41 本来の狙撃手みたいに戦いたかった
カラコさんの方にヴィルゴさんはログアウトするという連絡は来ていたようだ。夜なのに一体どこでレベリングしていたんだろう。
「似合ってますね」
パーティー間ではプレイヤーの上に名前が表示される。人混みでもわかりやすい。さすがにゴーグルはつけていないものの、フードを深く被り、顔が見えないようにしている俺を似合っているとは。顔が見えない方がいいということかな?
「遡行成分ですか……調べておきます」
「助かるよ」
攻略とか一度見始めたら、とことん読み込んでしまうのが俺の悪い癖だ。攻略を全て読んで、それでゲームした気になれる便利な頭でもある。
あまりネタバレしすぎるのもよくないしな。魔法とかも何レベルで何が出るのかとか攻略を見ればわかるだろうけど。見ない。
「シノブさんはこれからどうする予定ですか?」
「夜の闇の中に狩りに行ってくる」
不安そうな顔をしているが、俺を信用してほしい。
「大丈夫だって、それよりログアウトする前にポーション瓶回収させてもらうよ」
「あ、そうですね。ありがとうございました」
そう言って返すが、その中身はほとんど減っていない。
ポーションを飲むのには、アイテム欄から使用をするのと、実体化させて飲むという方法がある。
アイテム欄から使用をするのより、実体化させて飲んだほうが回復量も多いし、損害に合わせた飲み方ができるからそちらの飲み方をする人のほうが多い。戦闘中、常に隙がでない位置などの人は飲めないが。
「私がいない間にあまりレベル上げないでくださいよ」
そんな無茶なとは思うが、パーティー間でレベル差があると問題なのは確かだ。最初の時とは立ち位置が逆になっている。武器って大切だよな。
簡単に上を飛び越せていた雑草がある日、肥料を与えられいきなり大木になっていた。カラコさんはそんな気分を味わっているのだろう。
カラコさんにはその大木の下に隠れるのじゃなくて、それを飛び越えられるような努力をしてほしいね。
所詮俺なんかは武器による底上げだけだから、カラコさんが強力な武器を持ったらまた簡単に追い抜かせるだろう。
「わかったわかった。程々に切り上げるよ」
カラコさんは最後まで心配そうな顔でログアウトしていった。
最近カラコさん並の読心力がついてきたな。表情が変わりにくいゲームのアバターでも気持ちぐらいはわかるようになった。
空気は読めるよ。
さて、どこに行こうか。東はないとして。新たに西に行くのは1人じゃ心細い。
ということで必然的に北を選択することになる。
基本魔法に弱い敵もいるし、俺にはやりやすい場所だ。
前に行ったのはこの弓を手に入れてない時だったからな。
ギルドでクエストを受ける。
ストーンクラブ10匹の討伐。
納品もいいが、わざわざ依頼人に届けに行くのが面倒くさい。
10匹だけで800Gの報酬だ。これは美味しい。
暗視持ちはあまりいないのか、街には人が溢れかえっている。街の中でできるクエストなどをして時間を潰しているのだろうか。
暗くなるような時間までゲームをしている廃人なのに、暗視を持っていないとは。
ダメだな。遅くまでいるだけで廃人と判断してはいけない。
喋りに来たり、出会い目的に来る人もいるそうだ。
素顔が見えないゲームアバターでよくナンパとかよくやるよな。女の子だったら誰でもいいってやつか。たまに『このアバターは俺の顔をスキャンして作ったからー』とか言ってるやつも聞いたことあるけど。大体の人は信用はできない。だってイケメンだったらゲームで女の子を口説く必要ないじゃん。
俺は現実でもイケメンではないし、ゲームのアバターも地味な顔つきだ。というか半樹人っていう種族がまず地味。肌の色は暗い灰色だし、眼の色も緑色だ。ハーフのはずなのに植物感が溢れでている。それともハーフだから、なのだろうか。今のところ樹人にあったことはないからわからないが。
