21 生産をしよう
約束の時刻より少し前に俺はログインしていた。もちろん調合をするためだ。
夕ごはんは天津飯。出前を頼んだ。
《スキル【薬品知識Lv1】を取得しました。残りスキルポイントは1です》
控えに毒耐性と弓術をまわし、薬品知識と調合を有効にする。
どこか生産ができる工房などはあるのだろうか。冒険者ギルドで聞けばわかるだろうか。
『冒険者様の階級ですと、生産部屋レベル1がご利用になれます。場所はギルドの案内図をご覧くださいませ』
俺は今はFランクだ。Fでレベル1ということはAで6レベルなのだろうか。まあ使っていけばわかるだろう。
ギルドの奥には扉があり、扉を開けると一本の廊下に大量の扉があった。どれでもいいのだろうか。とりあえず1番近い扉に入る。レベル1らしく小さな椅子と机、水道、後は戸棚にガラス瓶と調合セットがある。
ガラス瓶がいるのは忘れていたな。
俺はワイズさんお手製調合セットを取り出す。
「うわあ……」
ワイズさんお手製調合セットには色々入ってた。もうワイズさんの方に足向けて寝れない。
俺は鑑定を持っていないからわからないのだが、ガラス瓶が10本ほど。薬草をすり潰すためであろう、すり鉢とすりこぎ棒。茹でる道具、後濾すための道具。その全てに緻密な魔法陣が彫られている。
とりあえずポーションを作るか。
すり鉢の中にヤク草を入れる。水を入れる。すり潰す。何やら汚らしい緑色のものになる。本当に水と草を入れてすりつぶしたという感じである。
ガラス瓶に入れて見てみよう。
ポーション
品質 F
シノブが作った薬草をすりつぶしたもの。体力を少量回復する。
ガラス瓶によって効果が上げられている。
Fなのに少量回復するのか。薬草をすりつぶしただけでもポーションになるんだなガラス瓶補正もかかっているのかな。
次は茹でてみよう。
沸騰した水にヤク草を放り込む。しばらくするとヤク草がドロドロに溶けてきた。
これを漉すか。
初心者用ポーションより少し薄い感じになっている。
ポーション
品質 C
シノブが作った薄いポーション。体力を回復する。
ガラス瓶によって効果が上げられている。
たぶんこれ全部ガラス瓶の性能だよね。薄いポーションで体力を回復とかないもんね。普通のポーションで体力を回復だもんね。
《生産行動により【調合Lv2】になりました》
《生産行動により【薬品知識Lv2】になりました》
《生産行動により【精密操作Lv2】になりました》
ようやく精密操作が上がってくれたか。
補正は……8。レベルが2に上がって補正値1割か。これって実はすごく有能なスキルじゃないのか? 生産をやらなければ上がらない欠点があるけど、これがあれば弓使いの人口が増えるはず。別に増えなくてもいいが。
別に弓は不遇というわけでもないしね。序盤金がかかって大変なだけだよ。
《生産行動により【薬品知識Lv5】になりました》
ポーションを10本分作り終えた時には品質がBまで作れるようになっていた。やっぱり知識系スキルの上がり方は早いな。
ポーション
品質 B
シノブが作ったポーション。体力を大回復する。
ガラス瓶によって効果が挙げられている。
Aになったら特大回復になるのかな。
水の量を調節したらBまではできたが、品質Aの作り方はわからなかった。
ヤク草を多くしても少なくしても、品質は変わらない。他になにかコツがあるのだろう。
っという間に会う時刻が近づいてきたので、生産部屋を出る。
そして冒険者ギルドの素材買い取り受付で素材を売ろう。
……何を売ろう。
灰狼の牙とかいらないかな。街道の雑魚だしな。後トレントから取れた木材系もいらないだろう。弓に使うかと思ったが、金属製になるっぽいしな。
吸血ヒルの粘液、フォレストフロッグの革、魔石、スピットディアーの角、色々あるがどうしよう。
何かに使うことがあるかもしれないと思ったら売るに売れない。
いや、どうする。革は防具に使うかもしれないし、粘液や牙は武器の強化に使うかもしれない。
「あ、シノブさん。何をしているんですか?」
「カラコか」
カラコさんも集合時間より早く来て素材を売ろうとしたのだろう。
「実は何を売ればいいかわからなくてな。どれも使いそうな気がして」
「私は木材と、防具、武器の強化に使えそうにない素材を売りますけど、シノブさんは生産だから思わぬものが必要になるかもしれないですしね……。いっその事数が揃ってない素材は売ってしまうのはどうでしょうか」
