1 キャラクターメイキング
「接続完了! スタートボタンをポチっとなっと」
ついに発売された新作VRMMORPG『GODS WORLD ONLINE』をダウンロードし、ベッドに寝転がる。
「いやー、楽しみだ。スキル制とか穴ありすぎんだろ。よく運営はこんなものやろうと思ったな。バランス調整とか大変だろうに」
『GODS WORLD ONLINE』はスキル制のゲームだ。たしか、数千の可能性が君を待っている、とかいううたい文句だったと思う。職業制よりも自由度が高く、そしてまた弱スキルと強スキルの差が激しいのがスキル制の特徴だ。そこの格差を運営はどう埋めるつもりなのか。
でもこういうゲームはテンプレとかで固まってしまうのが常だけどな。ネタスキルを組んでいくと『スキルの効果もわかってないガキは帰れ』だとか『そういうお遊びは一人でやってくれない?』とか言われて、MMORPGなのに、ぼっちでひたすらNPC相手に空虚な会話を繰り広げることになる。オンラインは怖いなぁ。
無難に強いキャラを作ろうとするとテンプレになる。そりゃもちろんどういうプレイスタイルを取るかにもよるが。
「弱キャラでも楽しめりゃいいか」
リンクを開始します、という柔らかい人口音声に釣れられ俺の意識は沈んでいった。
ちなみに事前情報は一切手に入れてない。公式サイトのチラッと覗いただけである。見たら絶対テンプレ構成になってしまいそうだ。だって、お手軽に強いのが1番楽しいからね!
「俺がキャラメイク担当の魔王だ」
なんだこの覇気のない男は。
見渡す限りの白い床が続いている。せっかくゲームを始めたってのに何もないことに関しては俺の部屋と同じぐらいだ。
そんな場所にその男はいた。全身黒ずくめで、髪はボサボサで背は高い。そしてイケメンだ。体から雰囲気イケメンっぽいオーラをだしている。俺の敵といっても過言ではない。こいつをまず倒すんだろうか。
そしてしばらく待っていたが何も起こらない。本来ならばそのままキャラメイクとかゲームのオープニングが流れるとか、くっそ長い利用規約にサインさせられるとかがあるはずだ。一体この空間は何なんだ。
白くて何もない床というと異世界転生モノを思い出す。特に「よわけん」はハーレムエンドを目指すために3回ぐらいはやり直した。前から疑問に思っていたんだが、なんで白い床なのか、青じゃダメなのか。赤でも黄色でも、別に黒だっていいじゃないか。白が無を表すなんてごく一部の人にしか伝わらない表現だと思うのだが。
まあ、死んだらわかるか。
少し歩くと見えない壁にぶつかる。リアルパントマイムができそうだ。いや、リアルじゃないな。VRパントマイムだ。
「VRゲーム創世期にもゲーム内で閉じ込められて、ゲーム内での死=現実での死みたいなことが起こらないのか。その危険性はないのかとかいう二次元と現実の違いもわからないような奴らが騒いでいたが、人を殺傷できるような危険な電波がでる機能も能力もない上に、ログインボタンがなくてもアナログで普通に助け出せるしな。
日本は他の国に比べて圧倒的に法律が厳しいし、どんなものでも政府の人間にしっかりと調査されてから発売されている。でも人間の想像できることっていつかはやっぱり起こるわけで、天才プログラマーがハックして閉じ込めて、そのまま解決方法は残さずに自殺ってこともあるかもしれない。でも日本の警察は優秀だからすぐに助け出されるだろう。だが、その可能性が1%でもあることを危険視してギャーギャー騒ぐ連中はいるわけだ……俺は何を言いたかったんだ?」
目の前の黒ずくめで雰囲気イケメンでサブカル好きみたいな感じの男は滔々と話していたのをやめ、考え始めた。俺のほうが何を言いたかったのか聞きたい。
「あのー、さっさとキャラメイキングしたいんですけど」
首をひねっている男に言ってみた。
「ん? キャラメイクか。そうだな、それがあったか。じゃあ先にそれを選んでもらおうか」
先にって何だ。
男が手をふると視界いっぱいに大量のスキルが出現した。500は越えてるだろう。それにこの男はやはり運営側の人間なのだろう。「魔王」とか名乗ってたのはコードネームかな? 何故コードネームが必要なのかはよくわからないけど。
【スキルポイント】
残り:100
このスキルポイントで種族を選ぶらしい。弱スキルを取り、強種族を取る。またはその逆もできる。他に職業と装備も選べるが、それは必須ではないのでポイントが余ったら考えよう。
