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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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30 魔王への風評被害

 ドジっ子なメイドさんが出てきた。この店は何人で経営しているのだろうか。

『いらっしゃいませー』

「2人で。後シェフを呼んでくれないか」

『シェフのお知り合いですか?』

「ああ、少し頼みたいことがあってな」


 ディナー時も過ぎ、ある程度空いていたのですぐに座れた。


「あ、あのここってNPCのお店ですよね?」

 アオちゃんが何か信じられないような顔をしている。


「このゲームのNPCは性能いいぞ。ギルドなんかは文面通りにしか進まないが、街の人は普通の人と変わらず会話ができる」

 正直こんな高性能なAIをゲームだけにしか使わないのはもったいないと思う。


 店の奥から足早にルーカスさんが出てくる。

『シノブ君、よく来てくれたね。お礼を言いたいと思っていたんだよ』

「あ、はい」

 急に言われてもなんのことかわからないが、ただにしてくれそう。良かった。


『シノブ君が言っていた。野菜炒め』

 まさか美味しかったのか?


『野菜炒めは美味しくなかったんだけど、オイシ草をメインに使うという発想がわいてね。色々試行錯誤した結果新しいオイシ草のレシピを発見できたんだよ』


 美味しくなかったのか。あの美味しいと言っていた爺さんの舌がおかしかったんだな。

 そしてそれは俺のおかげではないと思う。


「そういえばまた食材があるんだけど、買い取れる?」

 ストーンクラブの肉だけかな。あ、ゴブリンの肉もある。ゴブリンの肉って食えるのか? 量からしてレアドロップっぽいけど。

『おや、自分で作らないのかい?』

「作る道具と場所がなくて……」

 冒険者ギルドに料理場があったりするのだろうか。ストーンクラブの肉をファイアボールで焼いてもいいが、せっかくのカニなのでもっと美味しく頂きたい。


『それならうちの厨房を使ってくれて構わないよ。今みたいな暇な時間ならいつでもおいで』

「それならありがたく使わせてもらうさ」

 道具を買うまではここに通ってレベル上げするのがいいだろうな。


『はい、これが鍵。裏口から入れるよ』



《レストランエルベの鍵を入手しました》



 こんなにあっさり鍵を渡していいのか。2回来て、素材の買い取りを持ちかけ、場所がないと意思表示すれば貰えるのだろうか。相当難易度が高いというか。俺の運が良いのか。

 アオちゃんの一件がなければ俺は絶対にこなかっただろうからな。


『シノブ君にも是非とも料理を手伝って欲しいところだけど……彼女を1人にするわけにもいかないしね。素材を渡してくれたら腕をふるってごちそうするよ』


 ストーンクラブの肉とゴブリンの肉を渡す。


『ゴブリンの肉か……。すまない、ゴブリンの肉は食材をいうより薬に近いかな。僕は調理できないんだ』

 調合でなんとかできるようには思えないし、何か別の使い方をするのだろうか。干して飲むとか。


『ただしこのストーンクラブの肉は中々良い。では少し待っててね』



 ルーカスさんが厨房に引っ込んでからアオちゃんの存在を思い出した。


「ここまでNPCと仲良くしている人を見るのは初めてです」

「まあ、成り行きでな」

 実際そうだ。成り行きで、ここまで交流を持つようになった。

 俺の力ではない。

 それにどうせ交流を持つなら料理関係じゃなくて薬草師とか、調合師とかが良かったな。ルーカスさんの知り合いにいないか聞いてみようか。


「あ、あのシノブさんに聞きたいことがあって……」

 皆の前では聞きにくかったことかな。何だろう、この弓が何で手に入ったかは俺にもわからないぞ。


「何でも聞いていいぞ」

 何でもは答えられないけどな。知ってることだけ。


「ワイズさんってどんな方なんですか?」

 そんなことか。本人は弟子って言ってたけどな。


「俺の場合キャラメイクの場所に出てきた変人っていうのが第一印象だったんだけど、色々してもらってることも多いからな。一言で言えば変なトッププレイヤーかな」

 俺がそういうとアオちゃんは安堵の表情を見せた。


「何かあったの?」

「え、いや……その……私もキャラメイキングの場所でワイズさんとあって」

 ワイズって複数の場所に同時に存在できるのかな。


「その後も色々な所で会って少し怖いなって思っていたんです」

 確かに怖い。

 キャラメイクの場で会った謎の男。ゲーム内でも見張られているかのように遭遇する。ソロでやっている女の子にはかなり怖い存在だろう。キャラメイクの場にも入り込める謎の権力を行使して、GMコールできない状態で色々することも……。