「数が少ないなら有用なものであっても結局は数を揃えるために、狩りにいかなければいけないということか」
ここは心を鬼にして売るべきだろう。金欠なんだ。
結果魔石以外のほとんどは売った。
俺が直接倒したゴブリンからドロップするのだが、それ以外は一切手を使ってないから、アイテムがこちらにまで来るのは稀だ。
「まだ時間もあるし、露店を見に行きましょうか。この街ではプレイヤーが露店を開くことができるんですよ」
俺もいずれはポーションを売りに出したりするのだろうか。
「俺は矢が欲しいな。NPCの店で買ってもいいんだが」
「性能のいい矢を売っていればいいですけどね」
俺の現在の所持金は2740Gだ。何か一気に金持ちになった気分。
石の矢の値段は確か10Gだったはず。274本買えるな。
「シノブさんシノブさん、ここ矢を売っていますよ」
弓使いは少ないから矢や弓を作る人も少ない。それなのに早速矢を売っているところを見つけるとはさすがカラコさんだ。
「あ、いらっしゃいって君か。今度は金があるんだろうな。あの後運営に称号のバグについて話したけど、既に報告済みだってさ。迷惑料のアイテムでもくれるかと思ったがつまらない運営だぜ」
金色のフルプレートアーマー。ゴールデンマスターがいた。
「昨日の夜ぶりだな。昨日は黒色の鎧だったのに、今日は名前通り金色だな」
「はじまりの街で物を売るのは違法だからな。逃げられるように念には念を入れてな」
こいつ犯罪者だったのか。マーカーは青だが。
「シノブさん知り合いですか?」
「有用なスキルを教えてくれただけだ」
「さてと、雑談も程々にして。矢なら鉄の矢があるな。矢の攻撃力は石の弓のざっと5倍。品質はC以上を保証するぜ。知り合いってことで割引して10本で500Gだ」
「高いな、1本50Gか。450Gにまけろ」
「こっちだって商売でやってんだ。10本で500Gこれは負けられねえ」
「……わかった50本くれ」
約束の時刻も迫っているし、問答を続けている時間はない。
「なんだ金持ってんじゃねえか。100Gまけて2400Gにしてやるよ」
負けてくれた。案外いいやつなのかもしれない。
しかしこれで俺の所持金は340Gになった。
「ありがとよ。ゴールデンマスターは鑑定を持っているだろ? このガラス瓶の性能を見て欲しいんだが」
俺は作ったポーションのうち品質Bのものを取り出す。
「格安100Gで鑑定してやるよ」
俺は無言で100Gを渡す。さっき負けてもらった恩がなくなったな。
「……こりゃあ、酷いな。売るならそうだな……10000Gでどうだ?」
勝手に売る話になっているが俺には売るつもりはない。
「鑑定結果を見せてくれ」
ゴールデンマスターはため息をついて鑑定の結果を送ってきた。
水晶瓶
品質 A
ヤグマが作ったガラス瓶にワイズの魔法陣が刻まれている。
純粋な水晶で作られた瓶は中身を劣化させない。
効果増加大、品質保存、強度増加
……なんか凄いな。
「いつでも買い取るから、売るつもりになったらいつでも連絡してくれ。あの人生産系の癖に全く売らないからプレミアついてんだ」
ワイズさんって生産系だったのか。てっきり召喚士か何かかかと思っていた。
俺達はフレンドになった後、またギルドへの道を戻っていた。
「ワイズさんは生産系だったんですね。それにしてもポーション作ってたんですね」
カラコさんも同じことを考えていたのか。
「ああ、品質Bのものまで出来た。しかしガラス瓶が足りないな」
ガラス瓶は品質が最高だが、10本しかないのが難点だ。今はよくても10本しかストックがなければいずれ困るだろう。
「品質Bっていうと中々良い出来じゃないですか。私は基本ダメージを食らわないように立ち回りますけど、ヴィルゴさんには渡してあげてください」
俺達が冒険者ギルドに戻るとちょうどヴィルゴさんがログインしてきたところだった。
「私が1番遅かったな。何をしていたんだ?」
2人でギルドの入り口から入ってくるのが見えたのだろう。
「シノブさんの矢の補充と、後はシノブさんがポーションを生産したようですね」
「おお、それでいいのが作れたのか?」
「ワイズさんのおかげで作れた。俺の実力はまだまだだな」
「そうか、頑張れ」
俺達は約束の時刻になったのでレストランへと向かうのであった。
お読みくださりありがとうございました。