名前をつけるのにはさすがにスキルポイントはいらないので悩まずに入力する。名前は前から決めていた。名字の一部を取ってシノブだ。
忍者になるつもりはない。名前被りが気になったが、それは特に問題視されていないようだ。
問題は種族だ。スライムからエルフ、獣人など様々なものがあり、何かと何かのハーフも可能だ。淫魔という種族がとても気になるが、これは全年齢対象ゲームだ。良いことができるというわけではないだろう。しっかりと種族を見て考えていこう。
俺は生産から戦闘、索敵までオールラウンダーにこなせるキャラを作るつもりだ。暇は有り余っているので、第一線の廃人組には負けるが、エンジョイ勢の中では中々いいところまでいけるキャラでいきたい。
それならヒューマンが1番良いのだろうが、デフォルトの種族というのはつまらない。バランスが取れていて強い種族には龍人、天使、悪魔といるがどれもスキルポイントが高い。種族だけで他のスキルなしはキツイ。
物理系種族と魔法系種族のハーフはどうだろうか。
エルフと狼男のハーフ……想像できなかった。
よくみるとハーフシステムは人間と他の種族の組み合わせと書いてある。ゴブリンとスライムのハーフが気になり、試してみたかった俺には残念な情報だ。
ゴブリンとスライムのハーフ、名付けてスラリン。愛嬌のある名前だな。
ケンタウロスと人間のハーフはどうなるんだ?
いや、ネタキャラに走るな。ネタキャラは作った直後が1番楽しくてあとで絶対やる気をなくす。
それはともかくケンタウロスと人間のハーフがステータスだけ変わるのが足に微妙に馬の部分が残るのかは気になる。
巨人と人間のハーフはただ背が高いだけの人と何が違うのかと色々ツッコミたくなる。ちなみに巨人という種族はポイントに対してステータスがやたら高かったが、スキルを育てていくことが習得するアクションスキルが使えないという。
アクションスキルってのは何かのアクションをしないと発動しないスキルのことだ。逆に常に発動しているのはパッシブスキルという。よくあるシステムだ。
悩みに悩んで決めた種族は人間と樹人のハーフだった。ハーフという響きに憧れる。そういう心は忘れないで生きたい。
樹人の説明はこうだ。
木の精霊。巨木を本体としている。非常に長命である。体力と魔力に優れていて敏捷が低い。
一体どういうことなのか運営に聞いてみたい。街では巨木が動き回るというシュールな光景が見られるのか。それとも幽霊みたいなものとして出てくるのか。そもそも巨木を本体にするって戦闘どうなるんだよ。
非常にお手軽で20ポイントでした。
次はスキルだ。
最初は6種類のスキルが選べるという。1つの魔法スキルを取り、あとは全て強化スキルに回して初期から高火力魔法を放っていくというビルドもありそうだ。俺はバランスよく行くがな。
武術系、魔法系、感知系、生産系と選んで後の2つは気になったものをいれるか。
ユニークスキルというのもあるが、謎だ。MMORPGでユニークスキルとは。消費ポイントが70ポイントと高い上にスキル説明が一切ない。そしてスキルの名前がやたらカッコいい。そしてユニークだからか、見ているうちにどんどん切り替わっている。
こういう地雷っぽいスキルは取らないに限る。ユニークスキルとか言ってるが何かの複合スキルで将来的に損をするパターンと見た。
だってユニークスキルが強すぎるとプレイヤーが馬鹿らしくなってプレイするのやめるからな。
白煙の剣、鉄壁の要塞、最果ての炎……本当に名前はカッコいいな。
武術系スキルを見てみる。
長剣術、爪術、多節棍術、大槌術、斧術、短槍術、長弓術、手裏剣術、拷問術、鎖鎌術、大盾術、回避術、体術、片手剣術、鉄扇術、鞭術、薙刀術、砲術、糸術、騎乗槍術……。
術術術術。ゲシュタルト崩壊してくる。なぜ術をつけたのだろうか。
樹人のハーフはどんな武器を使えばいいのだろうか。
というより敏捷値が低いなら武器は持たない方がいいのか?
脳裏にノロノロとした動きで斧を振り下ろす俺の姿が思い浮かぶ。無理だな。敏捷がどれぐらいのところまで作用するかわからないが、元々運動神経のない俺には無理なことだろう。
なら弓はどうだろうか。森と同化して矢を射る……いける!
樹人だしな。
弓術を取得した。弓の経験はあまりないが、何とかなるだろう。
魔法も色々あるが、木魔法がキャラにあってるな。土魔法や水魔法もカッコいい。召喚魔法や精霊魔法、幻影魔法なども大いに中二心をくすぐられる。
いや、ここはあえて火魔法を取るべきなのではないか?