 よくよく考えればワイズさんとヨツキちゃんのあれって通報もんじゃね。血縁関係のない幼女をVR内とはいえ膝の上に乗せる。ゲームのアバターだからエロさは感じられないものの、ワイズさんのアバターがそれっぽい見た目であったら通報されていただろう。

 いや、それでもヴィルゴさんからの評価は厳しいけどな。


「何かされたらどうしようかと悩んでいて……」

 師弟関係がしっかりできてるのかと思ったら、あっちが一方的に弟子だと思ってただけなんだ。ヴィルゴさんがコミュ障と呼ぶのもよくわかる。とてつもないコミュニケーション不足だ。こんな可愛い女の子と進んでコミュニケーションを取ろうとしないなんて。


 俺だったら進んでゲームでのイロハを教えてやり、ピンチになった時に颯爽と登場。誠実な俺に彼女は……。


 って何を考えているんだ。今日の俺はどこかおかしいぞ。




『お待たせいたしました。ヴィシソワーズスープです』

 白い。カタカナが多い。なんかおしゃれ。


「あ、美味しいですね」


 どれどれ……ん、うまい。本当にゲームの中だけで食事を終わらせ餓死する廃人が出てきそうだ。食べても太らない。お腹が一杯にはならないから、いくらでも食べられる。


 でも食べた気にはなれる。





 カラコさんみたいに食べたものを美麗な言葉を表す習慣はない俺だが、全ての料理が美味しく、カタカナが多かったと言っておこう。



 その中でも最も衝撃的なものがメインだった。

 オイシ草だけを使ったステーキ……。


 美味しかったよ。

 煮たオイシ草を四角く成形して、周りに衣をつけて焼いてある。

 外はパリパリ、中はジューシー。食感は卵焼きみたいだ。

 切った時に肉汁に似た何かが溢れ出すのは何なのだろうか。



 野菜炒めと聞いてこれを作り上げたシェフは凄いな。



『どうだったかい?』

「凄く美味しかったです!」

「アイデアって凄いよな」

 最後のデザートを食べ終わった頃に厨房からルーカスさんが出てきた。客が少ないとは俺たちの他にもいるのに出てきていいのだろうか。最初来た時に呼び出したけど。


『それは良かった』

 ルーカスさんはニコニコしながら俺の椅子の背中を掴んで反対に向けた。

 アオちゃんと対面で食っていたから、反対方向になる。


「一体なんだ?」

 アオちゃんには聞かせられないことだろうか。NPCと一定以上の親密さを示した者が受けれる秘密クエストとか。



『あの鬼人族の彼女とはどういう関係なのかい?』

「はぁ?!」

 それかい!


「何でもないよ。ただ相談に乗ってくれって言われただけ」

『ほほう、それは脈ありということだね?』

 脈あり……というとまた違うかもしれない。ワイズさんと俺の弓の分の金を払うぐらい親密な仲で、しかも最後まであの場に残っていたからだろう。

 俺がいなかったら、ワイズさんの古くからの知り合いっぽいネメシスに頼んだだろう。たぶん。ネメシスも明らかに変人っぽいからな。やはり聞けるのは大樹の如き安心感を持たせる俺しかいなかったのかもしれない。


『その顔は何やら思い当たる節があるようだね』

「無くはない……かな?」

『ふふふふ、応援してるよ』


 ここでまた俺は椅子を元に戻された。結構重いと思うけどよく動かせるな。


『いや、すまないね。彼氏借りて、少し事務確認があってさ』

 彼氏だと?!

 こいつやりおる。ここで反応を見れば……。

「あ、大丈夫です」

 無反応だと?

 これは肯定したということなのか?

 脈ありか?!


 ルーカスはサムズアップしてるけど余計なお世話だ。俺が混乱状態に陥っただけじゃないか。



「あ、そういえばルーカスさん。俺はスキル調合を持ってるんだけど、それについてよく教えてくれる人を知っているか?」

 果たしてスキルというのは知っているのか。


『調合なら僕も出来る。香辛料の混ぜ合わせとかに使うよね。しかしシノブくんが求めてるのはそんな答えじゃないだろうね。冒険者が使うような薬……を作れる知り合いは残念ながらいないけど、それに近い知り合いならいるな』


 それに近い?


