11 ボス戦をしたい
急に立ち上がったヴィルゴさんに俺たちは困惑気味な目を向ける。
「それよりこのラビちゃんのステータスはどのぐらいなんでしょう。あと、ヴィルゴさんは新しいスキルとか取ったりしないんですか? それにそろそろ暗くなってきました。街に戻った方がいいんじゃないですか?」
一気に俺の言いたいことをカラコさんが言ってくれた。
現実とゲーム内での時間の進み方は少しずれている。現実世界の深夜に日が落ちて、昼頃にまた日が昇ってくる。ゲーマーの夜行性という習性を考えられて作られたのだろう。
個人的には現実の世界より2倍速ぐらい、現実世界での1日=ゲーム世界での2日とかいう設定にしてくれても良いのだが、このゲームは全年齢対象なので仕方がない。
これを読んでる皆、16歳までは等速以上のゲームはプレイしないようにね。
「ラビは弱いぞ。あんまり期待しないで欲しいが」
名前:ラビ
種族:ラビット Lv1
所有者:ヴィルゴ
体力 :10
筋力 :10
耐久力:5
魔力 :0
精神力:0
敏捷 :30(+1)
器用 :15
パッシブスキル
【逃げ足】
アクションスキル
【突進】
【噛みつき】
弱かった。
カラコも微妙な顔をしているが、この苦労でヴィルゴさんをパーティーに引き込めたなら安いと思う。俺らも大概なスキル構成だしな。
「敏捷が上がっているのは従魔強化の効果でしょうか」
「そうだな。ラビのステータスが低すぎて補正が敏捷にしかかかっていないが」
将来的に全てのステータスに補正がかかるのなら強くなるかもしれない。
「これから私がどんなスキルを取るかだが、どんなことでも私はできる。種族もバランスが良いからな。純粋魔法系はあまり楽しみを感じないから勘弁だがな」
どんなことでも、とは頼もしいことだ。何を頼もうか。
「このパーティーには物理スピードアタッカーはいる。必要な物は高火力の魔法職か、盾役だろう」
「魔法職とか遠距離は俺の居場所がなくなりそうなんでやめてください」
本当に、こんなレベル高い人に魔法職やられたら俺生産まっしぐらだから。リーダーなのにパーティーの裏方になっちゃうから。
「なら盾役をお願いします。シノブさんもそれでいいですか?」
いいけど俺以外のパーティーメンバーと俺との差が気になる?
「俺生産職に転職しようかな……」
「確かに攻撃力は私とカラコで間に合っているから、遠距離攻撃後方の道具支援といわゆる雑用係を目指したらどうだ?」
なるほど。後方支援か。識別、調合や抽出や合成とかも欲しいな。
あ、そういえばヴィルゴさん合成スキル持っていたな。毒壺と矢で毒の矢を作ってもらおう。
「ヴィルゴさんにお願いがあるんですけど……毒壺と矢を合成してくれませんか? 矢だけじゃどうしようもない攻撃力なので」
「そういえば合成はそんな使い方もできたな」
ヴィルゴさんが手を出すので毒壺と矢を送る。
「失敗するかもしれないが勘弁してくれ」
「合成ってどんなことができるんですか?」
このゲームはスキル名からではわかりにくいものばかりだ。合成って文字面から判断すると何かと何かを組み合わせるのかな?
「目指せ生産職なシノブには教えておこうか。
合成スキルは基本的にはアイテムとアイテムの組み合わせに使う。その他にもテイムしたモンスターにモンスターの素材を合成してキメラにすることもできる。この情報は中々知られてないと思う。
調合スキルは素材アイテムのうち植物系を組み合わせてアイテムを作る。ポーションとか毒薬とかだな。
抽出スキルはヤク草から回復に必要な部分のみを取り出したり、不純物の多い金属を純粋なものに変えたりと必須スキルではないが品質を上げるためには必要なものだな。
錬金は武器や色々なアイテムに特定のアイテムの効果を上乗せすることができる。鍛冶で作った盾にモンスターのドロップ品を合成して特殊スキルをつけたり、武器と武器を合成してグレードの高いものにするなど。何にでも応用が聞くから生産職は大抵持っているな。
複製は自らの作ったものを時間短縮させて作れる。しかし品質や性能は落ちるな。βの時は最高品質、最高性能のアイテムを作れる人が市場に流す用として使っていたな」
「解説ありがとうございます」
ちなみに俺は目指せ生産職ではない。サポートもできて戦える万能人だ。
俺が取るべきは調合と抽出か。市販で売っているものより高価が高いものを提供しなければ。
「でもシノブさんには先に戦闘力を上げるスキルをとってほしいですね」
確かにそうだ。精神力を上げるスキルを取りたい。
「スキルは頑張ればスキルポイントを使わなくても習得可能だぞ」
「え?」
「ん? 攻略wikiにも書いてあるぞ」
何たる重要なことを見逃していたんだ。しかもカラコさんも知らないようだ。その微妙なスキル知識はどこから得たものなんだ。
「ということは私達は無駄なものにスキルポイントを使ってしまったのかもしれませんね」
カラコが嘆息する。
「そうとも限らない。スキルを自力習得するのには多大な時間が必要だ。スキル習得クエストを受けられればいいが」
スキル習得クエスト?