どうせなら2つ取ることにしよう。木魔法と火魔法だ。木魔法で敵を縛り上げてからそのまま着火してバーベキュー。キャンプファイヤーでいつでも輪になってマイムマイムを踊ることもできるしな。
本当にそういうことができるのかはわからないが、試してみたら面白そうだ。
自分の火魔法で焼かれちゃかなわないから火耐性も取得しておく。
もうちゃっちゃと決めちゃおう。最適解なんてわからないんだ。
生産スキルは収穫。植物からのアイテムドロップが増える。
感知系スキルは発見。色々発見しやすくなる。アイテム拾いにも、敵探しにも持ってこいのスキルだ。
視線感知スキルで『む、誰かに見られているな』とかもやりたかったけど、発見の方の汎用性を選んだ。
そして職業はどうしようか。今のところ、職業欄には無職と表示されている。ゲームプレイ中でも職にはつけるはずだが、あえてキャラクターメイキングで選ばせるということにはそれなりの特典があるはずだ。
職業もまたスキルと同じように大量にあるが、効果がいまいちわからない。スキルがついてステータス補正がかかるらしい。
弓と魔法を使う後衛職だから魔法使いか弓術士のどちらかだな。いや、農民や木こりという選択肢もあるか。
木こりなら斧術を取るか?
いや、やめておこう。
森の中で隠れながら弓や魔法を放つ、このスタイルにあったものはないだろうかと探すと狙撃手という職業があった。30ポイントもかかるがその分の価値があるものと信じたい。
他に称号欄があるが、これはまだ選択ができないようだった。おそらく何かイベントをクリアするとつけられるのだろう。
【スキルポイント】
残り:40
40も残っている。装備一覧を確認してみる。おそらく初期武器というものはないのだろう。ガチ勢は現地で武器を調達するのかもしれないが、俺は武器なしでスタートできる気がしない。
大量の防具が表示されているが、どれも防御+1や+2しかない。装備の最初に『呪いの』とかかれたものなどは防御力も魔法防御も高いが、わざわざ呪いつきの装備を選ぶ必要がない。縛りプレイなんて上級者におまかせだ。
初期装備の布の服を迷彩柄に変更する。スナイパーらしく、森の中に溶け込めるようにだ。これだけでも2ポイント消費している。それも装備は消費ポイントが高い。ギリースーツもあったが、俺が使うのは銃ではなく弓だ。引くための動作が必要になってかえって目立ちそうだ。
次は武器だ。初心者用の弓と石の矢を選ぶ。
遠距離武器の項目に銃があったが、どれも消費ポイントが高かった。ファンタジーの世界に銃とは……弾が武器屋で剣や槍と共に置かれていたりするのだろうか。
初心者用の弓は5ポイント。
石の矢は10本で5ポイントだ。高い。壊さないように使っていこう。
【スキルポイント】
残り:28
装飾品の項目を見てみる。色々あるようだが、何も効果がない装備もある。その中で俺はいいものを見つけた。
暗視ゴーグルだ。消費ポイントは10。高い。
ちなみにスキルの【暗視】は2ポイントで取得可能だったりする。
他にも色々スキルの代用品になるような装備もあったが、どれもスキルの5倍のポイントがいる。
何よりもゴーグルだ。スナイパーといえばゴーグルのイメージがある。
闇夜に紛れて敵を討つ。火魔法とは相性が悪そうだ。やめておこう。
他のゴーグルシリーズを見てみる。
遠視ゴーグル。熱感知ゴーグル。分析ゴーグル。鑑定ゴーグル。
色々なものがある中で俺が選んだのは透視ゴーグル。その名の通り遮蔽物を貫通して向こう側のものが見えるというスキルである。森の中で移動するのに奇襲を避けられるだろう。やましい気持ちはない。ないったらない。
【スキルポイント】
残り:18
残りも少なくなったしステータスを確認してみる。
名前:シノブ
種族:半樹人
職業:狙撃手
称号:無し
体力:90
筋力:25
耐久力:40
魔力 :50
精神力:30
敏捷 :15
器用 :30
パッシブスキル
【弓術Lv1】【火魔法Lv1】【木魔法Lv1】【火耐性Lv1】【収穫Lv1】【発見Lv1】
アクションスキル
【光合成】
装備
頭:透視ゴーグル
胸:布の服(迷彩)
腕:布の服(迷彩)
足:布の服(迷彩)
武器:初心者用の弓
取得した覚えのないスキルがある。
光合成だ。アクションスキルらしい。光を浴びている時に空腹を解消するという効果だ。
このゲームには空腹度もあったのか。
しかしこれは便利なスキルだろう。食費がいらない。
食事を面倒くさいと思うタイプの人間だったからこれは良かった。
ステータスを見る限り回復タンク向きだろう。 体力と魔力が高く、筋力と敏捷が低い。
ここで気づいた。
弓って筋力低くて大丈夫なの?
