38 青赤黄色
俺が冒険者ギルドにむけて走っていると、電話が来た。
「いや、ほんとにごめん!」
先に謝罪。オドオドしたアオちゃんがカラコさんみたいに冷たくなってまわないうちに。
(あ、大丈夫ですよ。それよりその……友達も会いたいって言っているんですけど……)
怒ってなかったか。良かった。良かった。あー、良かった。もう本当、どうすればいいかと思ってた。ルーカスさんの店で一週間奢れとか言われたらどうしようかと。あそこ高いんだよなー。
俺が厨房に入ってそっから出すのでもいいけどって、電話中だったな。
「友達? いいよ」
(あ、ありがとうございます。私達は冒険者ギルドにいるので……)
「わかった! 今直ぐ行くぜ!」
俺はこんなキャラだったっけ?
まあ、いい。友達というならば女の子だろう。
アオちゃんはソロ。ということは残りの友達は生産職、もしくは固定パーティーに入っている可能性が高い。
……既に店を構えるほどの実力があるえるると、この弓を作る実力をもった生産職の人達とフレンド登録をしている俺としては生産職であっても頼むことはないだろうけどな。
てかアオちゃんって言霊もってる中で一番レベル高いのか。確かに使い勝手はよくなさそうだけど。
冒険者ギルドの前で彼女たちは待っていた。
さあ、一人目に登場するのは巫女服姿の鬼っ娘。美しい角と赤色の肌を持つ体と反対の名前、アオちゃんだ!
そして、二人目。茶の髪を横で結んだ茶色の瞳の人間の女の子! ポンチョで上半身を隠しているので正確に人間かはわからない。背が高いので俺とばっちし目があってしまっている! これは後で出会った時に気まずいぞ!
そして、まさかの三人目。おおっとどうした女の子の大盤振る舞いじゃないかと思いつつも、ケンタウロス。う、うーん、さっきのテンションではいけないな。栗色の毛並みのいい健康体と言っておこうか。得物は槍。走ってきてグサッとやるんだな。
生産職とソロかな。
2人が布の服を着ているのにケンタウロスの子だけ、全身鎧。お姫様を守る女騎士みたいな感じだ。
アオちゃんもポンチョの子もとてもお姫様とは言えないような格好だけどさ。
「あ、シノブさん。忙してしまってすみません」
「いやいや」
実際どんな人がいるか観察する余裕はあったけどな。
「貴方がアオが入るギルドマスター?」
ケンタウロスって、6本足だよな。どっちかっていうと虫の仲間なのか?
「シノブです。よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる。
「礼儀はできてるんじゃない? 私はアカ。パーティー『赤の騎士団』のリーダーよ。後々にはギルドも作るつもり」
長い金色の髪をもった凛々しい戦士だ。背筋が伸びていて大人びているが、口調は子供っぽい。アバターと中身があっていないのだろう。
ゲーム内で長い髪の人が多いのは手入れがいらないからだろうか。
「私はキイと申します。私の友達がお世話になります。ギルドもパーティーも未所属で、人形作りやってます。よろしくお願いします」
大人しめな感じだ。恐らくこの2人の保護者的ポジションなのだろう。背も高いし。いや、背が高いのは関係ないか。
人形作りって珍しいな。
そしてアカとアオとキイか。三人兄弟でもないのに赤青黄色とは。
赤が戦闘。黄が参謀で青がマスコット。黄と青の立ち位置が逆に思える。
装備の具合から見るにアカのパーティーは中々の進み具合なのだろう。騎士ということは全員馬に乗ったり馬だったりしないといけないのかな。
それだとしたらアオちゃんがソロでやっている理由もわかる。
「も、もしかしてさっき流れた西側マップが、っていうのもシノブさんだったりするんですか?」
バレてしまったは仕方がないな。
「まあ、そうだな。中々の難しさだった」
「こ、こんな私がギルドに入っても良いんでしょうか……」
尊敬の眼差しで見てくれるかと思ったら。
