表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と王  作者: 咲夜
4/13

激情と追憶と

左頬を押さえてふらついた私を見やり、兄は冷たく言った。


「ヴェルグラス。お前は、何故私が後遺症の治癒を拒んだのか……、考えた事はあるかい?」


全く思いもよらない言葉に、私は目をしばたたいた。


治癒の拒絶よりも、奴をいかに懲らしめるかばかり考えて、少しも気にもしていなかった。


それが見て取れたのか、兄が深い溜め息を吐いた。


「私情にとらわれ、誰に何の相談もなく勝手に彼女を戦地に送った、その結果がこれです。お前は、知らねばならない。己の罪と愚かさを…」


穏やかな兄からの責め句に、耐えかねた私は声をあげた。


「一体、私が何をしたと言うのだ!治癒魔法の使い手を、戦地の療養所に送っただけではないか!」


「その治癒魔法を、お前はどれ程知っているのです!それとも、治癒魔法の代償を知りながら、戦地へ送ったのですか!」


無視出来ない言葉が、私の頭の中を埋め尽くした。


「治癒魔法の…代、償……?」


「そうです。治癒魔法は他と違い、魔力を使って発動するものではありません」


愕然とする私をよそに、兄は続ける。


「魔力は日をおけば回復しますが、治癒魔法は違います。治癒の代償は……」


「……命……」


それまで、黙ってギルバートの傍らにいたルイスが、口を開いた。


「自らの命を削って治癒魔法は発動するのです!」


重すぎる真実に、私の思考回路は完全に停止した。


そして、脳裏に様々な場面がフラッシュバックする。





『何処よここ!これ以上、私たちに近寄らないで!!』


召喚された時、泣きじゃくる美桜を抱き締め、気丈にも睨み付けて来た、奴。





『いらない。こんな…見るからに高いの、受け取れない』


ここで暮らすのには色々必要だろうとドレスや宝石を贈ったら、憮然として突っ返して来た、奴。





『私は生かされたいんじゃない!生きたいの!!』


寵妃の姉という立場を利用されないよう保護する為、側室にと望んだ時、ハッキリと拒絶した、奴。





『美桜が自分で決めたのなら、私は何も言わない。あの子を、幸せにしてあげて……』


美桜を王妃にと伝えた時、真摯な瞳を向けてきた、奴。





『……わかり…まし、た………』


苛立ちを隠しもせず、国境付近への遠征を命じた時、俯いて掠れた声で返事をした、奴。



そして。




『ごめ…なさ……い…。どう、か…しあ……せ……に…』




涙を流しながら、淡く微笑んだ、奴。



それが私に向けられた、最初で最後の笑顔… 。




「何故だ!!」




気づけば、私は横たわる奴に掴みかかっていた。


「ヴェルグラス!」


「なっ、お止めください!」


「てめぇ!離しやがれ!」


揃って掴みかかられ、無理矢理引き離される。


その拘束を振りほどこうともがきながら、私は叫んだ。


「何故、言わなかった!何故、黙っていた!何故、微笑みかけた!何故、謝った!何故、何故……、何故だ!!」


塞き止めていた何かが決壊したのか、言葉が溢れて止まらない。


「お前はいつもそうだ!肝心な事は何も言わず、黙って自分の中で解決する。何故、相談しない?何故、勝手に決めつける?!何故、諦める!」


言えば、良かったのだ。


たった一言、治癒魔法は命を削ると。


言ってさえくれれば、私は…!


「こんな…。こんな結果、望んでなどいる訳がないだろう!私は……っ!」


自分でも、なんと言おうとしたのか解らない言葉の先を、放つ前に。


「ギルバート!」


ドンッ、と鈍い音と共に腹部に激痛がはしる。


「悪いな、王様」


ちっとも悪びれた様子もない声を最後に、私の意識は途絶えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