24 鉱石集め
北には山脈が広がっている。東が調合、料理持ちの人のためのフィールドだとすれば、こちらは鍛冶師のためのフィールドといえるだろう。
「山登りしながら戦闘ですか……」
カラコさんがげんなりしたように道を見る。
「上からモンスターが来るとしたら俺みたいな遠距離職には不利だな」
「ここで文句を言っていても始まりません……はあ、行きますか」
しばらく進むと巨大なカニが見えてきた。大きな石のようにも見える。
なんというか、弓を使うのは随分久しぶりな気がするな。昨日のボス戦以降使ってないな。
「ストーンクラブとでもいえばいいのでしょうか。では行きましょう」
カラコさんが走りだすと共に弓をつがえる。
「ダブルアロー!」
新しいスキルだ。放った矢が途中で2つに分かれカニへと襲いかかる。
攻撃力10の攻撃×2。うん。効いてないね。
耐久力と攻撃力の差がある程度大きいと攻撃が無効化される設定なのだろうか。
それに新しいスキルも狙撃手とあっている。狙撃と遠見の効果で望遠鏡を覗いてるかのような感覚に落ちる。
カニは大きくハサミを掲げると地面を叩き出す。カラコさんはまだたどり着いていないし……ってええ。
カニの周囲の地面が盛り上がったかと思うと新たに3匹のカニが現れた。
「増援かよ……」
カラコさんは3匹のカニの間をすり抜ける。幸い敏捷は低いようだが、連続で放たれるカニの攻撃にかわすので精一杯な感じだ。
俺がやるしかないか。
「ダブルアロー」
矢をつがえてダブルアローを発動させる。すると少し時間はかかったが薄い影のような矢が現れた。発動させてから出るまでが時間差なのか。
「ファイアショット!」
炎に包まれた2本の矢がカニへと向かっていく。ファイアショットを2回発動させるのより低コスト、しかも矢の消費軽減にもなる。問題は矢を構えてからの硬直時間が長くなることだろうか。しかし継続戦闘能力は上がる。
「ダブルアロー」
炎の矢が当たったカニは甲殻に穴を開ける。効いているみたいだ。体力の方も3割ほど削れている。魔法には弱かったようだ。
こちらの方に注意が向いたカニのハサミをカラコさんが切り落とす。刀身が伸びているあれは一刀両断だろう。
部位破壊ボーナスでもあるのかな。
「ファイアショット」
1匹が倒れた。後2匹。ウッドショットは突き刺さってから効果が発揮されるから突き刺さらないカニには意味がないだろう。というよりファイアショットの方がエフェクトが派手で好きなのだ。
「ダブルアロー」
ポイズナスフラワーも試そうと思ってるが今のところ試すのに良い相手がいない。魔法も物理も効きにくい相手がいればいいのだが、敵を毒の状態異常にするだけって明らかに使う機会ないんだよなー。
「ファイアショット」
器用が十分に上がっている俺はもう外すことはない。がやはりダブルアローとファイアショットの間には時間がかかる。ダブルファイアショットとかはないのだろうか。始まりの街みたいにギルドに弓を教えてくれる教官NPCはいないのだろうか。冒険者ギルドに行った時に尋ねてみるとするか。
ほどなくしてカニは全員倒れた。
《戦闘行動により【弓術Lv7】になりました》
《戦闘行動により【狙撃Lv4】になりました》
《戦闘行動により【遠見Lv2】になりました》
弓術と狙撃が上がったか。硬直時間を減らすスキルが欲しいな。連続で使うときはやたら時間がかかる。コンボみたいに繋げられないだろうか。
「硬いカニでしたね。ドロップアイテムは全てストーンクラブの甲羅でした。そちらはどうでしたか?」
なんかそのままなネーミングだな。石でできたカニだからストーンクラブ。上位存在としてアイアンクラブとかミスリルクラブとか存在したりするのだろうか。
っとドロップアイテムだったな。
「俺の方は同じく甲羅2つと肉だ」
「肉ですか。美味しそうですね」
気づいたけど俺は料理の素材も、出来た料理の性能も見れないじゃないか。
「どうせなら鑑定取れば良かったな……」
植物知識と薬品知識、どちらも識別と鑑定の劣化スキルだ。目の前の利便さにとらわれた結果がこれか。
「シノブさんは植物知識と薬品知識を持っているんでしたっけ。スキルレベルがカンストしたら上位スキルに進化するかもしれませんよ」
「そんなものがあるのか」
「火耐性がカンストすると火大耐性になるらしいですね。火大耐性がカンストすると火炎無効になると言われていますね。まだその境地に至った人はいませんが。ならない可能性もあります」
ならないこともあるのか。
「確かに今考えてしょうがないことだったな」
料理スキルが日の目を見るのはずっと後になりそうだな。というより俺は料理できないからそのまま忘れて欲しい。
