空に舞う花と一つの雫
遅くなりました!
どこまでも澄みきった青空が広がる中、たくさんの花びらが宙を舞う。
この国で、死とは次の世への旅立ちとされる。
それを祝福し、来世でも幸せに…という意味を込めて、死者を送るときに花びらを投げるのだ。
赤、白、黄、青、紫、橙、桃。
色とりどりの花弁を、皆涙を流して胸に抱き、柩が通る際に、勢い良く空へ放る。
無理矢理、哀しみを振り切るように。
舞い落ちる花弁をぼんやりと眺めながら、ヴェルグラスは独り、自室の窓辺に腰掛けていた。
魂の抜けた屍の様な彼に、黙って見ていた美桜が声をかける。
「ヴェル。貴方は、参加しないの?」
「……………」
返ってくることのない言葉など気にせず、美桜は続ける。
「ヴェル、貴方が悪い訳じゃないわ。里桜姉さんは、わかっていて力を使ったのよ。最期まで自分の意志で行動した姉さんを、私は誇りに思うわ。私には、死ぬとわかっていて力を使う事なんて、出来ないもの」
流されるまま側室になり、彼らの厚意に甘えていた自分とは違う姉を、美桜は誇りに思うと同時に妬ましかった。
自分にはない強さを持っている姉。
皆に慕われている姉。
他人の為に命を削る事もいとわない、誰よりも何よりも優しい姉。
大好きで、大切で…。
(…そう。美桜が幸せならそれでいいわ)
姉がヴェルに想いを寄せていると気づいていて、ヴェルとの関係を告げた私に、淡く微笑んだ姉。
泣きもしない、怒りもしない、妬きもしない…、ただ黙って諦めて、心をひた隠しにして笑う姉。
私と付き合っているのに、ヴェルの心はいつも姉のことばかり…。
……なのに死んでも尚、ヴェルの心を支配している姉。
……そんな義姉が、私は大嫌い。
(わかって、いたわ…)
ヴェルが、私に恋をしていないことに。
私を見る目に愛情は確かにあったけど、それは妹を見るような、家族に向けるそれで。
初めは、それだけで良いと思っていた。
ヴェルが、姉への気持ちに気づいていなかったから。
けれど、今は……。
「…ヴェル。私との婚約を破棄して」
「……ミオ?」
突然の婚約破棄に、ようやくヴェルが私を見た。
薄氷の瞳を真っ直ぐに見据えて、私は冷たく言い放った。
「他の女を想って脱け殻のようになっている男の妻なんて、真っ平ゴメンなのよ」
「他の女などっ……」
慌てていい募ろうとするヴェルの言葉を遮って、私はさらに言葉を重ねる。
「じゃあ何で貴方は今、そんななの?」
「それは…」
「今、貴方の心を支配しているのは、誰?
それは間違いなく私ではないはずよ」
「……」
「いい加減、素直になったら?」
俯くヴェルを一瞥して、私は背を向けた。
扉に手をかけた時。
「すまない……」
小さく囁かれた言葉を受けとめ、私は部屋を出た。
扉を閉めたと同時に、一滴の涙が頬を伝った。