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うつけ戦奇譚  作者: 金髪のグゥレイトゥ!
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第三話「400年前の召喚者」



「今日は村長の家に挨拶に伺いましょう」


この世界に召喚されて3日目の朝。学とハルナは二人で朝食を摂っていると、ハルナがそんなことを言い出した。

学は食事の手を止め顔を上げてハルナに目を向ける。ちなみに朝食は昨日の夕食と同じポコ粥である。


「村長って昨日坑道で会ったあのお爺さんだよね?」

「はい!村の皆に慕われている凄い人なんですよ!」

「へぇ、そうなんだ…」


自分の事の様に誇らしげに語るハルナを見て、学は昨日あの坑道での出来事を思い出す。

あの混乱をあの村長はたった一声で鎮めてみせた。それもその村人達からの厚い人望があってこそなのだろう。初対面だと言うのにコミュ障の学があの老人と話して何処か安心できたのも、村人達に慕われるその人柄故かもしれない。


「そう言えば話はまた後日がどうとか言ってたっけ…」


「話はまた後日にしよう」村長は学にそう言った。

あの場では落ち着いて話も出来そうに無かったし、そのうえ学も体力的にも限界が近かった。村長もそれを察して気を利かせて日を改めてくれたのだろう。村人の誰もが400年ぶりに召喚された召喚者セルヴォスに興奮していたと言うのに、一人落ち着いて対処していたのは流石は年の功と言ったところか。


「はい。ですから朝食を済ませたら村長の家に行きましょうね」

「……うん、そうだね」


(村長、か…)


ニコニコと話すハルナ。けれど、そんなハルナの話に相槌を打つ学は心ここに在らずと言った様子だった。

村の長と書いて村長。村長と言うだけあってその蓄えている知識は相当の物だろう。なら、もしかしたら元の世界に帰る方法を知っているのではないか?そんな淡い期待を学は抱いていた。召喚する術があるなら、その反対の送還する術だってきっとある筈だ、と…。

これは現実で何処までも理不尽で残酷な世界だと分かっている筈なのに…。








第3話「400年前の召喚者」








「村長!マナブさんを連れてきました!」

「お、おじゃまします…」

「おぉ、よく来てくれたのう」


朝食を済ませた後、学とハルナの二人は当初の予定通りに村長の家に訪れていた。

元気よく挨拶をするハルナと、その後ろをこそこそと隠れる様にして挨拶をする学。そんな二人を村長は玄関で笑顔で迎え入れた。


「すまんのう。わざわざ来てもらって。まだ傷が痛むじゃろうに」

「い、いえ…傷はもう大丈夫です。不思議なくらいに…それに僕も…色々話を聞きたいと思ってました…から……えっと…あの…」


申し訳なさそうにする長老に、学は気にしないでくれと首を振り、急く気持ちを抑えてなんとか話を切り出そうとする。しかし、学は極度のコミュ障。いくら村長が気を許せそうな人間でも、学から話しかけるのはやはり難しく、もごもごと口の中で何やら喋ろうと頑張ってはみるものの、口からその言葉を吐き出すことは出来なかった。

すると、それを見抜いてか村長はちらりと眉毛から目を覗かせて、それから「ふぉっふぉっふぉっ」と微笑むと…。


「そうかそうか、まあ立ち話もなんじゃ。上がっておくれ」


そう言って、自分の家の中へと二人を招き入れてくれたのだった。





「……さて、まずは自己紹介といこうかの。儂の名はソウベエ。村の者からは村長と呼ばれておるからおぬしもそう呼んでくれるかの?なにせ皆がそう呼ぶもんで名前を呼ばれてもしっくりこんのじゃて。ふぉっふぉっふぉっ」


おかげで自分の名前を忘れそうじゃと村長は笑う。


「ぼ、僕は高嶺学です。よ、よろしくお願いします」

「うむ。よろしくのうマナブ。いやあ、兵士様たちがボロボロのおぬしを村に連れてきたときは驚いたわい。まさか、400年ぶりに召喚された召喚者セルヴォスとはのう」


長い髭を撫でながら学を見ては感傷深い面持ちで村長は語る。


「まさか、わしの世代で再び召喚されるとは思わなんだわい」

「そうですね!わたし感動しちゃいました!」

「これ、ハルナ。よさぬか」

「………」


きらきらと目を輝かせてはしゃぐハルナに村長は「これ」と叱る。

ハルナ達からすれば400年ぶりに召喚された召喚者が現れて凄い珍しいものを見れた気持ちなのだろう。例えるなら100年に一度の流星群に遭遇と言う感じだろうか?けれど学からすれば奴隷として召喚されて感動も何もあったものじゃない。


