15 仲間を増やして次の街へ行きたいんだが、戦闘狂が邪魔をする
「8時50分……眠い」
俺は広場でカラコを待っていた。昼にログアウトしなくていいように食いだめ済みだ。
10分前集合として来たのだが、カラコはまだログインしていないようだった。
フレンド一覧でログイン中になっているのはワイズさんだけだ。どこにいるのかはわからないが。
「お待たせしました」
カラコが9時になるギリギリ前にログインしてきた。
「やっぱり徹夜したんですか?」
「いや、狩人ギルドの訓練場が閉まってて無理だった。後昨日やったことといえば新しいスキルを手に入れたな。植物知識という5ポイントで取れるパッシブスキルだ」
火耐性を上げるために、自分に攻撃をしたとか。毒耐性を得られたとかは黙っていよう。
数少ない広場にいるプレイヤーも俺を見ているような気がする。
気のせいだろうが。
「狩人ギルドといえば、昨日のボスドロップを確認していませんでした」
そういうとカラコは虚空に目を走らせ始める。
俺のドロップアイテムは確かボスラビットの牙と耳だったな。
「え~と、ウサ耳カチューシャ、野兎の腕輪、ボスラビットの耳、ボスラビットのもも肉ですね。ボスラビットはあんまり強くなかったけど、装備品の性能はいいですね」
装備品だと?
「俺はボスラビットの牙と耳だけだったんだけど……」
「ウサ耳カチューシャはエクストラボーナス。野兎の腕輪はMVP報酬ですね。戦闘時間が短かったからエクストラボーナスが出たのでしょうか」
カラコからアイテム詳細が送られてくる。
ウサ耳カチューシャ
兎人そっくりになれるカチューシャ。
装備:頭
敏捷+10
野兎の腕輪
草原の主が倒れていた後に落ちていた腕輪。
アクセサリー:腕
体力、精神力+5
……性能いいな。
【カラコさんから【野兎の腕輪】が送られてきました】
カラコさん……俺ボス戦で何もしてなかったのに。
「いいのか?」
「私は体力も使わないし、精神力もいらないので。ただしウサ耳カチューシャはもらいますよ」
カラコの頭上に黒いウサ耳がつく。本当に一体化しているみたいだ。
「む、む……見えませんね」
カラコはウサ耳を見ようと上を見上げたが見えなかったらしい。カラコが動くたびにひょこひょこと動くウサ耳が非常にかわいい。
「どうですか?」
首をかしげて聞いてくるカラコを直視できない。普段何もつけてない人に耳がついているとここまで魅力的になるとは……。
「うん、かわいいよ」
「そうですか、ありがとうございます」
俺は勇気を振り絞って言ったのだが、カラコは顔も赤らめない。言われ慣れているのだろうか。
俺としては『えっ、そ、そんなお世辞……』って言いながら顔を横にブンブン振って欲しかった。ウサ耳が揺れて、さぞかし萌えれただろう。
「変なこと考えてないで、野兎の腕輪装備してみてくださいよ」
女の勘というやつは恐ろしい。
腕輪を装備する。茶色の石でできているリングだ。別にもさもさと毛が生えていたりはしない。
……そうタイガーアイのような石だ。
「初期装備に腕輪って殺風景ですね」
同じ初期装備の人に言われたくないな。
初期装備は色々と選択ができるがインナーと紙一重な感じだ。カラコは黒のノースリーブに黒の短パン、俺はTシャツに長ズボン。迷彩仕様だ。
「装備って言っても金もない。素材持ち込みしようにも素材もない。次の街についてからだな。冒険者ギルドで金稼ぎも簡単にできるって言ってたし」
「そうですね、では早速行きましょうと言いたいところですが狩人ギルドに用事があったのでは?」
忘れていたな。忘れていたし、もう狙撃手でいい。面倒くさい。てか早く次の街に行きたい。
「大した用事でもないから、行こう。呪文の試し撃ちがしたかっただけだし」
あばよ、テオドールさん。もう会うことはないだろう。
もう始まりの街の広場に残っている人は数少ない。さっきまでの俺のように人待ちをしている人だけだ。
「新しい街って何だかワクワクするな」
「ノルセアは小さいですからね。NPCも全然いないですし、それに比べて次の街『自由の街 サルディス』はNPCも多いし、各種施設にクエスト。そしてギルドなんかもあるらしい。始まりの街の人口が減るのもわかりますね。次の街に行くのに結構時間がかかりますが」
掲示板を確認してみる。燃える男というスレをスルーしながら、次の街までの情報を見る。
「大体2時間程度で行けるみたいだな。ボスは徘徊型の大トカゲ。ボスラビットより全然強い代わりに、ノンアクティブなモンスターだって。雑魚は、連携を取ってくる狼と硬いトカゲに注意。トカゲは毒持ちらしい」
ボスなのにノンアクティブってどうなんだろう。先制攻撃でやられたら可哀想だな。
そして毒耐性が早速役立つ時!
