40 課金はしない。顔は隠せば良い。
相変わらずな見た目だな。うん、諦めて入ろう。場違い感が凄まじいが、それも仕方ないことだ。
てか常に誰かに見られているような気がする。ああ、有名人って辛い。本当に辛いなー。本当俺っていろんな意味で有名人だわ。
「にゃー?」
店に入った俺を待ち構えていたのはハイテンションな女の子ではなく、2本足で立っている猫だった。
「にゃ、にゃ、にゃんで、こんにゃところに称号持ちが来てるんだ?」
にゃーにゃー言っているが男のようだ。トラ模様が入っている短毛種。アメリカンショートヘアーに似ているような気もするが、色が微妙に違う。というか猫の種類なんて知らない。耳が折れているのかマンチカンで、尻尾がないのが日本猫でしょ。後はしましまで灰色ののが、アメリカンショートヘアー。
「シノブさん、いらっしゃいマセー。もう外套はできてますデスよ」
「本当か。助かるな」
奥からえるるが出てきた。最後のデスはいらないと思う。それにしてもこの猫は何なんだろう。
「にゃ、えるる。どうしてこんにゃやつと知り合いにゃんだ? いつのみゃにこの店はトッププレイヤー御用達店ににゃったのにゃ!」
俺のことを指をさして騒いでいる。礼儀のなっていない猫だ。いや、初対面でタメ口基本な俺が言えることじゃないけど。
「こんなやつとは失礼でにゃーにゃーうるさいやつだ。俺の名前はシノブ。トッププレイヤーかどうかは知らないな」
「この失礼な人はアレクデス。アクセサリーを作ってるんデスよ。それにしてもシノブさん。掲示板とかで初心者装備のハーフドリアードの弓使いと騒がれてましたよ?」
アレクと呼ばれた猫は失礼とはなんだとか言っているが実際失礼じゃんかよ。
確かに、樹人で弓使いは俺以外にはいないだろうな。
「そんなシノブさんに、コレです! フォレストフロッグのオーバーコートです。隠密効果があって、看破防止効果もありマス。もちろん雨の時でもラクラク行動できマスよ」
東の森に出てきたカエルの革か。奇襲してくるやつだった覚えがあるな。カラコさんの一閃で消えていたからそれほど硬いというわけではないのだろう。
「スナイパーということだったノデ、防御性能より、隠密性を重視しました。しかもフードを被って、そのゴーグルをつければ、顔も見えまセーン。どうデスか?」
中々良い。隠密性上昇というのもいいが、顔が隠れるのがいいな。かっこいい。ゴーグルをつけ、襟を立てれば完全に顔が見えなくなる。現実世界と違って顔を隠しているからといって怪しまれることのない環境だ。そのぐらいでいいだろう。
「少し着てみてもいいか?」
了解を得られたので着てみる。軽いな。レインコートっぽい。長さは大体膝辺りまでだ。
色はカエルそのままで、森林の底床部。緑と茶色が混ざっている天然の迷彩だ。森の中で寝転がればそうそう見つかることはないだろう。
「展開」
弓を広げて構えてみる。
うーん、袖が邪魔だな。矢を射るときに弓を持っているほうの袖が邪魔で少し見えにくくなる。透視ゴーグルをつけていれば問題はないだろうし、ゲーム内だから何かペナルティーが発生するとは思えないけど。
「袖の部分を少しきつくできないか?」
俺の要望にあわせて、さっさとスキルか何かを使って腕の袖の長さを調節してくれるえるる。
うん、前よりよくなった。
「これで中には何を着るんだ?」
「まだ出来てはいないのデスけど、弓のスナイパーということで、身軽さを重視した装備にしたいデス。使うのは材料はフォレストフロッグなので、防御力はほぼ無いものと考えてくだサイ。なるべく精神力を底上げにするようにはしますケド、今のところ、魔法使いのローブに最適な素材が見つかってないんデス」
ロックタートルとか魔法を使うけど、あの革じゃゴツゴツして魔法使いには向いていないだろうな。
