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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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12 魔王の思惑

「知り合いって言ってもキャラクターメイキングの場所にいて、何か哲学的なことを話しただけですけど」

「キャラクターメイキングぅ!?」

 ヴィルゴさんが荒ぶってる。怖い。




「あんたが、何やったか後で全部話してもらうからね」

「お手柔らかに……」

 ここで蚊帳の外だったカラコが口を開いた。俺も何のことかさっぱりだけど。


「ヴィルゴさん、この人は誰なんですか?」

「こいつは私と同じβテスター。称号をβテスト時に獲得した人の内の1人だ。称号名は【魔王】言いたいことを物凄く遠回しに言うからコミュ障って呼んでやれ」

 酷い言い草だな。確かに何言ってるかわからなかったが。




「遡ること1年前「黙れ」」

「すみません」

 この話の流れでどうして1年前のことになるんだろう。


「いいから、さっさとあれつけろ」

「あー、しかしだな「さっさとつけろ」」

 魔王は嫌そうに空中からいかにも魔王という感じの口元をを覆う面をつけた。



「……俺の……名前は……ワイズだ……」

 やけに苦しそうだ。

「このアイテムは特注品でな。口を開くと息苦しさを感じさせて長文が話せなくなるんだ。さあ、一体何をやろうとしたか吐け」

 ヴィルゴさんが常時怒っているのは過去に何かあったのだろう。





 ワイズはポツポツと語り出した。

「コネを使ってランダムで……キャラクターメイキングの場に入れてもらった。シノブ君は……聞いたところ廃人だし……トップレベルに追いつきそうだと思って……少数精鋭のギルドの……マスターになってもらおうかと」

 完璧なエンジョイ勢なんですが。買い被りすぎです。



「面白い考えだ。だがシノブは弱いぞ。強いというならこっちのカラコちゃんの方がいい」

 酷いな……事実だが。



「……? 称号をやったから……強いはずだが?」

「称号?」

 そういえば称号欄に魔王の守護という表示がある。


「そんなものこいつは持っていないぞ?」

 こいつ呼ばわりされた……。

 というより見えてないのか? 確かに見えていたらカラコが反応しそうだしな。



「え……?」



「俺のステータスには表示されているぞ?」

 ワイズが渋い顔をした。


「……ヴィルゴ……ステータスを見せてくれ」

「ああ」



 ヴィルゴのステータスを確認しているワイズの顔がますます険しいものとなった。

「調教とは……全力で…俺のポジションを奪いにきているな……」

 そっちかい!


「私はモフモフを堪能したかっただけだ。モフモフは正義」

 ヴィルゴさんもヴィルゴさんだよ……。


「友好度の上げ方を……知らないのによく調教できたな……運がよい」

 本当に時間を使いましたから。それにめっちゃ弱いウサギだし。


「それはどうでもいい……ヴィルゴの称号も俺からは確認できん……」

「言い出したのはあんたでしょうに……って、ええ?! 見えない? 【狂獣】って」

 狂獣だの魔王だの物騒な称号ばかりだな。


 夫婦漫才のようなかけあいだ。本当は仲が良いのかもしれない。





「あの……ボスがポップしてますよ?」

 か、カラコさん。何で間合いに入ってから言うの?



