20 俺が一生懸命逃げてきたゴブリンはなんだったのか
俺はウッドバインドで足止めしつつ何とかカラコさんたちの元へとたどり着いた。
「シノブさん。倒しきれなかったんですか?」
察しがよくて助かる。
「全員範囲に入ってたんだけど、何故か生き残ったやつがいてな」
「ふぇぇ。何か大きいのくる~って言ってるけど大きいのってなんだ?」
それよりヴィルゴさんはラビのセリフを言う時に声を高くするのをやめてほしい。
『グガアアアアアア』
ヤブを突っ切ってゴブリン大が姿を現した。
巨体での突進をヴィルゴさんが受け止める。
「これってゴブリンなの?」
「残った1匹が巨大化したんだと思う。エクスプロージョンで仕留めたはずが体力も回復してるし」
突進を止められたゴブリン大がヴィルゴさんを殴りつけるがヴィルゴさんは絶妙なタイミングで弾いていく。
「メンテナンス、邪眼」
カラコさんが戦闘態勢に入る。
メンテナンスを使うことで体が少し光り、邪眼で両目も怪しく光る。
相変わらずのかっこよさだ。
片手に刀、もう片方の手に短刀と重さが違う得物を持ちゴブリン大へと走る。
新しく取った跳躍スキルのおかげだろうか。2メートル半はありそうなゴブリンの顔近くまで跳び、毒刀で斬り付ける。
『グギャアアアアアアア』
ゴブリンが顔を斬られ後ろにのけぞる。
ヴィルゴさんが盾を捨てインファイトを始める。格闘家? 調教師じゃなかったっけ?
ゴブリンは耐え切れずに後ろに下がる。
『破竹』
カラコさんがゴブリンの背後へ行き飛び上がったかと思うと体を半分にするように斬った。
緑色のエフェクトがゴブリンの体を両断する。
『グオオオオオオオオオオ』
ゴブリンが体力ゲージが砕けちり消滅した。
《戦闘行動により【隠密Lv4】になりました》
《戦闘行動により【木魔法Lv6】になりました》
《戦闘行動により【火魔法Lv8】になりました》
《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》
《スキルポイントが2増えました》
《レベルアップによりスキル【遠見】を取得しました》
名前:シノブ
種族:半樹人
職業:狙撃手 Lv15
称号:魔王の守護
スキルポイント:6
体力:90(+5)
筋力:25
耐久力:40
魔力 :50
精神力:45(+5)(+5)
敏捷 :15
器用 :80(+4)
レベルアップしたか。俺としてはあまり戦った気がしないが、ゴブリン以外のモンスターの経験値も入っているのだろう。15レベルになったからだろうか。新しいスキルが増えた。遠見……遠くが見えるようになったな。うん、狙撃するときに役立ちそうだ。
ステータス確認が終わった俺はカラコさんたちに起こったことを説明した。
「ゴブリンが瀕死になったら発動するスキルみたいなものでしょうか」
「そんなものは聞いたことがないが」
ヴィルゴさんもそう言っているし一体何だったのだろう。
《キークエスト【ゴブリンの目覚め】がクリアされました。街防衛クエスト【ゴブリン族の侵攻】が始まります》
おお、なんだこれは。それにメールも届いた。
街防衛クエストについて
ゴブリン族の王が目覚めました。
自由の街、サルディスに攻めてきます。
プレイヤーの皆さんは街を守ってください。
クエスト終了後に貢献度によって報酬が貰えます。
クエストに失敗すると街の機能の一部が停止します。
「今のがキークエストだったようですね。ひとまず街に戻りましょうか」
「イベントか~わくわくするな」
巨大ゴブリンが追ってくる命がけのレースなんて真っ平です。
ここで俺達が倒せなかったらゴブリンはどうなっていたのだろうか。
俺たちは街の方向へと向かった。
俺は採集しながらね。街に帰ったら早速調合することにしよう。スキルポイントも貯まったしね。
相変わらず森では奇襲をかけてくる魔物が多かったが木の後ろから襲いかかるのもその前にわかるから大丈夫だ。
《行動により【収穫Lv7】になりました》
