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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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33 主人公のような奇跡

 完全に包囲するまで待っていたのか、虫たちはタイミングを合わせたかのように一斉に砲撃してきた。

 軟弱だな。精神力と体力が多い俺は魔法に対しては硬いのさ。


「ふははは、その程度か!」

 誰もいないから不敵に笑ってみたりもするけど、結構痛いです。

 テニスの軟球を投げつけられてる感じ。投げつけられたことないからわからないけど。


 HPの減りは思ったより緩やかだ。緩やかというより攻撃されるたびに回復している?

 魔法はかけられていない。ポーションも飲んでいない。

 となると原因はポーション中毒だな。


 俺の予想では、HPが満タンの時にポーションを大量に飲むとそれが蓄積され、ダメージを負った時に自動で攻撃をする。

 凄い有用な状態異常だな。ボス戦前にがぶ飲みしたら、ポーション要らずじゃん。気持ち悪くなるほど飲まなきゃいけないのが欠点だけど、これはそれ以上の価値があるが、今の俺にとっては何の役にも立たない。終わりが遅くなるだけだ。


 しかしこれでしばらくはポーション使わなくていいな。



 虫の壁は相変わらず分厚く俺を覆っている。徐々に暗くなって来たのは量が多くなり、壁が高くなっているからだろう。



《スキル【闇耐性】を取得しました。スキル欄が限界なので控えに回されました》



 ん? 戦闘中なのに何でだ?

 とりあえずは闇耐性を火耐性と入れ替えておこう。

 少しダメージが減ったな。




《行動により【闇耐性Lv2】になりました》



 なるほど。俺はシステムにさえ戦闘しているとみなされてないのか。

 俺は蹂躙されてるだけ。戦闘ですらないただ襲われているだけ。



《行動により【闇耐性Lv3】になりました》


 何か打開策はないのか。このまま闇耐性が上がっていけば、ダメージはどんどん減る。しかし元が低いので、1以下にはならないだろう。質より数で攻めるタイプだからたちが悪い。

 このままいったらポーション中毒と拮抗してHPが減らなくなるのではないかと思う。



《行動により【闇耐性Lv4】になりました》



 しかしHPが減らなくなっても俺にはこの包囲網を抜ける術はない。虫たちのMPがなくなって肉弾戦に持ち込まれるのが恐怖だ。

 1番品質の悪いポーションを飲むか。


 そこで俺は衝撃の事実に気づいた。

 ポーションが使えない。

 メニュー欄からも使用できないし、具現化もできない。ポーション中毒の大きな欠点だな。中毒になっているはずなのに使用できないと。いや、中毒になっているからこれ以上進行させないために飲めないのか?

 治癒魔法は試してないが、もしかしたらHPの回復そのものが無理なのかもしれない。それだとしたらこれは使えない状態異常だ。自然回復力が多いのはいいが、戦闘中に回復できないのはキツい。雑魚相手に戦うときはいいが、苦戦が必須な敵の時は使えないな。



 要するに絶体絶命というわけで。

 すぐ死ぬわけではない。しかし回復手段はない。詰んだな。



《行動により【闇耐性Lv5】になりました》

《行動により【暗視Lv2】になりました》


 外から見たら黒いボールのように見えるだろう。陽の光が入ってこなくなったので、暗視をセットしたらレベルが上がった。

 闇耐性が上がっているからか、元々減りが遅かったHPがますます遅くなってきている。これはもしかしたらポーション中毒の回復力が勝つかもしれない。

 アイテム欄を見ても素材とポーションしかない。虫のドロップアイテムは邪結晶か。人に嫌悪感を覚えさせる見た目は邪悪だ。ぴったりのドロップアイテムだな。



《スキル【マゾヒスト】を取得しました。スキル欄が限界なので控えに回されました》



 う、うわあああああああああああああああ。







 さて……どうしようか。多感な時期のカラコさんに見せたら絶対引かれる。ヴィルゴさんだったら苦笑い程度ですむだろうが、そういう問題ではない。

 俺はマゾヒストなんかじゃない。ノーマルな人間だ。確かにカラコさんに冷たい目で見られたいとか思ったことはある。でもそれは誰でもそうだろう。可愛い女の子にだったら何をされても嬉しいってもんだ。

 そういう思考からして変態なのか。一体何が変態で何が変態じゃないのか俺にはわからない。


 これを入れてしまったら、俺の中で何か大切なモノが失われてしまいそうで怖い。

 ゲームだと割り切ればいいのだが、それでも何となく嫌だ。痛みを快感に変換するとかいうスキルだったらどうしよう。


 死に戻りか、俺のプライドか。




 どっちにしろ検証しなくちゃいけないしな。マゾヒストを選ぼう。ただのスキルだ。なんてことない。ただのゲームシステムなんだ!




 快感にはなりませんでした。食らったダメージに比例してステータスが上がるのかな?