北門につくとそこには人を待っているであろう、人達が何組かいた。俺はそこを抜け、1人で山道へと登っていく。顔を隠しているから、俺だと身バレすることもない。
山道と言っても、所々に未知が広く平らになっていることはある。ここで戦闘をしましょうということだろう。俺のパーティーでは誰もここまで逃げようとか誘い込もうとか言う人はいなかったけどな。そんな弱音を吐く人はいない。
俺が構えるべきはそんな平らな場所の上だ。
上から狙ったら反撃も受けずに良いだろう。と思ったのだが登れそうな気がしない。
《行動により【暗視Lv6】になりました》
これで少し見やすくなったが、まだまだ昼と同じように見えるというわけではない。
少し上には出っ張りとかあるし、弓を構えられそうだが、そこまでが登れない。足場がないわけではないのだが、足をかけるとボロボロと崩れてしまうのだ。
たぶん特定のスキルがないと登れない仕掛けになってんだな。
魔法で飛べたり、足場を作れればいいのだが。
と魔法を見ているうちに閃いた。
「バンブースピア」
崖近くに竹が生える。そしてまだ俺の背より少し高いぐらいの若竹にしがみつく。
しがみつけませんでした。
竹に捕まったままグロウアップ連発で上へ登ろうとしたのだが、冷静に考えれば竹みたいなつるつるしているものにしがみつけるはずもなかった。それに新しく生えてきた竹槍に体を刺される可能性もある。もうこれ以上マゾヒストをレベルアップさせるのはごめんだ。
失敗した時竹を思いっきり曲げて、戻る反動で上に飛び上がるというのも考えたが、そもそも曲げれるほど筋力はないし、そんなことをしたら崖に突き刺さることになるだろう。
そんなことを考えていると突然後ろから衝撃が走った。
発見は、奇妙なものや見えにくいモンスターを発見してくれるものの、視界に入っていないモンスターには効かない。
魔法だったので助かったが、物理攻撃だったら明らかに死んでいただろう。ストーンクラブやゴーレムの巨体が後ろに迫ったのを気づかないほど、俺の感覚は衰えていないと思う。
素早く後ろを振り返るとそこには予想していたロックタートルではなく、5人のプレイヤーがいた。
重装備の剣士、短剣使い、魔法使いが3人だ。魔法使い多いな。おそらくこの中に、回復役、攻撃役、補助役がいるのだろう。バランスが良くて羨ましい。
「おい、あまり効いていないぞ」
「俺に聞くな。俺はいつもの攻撃をした」
会話からするとこいつらが攻撃してきたのだろう。マーカーは赤だ。
PKだ。という言葉が思いついた瞬間に、戦闘態勢へと入る。相手は他人数なので慢心をしている。実際1人対6人では確実に負けるだろう。
まともに戦ったらな。
「ウッドバインド」
短剣持ちのプレイヤーの足を絡めとる。接近戦だけは避けたいところだ。
俺が攻撃をしたので、剣は距離を詰めてきた。それほど速いわけではない。盾役なのだろう。
俺は後ろの竹やぶにとっさに入り込む。さっきまで俺がいたところを1つの魔法が通り過ぎたのが見えた。
「展開、装填、加速、破壊、付加」
まだ何もしていない魔法使いを狙う。回復役を先に潰さなければ。
魔法を使わない。最速で射出された矢は魔法使いの頭を射抜いた。HPバーが砕け散る。
体力にも筋力にも振っていなかった純粋な魔法職だったのだろう。
「エリーダ! お前よくも!」
竹を切って進んでいる剣士が叫ぶ。反撃しただけなのに何が悪いのだろう。
ウッドバインドが解除された。
短剣使いは細身だから、この竹やぶも障害とはならないだろう。
しかし今排除すべきは直ぐにここに来るであろう剣士だ。
「バーナー!」
炎が剣士を包むが、効きが悪いな。
火に耐性を持っているか、魔法がそもそも効きづらいのか。
路線変更だ。
「グロウアップ!」