「あっ…ごめんなさい」

「あはは……ううん、いいよ別に……気持ちは分かるし」


不謹慎な自分の発言に気づいてハルナはしゅんとして謝ると、そんなハルナを学は特に咎めようとはせず苦笑を浮かべてそれを許した。

学とてハルナの気持ちは分からない訳でも無い。現に学もこの世界に召喚された時はお伽噺のような出来事に興奮のあまり我を忘れていたのだから。しかし蓋を開けてみればこれだ。夢や憧れなんてものは壊されるためにあるのかもしれない。


「すまんのう。昨日も言うたが400年ぶりの召喚に皆も興味津々なんじゃ。どうかハルナを許してやってくれんか?」

「い、いえ、本当に気にしてませんから。それより…!」


気が焦る学に村長はまあ待てと手で制して、学を落ち着かせるようにゆったりとした口調で話を続けた。


「うむ、分かっておる。この世界について聞きたいのじゃろう?わしもそのつもりで来て貰ったのじゃ」

「っ……はい。その…すみません…」


焦る自分とは正反対なそのゆったりとした口調に、焦る学の気持ちも感化されて落ち着きを取り戻していくと、焦るあまり相手に失礼な態度をとったと学は顔を伏せて謝罪したが、村長は「気にするでない」と微笑んだ。

そして、学も多少は落ち着きを取り戻し、場の空気も仕切り直したところで村長は話を再開する。


「…さて、では何から話そうか。この世界の事と言っても話すことが多すぎて困ってしまうの」


「何せこの歳じゃ。考えるのにも考えがようまとまらんでの」と村長は笑い。髭を撫でながらさて如何したものかと考える仕草を見せた後、考えが纏まったらしく、よしと頷いてみせて語り始めた。


「よし、ではまずこの世界について話すとするかのう。儂ら召喚者セルヴォスはこの世界を『ディストピア』と呼んどる」

「ディストピア?」

「うむ。この世界の言葉で『遠とき世界』と言う意味じゃ」

「遠とき世界…」


故郷から辿り着く事の出来ない程に遠く離れた世界『ディストピア』。

召喚者セルヴォスはこう呼んでいる言っていたので、この名前を付けた人もまた召喚者セルヴォスなのだろう。なら、この名前を付けた人間は一体どんな気持ちでこの名を呼んだのだろうか?遠く離れた故郷に彼らは何を思っただろうか?


「えっと…召喚者セルヴォスはってことは、この世界…ディストピアの人達はこの世界をなんて呼んでいるんですか?」

「そんなものは無い。おぬしも元々いた世界の名前なんて知らんじゃろ?」

「あ、そっか…」


自分の世界の名前なんて考えたことも無かった。学の故郷は日本だがそれは世界の名前ではない。では地球が世界の名前と言えばそれもやはり違うだろう。つまり無い方が普通なのだ。学は村長の言うことに納得した。


「納得したか?では世界の理とも言える魔法についてじゃが、これはもうハルナから聞いておるかな?」

「あ、はい。ハルナから聞きました。この世界は魔法で動いているって…」


生活基盤が魔法によって成り立ってる世界。火を起こすには火の魔法を、水を湧かすには水の魔法を、風を起こすには風の魔法を、全てが魔法で回っている。言うなれば魔法至高主義といった感じだろうか。


「うむ、そうじゃな。この世界は魔法が全てじゃ。魔法が使えなければ生きてはいけぬ。故に魔法の使えぬ儂ら召喚者セルヴォスが奴隷として扱われる訳じゃ」

「………」


村長が語るその声からは悲壮感は感じられなかった。村で一番長く生きている村長ですらも、やはりそれが当たり前なのだと考えている。それだけずっと昔から召喚者セルヴォスと言う奴隷の歴史が長くあって、村の人々がそれに違和感を持たない事に、学は沈痛の面持ちで話に耳を傾けていた。