 随分高性能だけど聞いたことないのは何故だろうか。

 しかしこの状態から逃げる手立てにはならないな。



《行動により【闇耐性Lv6】になりました》

《行動により【暗視Lv3】になりました》

《行動により【マゾヒストLv2】になりました》



 自然回復力の方が勝ってきた。ジリジリと回復してきてる。それにMPも回復してきた。


 大丈夫かな。カラコさん絶対援軍呼んでくれてないと思う。恐らく俺が死に戻りすると思ってギルドに向かっているはず。

 MPが満タンになればバーナーでここら一帯を焼き払って終わりだ。


 それまで待つのがいいだろう。

 それとマゾヒストの考察をしようか。


 取得条件は自分で自分に魔法を撃ったら出たな。防具も初期装備ではないとダメなのかもしれない。それか布系ではないとダメか。モンスターの攻撃を食らうだけで取得できるなら盾職は誰でも持っているはずだ。

 恐らく抵抗しないのが肝心なのだろう。

 それなら最初の草原でなぶり殺しにされていたヴィルゴさんが取得できないのはおかしいが、おそらく回復するのも抵抗の1種と考えられるのだろう。

 随分キツい取得条件だな。



 ステータスだが、闇耐性が上がっている今でも最初の時と補正値は変わらない。逆に上がっている。

 おそらく戦闘中に受けた総ダメージ量によるのだろう。

 俺が前衛だったらすごく有用なスキルだ。


 今は全ての数値が5割増しぐらいになっている。てか遠距離の称号持ってんのに、前衛向きのスキル手に入れるとか何事だよ。

 って言っても弓は点の攻撃だ。この大群にはほとんど損害を与えられないだろう。


 バーナーを使うほうが効率も良いだろう。



 そういえばポイズナスフラワーはどうなのだろう。俺の周りに集まっているのだからもしかしたら一網打尽的にやれるのでは?


 ここは賭けてみよう。


「ポイズナスフラワー!」

 周りに妖しい紫色の花畑ができた。え? これって俺も毒食らうの?


 またしても俺が劣勢になった。しかし虫達も毒を食らうのだからそれは仕方ないだろう。

 虫達がざわざわと動き出す。


 これで逃げ出してくれるならスキルのレベルアップ分儲けモンだ。

 しかしいつまでたっても逃げる様子はない。動いているだけだ。


《行動により【暗視Lv4】になりました》

《行動により【マゾヒストLv3】になりました》

《行動により【毒耐性Lv4】になりました》


 これは入れ替わっている? ペンギンが暖まる時に1番外側のペンギンが入れ替わるのと一緒だ。なんて賢い虫だろうか。


 んなことを言っている場合じゃない。毒は効果が薄いようだ。というか順番に毒を受けるほどの数がいるって今外はどうなってるの?



 ポイズナスフラワーは一定時間で消える。しかも採取できる。あまり取り過ぎるとあれなので、少しだけだが。もちろん収穫もセットして、グロウアップで成長させているが。

 グロウアップをかけると別魔法みたいな感じになった。毒も心なしか強くなっている。

 その分虫入れ替わりが激しくなって、魔法の攻撃が減っている。


《行動により【闇耐性Lv8】になりました》

《行動により【マゾヒストLv4】になりました》


 ポイズナスフラワーではダメージを与えることには成功した。ここはバーナーを放つべきだろうか。


 お、カラコさんから電話だ。戦闘中なのに。いや、ポイズナスフラワーを放つだけでは戦闘とみなされてないのか?


(まだ死なないんですか?)

 凄い酷い。開口一番にそれをいうのか。さっさと死ねということか。だいぶ心にグサッと来た。


「スキルとか取得できたり数々の奇跡が重なってかろうじて生きてます」

(うーん。そうですか。ワイズさんに相談してみます)

 カラコさんは気まずそうにそう言い電話を切った。まさかしぶとく粘っているとは思わなかったのだろう。やっぱり援軍なんて呼んでなかった!



《行動により【暗視Lv5】になりました》

《行動により【毒耐性Lv5】になりました》



 そうこうしているうちにMPが半分程度回復した。そろそろ大丈夫かな。

 エクスプロージョンを使うべきか、バーナーを使うべきか。

 このまま待つのが得策だろうけど、飽きてきたのだ。やることもない。取得スキルを見て、次どれを取ろうかとか、イベントではどう振る舞おうかとか。ギルドの拠点はどんなところがいいかとか。もう考えに考え尽くした。

 素数は31まで考えて、一昨日の晩御飯までは思い出せた。円周率の求め方は知らない。



 さて、反撃の始まりだ。


「俺の経験値になりやがれ-!」

 結局バーナーを使うことにした。

 マゾヒストでステータスが上がっているからか、面白いように焼け死んでいく。

 炎が触れると、ボロボロと炭になっていくのだ。


「汚物は消毒だー!」

 燃やしても燃やしても更に補充されていく虫達。これって戦闘が終わったら何レベル上がるんだろう。既にさっき倒した倍以上は倒してるよね。


 何度目かのバーナーを継ぎ足そうとした時だった。


 虫達が1つの方向へと引いていく。ようやくか。ロクに戦っていないのに精神的にすごく疲れた。あー、もう今日はログアウトして寝てもいいかもしれない。





『よくも僕の大切な下僕たちを殺してくれたね……』


 ん? 何だ?