新たに伸びてきた竹が俺と剣士を突き刺す。
これは痛い。自分の攻撃だと痛みが増しているような気がするのは気のせいなのだろうか。
「ウッドバインド!」
また短剣使いを拘束する。
これで前衛2人は釘付けかと思ったら、短剣使いの拘束が何かの魔法によって解かれた。そして不気味なのは未だ攻撃をしてこない1人の魔法使い。
1人は魔法を連発しているのだが、それも俺にとっては致命傷とはなっていない。ポーションを少し飲めば回復のお釣りが来るほどだ。
「ポイズナスフラワー」
「グロウアップ」
俺と短剣使いの間に毒の花畑を出す。これで短剣使いとの遭遇の時間は稼ぐことができる。それにしても問題は剣士だ。竹に体が突き刺さっているのに、それを振りきって前に進もうとしている。
だが、これはどうかな。
「バーナー」
強化された魔力で放たれた火の魔法。じわじわとだが、剣士のHPが減り始めた。
しかしそれも回復される。まだ回復魔法持ちがいたようだ。厄介だな。
「おい、お前ら! 俺は金もないし、アイテムも持ってないぞ!」
これで引いてくれるとは考えていない。言うなら1番最初に言うべきだっただろう。
「仲間1人やられたんだ。ここで引き下がれるかよ!」
やっぱり。
「俺が称号持ちと知ってのことか!」
相手に少し動揺が走る。魔法職の1人をもう1人が何やら攻めているようだ。5人で1人に挑んで死に戻りが出るなんて考えていなかったようだな。
しかしその動揺が命取り。
「装填、加速、破壊、付加」
短剣の男の胴体を矢が貫く。かろうじて生きている。しかし後一発喰らえば落ちるだろう。
「こいつ、心あたりがある。弓使いでここまでのダメージ。そして称号持ち、神弓の射手だ! 引くぞ」
短剣使いは中々博識なようだ。俺のことを知っているとは。
「しかし、ここまで追い詰めてんだ! 称号持ちってことは旨味があるじゃねえか!」
剣士が叫び返す。意見が割れたな。まだまだ余裕がある剣士と、死にかけの短剣使い。
剣士がリーダーなのか。短剣使いは渋々と俺に向かってくる。
しかし、その話している間が致命的な隙だったな。
「エクスプロージョン!」
剣士と短剣使いが爆発に巻き込まれる。俺も少しだが余波を喰らったな。
短剣使いはここで死に戻り。
剣士も痛いダメージを負っている。俺は更に強化された。
どうしてこんなことになったんだろう。
剣士が離れてくれたので余計なことを考える暇もできる。
1人で北になんて挑まなければ良かった。
「ウッドバインド」
「グロウアップ」
剣士の体が木に絡み付けられる。
後は、小賢しい攻撃をしてくる魔法使いを倒すだけだな。
「これで終わり! メテオ!」
何もしてなかった魔法使いが叫ぶ。まさかこれだけの時間、この1つの魔法を構築するためだけに使っていたのか。相手が格下に見えても強力な魔法を構築しておく。なんと立派な心構えだ。
何やら地響きが聞こえてくる。メテオってあれだよな。隕石だよな。
上を見上げるとまさに隕石が落ちてくるところだった。あれってどう見てもオーバーキルだよね。これ人にぶつけるもんじゃないよ。たぶんボス級とかにぶつけるもんだよ。
俺にはここから逃げることはできない。剣士も魔法使いも皆離れたところに避難している。剣士が逃げているということはフレンドリーファイアありの魔法なのか。
使いどころが難しい魔法だな。
ボス部屋とかでは一体どういう現れ方をするのだろうか。
熱気で俺のHPが削れ始めたところまで近づいた時、突如その隕石は止まった。
「間に合ったか、じゃないよ。何これバグ? なんかバグ技駆使してんのワイズさん?」
思わず叫んでしまう。
手にランプを持ったワイズさんが遠くに見えた。ウィルオウィスプを出せばいいのに何故わざわざランプなのだろう。
「速く逃げろ! 長くは持たない!」
え、マジで?
