表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短絡的な引き金  作者: しなみかな
1/4

出会い

いつからだろう。

彼女を目で追い続けているのは。

金色の美しい髪とクラスの男より高い背はあらゆる男を虜にし、

華やかな立ち振る舞いと言葉遣いは育ちの良さが伺え、平凡であるはずのあらゆる青年を諦めさせた。

つまり、学校で歩く彼女の姿は百合のようであった。


極め付けには彼女より幾つか年上の執事が車で送り迎えしており学校にいる時は近寄り難い本の世界に浸っていて、放課後は執事がお迎えで男が話しかける余地などなかった。

男共は執事を恨むほど時間に厳しくあっという間に車で彼女を連れ去ってしまう。


そんな彼女と会話するのもハードな環境の中でどうしても話さなければならなかった。

目で追うだけで卒業まであっという間に時間が流れてしまったのだ。


卒業するまでに今までの想いを打ち明けならなければならないと理屈を無視し焦りが表に出る。


そして好機は訪れた。


偶然誰よりも早く下校する僕は車の前で背筋を伸ばして待っている執事を見かける。

振り返るとあの彼女が一人で歩いている姿が見えた。

この機会を逃すのか?と心の何処かで問う。

どちらに話しかけるかなんて分かり切った中で彼女に向かって歩き出す。


「あの。」

気の利いた会話で切り出す事も出来ない自分が情けなくなる。


「はい?」

と彼女の声がいつもより近くで聞こえた。

情けない言葉に続く言葉を出さなければ彼女は僕を奇人としてこれから覚えていくだろう。卒業してからもずっと。


何か面白い話はないかとそれだけが頭を駆け巡る。誰も知らないような話を。

そして、ふと思いついた。これなら誰も知らない。

だけどこんな話はどちらにせよ彼女は僕を奇人とする事に違いはない。

だが僕に他の選択肢はなかった。


「誰も聞いたことのない話を聞きたくはありませんか?書にもなっていない話です。」

半分口からで任せのような言葉だった。

しかし、無言の堪え難い時間よりは幾分マシだった。


後ろから誰かが歩いてくる音がする。誰かは分かり切っている執事だろう。

時間は切れて卒業までの時間もまたすぐ切れる。しかし、


「はい。とても聞きたいです。」

なんて夢のような答えが帰ってきた。

俯いた顔を上げると彼女の顔には綺麗な包み紙で隠された箱を前にする少女のような無垢な顔つきだった。


「お嬢様。」

犯罪を犯してすぐの人間が警察から声をかけられたかの様にどきりとする。

後ろのほうから執事が彼女に呼びかけたのだ。


「工藤さん、私は彼の話を聞きたくなったのです。今すぐにでも。」

彼女の天使の様な声に指名され心が踊った。

しかし、積年の恨みの執事はこれを許さないだろうと諦めていた。

意外な返答があるまでは。


「では少しだけ遠回りして彼の話を聞きましょうか。ほんの少しだけ遠回りして。」

話した事もない執事はずっと人として出来ていた。

一方的な恨みの対象として見ていた自分がまた情けなくなる。


「はい。」

と彼女は嬉しそうな返事をして、なされるがままに共に車に乗り込む。

話す事は決まっている。長年の男が抱えてきたある女性への想いだ。


どこからか、恨みの視線を感じるがそれがとても心地よい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