 大量の虫が去ったところには1人の人が立っていた。なんだろう。王子様っぽい格好をしている。てかこれ敵対表示じゃん。ボス? しゃべるボス?



『君みたいな者に名乗る必要もない。その場で朽ちろ!』


 そんな前口上聞いている暇は無いんでね。さっさと逃げさせてもらうよ。

 っと前に二人組の戦士がいる。戦士だけでここに来るなんて無謀なやつらだな。

 あれ? これってもしかして彼らが逃げれなかったらMPKになる?


 冗談じゃない。冗談じゃないぞ。すこし前ならともかく俺はもう身バレしてる。掲示板にでも書き込まれれば一発だ。


「おーい、そこの2人。ボスが来るぞ!」

 警告はした、警告はしたからな。


「む、兄者。ボスと言われていますが」

「弟よ。あれは称号を掲示板に晒したプレイヤーだ。弓使いだけで来るとは無謀な」

「しかしそれほどの人が逃げるボスとは何者なんでしょう」

「それは……強敵ということだな!」


 やっぱり顔バレしていたよ。そして戦士だけで闘うつもりなのか、無謀だな。


「そこの御仁。手伝ってほしいことがある」

 そして何のロールプレイなんだ。トカゲのような顔をしているが角が生えている。竜人だろう。

 兄者と呼ばれた方は青色の鱗に後ろに流れるような真っ直ぐな2本の角。がっしりとして背中に大剣を背負っている。

 そしてもう1人、弟は青と緑が混ざっているような鱗だ。角は生えていない。腰に2本の剣をさしている。大きさからして片手剣だろう。兄との違いは背中に生えた翼。空を飛べるのだろうか。

 一言で言うと、二人共めっちゃかっこいいです。




「俺にできることならいいけど」

「ボス討伐に強力してほしい」

 魅力的な提案でも何でもないよ。6人で挑むものを3人でって。前回のボスはヴィルゴさんがいたから倒せたけど、今回は無理だと思う。しゃべるボスとか格上すぎる。


「撤退となった時には我らが殿を務めると約束しよう。神弓殿は後ろから援護してくれればよい」

 俺は超遠距離から攻撃すればいいだけだしな。リスクは少ない。しかしここで死んだら、生き延びた意味がない。それにしてもシンキュウ殿か。悪くないな。

 俺がまだ考えているのを見て、竜人の兄は頭を下げた。


「兄者。そこまでするほどの人ですか」

「黙れ、弟よ。称号を持ったからと言って我ら2人だけでボスが倒せるとは思うなよ」

 称号持ちか。なら何か兄弟で合わせた必殺技とかありそうだし、組んでもいいかな。なんといってもかっこいいし。



「俺はピンチだと思ったら逃げるし、基本攻撃しかできないぞ。補助や回復はせずに勝手にやる。それでもいいか?」

「おお、ありがたい。我の名はリュウソウ。こちらが弟のリュウカクだ。パーティー申請はこちらから送っておいた。入って欲しい」

 リアルでも兄弟なのだろうか。パーティー名は双角竜だ。ルビはついていないからソウカクリュウと読むのだろう。カラコさんなら双角竜ツインホーンドラゴンとでも名づけそうだな。

「俺の名前は」

 俺も自己紹介をしようとした時に奴はやってきた。


『僕の言葉の途中で消えるとは不敬な奴だ。その罪。死をもって償うがいい』


 背中から羽を生やした。王子が降りてきた。名乗らなくてももう予想できる。ドクロマークがついたハエの羽をもつ悪魔。

 こいつはベルゼブブだ。



「兄者、モンスターが喋っていますが」

「強いモンスターとなれば言葉ぐらい話せるようになるのであろう」

「何も得物を持っていませんし、魔法タイプでしょうか」

「そうだとしたら厄介だな」


 俺は竜人兄弟に任せて後ろへ下がる。



『さあ、僕の下僕たちよ。こいつらを喰え!』



 ベルゼブブの周りに魔法陣が浮かび上がり、中から巨大なハエが召喚される。

 カラコさんは無理だな。あれは。


 一応デフォルメされているとはいえ、かなりの見た目だ。ダメな人は確実にダメだろう。

 しかし竜人兄弟は臆さない。兄は大剣を両手に構え、弟は両手に片手剣を構える。どちらもただの鉄製で特に強そうには見えないが、さて、どんな戦いをするのか。

あありがとうございました。

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