まあ、それは仕方ない。俺はダメージを受けるポジションではないからな。
「それにしてもこんなに薄くて防具と呼べるのか?」
「防具というより特別な洋服デス。色とかの指定があれば受け付けますよ」
「いつもこの外套の下に着るけど……まるっきる同じというのもつまらないな。そこらへんは任せるよ」
服のセンスは良いと言われたことも、悪いと言われたこともない。専門家に任せるのほうがいいだろう。
俺はアイテム欄の防具に使えそうな素材を全て渡す。
「ありがとうございマス。こんなに貰ったら豪華なものになりそうです。後、防具の回復はアレクがやってくれるのでいつでも来てくださーい」
猫は錬金術師なのか。
「俺の名前はアレク。採取に特化してるにゃ。生きてる魔物から角を剥ぎ取ることもお手の物。このお店ではアクセサリーを売らせてもらってる代わりに錬金術で防具の修理を受け持ってるにゃ」
採取特化か。俺も参考にできるかな。
「構わなければどんなスキルを採取に使ってるか教えてくれないか?」
次に何のスキルをとるかの参考になればいいのだが。
「特に隠すことでもにゃいし。トッププレイヤーが見たところでにゃにもにゃいと思う」
普通に快諾してくれた。情報の流出とか気にするほど貴重なものを持っていないのだろう。
名前:アレク
種族:妖精猫
職業:細工師 Lv16
称号:
パッシブスキル
【隠密Lv6】【窃盗Lv8】【忍び足Lv9】【逃走Lv11】
【気配察知Lv9】【気配遮断Lv10】【ポインターLv8】【識別Lv12】【鉱脈探査Lv9】
【採取Lv9】
なんかすごいな。採取のためだけに……って窃盗とか逃走とかって犯罪にもずいぶん応用が効くみたいだが。
取得するとしたら気配遮断だな。
「この気配遮断と隠密って何が違うんだ?」
「隠密は隠密だにゃ。気配遮断は自分から気配を出していると無意味だにゃ。ようするにゃにゃ、動いてると見つかるのにゃ。ただし動かにゃければ見つからにゃい」
じっとしていればばれないってことか。隠密は全体的に見つかりにくくなるのかな。
「なるほど。それで何でニャーニャー言ってるの?」
「課金アイテム。猫の首輪だにゃ。自動的に猫言葉になるにゃー」
そんなアイテムがあるのか。需要はないと思うが、こうして課金してまで猫言葉を喋りたい人もいるので運営も間違った選択をしているわけではないと思う。
それにしてもこのゲームは良心的だな。容姿にこだわったり、ロールプレイをしようと思わなければ課金をしなくてもよい。
現実世界とあまりにかけ離れていると戻った時に違和感を感じたり、ゲーム内で楽しめなかったりするから、容姿を変える人は結構いるんだとか。
俺は鏡を見れるほど容姿に優れているわけではないので問題はない。
「窃盗って何ができるんだ? まさかNPCの店から盗んでくるわけでもない」
「にゃ、にゃはははは。まさかそんにゃこと。一部モンスターが所持しているものを一定確率で盗めるんにゃよ。ゴブリンとか、時々これでしか取れないレアドロップがあるから需要はあるのにゃ」
誤魔化しているようにも聞こえたがどうなんだろう。
犯罪を犯したプレイヤーは基本その場で衛兵に捕まるが、魔法などを使い逃げた場合賞金首として賞金がかけられるそうだ。
犯罪者プレイヤーのマークは緑ではなく、オレンジになるから違うってことはわかってるけどな。ただバレていないだけかもしれないが。
「アレクはそんなことしませんヨ。アレクは戦いが嫌いデス」
戦いが嫌いで、未知のアイテムを求めてフィールドをさまよい、小金稼ぎとしてアクセサリーを販売している。良い楽しみ方だな。俺と似ているかもしれない。
「じゃあ、アクセサリーも見せてもらおうかな」
「つまらにゃいものですが」
店の一角には何かの動物の毛を使ったイヤリングや、ブレスレットなどがある。
鑑定がないと効果がわからないというのは本当に不便だ。