『行ってみればわかるよ』

 ルーカスはナプキンにサラサラと何かを書くと渡してきた。


「NW8.11?」

 何かの暗号だろうか。


 ルーカスはやれやれとため息を吐く。いや、知らないものは知らないよ。


『それは住所だよ。この町は冒険者ギルドを中心にして丸い。そして北東、北西、南東、南西と区画が分けられているんだよ』

 それは知らなかった。NWはノースウェストの略か。確かここは南東だったな。行ったことないかもしれない。今まで出たことがあるのは、北門と東門と南門だけだからな。北は山、東は森、南は始まりの町への街道で、西は何があるのだろうか。


「じゃあ、明日にでも行ってみます」

 暇があったらだがな。



「あの、明日も一緒に行動させてもらっていいですか?」

 何でだろう。確かアオちゃんは陰陽師って言ってたな。色々できる万能タイプ。回復も壁も仲間の魔物も呼び出せるソロ向けなのにどうしてだろう。


「いいけど、何で?」

 理由を聞かれるとは思っていなかったのだろう。アオちゃんは焦りだした。


「え、えーとー。まだシノブさんのこともよく知りませんし、ギルドに入るとか、そういうのはどうかなーって」

 まあ、ワイズさんに半分無理矢理だもんな。ゆっくり自分の目で俺が街路樹並みの存在感なのを確かめるといい。



 有っても誰も気にしない。しかしふとした時に有ってよかったなと思わせる街路樹のような人間になりたい。というのはただの詭弁だが。

 どうせ植物になるなら、森の中で待ち構えてて女の子が来たら縛り上げる蔓とかさ。そういう役得なのがいいよね。


「そういうことなら俺も構わない。ログインしたら知らせてくれ。迎えに行くから」

「いえ、私が向かいますから大丈夫です。ソロで行動するのに慣れてるので」

 やはり基本はソロなのか。

 うーむ、どうしよう。


「じゃあ、動きやすい方が行くってことでいいか。こちらに区切りがついてたら迎えに行くし、こちらが色々忙しいようだったら、そっちが来てくれ」

 折衷案に見せかけた相手側に負担を持たせる提案。

 かなりの高確率で明日は忙しいこととなっているだろう。



「こんなに美味しい食事までご馳走してくれて。今日はありがとうございました」

「いやいや、気にしないでよ」

「ありがとうございます。ではまた明日に」


 そういうと直ぐにアオちゃんはログアウトしていった。少し引き止めてしまったのだろうか。悪いことしたかもな。



『うん、しっかりお礼も言えるいい子だね』

 ルーカスがアオちゃんの消えた所を見てご満悦の表情をしている。仲のいい女友達を家に連れて来た時に地味に確かめるようなことをしてたうちの婆ちゃんみたいだ。

「そういえば異種族同士でも結婚できるのだろうか」

『そりゃあ、もちろんできるよ。人間と他の種族の場合はハーフが産まれて、それ以外は親のどちらかに偏る』


 結婚システムはあるが、子供を産んだりはできるのだろうか。

 コウノトリが運んでくるのか。まさかできるはずはない。



「同性婚は?」

『あまり聞かないけど。できると思うよ』

 ……同性の体の触れ合いによる警告は異性よりも緩い。

 パーティーともなると体が触れ合うことも多くなるから、更に緩くなっていき……怖いな。

 常に背後には気をつけておこう。今の所パーティーには女子しかいないが、男が入ってきた時、俺はそいつに絶対背中を預けない。

 俺は超後衛だから、背後に回られることはないだろうが。


 いや、でも近接戦闘の訓練とか言って、近寄られることも……。


 ここで俺の灰色の脳細胞が素晴らしい考えを生み出した。

 対プレイヤー対戦。している人は見たことないが、肉体1つで戦う人は一々警告が出ていたら、勝負にならないだろう。


 そう、汗だく巨乳柔道着少女に四方固め!

 ゲーム内で汗はかかないが。


 なんということか、合法的にイチャイチャできるではないか。柔道技をかけられているのがご褒美な人達の勝利だな。


 待てよ……鞭術、投げ縄術。これがある。これを使えば合法で女の子を叩けたり、縛れたりするわけじゃないか。


 SもMも満足できる仕様だがノーマルの人は……。




 そういえば痛覚軽減設定があるじゃないか。これではMの人が報われない。


 設定設定。



 今まで開いたことがなかった設定ページを開く。明るさとか色々あるが、俺が求めるのは1つだけ。


 あった!


 デフォルトで90%カットなのを0にしようとして我に帰った。






 俺は今何をしようとしていたんだ?

 新しい扉は開く所だった。

 今日の俺はどこかが変だぞ。



 ゲームを始めてから女の子に囲まれ続けてて耐えきれなくなったのか。日に日に頭の中のピンク色の部分が増えていってる。

 元々脳内ピンク一色というのはおいてもやはりおかしい。



 疲れているのだろう。


 今日の所は早く寝て、明日早起きして生産をしよう。周りを見るとルーカスさんはもう厨房に戻っており、客も俺を除いてあと一組となっていた。


 うん、こんな日もあるさ。

 俺はログアウトをした。



ありがとうございました。

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