「もちろん。そもそも抜けられたらギルドは設立できないし」
「で、でも……私より強い人なんかもっといるんじゃないでしょうか」
なんか魔物を呼び出してゴブリンを一掃してた人が何を言っているんだろう。
「すみません。アオは自分の規格外さがわかっていないんです」
「そうよ。陰陽道なんて使いづらいスキルよく選んだと思うわ。今の所ゲーム内で習得する方法は見つかってないし」
「で、でも……」
陰陽道ってそんなに使いづらいのか。
調べてみるか。
陰陽道。召喚、結界、回復、強化と補助に特化した魔法。召喚には魔法紙と絵。回復には人形師が作った人形。結界には香炉が必要。魔法の威力も道具によるので使いづらい。紙は今の所、陰陽道と魔法陣でしか使われないので製紙スキルを持っている人はほとんどいない。人形師はまだいるものの、少ない。香炉とか笑。呪符と護符を1つのスキル枠で作ることができる。呪符も護符も付与魔法と呪術の方が使い勝手が良い。
とんでもない記事だな。
不遇スキルということはわかった。これを見て陰陽道を選択する人はいないのだろう。しかしアオちゃんは友達に人形師がいたから選んだというわけか。
「ファンタジーの綺麗な絵を描きたいって絵描きになろうとして、キイの頼みで言霊取って、絵と紙を使う魔法と言って陰陽道を取ったら、私までこすなんて思わなかったわよ」
色々大変そうだな。アカもキイも。
アオは絵を描きたくてこのゲームを始めたのか。そういう楽しみ方をしている人もいるんだな。
キイの人形作りも趣味っぽいが。
「そんなに変な人じゃなさそうだし。私はもう行くわ。そしてシノブ。アオに変なことしたら……。じゃあ」
最後に軽く俺のことを睨みつけてアカは早足で歩いて行った。変な人じゃないから安心してくれて良いのに。どちらかっていうワイズさんの方が危険人物だ。
「あの、それで今から何をする予定だったんですか?」
カラコさんたちは来ない。ということは俺を置いてどこかに行っているのだろう。新しい武器の鑑定。イッカクさんの所だな。西側からは少し遠いが、そこぐらいしか思い当たることはない。
少し前に別れたばかりだが、俺たちもそこに行くのがいいだろう。まさか、新しく状態異常の装備はまだ用意できていないだろう。
「あのう、私も一緒に行かせてもらっていいでしょうか」
「別にいいけど」
キイも暇なのだろうか。
俺は2人の美女を横に連れ、周りからの視線に耐えながらイッカクさんの店へと向かう。
なんだ? 2人とも巨乳だから嫉妬してるのか? 体型は現実基準だもんな。精々嫉妬してろ。俺も触れないから。
掲示板の情報によると、プレイヤーの胸は他人が触っても硬いだけ。相手が通報した場合はペナルティーが出る。
しかしNPCの場合は触れるというのだ。これは恐ろしいことだ。俺のような紳士は大丈夫だろうが、女性プレイヤーにセクハラ発言をすることだけでは収まりがつかないような野獣はNPCを襲ってしまうのだろう。
牢獄の中のスレというのがあって驚いた。
反省文と罰金、アイテム没収、NPCからの好感度減少という弊害があるが、それでもやるやつらはいる。
最近犯罪者ギルドとかもできたって噂だし……嫌だなぁ。俺とか絶対狙われんじゃん。高価なポーション持ってるし称号効果知らない人もいるし。
ああ、襲われたくないはずなのに、襲われることを思うとドキドキする。もしかしてこれは……あれだな。返り討ちにして高笑いしたいっていう欲求だな。
さすがに街中で襲われることはないだろう。美少女2人が横にいるからって。
「最近何か不穏な噂があるよね」
「え? あ、はい。イベント前だから皆気が昂ぶっているのかもしれません」
焦らした運営にも責任はあるだろうな。
よし、フラグは立てた。
後は襲い掛かってきたやつを俺が華麗に返り討ちにして、尊敬されるだけだ。
ありがとうございました。ネーミングセンスはありません。