「俺は狙撃手なんだけど、何かオススメのある?」
今つけているアクセサリーは腕輪だけだ。
「そうですにゃー。今のところはレベルが低すぎてステータス補正があるのしかにゃい。1番よく出来てるのが、これにゃ。魔力に+8。精神力に+4にゃ」
アレクは小さな宝石がついたピアスを選びとった。黒い宝石がついている。これは目立たなそうだ。
防具や武器に比べると性能が微妙だな。アクセサリーだから仕方ないか。
「でもお高いんでしょう?」
「なんと今にゃら、見た目だけのアクセサリーもつけて2000Gにゃ!」
「高い」
何がなんでもそれはぼりすぎたろう。
「そうですヨ。高くて1000Gデス。シノブさんはうちで防具も買ってくれてるカラ、大体600Gでしょう」
「俺にょ最高傑作だぞ?!」
でも600Gって多くないか? と思ってしまう。今までの俺が金を持っていなかっただけか。半日狩りに行ってそんぐらい稼げるかどうか、だろう。クエストを受ければまた違うのかもしれないが。そういや、あまりクエストを受けた覚えがない。ルーカスさんと出会った時と、ストーンクラブと、ゴブリンだけだ。
今日西に狩りに行った時にもクエストを受けておけばまた金が入ったのかもしれない。邪結晶納品クエストがないかギルドで探してみよう。
「わかった800Gだ」
今の俺は金がたくさんある。少々無駄遣いしても構わないぐらいに。
「うーん、それでいいにゃ。性能がないアクセサリーはこの中から選んでにゃ」
ジャラジャラと色々なアクセサリーが入った箱を出してきた。
カラコさんとヴィルゴさんに土産として持って行こう。
指輪はまずいだろう。変な気があると勘ぐられかねない。鈍感系ではないのだ。
妥当にイヤリング。それかブレスレットがよいだろう。ネックレスは戦闘の邪魔になりそうだし。
カラコさんには大人っぽいやつがいいだろう。ヴィルゴさんには落ち着いた感じのものを。
っていってもわからないから適当に選ぼう。どうせタダだから。良いだろう。
2つ選んだ俺にアレクは何やら言いたそうにしていたが、目で黙らせた。
やっていることが完璧な悪者だ。
これから贔屓にしてやるから許せ。
俺が選んだのは2つとも同じ。黒い革でできたブレスレットだ。ワンポイントで何かの鉱石がはめられている。
「それでこのコートの代金はいくらだ?」
「全部揃った時でいいデスよ」
ありがたいことだ。今の所持金で足りないことは無いと思うが、一括のほうが楽なことには変わりない。
「素材も貰ったので、イベントまでには終わらせマス。できたら連絡しますケド。いついますか?」
「いつでもいるから、いつでも連絡してくれ」
若干引いたような気がしたのは気のせいではないだろう。悪かったな、廃人で。
でもトップのやつらは皆廃人だぞ?
VRだから廃人と言っても、コミュニケーション力がないわけでも社会に適応できないわけでもない。ただ現実が退屈なだけだ。現実が退屈でゲーム世界にのめり込むという時点で社会に適応できてないか。
「じゃあ、また明日」
「じゃあにゃー」
「またのご来店……」
途中で切れたのは何なのだろう。またのご来店お待ちしております、だよな。
言葉が出なかっただけかな。あるよな。そういうこと
カラコさんにメールするか。
用事終わった。合流できるか。合流できなくてもよい。
カラコさんなら、無理やりでも終わらせてきてしまったりするもんな。
すぐにメールの返事が来た。
まだ少しかかりそうです。生産でもしといてください。
生産をするのもいい。たけのことポイズナスフラワーの鑑定をするか。
ルーカスさんに紹介してもらったゴブリン肉の店にはまた明日ということで。
冒険者ギルドの生産部屋を借りる。
スキルを生産系に切り替えて。
ポーションを消費したからな……って。皆からポーション瓶返却してもらってないじゃん!