「そんなものがあるんですか?」
「ああ、街道のボスが倒されると次の街までの道が開けるんだが次の街ではできることがグッと増える。一つ目はプレイヤーズギルド。二つ目が冒険者ギルド。三つ目がプレイヤーの店。四つ目がマイルームの購入。その他にもNPCの数も増えてお使いクエストとか、親密度を上げたりするとアイテムがもらえたりだとか、色んな施設があるしこの街とは大分違うぞ。楽しくなるのは次の街からといっても過言ではない。この街は空き家が多いからな」
さすがβテスター。詳しい。
「でも街道がクリアされなかったら……」
「私みたいな情報を持ってるβテスターがいるからすぐにクリアできるだろうよ」
《【街道を塞ぐもの】が倒されました。新しい街への道が開かれました》
「話をすれば……だな」
ヴィルゴさんの神タイミングに驚きだ。悪魔の話をすれば悪魔が現れるとかいう奴だろうか。
周りから歓声やどよめきが聞こえてきた。皆クリアされるのを心待ちにしていたのだろう。
「草原ボスを倒すか、街道ボスを倒すか、全てを飛ばして次の街に行くか。私はどれでもいいが」
ヴィルゴさんがそう提案してくる。次の街は確かに魅力的だ。
「私は草原ボスを倒してみたいです。まだボス戦を経験してないので。しかしもう暗いのでまた明日にするのはどうですか?」
この中では誰も夜の活動ができない。暗視ゴーグルを取っておけばと思ったが後の祭りだ。透視ゴーグルもまだ使っていない。何も障害物のない草原なので仕方がないことだが。
「私とラビに関しては心配しなくてもいい。ラビには命大事にするよう言い聞かせておく。そして明かりに関しても心配ない。草原のボス部屋は地下だ。明かりが付いている」
ヴィルゴさんがいうなら大丈夫なのだろう。俺が田舎に引きこもって薬草畑を耕していたとしても何の問題もなくこのパーティーは進みそうだ。というよりβテスターがいるパーティーなんて入らせてくれと志願者が殺到するだろう。
「俺の精神力も回復したし、ヴィルゴさんがいるなら楽勝だろうしな」
「そうと決まったなら早く行きましょう」
カラコも同意し、俺達はボス部屋へ行くことになった。
「ボスか……強敵と戦う前はいつもワクワクするな」
「全て一撃で仕留められるウサギしか相手したことないくせに何言っているんですか」
「ボスは雑魚だと思うぞ」
俺の高揚感はロマンを介さない2人の女の子に破壊された。
掲示板情報にあったように草原の中で盛り上がっているところに洞窟があり、中には階段があった。
「すごく不自然な感じで階段がありますね」
カラコの意見には俺も同意する。階段が石造りで古いから古代の遺跡と言われれば納得はできるが無理がある。
「ここのボスが徘徊型とかだったらのんびり初心者講習もできないしな」
ヴィルゴさんの意見はゲーマー的だ。
「最優先で雑魚殲滅。各自頑張れ。私はボスを足止めしている」
盾役のヴィルゴさんが来てくれたおかげで雑魚殲滅をカラコ1人でやらなくて済むようになった。
「123で開けるぞ。1……2……3!」
ヴィルゴさんの掛け声と共に扉を開け中に入る。
学校の体育館のような大きな部屋。光源はわからないがぼんやりと明るい。
そして部屋の真ん中には1人の男がいた。全身黒でくしゃくしゃとした髪が特徴の男。
キャラメイクの時の意味不明な男だ。
「あ、キャラメイクの」
「コミュ障が……」
俺とヴィルゴさんの声がかぶさったのに気づいて俺達は顔を見合わせた。
「「知り合い?」」
「俺とシノブくんの関係は「コミュ障は黙ってろ」」
「はい……」
男とヴィルゴさんの関係、上下関係があるのだろうか。
カラコさんは皆が知り合いなことに気づくとすごく気まずそうにしてた。
カラコさん、頑張れ!
ネーミングセンスが欲しいです。
カラコの伏線を回収する手段が思いつかない。