 ボスモンスター【草原の主】巨大なウサギが俺に食いつこうと大口を開けて迫ってきていた。

 俺は反応できずにボスが飛んでくるのをスローモーションかのように見ていた。

 俺がいなくても実力者が3人も揃っているのだからなんとかなるだろう。

 1人死に戻りしてもパーティーが勝てばアイテム来るよね。大丈夫だ。




「ハァアアアッ!!」

 素早い動作で移動したヴィルゴさんの蹴りが巨大ウサギの顎にクリーンヒット。巨大ウサギは軌道をそらし俺の横を飛んでいった。



「彼女は……リアルで武道を……している」

 ワイズがぽつりと呟く。いや、ポツリとしか呟けないのだろう。なるほど、やっぱりリアルで武道していると強いのか。カラコさんもリアルで何かしている可能性大だな。



「グォオオオオーーー!!」

 巨大ウサギはふっ飛ばされたが体勢をすぐに立て直し距離を取った。接近戦では叶わないと思ったのか咆哮を放つと部屋の至る所にウサギが現れる。



 前に出ようとするヴィルゴさんとカラコをワイズは手で静止すると懐から本を出して開き、一言呟いた。

「……召喚サモン【死神】」


 場に冷たい風が吹く。ワイズの前に大鎌を持ってローブを被った骸骨が現れた。

 部屋の中のウサギが何もできずに消滅していく。そして残るはボスだけとなった。




「相変わらずチートね」

「……このゲームがリアル志向なのが悪い。……それに運営から……注意も受けた……」

 ウサギが全て消滅した時点で死神も消え、残るはボスだけとなった。

 巨大ウサギはまだ怯えているのだろう。こちらを見ながら威嚇をしているだけだ。


「すみません。経験値がほしいので」

 カラコが2人の間を走り抜ける。そして巨大ウサギに斬りかかる。


 大ぶりにふられたウサギの前足を避け、懐に入り剣をふるう。

 ウサギが痛みにのけぞったところで後ろにまわる。

「一刀両断!」

 剣が白く光ったかと思うと刀身が倍ほどに伸びる。振り返ったウサギの首にそのまま2本の光り輝く剣を叩きつける。

 巨大ウサギは喉を切り裂かれ消滅した。






《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》

《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》

《レベルアップによりスキル【隠密】を取得しました》

《【草原の主】が倒されました。スキルポイントが5増えました》



 俺は何もしてないからスキルのレベルアップはなしか……。

 器用と精神力に振りましょう。



名前:シノブ

種族:半樹人

職業:狙撃手 Lv10

称号:魔王の守護

スキルポイント:5


 体力:90

 筋力:25

 耐久力:40

 魔力 :50

 精神力:40(+5)

 敏捷 :15

 器用 :55(+5)(+3)





 今更ながらすごい微妙なステータスだな。

 体力が1番で次が器用さ、そして精神力と魔力が続く。キャラクターメイキングやりなおしたい。


 狙撃手がレベル10になったのでスキル【隠密】を獲得した。ますます影が薄くなるだろう。


 スキル無しでボスの突進を止め、大量のウサギを一撃死で仕留め、ボスを1人でクリアしてしまう人。あれ~、これは何か周りの戦闘能力がインフレしているな~。



「何の……話をしていた? というより……いい加減苦しいから……」

「だめ。雑談してるわけじゃないんだから」

 確かに息がしづらいというのは苦痛だよな。しかし何故あんな関係ないことを……かまってほしいのかな?



「結構レベルが上がりましたね。またボスが来てもあれですから一旦街に戻ろうか」

 カラコさん……俺もレベル上げたいです。



「称号のことは……こちらで……確認してみる……。後……3人でもいいから……ギルドを作って欲しい。できれば……キャラが濃い人が……多いほうがいいな……」

 確かにそれは思う。全員が最強と呼ばれるギルドなんてかっこいい。


「ヴィルゴさん。ギルドの利点って何ですか?」

 カラコさんナイス質問。

「それは道中説明するよ」






 俺たちは階段を上がり、外へ出た。

 部屋に入る前のワクワク感はどこに行ってしまったのだろうか。俺雑談しかしてないよね。ん? 俺喋ってたっけ? あれ? 突っ立ってただけか。


「真っ暗だな」

「ですね」



 日が暮れてもう外は真っ暗になっていた。

 遠くのほうで松明を持ったプレイヤー達が進んでいるようだが、俺達は松明を持っていない。


「……召喚サモン【ウィル・オ・ウィスプ】」

 ワイズの周りに明るい光源が生み出される。フラフラと空中を漂っている。鬼火みたいだ。

 召喚士とは便利でいいな。


 暗闇で目が怪しく光っているウサギがいるがこちらに攻撃はしてこない。



「さあ、行くぞ。ワイズ、お前の意味不明なロマンはわからないが、シノブにはキャラの作り直しをしてもらいたいぐらいだぞ。シノブがエルフならかなりバランスの良いスキル構成となるだろう」

 ヴィルゴさん……やっぱり忍耐のない俺には無理だったのかな。ロマンは。



「そういえば聞いたことなかったですね、シノブさんのスキル構成が何を考えてとられてるのか。火耐性とか火魔法とか」

 そういえば言ってなかったな。色々なことがありすぎていい忘れていた。


「俺の考えるプレイ。それは木魔法で木を生やし、そして火魔法で火をつけてバーベキューというものだ。自分も巻き込まれないように火耐性を取った」


「放火魔だな……」

 ヴィルゴさん酷い。

「ですね。というよりそんなことできるんですか?」

「……乾いた木でないと燃えないと思う……リアル志向なゲームだし」

「な……何?」

 俺のやってきたことは無意味だったというのか。



「妙にこのゲーム現実世界に忠実だからね。ありうると思う」

 ヴィルゴさんまで!

 やめて! カラコさんそんな慈愛のこもった目で見ないで!


