ー繋ぎ目ー
「噂に聞いていましたが本当に軍人になったのですね。」
工藤さんは虚ろな瞳で言う。
彼女の立派な豪邸が灰色のように映る。
「お嬢様とご主人様達はこの国への帰りの飛行機で事故に合い亡くなりました。」
訓練中の電話であった事と同じ台詞を言う。
それが真実であって欲しくはなかった。
「表向きは事故ですが、とある宗教団体にハイジャックされそのまま墜落したと情報を受けています。」
事故ならまだどこかで諦めがついたかも知れない。
だがもう諦めはつかない。
ふいにどこかで子供の声が聞こえる。
「今日お呼びしたのは、この子達についてです。」
工藤さんが奥に引っ込み、両手に五歳ほどの子供を連れて出てくる。
「お嬢様と貴方の子です。」
男の子の顔はどこか頼りなく、女の子の顔は凛々しい。
「あぁ・・・」
と情けない声が出る。いつになっても変わらないものだ。
「一度だけ私がお嬢様の元へ様子を見に行った際に、先に帰らせてこの国に慣れさせた方が良いとお嬢様が提案しました。」
工藤さんは天井を見つめる。
天井に何かがあるわけではないが流れないように見つめるしかない。
「私がこのご主人様が築き残してくれた富をこの子が大きくなるまで維持したいのですが。」
「分かっていますよ。」
彼女が産んだ双子の内の一人が跡取りとして残らなければならない。
今の工藤さんが両方の子供を育てる事は不可能だ。
「僕が息子を見ましょう。」
そう言って息子に手を差し伸べる。
そうすると、娘の陰に隠れて様子を伺う。
さあ、とより手を伸ばすと警戒がちに手を取る。
「娘をよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げる。
「私はご主人様とお嬢様に一生を捧げましたから。」
工藤さんは精一杯微笑む。
息子を引き連れる中で時より振り返り手を振っていた。