竹やぶからダッシュで逃げ出す。
「PK共、神妙にお縄についたほうが身のためだ。召喚【正義の剣】」
魔法陣と共にワイズさんの手に光り輝く剣が現れる。てか正義の剣とかかっこいいな。
俺の背後で再び隕石が動き出した音がした。爆風に飲まれ、俺はワイズさんの足元まで転がる。
直撃したわけでもないのに8割近く持って行かれた。どんだけ超火力の魔法何だか。
「間に合ってよかった。後は俺達に任せろ」
すげえ、ハキハキしてるワイズさんだ。
「俺達?」
剣士が俺の方に吹っ飛んできた。
あー、ワイズさんがいれば妹さんもいるか。
「ヨツキ、殺すな。こいつらには聞きたいことがあるんだ」
「わかった」
なんというかイキイキしてるな。マスクをつけていないからか。
瀕死の剣士にトドメを刺すように正義の剣を胸に突き刺す。
人に言っておいて殺すなよ……と思ったがHPは減っていない。
逆に全回復した。
「は?」
「この剣は相手のカルマにあわせて罰を与える。こういう時しか使い道がないんだが、便利だ」
カルマとかそんなものがあるのか。
悪いことをしているとカルマが溜まるのかな。
罰とは一体なんだろう。経験値減少、スキルレベルが下る、ステータス減少。これのどれかだな。ぞっとするぜ。俺何も悪い事してないよね。カラコさんに白い目で見られるとか、ヴィルゴさんに殴られるようなことはしている。確かにしている。ちょっと不安になってきたな。
「ちくしょう、一体何をしやがった!」
「やりなおしのチャンスを与えてやっただけだ。今度は生産でもするといい。以外と楽しいものだぞ
。でもお前みたいなVR内で体を動かしたいって人には不向きだろうな。こうしてスキルがなくなった今も、体を動かした結果は残っている。プレイヤースキルだ。幸いこのゲームは多数の武器、多数のスキルがある。今回の失敗を踏まえて、今回は上手くやれ。二度とPKに戻ろうとする気なんて起こすなよ」
やりなおしというとキャラクターメイキングがもう一度できるようになるとかかな?
それだったら間違えて不遇スキルを取ってしまった人の救済措置になりうるな。
俺は少し前までなら喜んでしたかもしれないが、今はあれだ。せっかく育てたのに勿体無い。
「て、てめえ。一体なにもんだ!」
剣士がツバを吐きながら、叫ぶ。
ワイズさんは、軽く笑いながら言った。
「魔王って言ったら通じるかな。しかし今はただの人だ」
ただの人ですか。人じゃないよね。種族はぱっと見人に見える。しかしただの人がこんなに強いのか。ハイヒューマンと言われれば納得はできる。ハイヒューマンなんて種族があるのかどうかは知らないけど。
もし上位種族なるものがあるのなら、俺は何になるのだろう。半樹人だから……ハイハーフドリアードとか。長いな。どうせなら森の神とかになりたい。今でさえ木の精霊と人間のハーフという意味のわからないことになっているが。
そのまま頭を握りつぶしたり、首をはねればかっこよかったんだが、ワイズさんがやったのはわざわざ召喚をするというものだった。
「召喚【小鬼の魔術師】」
ゴブリンの魔法使いが出した炎によって一瞬でHPは消え去り、剣士は消えていった。
おかしい。俺の時は全く聞かなかったのに。
「俺のスキルは強力だけど、攻撃が過激すぎる。だから色々できるこの小鬼の魔術師は重宝している」
「ワイズさん、ありがとうございました」
「当たり前さ。それにしてもこんなところで一体何をやっていたんだ? しかも1人で」
「いや、ログインしてる人もいないし、1人でレベル上でもしようかなって」
そこからお説教が始まったのだが、半分は関係ないことだった。もう半分雑談。
しかし、固定パーティーメンバーがいなくても、ギルドメンバーと組めるのがギルドの長所ということはわかりました。今度からは頼ります。
ヨツキちゃんが捕獲してきた魔法使いたちを同じようなことをして、ワイズさんが街に返していく。女の子には優しく諭し、男を恫喝する。
男女差別とは言わないでおこう。ガタガタ震えて泣いてる女の子を脅す方が可哀想だ。
《戦闘行動により【暗視Lv7】になりました》
《戦闘行動により【火魔法Lv14】になりました》
《戦闘行動により【マゾヒストLv6】になりました》
レベルはスキルだけか。俺1人でもなんとかいけたということは格下だったんだろうな。それとも俺がトドメをさした人が2人しかいないからだろうか。
俺達は仲良く連れ立って下山したのだった。
カニ?
1つにまとめられたところでエクスプロージョン連発で終わりました。
まとめたのは言うまでもなく。
この人達ってモンスター捕獲とかもできるんだろうな。
また明日と言って俺はログアウトした。
ありがとうございました。ハキハキしている魔王様なんていつぶりだろう。