が手に入っていないからな」

 風……扇風機代わりかな?

 カマイタチが出るとかならダメージは与えられそうだけど、風っていう言い方が明らかにダメージ与えられなさそう。


「仕方ないです。そんな急に手に入るものでもないですし」

 手から風を放っているカラコさんが見れるのか。

 戦闘中にいきなり手から風を出す。

 想像したら凄いシュール。


「でも1日あるし、取れる可能性もあるだろ」

 どうせ今日1日は狩りに費やされるのだ。ドロップアイテム狙いでも良いだろう。ガイアの都合もあると思うが。

「今のところボスからしか……あ」

「「あ?」」

 ガイアとハモってしまった。カラコさんは何を思い出したのだろうか。


「シノブさん、持ってましたよね。ブレス器官」

「……あぁあ!」

 危ない。このまま忘れてアイテム欄に永遠に放置されることになることだった。


 大毒蜥蜴のブレス器官。あいつには苦戦したな。最近苦戦しかしていないような気もするが。その中でも苦戦したレベルだ。あの時は初心者用の弓だったしな。


「出してみろ」

 ガイアの言う通りに、机の上にブレス器官を具現化させる。


「グロいな」

 思わず声に出してしまうほどグロい代物がそこにはあった。心臓と小腸が合体した感じ。具現化させられたばかりのそれはビクビクと時折痙攣していた。


「中々の代物だな。さすがはレアドロップだ」

 このグロい内臓をどうやって機械に組み込むのだろうか。外側につけるとかだったら、嫌だな。


 一旦、所有権をガイアに預けてから、カラコさんとガイアは何か最終確認とかをしていた。


 俺は壁に立てかけてある火器を見ていた。様々なものが積まれている部屋。中にはタイヤまである。

 もしかして車ができるのか?

 魔力で動く車とかファンタジーの種類によってはありそうだ。道路がないところは走るのが難しそうだけど。


「ではやるぞ」

 俺が中を見るのに飽きて取得可能なスキルの一覧を見ていた時。ようやく開始することになったのか。


 ガイアがブレス器官に手をかざすとブレス器官は小さな光となって筒に吸い込まれていった。

 ゲーム的だな。

 てっきり、機械と肉体の融合とかをやるんだと思っていた。

 鉄の色をしていた筒は黒く、紫色の光沢を持ったものになった。カラコさんが持っている毒刀と同じような感じだ。


 手に持っているチェンソーっぽいもので、その棒を真っ二つに斬る。


「腕を出せ」

 カラコさんが小手を外して、台の上に両手を出す。


 ガイアは腕にチェンソーを近づけた。







 機械人間って体の中も機械なんだね。

 R15がつきそうなぐらいスプラッタな惨状が繰り広げられ、カラコさんの両手には無骨な棒が取り付けられた。見てるだけで痛々しい。オイルが吹き出したり、配線が千切れ出ていたり、もうなんというか表現しがたいグロスだった。


「ありがとうございました。後は自分でできます」

 カラコさんが自らの腕についた異物をしげしげと眺める。大丈夫なのだろうか。



「カスタマイズ」

 カラコさんがスキルを唱えるとカラコさんの両手の棒が綺麗さっぱり見えなくなった。


「これで正式にカスタマイズされました。本当にありがとうございます」

 カラコさんが礼をするのにあわせて俺も合掌する。

 ガイアに睨まれた。

 インド式の挨拶を否定する気なのだろうか。

 アバターだからわからないけど、もしかしたら日本語ペラペラなインド人かもしれないぞ。

 日本人だけど。



「こちらもレベルが上がったから五分五分だ。礼はいい」


 カラコさんが金を払って俺達はガイアのアトリエから出た。



「早速試し打ちに行きましょう!」

「どこでやる?」

「西です!」


 おお、西側マップか。楽しみだ。

 もうハエはいないとしても何か新しいモンスター、素材は手に入るだろう。

 俺は調合系に使えるものが取れたらいいな。砂漠っぽいから、植物は手に入らないとしても、体液とか。


 俺達は勇んで西へと向かった。

ありがとうございました。

トカゲとドラゴンの違いはブレスを吐くかどうか。

ワイバーンとドラゴンの違いは前足があるかないか。

羽が生えていてドラゴン面していてもブレスが吐けなければ、ただの羽の生えたトカゲ?

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