「大ウサギは弱すぎましたからね……掲示板でも本体より大量に襲いかかってくる雑魚ウサギのほうが厄介って言われてましたし。トカゲにあったら倒しましょうね」
俺は戦っていないからわからないが、そこまで言うほど弱かったのか。
「大トカゲ。とにかく耐久力が高い。毒のブレスを吐く。後ろ足付近が安全地帯だが、後ずさりしての押しつぶし攻撃と尻尾を振り回す攻撃には注意だとさ」
鈍重型ならカラコさんの敵ではないだろう。
「毒のブレスがどんなものかわかりませんが、とりあえず行ってみましょう。百聞は一見にしかず、です」
草原のウサギ達は俺たちを敵と認識していなかった。ボスを倒したからだろうか。
草原を抜けたところにあるフィールドは街道だった。直ぐ横に森があり、奇襲を受けやすそうだ。
「奇襲を受けたら厄介ですね」
体力と耐久面で考えたら俺のほうがカラコより高い。
ここは前衛後衛逆だが俺が前を歩いたほうがいいだろう。
「思い出した!」
「何ですか急に」
森の中を見やすくするために、このゴーグルをわざわざ選んだんじゃないか。
「俺のゴーグルはスキル透視がついている。これで奇襲対策は万全だな」
自信満々で言い放つ俺をカラコさんはジトッとした目で見ている。
「その透視ゴーグルってどこまで透視できるんですか?」
「まだ試してない……かな」
カラコさんがそんな目で見てくるのもわかる。しかし運営が垢バンになるようなアイテムを初期設定で選ばせるわけないだろう。きっと骨だけが出てくるはずだ。
カラコは少し頬を赤らめ小さな声で言った。
「……シノブさんならいいですよ」
……羞恥で死にそう。
「チョロいですね」
悪女!
「私が試しますから、渡してください」
精神力が削られてたような気がする。かなり疲れた。
言われるがままにゴーグルを渡す。
「シノブさん、骨折経験はなさそうですね」
「アバター生まれて2日だからな」
カラコさんが垢バンされなくてよかった。
それにしても酷いな。純粋無垢で年齢=彼女なしの俺をもてあそぶとは。
「シノブさんは将来年上の女性に騙されて結婚しそうな気がします」
年下の女の子にこんなこと言われる俺って……。
「……彼女いないんだよ……」
「頑張ってください。ではシノブさんは奇襲を見て警告する役目をしてください。どの報告から来るのか言ってくれれば、対応するので」
頑張って彼女ができれば苦労はしないんだよなー。頑張ってできたら、世の中の多くの男性は幸せだよ。
俺はゴーグルを目に当てた。
カラコさんが骨なのは予想通りといえるが、森の中の木が一本分ぐらい透過して見える。ついでに土の中も見えるが何もない。
「……来ないな」
「街道という設定だからでしょうか」
気を張って周りを見張っていたのだが全然来ない。
「「あ」」
前方から飛び跳ねてくる巨大バッタが!
体当たりに合わせてカウンターを決めるカラコさん。体当たりの勢いで頭を半分に引き裂かれてフィニッシュだ!
「ウサギより動きが読みにくくなったという感じでしょうか。ウサギよりも少し硬いみたいです」
このペースじゃ俺の獲物はないままで終わるな。魔法の試し撃ちはいつでもできるだろう。モンスターが出ないのはいいことだ。
「シノブさん……このままじゃ上がるものも上がりません。森の中に入りましょう」
この子何を言ってるのかな?
「森の中に入るより先に街に行かない?」
「また来るの面倒くさいじゃないですか」
「ヴィルゴさんがいる時に……」
「ヴィルゴさんとの差をなくすためにもレベル上げは必須ですよ」
結局道を外れて森の中を歩くことになりました。
キャラの書き分けって難しいですね
お読みいただきありがとうございます