「俺は……どうすればいいんでしょうか?」



「次の街で転職して戦士を目指す」

「……このまま器用を……上げ続けて強弓を使うか」

 ヴィルゴさんとワイズさんで意見が別れた。




「強弓は……一定上の筋力がなければ……体力を消耗する……筋力もあり、器用もあるが……魔力と精神力が……ないドワーフ補助で使う。……樹人は体力も多いし……後衛で行くなら……体力の減少は……気にしなくていい」

 そんなものがあるのか。

 いいかもしれない。



「確かにそうだな。強弓はそこらの剣と同じぐらいの攻撃力がある。それに魔法も足せるとなったら中々の攻撃力だ。さすがワイズだな」

「……トッププレイヤーの名前は……伊達じゃない」

 ワイズはトッププレイヤーなのか。



「シノブさんはどうですか? 命を削って攻撃するって中々いいと思いますけど」

 カラコに返事をうながされスキルを確認してみる。




パッシブスキル

【弓術Lv4】【火魔法Lv5】【木魔法Lv5】【火耐性Lv1】【収穫Lv3】【発見Lv4】【精密操作Lv1】【狙撃】【隠密Lv1】


アクションスキル

【光合成】【ファイアボール】【ウッドバインド】【ファイアショット】【ウッドショット】【ファイアフライ】【レジストファイア】【エクスプロージョン】【グロウアップ】【ポイズナスフラワー】




 

 ふむ。強弓を使っても良さそうだ。というより使わない理由がない。 

 調合を使って自家製のポーションを作り、それで収支をプラスにする。半樹人で体力が多いからこそできる荒業。


「いいかもしれないな。しかしそれの場合狙撃手はどうなんだろう」

 狙撃手では今のところ【狙撃】と【隠密】を取得できている。隠密の効果は未知数。

 そういえば新しい呪文もたくさんあったな。試してみないと。


「狙撃手は……ソロに向いている……と言われるが、問題はないだろう。……転職したければ……するといい。ステータスは変わらないが……弓術士もいいぞ……」


「検討してみます」

 知り合いの弓術士といえば昼にあったNPCの……ハゲた……そう、鷹の目。

 思い出したテオドールさんだ。

 昼にあった人の名前を忘れるとか自分自身の記憶力に恐れを感じる。


 いや、テオドールさんから別れた後にたくさんのことがあったから仕方ないか。カラコに会って、ヴィルゴさんに会って、そしてワイズ。忘れるのも仕方ない。



「ギルドって言っても人数が少ない時はパーティーと変わらないな。

 最も大きな利点はギルドホームという施設をつくることができることだな。もちろん金はかかるが。

 冒険者ギルドの依頼がギルドホームから受けられたり、そこでログアウトすると体力回復と精神力回復が早くなったりするんだ。

 後は金だな。金があると、素材買い取り、訓練場の設置、鍛冶場を作ったりとまあ、様々なことができる。

 ワイズのいう少数精鋭のギルドは本当に精鋭を集まらないとムリだろうな。ワイズが入るだけで戦力としては十分なものになりそうだが」


「……もちろん俺も入る」


 なるほど。ギルドは規模が小さいとメリットが少なくて、規模が大きければ大きいほどメリットが多いと。


 あれ? トッププレイヤーらしいワイズとヴィルゴさんいるだけでよくね?

 この2人って最前線で活躍してた人だよね。


 何だか少数精鋭ギルドが急速に現実味を帯びてきたような気がするが、まだギルドも作れない。保留だ保留。



 街についたと同時にワイズは用事があるからとすぐログアウトした。ヴィルゴさんといるのが疲れるのだろう。あんなマスクをつけっぱなしだし。しかし俺といる時もあのマスクはつけてほしい。内容と全く関係ないことを言われて混乱するのは俺達だ。不用意にフラグを立てたりしないでほしい。


「私はもう寝ますけど皆さんは?」

 カラコは子供らしくもう寝るようだった。


「私ももうログアウトするよ。寝不足は不健康かつ美容にも悪い」

 2人はログアウトするのか。それなら俺は……


「シノブさんはどうするんですか?」



「初日だからな。徹夜だ!」

 ヴィルゴさんがため息をついた。


「廃人だな」

 β版の時に称号貰うほどやってたあなたに言われたくないなー。


「では明日の9時に広場で落ち合えますか?」

 カラコさん、明日は平日ですよ?


「私は12時位にならないとログインできないな。先に進んでていいぞ。ラビがいたとしても次の街ぐらいなら簡単に追いつける」

 ラビは静かだな。

 ウサギは静かというのは都市伝説と聞いたことがあるのだが、静かだ。



「じゃあ、カラコ。9時に来てなかったら寝落ちしたと思ってくれ」

「ちゃんと仮眠はしてくださいよ。戦闘中に倒れられたら困ります」

「わかったわかった」


 2人はログアウトしていった。

 さあ、やることはまだまだあるぞ!



魔王さん、ただのプレイヤーになっちゃいました

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