《行動により【発見Lv6】になりました》
街の中はざわついていた。プレイヤー達が続々と冒険者ギルドに集結している。冒険者ギルドで今回の出来事について説明があるそうだ。
「すみません。ゴブリン討伐の依頼を受けていたものですが、ゴブリン族が侵攻してくると聞いたんですが、依頼はどうなるのでしょうか」
結局16匹しか狩れなかったしな。やたらゴブリンが少なかったのは今回のイベントの布石だろう。
『12匹は倒されたのですね。この依頼は達成扱いにさせてもらいます。何せ事が事ですから』
「ありがとうございます」
良かった。俺に入ってきたのは600Gだった。3人でこれだから。1人でやったらものすごい金額になるだろう。
「イベントに向けてすることは1つだな。装備の充実だ。特にシノブ!」
「そうだな~。いつまでも初心者用の弓じゃと。強弓ってのも使ってみたいし」
「そうですよ。矢も空っぽなんて、信じられません」
カラコさん、矢がないっていっても大丈夫て言って森に連れだしたよね。
「しかし俺は調合がしたいな」
調合もしたいし、装備も作らなければいけない。パーティーで行動していると1人で生産する時間が取れないのがあれだな。
「私達がログアウトしてから生産はすればいい。どうせ今日も遅くまでログインしているのだろう?」
「確かにそうだな。じゃあ、先に装備を作りにに行くか」
今後の方針が決まった所で、鎧をまとったいかつい男が現れた。
プレイヤー達が静かになる。恐らく高位NPCだろう。
『私は冒険者ギルドのギルドマスターだ。情報によるとゴブリンの先発部隊が街に到着するのは5日後。通常のゴブリンに加え、上位種の存在も確認されている。総数は数千とされている。冒険者諸君には期待している。安易に群れに近寄るのは包囲される可能性があるので低ランクの冒険者が近づくのはおすすめしない。さあ……狩り時だ野郎ども!!』
「「「おおおおおおおおお!!!!」」」
ギルド全体に完成が響き渡る。5日後って意外と時間があるな。休日に合わせられる設定なのだろう。5日後と言われた時、絶望に染まった顔の人がいたが、頑張って上司に有給休暇をもらってください。
多くの人がギルドの外へと出て行く。装備やアイテムを準備したり、早速ゴブリンの群れへと行くのだろう。てか5日とか行ってたけど、どんだけ遠くにいるの?
俺らは2時間程度であのゴブリンに会えたんだけど。
いや、ゴブリンの歩みが遅いんだな。軍勢みたいだし。
「じゃあ、私達も装備を手に入れに行くか。いいところを知っているからね」
ヴィルゴさんを先導に街を進む。正直俺1人では確実に迷うだろう。
迷子になった後マップポイント機能というものを教えてもらったから遭難することはない。冒険者ギルドと、約束をしたレストランには行ける。
ヴィルゴさんは大通りを外れ、路地へと入っていく。もちろん店などはない。
陽の光が入らず薄暗い路地を抜けていくヴィルゴさん、店の住人用の裏口なのか、扉ばかりがある。
「本当にこんなところに店なんてあるのですか?」
わざと人の通らない所に店を構えて偏屈で『わしの認めた客でないと売らん』とか言う筋骨隆々のドワーフのお爺さんかな。
「表通りは値段が高いし、そんなに数を作る人じゃないからな」
いくつの角を曲がっただろうか。
他のドアと変わらないドアをヴィルゴさんは開けた。
するとそこはカウンターがある小さな部屋だった。
「おーい、来たぞー。客だぞー」
ヴィルゴさんが奥に向かって声をあげる。
「そんなに大声上げなくても聞こえてますよー」
少し間延びしたような声と共に現れたのはつなぎを着て茶髪を後ろでひとつ結びにした背の低い少女だった。ドワーフだろうか。さすがにお年寄りはこのゲームやってないか。
「悪い悪い。今日は私のパーティーメンバーの装備を整えにきたんだ」
「……まさかパーティーを組めるとはー、物好きもいたものですねー」
恐らくスキルのことを言っているのだろう。でもスキルがなくてもこの人は強い。