冷や汗が流れた。
とは言ってもVR空間なので汗は流れない、はず。果たしてこのゲームがどれだけリアルさを追求しているか。汗とか出ても不快なだけだからないとは思うが。
とここで俺の目の前であぐらをかいて座る男に聞いてみるということを思いついた。チュートリアルの説明キャラにしては礼儀正しくない男だ。開発は何故美女にしなかったのだろうか。
「質問なんだけど、弓のダメージって何依存?」
「ん? 確かステータスは関係なく弓本体の攻撃力と矢の攻撃力を足したものだったと思うぞ。弓使いというとエルフ、ダークエルフなどが使っている印象があるな。βテスターの中でも少しはいたと思うぞ。俺はそちらの方にはあまり詳しくないがな」
確かだとか、思うだとか不安になることを言う奴だ。しっかり言い切ってくれ。
だがこれで解決した。
初心者用の弓、攻撃力は5。矢の攻撃力は1だ。
足して6。
弱いな。非常に弱いな。
初心者用の剣の攻撃力は10。俺が剣を振ると筋力30なので何かしら補正が入ったダメージになるだろう。しかし弓はどう頑張っても6。
不遇だな。運営は弓を使わせないつもりなのか。
「弓は魔法を付与したり、状態異常を狙って戦うのが一般的だな。毒の弓とはは初心者用には重宝されるが、どう頑張っても最初だけだな。モンスターの状態異常耐性が高くなってくると、途端に役立たずになる」
いきなりこんなことを言い出した説明キャラを殴りたくなったが、これで一件落着だ。間を置いて話すな。
俺の魔力は高い。俺の場合は火魔法と木魔法を付与させて戦うことになるのだろう。話を聞く限り、弓は魔法を使う際のオプションみたいな扱いのようだ。魔法の杖と同じポジションだな。
この説明を聞いて思ったことは弓をやるならエルフが1番いいなってことです。
魔力も高くて、器用だ。
まあ、でも樹人って決めたからそれで行くが。
前衛を突破して、後衛を叩いても後衛がやたらタフで倒れないという不思議な光景を見ることができるだろう。体力がやたら高いからな!
魔力を付与ということで雷魔法を火魔法の代わりに取得しようかと思い立ったが、もう面倒だしやめておこう。雷の矢ってカッコいいよね。インドラって感じ。
残りポイントは道具に変換することにする。初心者用ポーション4つで8ポイント。
毒壺が10ポイントで丁度だ。毒壺は毒の入った壺だろう。何回使えるか明記されてないものの、毒矢を試すのにはこれで十分だろう。
こうして俺はキャラクターメイキングを終えた。
決定ボタンを押しても何も起こらない。
これからチュートリアルが始まるのだろうか。
男が語りかけてきた。
「あー、人生は夢のようなもんだって中国の話にある。正にそうだ。人間には100年とちょっとの時間しかない。意識を電脳世界に移して生きているチート連中を除いて、大体の人は100年ぐらいで死ぬ。そしてその100年を自分が何をしているのかもわからずにダラダラと過ごすものもいる。シノブ君、君はどうだい?」
これもステータスに関係するのだろうか。
「大学生だから暇なんだ。確かにゲームは時間の無駄かもしれない。けどこれは俺がやりたくてやってることだ。実用性のないものは全て無意味だって言うのかい?」
ただの詭弁だ。
それを言うとその男は少し困った顔をした。
「あー、やっぱり俺の説明は下手だな。君の人生をもっと有意義っていうか。こうなんていうか……まあ全て決まるのはまだ後だし……。気にしないでくれ、シノブ君。君のゲーム生活応援しているよ。面白そうなスキルの組み合わせだしね。そして近いうちにまた会えることを祈っているよ。今のところは1番素質がありそうだ」
そう言うと男は消えた。なんだか意味深な言葉だな。限られたプレイヤーのみに討伐が許される裏ボスだろうか。低確率で発生するイベントとか。
いきなり消えた男に面食らいながらも、俺の周りは暗くなっていき、気づいた時は賑わう街の中に俺はいた。
「さて、行きますか」
ありがとうございました。