手元には空の2本があるのみ。
竜人兄弟には今メールしておこう。ヴィルゴさんたちは次にあった時でいいか。
しかし困った。
アイテムの鑑定だけしとくか。
魔毒花
品質 B
状態異常【猛毒】の花粉を持つ花。魔力の濃い場所に群生して生える。発見次第ギルドに報告しなければならない。日向を好むが魔力の濃い場所ならどこでも育つ。
グロウアップで育てたからだろうか。猛毒だ。魔力の濃い薄いがあるのか。初めて知った。魔力の濃い場所はモンスターが発生しやすいとかそういうものなのだろうか。それに冒険者ギルドに報告しろって……それで謝礼金とか出るならいくらでも出すけど。
猛毒薬ができそうだ。というより俺はまだポーションしか作ってないんだよな。大量にあるドク草をどうしようか。
前は矢に塗るという選択肢もあったが、今はそれも必要ない。何か毒を上手く使った攻撃方法はないだろうか。瓶を投擲したりするのは勿体無いからやめておこう。
毒魔法とかないのかな? 人形使いみたいに、毒を操れる。みたいな。水魔法に毒を混ぜるのでもいいけど。水魔法を食らわせて毒の状態異常になりました。とかどこの悪者だろう。しかし効果はありそうだ。今度ワイズさんに水魔法がどんな感じか聞いてみよう。
魔竹の子
品質 C
食用になる。大きくなればなるほどエグみが増す。地上から出ていない時が1番美味しく食べることができる。魔力の濃い場所に群生して生える。周りの魔力を吸い取り急速に成長する。煮物などで食べられる。
《行動により【植物鑑定Lv9】になりました》
竹の子の煮物って美味しいよなー。後は竹の子ご飯か。和風の食材ばかり思いつくがそもそもこの世界に出汁は存在するのだろうか。まだ海産物が発見されていないからな。
早く港町を解放してほしい。北か、東か、西のどこかを越えたところにあるのだろう。
今はゴブリン族の侵攻というイベントがあるから攻略は停滞しているが、終わればまたすぐに新しい街が開けるものだと思いたい。職業とかもβテストの時と違うみたいだし。
さて、2本だけだけど。ポーション作るか。抽出もあるし。
ヤク草へ抽出を使う。
緑色の液体としなびた葉に別れる。これで濾す必要がなくなったのかな。
そのまま瓶に詰める。
さてどうだろう。
ポーション
品質 C
シノブが作ったポーション。体力を回復する。回復成分のみ抽出されている。飲みやすい。
ガラス瓶によって効果が上げられている。
飲みやすくはなったのかもしれないが、品質はCだ。
普通に作ったらどうなるのだろう。
すりつぶして、煮て、濾す。そして更に抽出をする。
ガラス瓶に入っているポーションが綺麗に分離する。透明と緑に分離している。
どちらが何なのだろう。鑑定は……出来た。
まず透明な方。
遡行成分
何だこれ。これ以上の説明はない。
緑の方は飲むと健康になれるとかなんとか書いてある。青汁みたいだ。
《生産行動により【薬品知識Lv8】になりました》
《生産行動により【抽出Lv2】になりました》
《生産行動により【調合Lv5】になりました》
《生産行動のより【精密操作Lv3】になりました》
さて、これからは考察の時間だ。緑のほうにはHPを回復させる効果はない。となると効果があるのはこの遡行成分というものであろう。俺だって遡行の意味ぐらいは知っている。巻き戻しだ。
ということは、だ。
ポーションの効果とはHPの巻き戻しなのではないか。だから限界以上飲んでも最大HPが上がらず、負担がかかった体が戦闘時に一気に元に戻った。これがポーション中毒の正体か。
健康になれる緑の汁と組み合わせると、HPを回復する。
単体で飲むと年齢が下がったりするのだろうか。
いや、レベルが下がるという可能性もある。恐ろしいな。
薬品知識のレベルが上がるまで保留しておこう。
この遡行成分と何かを混ぜれば、また違う効果が発生するのかもしれないが。
実験生物でもいたらこれを飲ませてみて実験できるんだけどな。
とてもじゃないが俺が飲む気にはなれん。
ちょうど良いところでカラコさんからメールが来た。
頭を使って疲れたな。えるるさんが明日には完成させると言っていたと伝えなければ、後は謎の成分ができたことも何か知っているか聞いてみようかな。
ありがとうございました。
その場のノリで書いているので、作者でも忘れてることがありそうな気がします。