「私の名前は、イッカクと申しますー。職業は鍛冶師ですー。よろしくですー」
最後の言葉は伸ばす癖なのかそういうロールプレイなのか。
「始めまして、カラコといいます。刀を使っています。よろしくおねがいします」
「俺の名前はシノブ。弓使いだ」
俺たち2人は自己紹介をする。鍛冶師というが弓は作れるのだろうか。
「んー、侍と弓術士でしょうかー。刀はありますが、弓は専門外ですねー」
やはりそうだったか。金属の弓なんて聞いたことない。
「シノブは弓術士ではない。狙撃手だ」
「それならー、狙撃銃を使うという手もありますがー」
いやいや、俺が頑張って上げた弓スキルどうなんだよ。
「もうこいつは弓での戦い専用にステータス調整をしている。狙撃銃は無理だ」
「じゃあいったいどうしろとー」
本当にどうしろってんだな。
「銃は弾を筒状の物から撃ち出す武器、矢は弦を張った物から矢を射だす武器、人力を使って撃ち出すと投擲扱いだ」
「一体何を言いたいんですかー」
「私が言いたいのは、金属で弓ができないかということだ」
「無理ですねー。レシピにもありませんしー、オリジナルを作ろうと思っても、弦に使えるような金属が今のところはないですよー」
俺にもヴィルゴさんが何を言いたいのかさっぱりわからない。
「ビームソード」
「あのネタ武器ですかー、魔力を実体化させて……あ……できるかも。いや、弾性を持たせる……精神力を上げている弓使いなら可能か。継続戦闘能力……弓の威力は魔法依存……概念を覆せる。魔結晶、ミスリル、魔法陣師、魔王に頼まなければ……。そもそも弓の威力固定とは」
イッカクは急にブツブツと考え込み始めた。いるよなこういうやつって急に自分の世界に入りだす奴。
「こうなったら良いものを作り上げてくれるぞ、多分。私としては金属製の弓の弦の代わりに魔力を実体化させればいいんじゃないかと思っただけなんだけどな。ここまで興味を持たれるとは」
魔力の実体化がまずわかりません。魔力って魔法の威力のことだよね。
「魔力実体化ってなんなんですか?」
俺も知りたかったー。
「スキルの1つだ。そのまま魔力を実体化させることができる。色もつけられるな。前それを使って普段は柄だけで、戦闘時に魔力を使ってブォーンって出すやつを作ってたのを知っていた」
宇宙で戦うあれが元ネタか。剣士なのに精神力も上げなければいけないからネタ武器だったのだろう。魔法剣士とかは使わなかったのかな。
「そのスキルって一体何に使うんですか?」
「魔法使いが近寄られた時の距離を取るために魔力を実体化させて壁にするとか? それなら土魔法とかを使ったほうが燃費はいいんだよね。使いどころはないね」
ネタスキルの一種だろうか。ラノベでは魔力の塊を撃ち出すとかありそうなものだが。
「それで装備はどうなるんでしょうか。シノブさんの弓はできても私の刀がありません」
ふとカウンターを見るとイッカクは既にいなかった。奥にいつの間に戻ったのか。
「まあ、また明日にでもまた来てみればいいさ」
「っていうよりお金ないんだけど……」
「……私が貸してやる」
ありがたいことだ。というより手持ちの素材を売ればよかったんじゃないかな。素材系のものは何かに使うとしても、狼の毛皮とか、大トカゲの革とか。
「装備も明日ですしこの後何しましょう。約束の時間まで誓いですし、狩りに行くわけにもいかないですしね」
「とりあえず夕飯食べたら私は一旦ログアウトする」
「あ、じゃあ私も」
それじゃあ俺はその間に調合でもするか。
「シノブもログアウトしなさい。ご飯食べなさい」
「はい、すみません」
どうして俺がログアウトしないことがわかったのだろうか。
俺達は約束の時刻の前に冒険者ギルドの前で落ち合うことにしてログアウトした。
カラコさん達はゲーム内でご飯食べてからログアウトするみたいだけど、光合成って本当に便利だ。光合成がなかったら俺の金はどうなっていたのか。
ありがとうございます。
イベントはなかなか始まりません。