表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と王  作者: 咲夜
6/13

空に舞う花と一つの雫

遅くなりました!

どこまでも澄みきった青空が広がる中、たくさんの花びらが宙を舞う。


この国で、死とは次の世への旅立ちとされる。


それを祝福し、来世でも幸せに…という意味を込めて、死者を送るときに花びらを投げるのだ。


赤、白、黄、青、紫、橙、桃。


色とりどりの花弁を、皆涙を流して胸に抱き、柩が通る際に、勢い良く空へ放る。


無理矢理、哀しみを振り切るように。


舞い落ちる花弁をぼんやりと眺めながら、ヴェルグラスは独り、自室の窓辺に腰掛けていた。


魂の抜けた屍の様な彼に、黙って見ていた美桜が声をかける。


「ヴェル。貴方は、参加しないの?」


「……………」


返ってくることのない言葉など気にせず、美桜は続ける。


「ヴェル、貴方が悪い訳じゃないわ。里桜姉さんは、わかっていて力を使ったのよ。最期まで自分の意志で行動した姉さんを、私は誇りに思うわ。私には、死ぬとわかっていて力を使う事なんて、出来ないもの」


流されるまま側室になり、彼らの厚意に甘えていた自分とは違う姉を、美桜は誇りに思うと同時に妬ましかった。


自分にはない強さを持っている姉。


皆に慕われている姉。


他人の為に命を削る事もいとわない、誰よりも何よりも優しい姉。


大好きで、大切で…。


(…そう。美桜が幸せならそれでいいわ)


姉がヴェルに想いを寄せていると気づいていて、ヴェルとの関係を告げた私に、淡く微笑んだ姉。


泣きもしない、怒りもしない、妬きもしない…、ただ黙って諦めて、心をひた隠しにして笑う姉。


私と付き合っているのに、ヴェルの心はいつも姉のことばかり…。


……なのに死んでも尚、ヴェルの心を支配している姉。


……そんな義姉が、私は大嫌い。



(わかって、いたわ…)


ヴェルが、私に恋をしていないことに。


私を見る目に愛情は確かにあったけど、それは妹を見るような、家族に向けるそれで。


初めは、それだけで良いと思っていた。


ヴェルが、姉への気持ちに気づいていなかったから。


けれど、今は……。


「…ヴェル。私との婚約を破棄して」


「……ミオ?」


突然の婚約破棄に、ようやくヴェルが私を見た。


薄氷の瞳を真っ直ぐに見据えて、私は冷たく言い放った。


「他の女を想って脱け殻のようになっている男の妻なんて、真っ平ゴメンなのよ」


「他の女などっ……」


慌てていい募ろうとするヴェルの言葉を遮って、私はさらに言葉を重ねる。


「じゃあ何で貴方は今、そんななの?」


「それは…」


「今、貴方の心を支配しているのは、誰?

それは間違いなく私ではないはずよ」


「……」


「いい加減、素直になったら?」


俯くヴェルを一瞥して、私は背を向けた。


扉に手をかけた時。


「すまない……」


小さく囁かれた言葉を受けとめ、私は部屋を出た。


扉を閉めたと同時に、一滴の涙が頬を伝った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