しばらく登って行くと道幅が狭くなっていき、魔物との戦闘も熾烈を極めた。物理が効きにくく魔法がよく効くロックタートル、物理攻撃を受け付けないサンドゴーレム。どちらも現れたのが単体だったから良かったものの、複数体に囲まれたら死に戻りは必須だろう。
うちの主力であるカラコさんの攻撃が効かないとなったらどうしようもできない。やはり魔法後衛職が必要なのだろうか。これで入ってくる魔法職が女の子だったらまだしもイケメンとかだったら俺は完璧雑草になってしまいそうである。今は女の子2人とパーティー組んでる羨ましい奴だが、イケメンなんかが来たら、イケメンとその彼女2人、そしておこぼれを貰おうとしている奴という構成になってしまう。
「すまない。俺の精神力がもうない」
「このフィールドは物理攻撃しかない私にはきついですね。ヴィルゴさんに新しい魔法を覚えてもらいましょうか」
そっちか。そうだよ。ヴィルゴさんがいるじゃないか。
それからなるべく戦闘を避けるようにして俺達は下山した。
ログインしてきたヴィルゴさんに午前にあったことを説明する。
「魔法ね。私が覚えなくてもラビが覚えてくれるさ」
「ラビは魔法を使えるんですか?」
「ピ!」
意外だな。ラビはてっきり索敵とモフモフマスコット枠になると思っていたが、俺のライバルになるとは。
「昨日レベル10になったから進化が可能になった。いわゆるレベルカンストだな。進化方針を話し合って決めようと思っていたんだ」
進化はその場で始まらないんだな。
「ちなみにどんな進化先があるんですか?」
「ビッグラビット、ホワイトラビット、ブラックラビットだな。ビッグラビットは全体的にバランスよく伸びて、ホワイトラビットは魔力と精神力、ブラックラビットは筋力と敏捷が上がるらしい」
大きくなるか、白くなるか、黒くなるかのどれかか。
「ヴィルゴさんの好きにしていいですよ。このパーティーは特に攻略に急いでるわけでもないですから」
「いいのか? シノブも」
「俺もどれでもいいぞ」
好きなようにやるのが1番だよな。
「ならビッグラビットにするぞ。1番バランスが良さそうだしな」
カラコさんはウィンドウを操作したのだろう。
ラビが徐々に発光しはじめる。そして少し大きくなった。二本足で立つと1メートルほどだろうか。
色も茶色のままで変わらない。
「スキルは何も増えなかったな。その代わりステータスは大幅に上がっている」
名前:ラビ
種族:ビッグラビット Lv2
所有者:ヴィルゴ
体力 :60(+1)
筋力 :70(+2)
耐久力:50(+1)
魔力 :10
精神力:10
敏捷 :70(+2)
器用 :60(+1)
パッシブスキル
【逃げ足】【索敵】
アクションスキル
【突進】
【噛みつき】
索敵はラビットの時点で手に入れたものだろう。強くない? 突進と噛みつきしか攻撃方法がないことを考えれば十分に強いと思う。俺は器用と体力と魔力、精神力しか勝っていない。
「そこまで苦戦したのも2人だけだったからだろう。私達4人でいけばどうにかなるだろう」
そうだな。俺達は4人で1つのグループだ。ヴィルゴさんとラビが加わればバランスよくさくさく攻略できるだろう。
俺達はストーンクラブ10匹の依頼を受けて、北へと向かった。
下の方でストーンクラブと連戦したのはいいんだ。やつら物理攻撃も効くし、数が多いだけだからな。
上に行ったところでまた俺の精神力切れ。カメはいいんだがゴーレムが厄介だ。
《戦闘行動により【狙撃Lv4】になりました》
《戦闘行動により【発見Lv7】になりました》
《戦闘行動により【火魔法Lv9】になりました》
《戦闘行動により【遠見Lv3】になりました》
「本当にすみません……MPポーションを自作できるようになったらこんなことには……」
「いや、シノブのせいではない」
ヴィルゴさんはそう言っているが、ここで新しい仲間とか言わないでよ。俺のポジションがなくなるから。
「装備もまだ整えられていませんし、仕方ないですよ」
そう言ってくれると助かる。道に落ちている石ころは拾っているものの、それが鉄鉱石なのか、石ころなのか、くず鉄なのか何なのか、俺には判断ができない。
「新しい刀が欲しいのは私のわがままですから、先に皆さんの防具を買いに行きましょう」
俺たちは下山し、イッカクさんオススメの防具店『マジカル☆ファイター』に行くことにした。
ファンタジー世界だからマジカルでいいんだけどさ……真ん中の星が気になる。こんな店名にする人は絶対変人だ。
そういえばイッカクさんの店の名前ってなんだ?
ありがとうございました。
HPMPがないと物語を進めるに当たって厳しいことに気づきました。
体力=HP、精神力=MPというのはやめて、独立した数値として現れるということにします。
レベルが上っても体力にふらないと、HPが上がらないというのは不便なので。
徐々に直していきたいと思います。
現時点ではまだ精神力表記のままだと思います。