「では、次はそんな儂ら召喚者セルヴォスが住むこの村。『隔離村』について話をするかの」

召喚者セルヴォスを監視するためにある村…ですよね?」


ハルナから教えて貰った知識を学はそのまま口にすると、村長は頷いてそれに言葉を続ける。


「決して人の足では越えられぬ険しい山々。王都から隔てる様にある深い渓谷。それらに囲まれて存在するのがこの村じゃ」

「まるで自然の監獄ですね…」


学の呟きに村長はうむと頷く。


「そうじゃ。決して逃れられぬ監獄。それがこの隔離村じゃ」

「でも、それだと僕はどうやって此処に運ばれてきたんですか?王都とは渓谷で隔たれているんですよね?」


村長の話を聞いていて学は一つ疑問に思った。

学が目覚めた場所は、あの豪華な内装からして城かそうでなくても王都の何処かなのは間違いない。王都と隔離村が隔たれていると言うのなら、自分はどうやってこの村に運ばれてきたのだろうと。


「まさか…魔法で空を飛んで?」

「ふぉっふぉっふぉっ、空を飛ぶなど風の上級魔法の使い手でもなければ無理じゃよ。それに自分だけならまだしも、人を抱えてあの渓谷を飛び越えるなど無理じゃ」


根付いてしまった性分か、あれだけ酷い目に遭ったにもかかわらず、まだ懲りずに魔法と言うファンタジーな単語に学は胸を躍らせたが、村長は笑ってそれ否定して指を一本突き立てる。


「渓谷には一本だけ巨大な橋が架けられておる。その橋を渡って道なりに進んでいけば王都へたどり着ける。じゃがその橋も橋の中間に砦が建てられていて、まず儂ら召喚者セルヴォスは通る事は出来ぬ。近づけば容赦無く殺されるじゃろう。近づいてはならんぞ?」

「………っ」


殺されると言われて学は顔を青くする。実際に重傷を負わされているからこそ、学にはそれが比喩表現でないことが理解出来た。


「そして、その橋の先にあるのが皇国『カーティオ』。この国の歴史は儂ら召喚者セルヴォスと共にあり、二つは切っても切れぬ関係にある。何故なら…」

「この国は召喚者セルヴォスを奴隷として働かせることで富を得て発展してきたから…ですよね?」

「その通り。召喚者セルヴォスを召喚し、それを労働力にすることでカーティオは発展してきた……400年前まではのう」

「あることが切っ掛けで召喚の儀が行われなくなったんですよね?どうして400年も召喚の儀を行わなかったのに、今になって…?」

「大方人口が減って作業効率が落ちておるから、効率を良くするために召喚を行った…と言ったところか」

「…本当にそれだけですか?」


それだけの理由で400年もの間行われていなかった召喚の儀を行うだろうか?

学には何か別の理由がある気がしてならなかった。強引に人員を増やしてでも鉄を欲する理由。それは学には分からなかったが何かを焦っている様にも思えた。


「わからぬ。王都で何かあったのかも知れぬが、村の外の情報は入ってこぬからのう」

「そう、ですか…」

「……まぁ、だいたい見当はつくのじゃが…の」

「?」


村長は意味ありげなことを呟いたが、学はそれを聞き取ることは出来なかった。


「気になっていたんですけど……あることが切っ掛けで召喚の儀は行われなくなったのは聞いたんですが、そのあることって何なんですか?」

「む?ハルナから聞いてなかったのか?てっきしそこまで知っているのなら聞かされているのかと思ったが」


学の質問に村長は意外そうにすると、学の隣で座っていたハルナが思い出したようにあっ…と声を上げて申し訳なさそうに表情を曇らせた。


「あっ、ごめんなさい…。教えようとは思っていたんですけど、間が悪かったと言いますか…」


しょんぼりと肩を落とすハルナ。


「よいよい。昨日は忙しなくてそれどころじゃなかったろうしの。それに、この話は儂がした方がええじゃろう」


こほんと咳払いをしてから、村長はまるで昔話を語り聞かす様にのようにゆっくりと語り始めた。


「400年前……正確には430年前じゃったかの?儂の曾爺ちゃんから聞いた話じゃ。その頃はおぬし達も知ってのとおり召喚の儀によって召喚者セルヴォスが召喚され続けていた時代じゃ」


