存在消失ゲーム
いきなりな話しなんだが、存在を消すゲームが存在すると思うだろうか。
そのゲームは、存在を消すということに疑問を持つ人が多かった。
実際にやったことがある人の感想が、ネットに書き込まれていた。
そこに書いてあったのは
『本当に人の存在を消せました。』『噂だとこのゲームでゲームオーバーになると、自分の存在が消えるらしい。』
などのコメントがあり、いかにも胡散臭かった。なかには、面白がって冗談のつもりでやっていた人が、全く関係のない人や気に入らない人達を何人も、存在を消した。などの噂が広がりつつあった。もちろん、ゲームオーバーになって存在が消えたという人も…。
ある日、友達がとあるゲームを勧めてきた。
最初は断ったのだが、特にやることもなかったから、やることにした。
「そのゲーム、そんなに面白いの?」
「うん。存在を消せるっていうやつ。」
存在を消せるという言葉に疑問を持ったのだが、どうせ嘘だろうと聞かなかった。
「ふーん。具体的には?」
「えーっとねぇ、簡単に言えば消したい人を順に消していくんだけど、最後までいくと、神になれる…とかだったかな…。あと、ゲームオーバーになると、自分の存在が消されるんだって。」
家に帰ると、父が何かゲームをしていた。
「なにやってんの?」
「なにってゲームだよ。おもしろいぞ。」
僕は、父のやっているゲームを覗き込んだ。
「そのゲーム、僕もやってる。」
「なんだ、お前もやってんのか。なら、一緒にやらねーか?」
「悪いけど、パス。」
父は、特にゲームが好きというわけではないが、流行っているゲームをよくしている。要するに…
「父さんってさ、周りに流されやすいよね。」
その日の会話は沈黙に終わったが、次の日も父はゲームをしていた。
僕には、兄と妹がいる。兄は真面目でゲームを全くしていない。一方妹は、父がやっているゲームにはまり出した。毎日、父と妹がバカみたいにゲームに熱中していたから、母に言ってみた。
「母さん。父さん達ゲームばっかしてるけどいいの?」
「えっ、あ、そうね。ちょっとあなた、ゲームばっかしてないで手伝って。」
母は、言葉を詰まらせて言った。その時、母もあのゲームをしているのではないかと思った。
「はいはい、わかった。すぐ行く。」
その次の日も、父と妹は黙々とゲームをしていた。
「お腹空いたー!」
妹が、ゲームをしながら言った。
「家は、母さんがいないからな…。よし!お父さんが作ってあげよう。」
「やったー!ねぇ、お兄ちゃんもやろー。ゲーム。」
「うん、じゃあやろうかな。」
そう言って、僕はゲームを始めた。
「兄にいちゃんもやろーよ。」
妹に誘われた兄は、仕方なさそうにゲームをすることにした。家族全員がこのゲームをするという意味は、家族は常に誰かの存在を消しているということになる。
寝るとき、うとうとしながら友達の言葉を思い出す。
『ゲームオーバーになると、自分の存在を消されるんだって。』
次の日も、父はゲームをしていた。
「なぁ見てくれよ。もうすぐでゲームクリアだ。」
「…すごいね。」
キッチンの前のテーブルで朝ごはんを食べていると、部屋の真ん中に置いてあるソファで父が、ゲームをしながら叫んでいた。
「ああっ。ゲームオーバーだ。もう少しだったのにな。」
すると、その声と同時に何かが起こった。
「暇だな。1人だし、ゲームでもしようかな。」
そして、何時間やったかは忘れたが黙々とゲームをした。気がつけば、最終ステージだった。
「おっ、もう少しでゲームクリアだ。…………あっ、ゲームオーバーだ。」
するとその時また、何かが起こった。自分の存在を消されたのだと確信した。そして、自分には母が居て、父が居て、妹が居て、兄が居たことを思い出す。そして、僕は思う。このゲームは、人間という存在を消そうとしているのではないかと。
このゲームを終わらす方法は三つ。
一つ、このゲームを最後までやりきる。
二つ、人間という存在が消える。
三つ、誰かが、このゲームの存在を消す。
しかし、このゲームのゲームオーバーがこういうものだと存在のある人達は知らない。僕が存在を消された今、僕にできることはない…。