語り部の話に学とハルナは真剣な表情で耳を傾けながら黙って頷く。


「減っては補充され、減ってはまた補充されてと、召喚者セルヴォスは定期的に召喚されておった。しかし、そんなある日の事じゃ。一人の男が召喚された」

「一人の男…?」


学の呟きに村長は頷くと話を続ける。


「その男は炎と共に現れたと云う。召喚に居合わせた者達はなんと不吉なとその男を恐れたが、その予想は当たることとなる」

「……何があったんですか?」

「男が召喚されてから一年の時が経ったある日、王都は火に包まれた。……反乱が起こったのじゃ。皇国の人口4割の命を奪う程の召喚者セルヴォスによる大反乱が」

「なっ…!?」


信じられないと言った表情で学は言葉を失う。

魔法を使えない召喚者セルヴォスが魔法を使えるディストピア人に反乱を起こす。魔法を実際に見たことが無い学でさえ、歴然としたその力の差を、どれだけ無謀な事なのかは理解できた。


「大反乱の首謀者はあの日、炎と共に現れたあの男であった。男は他の召喚者セルヴォス達を率いて王都に攻め込むと、今までに積もった怨恨が暴力となって、人々を殺し尽くし、都を破壊尽くし、燃やし尽くした」

「………」


因果応報。それだけの事をされても仕方がない事をディストピアの人々はしてきた。けれど、戦争とは無縁の暮らしを送ってきた学はその話を聞いて悲痛の表情を浮かべる。


「まるで燃え盛る炎の様な怒涛の進撃。その炎は王都を少しずつ呑み込んでいった。……しかし、天は男を選ばなかった。その物量の差に数で劣る儂らの先祖達は敵わなかったのじゃ。最初は優勢であった反乱軍も時間が経つにつれて消耗していき……最後には惨敗した」


(やっぱりそうなったか…)


学の想像した通りの結末だった。学の世界でも反乱が成功した例なんて殆どない。寧ろ失敗した例が圧倒的に多いのだ。そもそも此処で反乱が成功してしまっていたら、現在のこの村の状況が説明つかなくなってしまう。


「首謀者の男は民衆の前で大々的に処刑され、残された召喚者セルヴォスも粛清として村の人口7割以上が殺された。女子供問わず、反乱に参加していなかった者達を含めて、の…」

「……」


(7割も…そうか、だから村の文明レベルがそのまま止まっちゃったんだ…)


村の人口の7割も失われれば、技術を伝える人間も失われてしまう。それどころか生きることも困難だろう。だからこの村は400年もの時を経ても何も発達しないまま停滞しているのだ。


「その大反乱を戒めとして、王族は召喚の儀を禁忌とすることにしたのじゃ。それ以降、一度も召喚の儀は行われておらん。つい最近までは、の」


村長は学を見る。


「以上が430年前の出来事じゃ。召喚の儀を行われなくなった理由は分かったかの?」

「……一つ、質問していいですか?」

「なんじゃ?」

「反乱軍はどうやって魔法を使える皇国の軍と戦ったんですか?幾らなんでも無理でしょ、そんな王都の人口4割の命を奪っただなんて…」


誇張するにしても幾らなんでもその数字は無理がある。兵の数も装備も何もかもが劣っている召喚者セルヴォスにそれだけの命を奪える力なんてある訳が無いのだ。


「ふむ、そのことついては儂も詳しくは知らん。ただ、首謀者となった男はカーティオの人々からは『魔王』と恐れられており、村人達に魔法とは異なる力を与えたと伝えられておる」

「魔法とは異なる力?」

「詳しくは儂にもわからん。儂が知っておるのはその力は粛清の際に全て破棄されたくらいか」

「…その男の名前を聞いて良いですか?」

「うむ。その男の名は…」


村長はその男の名前を告げる。そして、村長の口からその男の名前を聞いた時、学は想像もしなかった男の名に驚愕のあまり言葉を失った。何故なら、その男の名前は…。



「オダ ノブナガと呼ばれていたそうじゃ」



日本人なら誰もが知っているあの男の名前だったのだから…。




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